Aqoursの衣装はルビィちゃんが担当することになってた。私としてはダイヤちゃんとか鞠莉ちゃんにフォローしてもらえると思ってたし、その実三年生組も乗り気だったのは知ってる。
だけども6人でAqoursを名乗るなら、卒業した人を頼るわけにはいかない、と渡辺ときたら「自分が全部やる」と言い出した。
その時の曜ちゃんの裁縫のレベルって言ったら「玉結びを何とかできるレベル」で、今の自分だったら「寝言は寝て言え」「ホラ吹きも大概にしろ」と胸ぐらを掴みあげながら言えただろう。
でも、当時の私は千歌ちゃんや曜ちゃんの後ろに隠れている方が安心できたから、不安を棚に上げて「まだ次のラブライブまでには時間があるから、やってみたらいいんじゃないかな」と言った――言ってしまったのだ。
ことりさんを怒らせた――との話題はすぐさまAqoursの知るところになり、引き取り手は数多だった。
ダイヤちゃんも「パシリとしては最適」と言ったし、果南ちゃんも「お、水属性が増えるんだったら歓迎するよ」と言ったし、鞠莉ちゃんも「車の免許を取らせよう」と乗り気だった。
もちろんルビィちゃんや花丸ちゃんも「クビになったんだったら仕事を手伝ってもらおう」とすぐさま歓迎の意を示し、私の意思をくんでくれた「よっちゃん」「千歌ちゃん」以外は「こっちに来なよ」と。
渡辺っていうのは何をやらせても上手く行く人、学力に関しては不安があるにせよ、ダンスだって最初から上手に出来てた。
果南ちゃんや鞠莉ちゃんが自由に扱えるパシリとして欲しがったのはよくわかる、渡辺なら砂漠の中に放置しておいてもいつのまにか帰って来る能力がある。
軽く人間をやめていると評判になる、A-RISEのリーダーであるとか、絵里ちゃんにも「同じ時代にアイドルやってなくて良かった」と、本当にマジで安心した表情で言われたこともあるし、水泳勝負では二人を寄せ付けずに完勝した。
六人時代のAqoursがラブライブで優勝できたのも、だいたい曜ちゃんのおかげだと言ってもいい。
私たちが卒業した後「衣装は曜ちゃんにやってもらうからいいよね」と強硬にルビィちゃんに言われたことからも「Aqoursの衣装担当は渡辺曜以外にはありえない」って考えは共通事項だったんだと思う。
アニメで妙なキャラクターがつけられてしまったけど、曜ちゃんが九人のAqoursの時代から衣装担当にされたのは、その辺りのイメージもある。
繰り返すけど、九人のAqoursの時代には黒澤姉妹を中心とした持ち回りで、曜ちゃんは完全に戦力外通告だったんだ。
曜ちゃんが衣装を担当すると発言した時に果南ちゃんが「ミシンもろくに使えない曜が?」と「やめときなよ」と止めたのも印象的だ。
彼女は千歌ちゃんの「果南ちゃんは誘ってないけど、メンバーに入れてるよ」に「分かった」と応じた聖人だ、そんな彼女が「やめときなよ」と言うくらいなんだから、よっぽどだった。
「ハァー? もうちょっと真面目に働いてくれないと困るんだけど?」
渡辺を引き取ったのは私だ「スナックでコキ使うつもりだから」と強硬に主張して、千歌ちゃんにも手伝ってもらった。
「最終的には曜ちゃんの意思」になったけど、二年生組が揃って「ウチ」と言ったから渡辺に選択肢はなかった。
「梨子ちゃんは鬼教官であります」
「それが働いてお金を稼ぐってことよ、あなたニジガクの一年生にもそんなこと言ったんでしょう?」
愛ちゃんのもんじゃ騒動が記憶に新しい、ことりさんがもんじゃの作り手として信頼していたのに手を抜くって失態をかました一件。
ことりさんの反応が酷いんじゃないかとニジガクのみんなは考えたみたいで、その時に渡辺は「一度の失態がとんでもない事態を招く」と言って感動を生んだそう。
よもやそれから半年も経たないうちに、自分がとんでもない失態でことりさんから「もう面倒を見れない」とそっぽ向かれるとは、当時の渡辺は知る由もないだろうし、もしも知っていて言っていたら「後で魚の餌にしてやるから覚悟しておけ」
「何で突然魚の餌に!?」
「おっと、心の声が漏れてしまった、 悪いわね」
「何を考えていたの!?」
「作曲家の頭ん中を知らない方がいいわよ? 真姫さんの頭の中を知りたくないでしょう?」
作曲家ってくくりじゃなくても、スーパーコンピュータでも積んでるんじゃないかって人間の頭の中を覗きたくはない。
私みたいな凡人は天才を羨ましいな、と思ってるくらいでちょうどいい、変わろうとは思わない。
それに自分みたいな凡人が作る曲だから、千歌ちゃんが作っても、花丸ちゃんが曲作りしても、Aqoursの誰かが歌詞を書こうとも作曲家は桜内梨子しかいないと信用してもらっている。
ミア・テイラーは天才だ、海未さんが歌詞を書こうが、千歌ちゃんが書こうが、作詞家に合わせた曲を作ってくる。
SunnyPassionってスクールアイドルに聖良ちゃんが歌詞を提供した時も「あの二人に合うサンバっぽい曲」との指示に合わせてきた。
なんだサンバって、と誰しも聖良ちゃんの発言を疑っただろうし。
パフォーマンスを観たときも、レベルとしてはUTXとかの強豪に及ばないけど、十中八九東京予選を通過するのはあの二人だと確信できた。
今は結女の学校祭に集中してもらってるから、絵里ちゃんにはサニパのことを知らないはずだけど……あの二人を見たら腰抜かすだろうな……。
ゲストとして登場した時にどんな反応を示すのか……誰かしらに録画しておいてもらおう。
――あまりにも驚いてポックリ逝く可能性もある、働かせすぎないようにしないと。
「で? どうしてこんなクソみたいなデザインに自信を抱いちゃったのかな?」
渡辺をコキ使って数日――ルビィちゃんにも「言いたいことがあるから、早く用件を済ませちゃってね?」と脅されてる。
今までダイヤちゃんは「怒らせるとすごく怖い」のは知っていたし、よっちゃんもあれはあれで怒るときは怒る。
が、ルビィちゃんが「お姉ちゃんたちは衣装の素人だから」と止め、私に対しても「きっかけを作ってくれたのは梨子ちゃんだから」と信頼ゆえに任せてくれてる。
……ここで曜ちゃんに発破をかけられず「梨子ちゃんのこと信頼してたんだけど~」とか言われたらハートブレイクする――一度の失敗でとんでもない事態を招くのは渡辺曜が示してくれた、ここは成功しないと。
「梨子ちゃんにクソみたいなデザインと言われるほど、悪くはないと思うんだけどな」
「そうかしら? 私はあなたの全盛期を知ってるから、もう渡辺は終わったなって思うくらい……これはひどいと思うわ」
さすがに気分を害したのかこちらを睨みつけてくるけど、μ'sとかA-RISEのヤベーやつの視線に比べたら大したことない。
絵里ちゃんが「希?」と一言言っただけで彼女をチビらせたのは記憶にも新しい――あと、A-RISEはみんな怖いけど、英玲奈さんはやばい。
理亞ちゃんがラブライブの結果から「自分はA-RISEより上」と言った時に、たまたま英玲奈さんの顔を見ちゃって腰を抜かすかと思ったね? ほんの数秒だったけど「あ、殺されるわアイツ」って思うくらい怖かったね?
幸運にも理亞ちゃんはそれを目視してなかったおかげで、Liella!の神津島送りに付き合わされたり、岐阜の農場に手伝いに行ったりの左遷を「パシリ」だと思ってるみたいだけど……。
なお、絵里ちゃんは鼻で笑っていたし、ツバサさんも気分を害した様子もなかった。
「自分たちを素人にしか見えないって言った奴がいるくらいだからね」と絵里ちゃんを引き合いに出してネタにしたくらい。
……ただ、今にして思えば英玲奈さんの様子に気がついていたから、あえて自分たちが怒らなかったんじゃないか、とは考える。A-RISEの推しのニコさんでさえ「実績を残してから言いなさい」の一言で済ませたくらいだ。
うん、やっぱり後々、ルビィちゃんには曜ちゃんを怒ってもらわないとね、私は発破をかけるだけで十分、デザインは専門外だ。
「あー、英玲奈さんと同じくらいルビィちゃんは怒ってるなー」と、どっちも見た私だからわかる。
頑張れ渡辺、私のあからさまな挑発に怒っている場合じゃない。
「……梨子ちゃんには分からないんだよ」
「曜ちゃんがデザインを始めた時――あなたはミシンすら使えなかった」
千歌ちゃんからμ'sってスクールアイドルグループは知らされていても、スクールアイドルAqoursで頑張ってしまったがために、南ことりの衣装とか、西木野真姫の作曲とか、園田海未の作詞とかに目が行ってなかった。
九人での活動が一段落した時、千歌ちゃんと連れ立って東京に行った。
その時たまたまなんたら女学院のパリ校の個展が開かれていて、桜小路ルナとかユルシュール・フルール・ジャンメールとかことりさんとか、今やデザイン界を席巻している面々の作品が置かれていて、千歌ちゃんはことりさんの名前に惹かれて入ったに過ぎなかった。
その時には「え? これが千歌ちゃんの言ってたμ'sの人のデザイン?」と変なことを言っていて「あー、曜ちゃんはなんにもわかってなかったんだなあ」と千歌ちゃんは考えたそうだけど。
静岡に帰って早々「Aqoursの衣装デザインは私がやるよ」――千歌ちゃんも「目玉が飛び出るぐらい驚いたよ」と笑うけど、Aqoursのメンバーはみんな驚いていたはず。
私の「ラブライブまで時間があるから」のセリフさえなければ、Aqoursの衣装担当はルビィちゃんだったろうに、巡り巡ってこうして渡辺のチョンボをフォローしている、まさしく因果応報。
「言ってみれば0点、死に物狂いで努力したよね、私はドン引きしたよ、ルビィちゃんが宝物だって言ってデザインノートを独り占めするわけだ」
「見たの?」
「いんや、努力しているのは知ってる……私は凡人だったから、渡辺曜に見合う曲を作らなくちゃいけないって、それどころじゃなかった」
絵里ちゃんも「プロのピアニストみたい」ツバサさんも「あなたは凡人なんかじゃない」と苦笑いしながら言うけど、私は紛れもなく凡人だ。
それでもAqoursに相応しい曲作りができる凡人だった、今もなおその名声で共演したいとか言ってくれる人もいるけど……残念なことに、まだ、私は私に満足が行っていない。
「曜ちゃん、テスト勉強ってあんまりしたことないでしょ」
「それって今話題に出すべき事?」
「……あー、分かりづらいかもしれないか、じゃあ、理亞ちゃんいるでしょ?」
「そりゃま、千歌ちゃんに殺されてない限りはまだ生きてると思うけど……」
あの発言は千歌ちゃんの逆鱗に触れたんだな……彼女をして「初めて見たスクールアイドルがμ'sじゃなくてA-RISEだったら、スクールアイドルを諦めていたかもしれない」と笑う別格の存在。
「理亞ちゃん、A-RISEと比べちゃうと格下だけど、今もすごいレベル高いでしょ?」
「うん、ツバサさんとかから格下扱いされてるから、ランジュちゃんが勘違いして勝負を挑んで完敗したよね」
「ん、その後に果林ちゃんも仇を打とうとして完敗したね」
その後に「こんなんじゃ足りない」と傷口に塩を塗り込まれたけど、敗戦を知って二人が強くなることを願いたい。
「曜ちゃんは理亞ちゃんと同じ場所にいる」
「……でも、ことりちゃんからダメだって言われたよ?」
「ツバサさんだって、絵里ちゃんだって、理亞ちゃんを馬鹿にするでしょ」
「え……?」
「トップデザイナーが満足するレベルだよ、曜ちゃん……あなたが目指しているのは、顧客のニーズなんかじゃない、この世の中に一握りしかいないような天才が満足するような……そんな作品を作れって言われてるのよ」
だけどどうやら時間切れだ――ここからの説得は、彼女に任せなければいけない。
「ごめんね、ルビィちゃん」
「ううん、後は私に任せて、ほら、曜ちゃん行くよ!」
「ど、どこへ!?」
どこかへと連れて行かれる曜ちゃんを「地獄で再会しような!」と見送る。
「あーあー、言っちゃったなー……私みたいな凡人が、曲作りで地獄を見ようなんて……まあ、ルビィちゃんに失言して魚の餌にされる可能性はまだ否定できないか」
「……曜ちゃん、0点から点数を上げるのは簡単だけど、90点から100満点にするのは、今までにやった努力じゃ通用しないのよ……ルビィちゃん、あなたなら教えられる……頼りない先輩でごめんなさいね」