アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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私の大切にするべきもの、あなたの……

 期待していた――後々に振り返ってみれば南ことりは数十秒後に出る悪口雑言を「期待の裏返し」と判断できる。

 受け取る相手が「期待の裏返し」と考えるか、その発言を耳にした周囲の人々が同様に考えるか、何より私がこんなことを言ってきたよ、と言われた相手がどう裁定するか……様々な理由づけによって「期待の裏返し」は時代性に否定されるのはよく知っている。

 

 ことのきっかけは、虹ヶ咲学園の生徒会選挙もめでたく終わり、一ヶ月前に自分が「そういえば年をとった」と思い返しつつ「これがことりさんのタイムスケジュールですから」と、締め切りまみれの予定表を月ちゃんに差し出されていた時。

 

「このスケジュール労組に出したら不適切って判断されない?」

「ことりさんが絵里さんの人権を侵害しているのはよく知っていますので、それが巡り巡って戻ってきたんでしょう、不憫なコトです」

 

 絵里ちゃんが倒れてしまってからしばらく経つ、自分は破ってはいけない締め切りをいくつも破った。信頼関係にもヒビが入ったと……まあ、自分のと言うよりは仕事における……だとは思ってるけど。

 月ちゃんを中心とした私を支えてくれている人たちが、苦労したのは知っているし、感謝もしている。

 それでもまだ足りないというのか、お給料に色はつけたつもりなのに。

 

 ……ま、お金で得られる信頼が、お金がなくなった瞬間になくなるのもよく知っている。

 何より私の締め切りを破らないって言う月ちゃんの信頼が、この過酷なスケジュールを生み出したってのも、私はよく知っている。

 そして、絵里ちゃんの意思を損なっているのも把握してる、それを指摘されるとぐうの音も出ない。

 

「ったく、気軽に絵里ちゃんをサンドバッグできないのに、ストレスが溜まったらどうするつもりなの?」

「仕事してください」

 

 鬼にも程がある――他にストレス解消の方法を教えるではなく、そんなことはどうでもいいから仕事をしろ、月ちゃんは私の部下だった記憶があるんだけど、いつのまに立場が逆転しちゃったのかな?

 

 ともあれひとつやふたつ……はたまた三つか四つ依頼を達成するまで、缶詰にされるのは間違いない。

 

「食生活は絵里ちゃんくらい気を使って」

「なるほど、金に糸目はつけないとは良いご判断です、私もそのおこぼれに預かれますし……絵里さん様々ですね」

「絵里ちゃんは無償でやってくれるんだけど、どこかに無償でやってくれる人いないの?」

「絵里さんしかそんな人はいないので無理です」

「おお、さすがは静真の元生徒会長……あなた、アニメ版じゃ辺鄙なところに送られてる浦女の生徒の状況把握してなかったけど、現実世界じゃ有能だったのね」

 

 「ナッツリターンならぬ留学キャンセルする人は言うことが違いますね」と月ちゃんから反撃を受け、私は仕事に戻ることにした。

 あれはアニメオリジナルの展開だけど、留学をキャンセルしたのは……そういえばあの時も「もう出発の準備を整えている」状況での取りやめだったな。

 お母さんには未だに「人を振り回すのもいい加減にして」と言われてるから「風見鶏は黙ってて」と苦し紛れの反撃をするしかない。

 

「曜ちゃん、ちょっと後にしてもらえる? ことりさん、やっと仕事に入ってくれたから」

「じ、自信作なので見て欲しくて」

 

 自信作っていう言葉に手が止まる、それを見た月ちゃんがクソデカため息をつき「分かった」と渋々って言葉がよく似合う態度で自分の前に連れてくる。

 

 最近熱心にデザインに取り組んでるのはよく知ってる、とてもよく頑張ってる。

 オリンピック候補生に選ばれるような人は集中力も才能も別格なんだな、と考えるくらい渡辺曜の才覚は認めるところ。

 

 デザインを見て「ああ、これは本気のデサインの前フリか」 なんて考えながら、スケッチブックをめくってみたり、ひっくり返したりを繰り返すも、これが曜ちゃんの自信作だと解釈するのに時間がかかった。

 

「コンセプトは?」

「最近の流行を取り入れました、周囲の可愛いを中心として、渡辺曜なりの要素もふんだんに」

「悪くない、よく勉強してる……ま、ウチじゃ取り扱えないけど、独立するんだったら手伝うよ?」

 

 よく勉強している、若い子が「あー、これかわいいねー」と目に入れるのは間違いない、手に取るかどうかは……未知数の部分はある。

 思いの外売れるかもしれないし、かわいい、で終わる可能性もある。

 

「これが自信作?」

 

 もう一回尋ねる「実は他に見て欲しいものが」と言われるのを期待していた、渡辺曜の実力はこんなものじゃないんだと言って欲しかった。

 

 正直、寒気を覚えていて、これが魂を振り絞って曜ちゃんが頑張った自信作だと言うなら、Aqoursの衣装をデザインしていた時代(三年生組卒業後) に私がこの子に期待をした全てが否定されるんじゃないかって、怖かった。

 

「ターゲットは日本の10代の女の子、羽織ったら他の子とは違う、注目を集めるとかではなく、この子はレベルが違うと思われるようなデザインを」

「分かってる」

 

 何が受けるかは未知数の部分があるけど、よく売り出されるものには商売が絡んでくる、だからこれは「売れる」とは思う。

 

「Aqoursが理亞ちゃんを破ってラブライブ二連覇を果たした時、そして一年生組が準優勝した時……その時の衣装は……自分の判断もあるけど、ラブライブっていう大会の中でトップだったと思ってる。これは桜小路も語ってるよ、なんかチャラチャラした集団が歌って踊るのかと思いきや、とんでもない衣装を作る奴がいるじゃないか」

 

 μ'sとかA-RISEも「洗練されたデザイン」とお褒めの言葉をいただけるけど、Aqours以降にステージ衣装が褒められたとの話は聞かない。

 誰もが「劣化渡辺曜」と言われるくらいには、あの時の曜ちゃんは全盛期だった……それでは困る。

 

「あなたのデザインを……周囲のとか、流行のとか……そんな言葉に修飾するのはやめなさい……曜ちゃんはクビよ、面倒は見れない、自分の仕事もあるし」

「後は私に任せてください、生活の件も含めて」

「月ちゃん任せた……締め切りを破るつもりはない、食事はドアの外に置いて」

「把握しました」

 

  そんな会話をして……気がついたら真昼間だった、曜ちゃんとそんな話をしたのが夕方だったから、その後寝食もそっちのけでデザインに集中していたことになる。

 

「いつもこれくらい仕事をしていただけると助かるんですが」

「無理はできないのよ」

 

 ひとまず描きあがったモノを月ちゃんに任せると、その数十分後に桜小路から電話がかかってきた「キミは死ぬつもりなのか?」とけったいなことを言うので「あんたが死ぬまでは死なない」と返しておいた。

 

「良いデザインだった、ひとまずはこれを目標にしておく」

「ハっ! 越えられずに死んだら、墓に飾ってやるよ」

「これくらいできるんだったらたまには本気を出せ」

「ルナが無理~ってウマ娘っぽく言うのがかわいそうで本気出すのを控えてるんですけど?」

「私に抗えないのは死ぬことだけだ、キミのデザインなんぞはすぐに超えられる」

「超えてから言え」

 

 安心したらお腹が空いてきた「あー、もうちょっと美味しいものが食べたいなぁ」と独り言ち、すっかり冷たくなった食事を口に含む。

 

 それからこれみよがしに置いてあった手紙を観、

 

「……なるほど梨子ちゃんなら、何とかしてくれるかもしれないか」

 

【渡辺曜は預かった、デザイン界でもてはやされる日々をせいぜい享受しておけ……それからAqoursのメンバーの面倒を見ていただきありがとうございます、この不始末は自分たちで解決するつもりです。今までありがとうございました】

 

「素直なんだか、性格が悪いんだか分からない子だ」

 

 曜ちゃんの才能に関しては梨子ちゃんも認めるところで「あの子のデザインのせいで曲が目立たないじゃない」と。

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