アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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【誰かのためにと言いながら自分の考えを押し付けたり、誰かのためにと言いながら相手を否定したりするのは、誰かのためにはならないことなんです】


三船栞子お誕生日記念 ~誰もが幸せになれる場所を探して~

 わだすは思うけンども、数学の答えみたいに……答えが全世界共通ってもンが、何に対しても当てはまるとは限らない。

 誰もが従うべき理想ってのは、誰かを従わせる道具なんかじゃないんで、どんな高尚で素晴らしいことを言ってたとしても。

 それでまた、それを聞かなきゃ駄目っていうのは、いけないことなんじゃないかなってわだすは……考えたりもする。

 

 ンでも、何が正しくて、何が間違ってるかわかんない以上は、あれをするのが正しくて、これをするのが間違いだ、と仮定するのもまた、間違いで――正しいのかもしれないって。

 

 

 わだすがお休みに茶をしばいてる時に太陽を見上げながら「こんな日常がいつまでも続けばいいのに」と独り言を漏らしたけンども、それを耳ざとく絵里さんに聞かれたんだな。

 

 自分の独り言なんて耳に入れたところで、一昔前のお笑い芸人さんみたいに右から左に受け流すのが定石、くらいに考えてったもんだから。

 声をかけられた時には、年上のお姉さんがお相手だというのに、なんでがしょ!? と、驚いてしまった。

 

 そんなわだすを苦笑いしながら「そんなに慌てなくていいのよ」と、見た目からすっと、はたまたランジュちゃんとか侑さんと変わらないほどに若々しいのに、自分みたいなおぼこな田舎者を落ち着かせる時には、やっぱり年上なんだなって安心させるような……度量の大きさ? 心の余裕みたいなもんを感じるわけで。

 

「栞子ちゃんって射的とかってやったことある?」

「村の祭りでやったことあるべな? 運動が苦手なもんで、一度も取ったことがないけンども」

 

 自分が苦手なもンだから、 誰かに……てか、当時はまだカリン君が村におったんで、出番を譲ってばっかりだった。

 当時は男の子だとばかり思ってたから、百発百中で撃ち落としていく姿は本当にカッコよかったもンだべ。

 

 今はどっちかって言うと射的よりもビリヤードみたいな、シティーガールさんがやるようなかっこいい系女子に変貌してしまったけど……や、たまに野生児だった頃を彷彿とさせるような木登りをするけど……。

 それでもまあ、やっぱり読者モデルとして他校からも見に来る人がいるような有名人さんには、村の祭りの射的をリクエストしても、柳が風を流すみたいに断られちゃうんだろうな。

 

「わだすにとって、お祭りっていうのは楽しんでる人を眺めるもんだベな? そういう心が今のスクールアイドルに繋がってるのかもわからんけ、スクールアイドルは……やっぱりみんなが楽しんでくれんと」

「いい子ね、私も自分が楽しむよりも、誰かが楽しんでくれた方がいいわ、誰かに暗い顔をされているのが苦手なの」

 

  すごく有名なお祭りとかじゃないけンども、スクールアイドルのステージは……ちょっと数の多いお祭りみたいなもんで、来てくれた人たちだけじゃなくて、準備を手伝ってくれるような人たちまで、巻き込んで楽しませる……わだすはそこまでじゃないけど。

 

 スクールアイドルに限らず、パフォーマンスで他の人を圧倒させるような人は……なんだか、準備を手伝ってくれた人でさえ、この人のために準備してよかった、そんな風に思わせる人。

 

 ランジュちゃんもそこまでわかってくれたら、もう一段階ステージでの歓声が大きくなるんでねえかと……あ、R3BIRTHとして、自分みたいなおミソをつけながらも活躍してるんだから……やっぱり、ランちゃんはすごいってことなんかな?

 

「そうかしら? 私はR3BIRTHのステージを眺めていて、栞子ちゃんへの歓声が一番大きいような気がするのだけど?」

「ついていくので精一杯だから、がんばれって応援してくれるのも含まれてるんかな? わだすはそれでもいいけど、どうせなら、ドキドキは楽しんでくれる方がいいなあ」

「あらあら、楽しむというのは……ひとつの答えがあるものではないわ」

 

 絵里さんに続いてトップアイドルとして長年ステージに上がってきたツバサさんまでがやってきた。こんな風にお茶をシバいている系女子に似つかわしくない輝かしい二人だ。

 

「がんばれって応援されるアイドルもいてもいいし、圧倒的なパフォーマンスで黙らせるのも良い、ハイクオリティーなステージを見せてもいいし……誰かを楽しませるのに答えなんかないわ」

「ツバサさん、わだすにはようわからんくて……」

「ふふ……ねえ、絵里、射的の的になる自信はない?」

「……世の中のどこを探したら射的の的に自信がありますって人間が存在するのかしら? それって、どこかしら頭を改造されてない?」

「じゃあ今から改造しましょうか、あなたは今度射的の的になる」

 

 面白そうに笑うツバサさんに、言葉では嫌そうなコトを言っているのに、表情が楽しげな絵里さん。

 射的の的になるのが楽しいのかな? や、そういうわけじゃないんだと思うけん。

 

「じゃあ、栞子さん」

「なんでがんすか?」

「銃を撃つのはあなたね?」

「……は?」

 

 思わず湯のみを落としてしまい、素早い動きで絵里さんがキャッチをする。その姿を見ながらツバサさんが「大道芸人として、道端でサーカスでもやってれば?」と煽る。

 そんな言葉に「本業の人に失礼。私が道端に立ったところで、いただけるのは罵声くらいよ」と、首を振りながら言う。

 さらに続けて「あなたや、海未や、真姫のね」と言うと、ツバサさんはおもしろおかしげなセリフを聞いたと言わんばかりに笑いだし。

 そのまま自分たちを置いて「こんなかで射的に自信がある人」と呼びかけている。

 

 なんだか圧倒されてしまったけど、ひとまず湯のみをキャッチしてくれた絵里さんに頭を下げた。

 

「絵里さん、的になるのなんか嫌ですよね?」

「え? いや、全然?」

 

 なんということでしょう――前々から、人とは違った感覚を持っていると絵里さんから感じていたけど、この世界にいる人で射的の的になってもいいですよ? と、言えるんだろう。

 そういえばさっきも「自信はない」と語っていた――つまりは、的になってもいいよ、と了承してくれただけで、だからこそツバサさんは満足したように立ち上がり呼びかけを行ったわけで。

 

「栞子ちゃんなら、私に当てずに景品を落とすことだって可能でしょう?」

「や、的になるって言うんだから、絵里さんに当てるんじゃないべか?」

「うん、まあ、別にそれでもいいけど。当たっちゃいけないような場所は当ててはいけないようになるだろうし」 

 

 今度は落としちゃダメよと言いながらわだすの手に湯のみを手渡してこの場を後にする。

 なんだかキツネか何かに化かされたような気分だ。

 

 わだすは止めるべきだったのかな? 的になるようなことはしちゃいけませんよって言うべきだったかな? でも、楽しげな表情で「頑張って当てられるようになってね」と言われてしまうと、本人も望んでるのならそれでいいのかな? と首をひねってしまう。

 

 

 後日に確認したところ、絵里さんの頭の上に乗せた景品を銃で撃ち落とすゲームをやる……的になるよりかはマシな提案だと思うけど、どのみちわだすが失敗をすれば空気銃から放たれたスポンジが絵里さんを直撃する。

 

 確認した時に「当てないつもり、なんて気持ちは捨てること」と怖い表情で言われたけど、こんな企画を了承する気持ち以上に怖いもんなんてあるものかと、ちょっと不安にもなる。

 

 でも――結局のところわだすが成功させれば問題がないわけで、じゃあそのために努力をしましょう……となれば頑張るしかない。

 

 ツバサさんが射的に自信がある人って聞きまわっていたけど、その中で手を挙げたのがカリン君こと……朝香果林さんだった。

 

「私に射的で勝てるとしたら、次元大介かのび太くんくらいかしらね?」

 

 と、圧倒的な自信と模擬試験を突破してみせた――その模様を見物していたエマさんと理事長が「あれくらいの集中力でいつもテストを頑張っていれば」と首を振ったけど。

 果林さんは「私の学力はのび太君といい勝負だから」と、銃に息を吹きかけながら言っていたらしい――何の自慢にもならないと思うけど、果林さんなら、すごくかっこよく見えたんだろうなって推測する。

 

 や、だって、エマさんが「のび太くんと一緒じゃダメじゃん!?」と夕食の時に気が付いてツッコミを入れたぐらいだから。

 

「栞子、あなたは私の過去を知っているからあえて言ってしまうけど。景品に当てるくらいなら、すぐに出来るようになるわ、私みたいにね」

「信じてるけども、カリン君が代わりにやった方がいいんじゃ」

「ふふ、まあ、それはそうかもしれないけど……今回はね、あなたにやってもらうことに意味があるのよ」

 

 と言って、本番用の空気銃を渡される。射的のゲームなんかで使われるような軽いもの……あ、もしかしたらスクールアイドルで筋力トレーニングもするから昔ほど重く感じてないだけかもしれない。

 

「お手本を見せるから……よく見ていて」

「あー、昔を思い出すべなあ、カリン君、本当に男の子みたいにかっこよくて、今とは全然違う雰囲気だったとよ」

「……私の集中を途切れさせようってならいい作戦ね」

 

 なんて冗談も言いながら、 わだすが手にしているモノと同じのを使ってるとは思えない速さで右から左に、弾をどんどんと景品に当てていく。

 よく見ていてと言われた以上は、すごくかっこよくて凛々しいカリン君――ではなく、銃でいかに景品を撃ち落とすか、どうすればいいのか、彼女の姿から学ぶしかない。

 

「確か……こんな感じ……」

 

 構えてみる。

 昔よりも視線が景品と一直線になってる気がする……あの時はわだすが小さかったからかな?

 当てられそうな気もする……なんでだろう? 自分が特に変わったわけでもなく、果林さんのお手本が素晴らしかったから? それを何とか模しようと努力しているからかな?

 

「あ」

 

 一発目から命中させた。今までの人生で一度たりとも景品にあたることがなかった弾が、すごくいいお手本を模して、自分で考えながら撃ったら当たってしまった。

 

「やった! やったべなカリン君! やあ、村のスナイパーは大陸一の弓騎士とは訳が違うとよ!」

「一度当たったくらいで調子に乗らないの……でもまあ、私も疑い半分だったけど……R3BIRTHであなたの歓声が一番大きいという言葉、信じてみたくなってきたわ、そうだ……愛にも確認を取らなきゃいけないけどDiverDivaと一緒に踊ってみる?」

「ランちゃんやミアちゃんに追いつこうとするだけでも大変なのに、目標が増えちまったらえらいことになるとよ!?」

 

 冗談半分かと思っていたら、次の日に愛さんからも「カリンから聞いたよ? 栞子ならアタシたちと並んで踊っても全然構わないと思う」と誘いをかけられ「今は射的の練習で夢中なので!?」とひとまず保留させていただいた。

 

 うう……絵里さんもツバサさんもカリン君もどうしてだか、わだすにそんな才能があるなんて広めてしまったん……一緒に並んで踊るとしてもバックダンサーが関の山なわだすに……。

 

 

 

「誕生日おめでとう」

「まーちゃん、いやらしいところは何も変わらんべな、村にいる頃から……人が驚いた顔ばっかり見ようとして」

 

 そろそろ教育実習生の肩書きを外そう、と理事長からもネタにされている、わだすの村に昔からいる神様のまーちゃん……コト、三船薫子サン。

 射的の練習をしている時に「んじゃ、今日は見物させてもらうわ~」と、言うから「いつになったら教育実習するべか」と言いつつ、ちょっといい気分だった。

 なにせ、わだすは昔からこの神様の世話係……巫女とも言われていたけど、彼女のすることに対応が、基本原則だった過去もあり、わだすが主導でいろいろやるって経験は皆無だったから。

 

 ……そのように調子に乗っていたばかりに「そろそろ準備ができたみたいだから戻ろう」と手を引かれて「あ、もう夕食の時間だべか」と、そんな会話をして戻ってくると。

 

 三船栞子お誕生日おめでとうの横断幕が扉を開いた瞬間に目に飛び込んできて、まーちゃんから「誕生日おめでとう」の言葉が。

 生徒会選挙とかで自分の誕生日が過ぎたことすら忘れていた、この手のイベントが大好きな絵里さんとかが、わだすを喜ばそうとするために動いたのは……なんだかとてつもなく嬉しい。

 

 ……で、このイベントが終わってくれればよかった。

 

 わだすは先ほどまで射的の訓練をしていた。それは絵里さんの頭の上に乗せた景品を撃ち落とすゲームをやる、との名目があった。

 そう、なんでもいいから自分をパーティー会場から遠ざけて、サプライズをしよう――そんな魂胆があると、わだすは決めつけていた。

 

 だからツバサさんから「じゃあそろそろ絵里には的になってもらいましょうか」とのセリフが放たれた時「ええ!?」と驚くしかなかった――驚いていたのは自分しかいなかった。止めようとする人間はいなかった……。

 

 アレ? それって絵里さんの人徳に問題があるの? それともツバサさんのカリスマで誰一人逆らえないの? 

 

「わだすをサプライズパーティーするために遠ざけようとしたんじゃなかったべか?」

「何を言っているの、そんな時間の無駄なことをするわけがないじゃない。さ、果林さんからもいろいろ教えてもらったんでしょう? 彼女の顔に泥でも塗る気? あ、でも、失敗したら絵里の頭がトマトになっちゃうから気をつけてね?」

「そんな和やかに言うセリフだべか!?」

 

 「大丈夫大丈夫」とツバサさんは言うけれども、自分との距離、そして絵里さんの頭の上に乗せられた景品は、練習と同じ距離とはいえ、今は小さく見える。

 中身がスポンジであることは確認済み、少なくともトマトにはならない、それでも当たったら痛いのは間違いない。

 わだすが成功しないと……自分の誕生日パーティーなのに、なんでここまでプレッシャーを与えられなくちゃいけないのか……それでも。

 

「わだすがここで成功させたら、みんなが盛り上がってくれる……絵里さんも痛い思いをしないで済む、果林さんも教えた甲斐があったって喜んでくれる、パーティーを企画したみんなも……喜んでくれる……だったらやるしかない!」

 

 息を呑むのがどこからか聞こえた、場所はよくわからなかったけど、ランちゃんやミアちゃんのいた方向だと思う。

 

 集中して……練習では百発百中レベルでできたんだから、絶対にできる。ここまでお膳立てしてくれたみんなのためにも……

 

(しおりこちゃん)

【何でしょうか?】

(わだすはたくさんの人に支えられてるんだね、ちょっと度が過ぎると思ったけど……わだす、気が付くまでに時間がかかっちゃった)

【それについては同意をします】

 

 どちらについてかわからない、だけども……喜んでくれる人たちの顔を思い浮かべながら、わだすはちゃんと景品を撃ち落とした。

 絵里さんの頭をトマトにすることもなく、見当違いの方向に撃って、誰かを呆れさせることもなく、景品を見事に!

 

「やった! みんなの応援で頑張れたとよ! 盛り上がってくれてありがとう!」

 

 空気銃を気にしながらバンザイを何度も繰り返していると、ステージの上で自分が受けた歓声と同じくらい、多くの拍手や盛り上がる声が聞こえてきた。

 

 その視線の先で絵里さんとツバサさんがグータッチを交わしているのが見え、エマさんはランちゃんの頭を撫でていた。

 ランちゃんの少し不服そうな表情がちょっと気になったけど……でも、今の盛り上がりに水を差すわけにはいかないよね?

 

 

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