エマちゃんから「もうすぐ合格発表だね」と言われて、栞子ちゃんがにわかに震えだし、私も「きっと合格しているはずだから」と励まし、口からセミをはみ出させている果林ちゃんも「努力は報われるはずだから」と続けた。
誰しもに共感が得られる素晴らしい発言だけど、セミをかじったまま言うセリフではなかった
そんなエピソードから数時間後ツバサから「弟の合格発表が」とメッセージアプリにて伝えられ「そういえばそんなことがあった」と思い出し「観に行きましょうよ」と誘いをかけてみる。
今回は堂々と学園内を歩き回れるので、トップアイドルが来てもさほど騒がれないで済む――と想定しての返信だったけど、彼女は超人的な勘で「忘れていたわね?」とイエスかノーとも伝えずに。
どこかで見ているんじゃないかと思ったけど、今は仕事で忙しいとのことなので、栞子ちゃんに土下座している私を撮影してもらい、彼女への謝罪の代わりとした。
なぜバレたのかと言うと「誘いをかけたのが悪かった」どこに行くにも「ツバサから」のパターンが多いのに「下手に出るように」「自分から誘いをかけた」ので一発で感づいたらしい。
エマちゃんに言ってみたら「愛のなせるワザだね」とポワポワとした調子で言われたけれども、愛ゆえに私のした事が分かるのなら、愛ゆえに許していただきたい。
栞子ちゃんと合格発表を見に行くとして、ついでになってしまうけど綺羅雪菜の名前を探しておこうと早く眠り、翌日に目を覚ますと枕元に綺羅ツバサが立っていた「うわぁ!? 幽霊!?」と驚きながら言ってみると「こんな幽霊がいてごらんなさい、神様だって生き返れって言うはずよ」と、反応された。
どことなく身ぎれいな格好をしており、弟さんのためを考えての行動だとよく分かる――「きちんとしているのね」と言ったら「ん?」と不思議な発言を聞いたと言わんばかりに首をかしげ「その格好、雪菜クンの合格発表のためにキレイにしたんでしょ?」と続けると。
彼女は苦笑いをしながら「恥ずかしい格好はできないからね」とため息をついた「どうやら選択肢は大外れだったみたいだけど」
「ちゃんとした格好を持ってるのね?」
「ことりに宣伝代わりだって大量に送られてきた」
虹ヶ咲学園で仕事をするようになり、当然今までみたいに身内か知人しかいないわけではなく、見た目はまともに見えるよう、服装のアドバイスをことりに求めていた。
「私のデザインした服が着こなせるの?」と言われたので「言われた通りにはできる」ときょうび小学生だって使わないような反応し「だったら服を送るから言われた通りにやって」と――絢瀬絵里のデザインセンスはことりによって大きくジャンプアップし、果林ちゃんにも一目置かれるようになった。
なお、果林ちゃんに「デザイナーの言われるがままにやってる」と言って落胆されるかなって思ったけれども「実は私もそうなんです」と苦笑いされながら言われた。
完全に言われるがままの私とは違い、果林ちゃんはちゃんとファッション雑誌と自身が映る姿見とにらめっこしながら勉強しているそうなので、厳密には同じではないけど。
ただ、このイベントがきっかけで南ことりに「朝香果林」が知られた。
私としては周りのみんなからクソダサシャツおばさんと言われることもなく、それなりの地位を保っているので、どちらかといえば果林ちゃんがことりから気に入られるといいなあと。
「この高校は広いし人数も多いものね」
私はことりの「宣伝になる」との発言に懐疑的だったけど、ツバサからしてみると学園の中で一目置かれる存在が、南ことりのデザインした服装をしているのは、私が考えているよりも宣伝になるようだ。
「おばあさま譲りの金髪が役に立った」と言ってみると「私は金髪じゃないけど目立つけどね」と――寮にいる学生が遠巻きに眺めている「サインをもらうかどうしようか」との会話が聞こえるけど「ツバサちゃんに頼もう」で彼女は気兼ねなくサインをしてくれるだろうか。
栞子ちゃんとも合流をし「なんまいだぶなんまいだぶ」と言いながら自身の合格を願う姿を観つつ「弟さんは?」と言ってみたら「遅めの反抗期なのね」と、きょうだいで見に行こうと誘ったら「高校の合格発表くらい一人で見られます」と断られてしまったらしい。
「ひいっ!?」と栞子ちゃんが唐突に悲鳴を上げてツバサの背後に隠れるので「どうしたの?」と声をかけてみると「あなたが死ぬほど恐ろしい表情を浮かべていたからよ」とツッコミを入れられてしまった。
「そんなに恐ろしい表情をしていなかったつもりだけど」
「邪悪な表情を浮かべていたわ」
首をかしげる――忙しい姉の誘いを断るなんて、と、どれほど彼女が自身を心配したというのか、恩を仇で返しやがって、ぷんすか――
合格者の番号が書いてある場所には黒山の人だかりだった――ツバサが「自分のサイン会場でもこんなに人はいない」と呆れた顔をしながら、人がはけるのを待つ。
弟さんの同級生なるかもな相手に「邪魔だから燃やし尽くしてやろう」と喧嘩を売ることもない。
「栞子ちゃん、大丈夫?」
「わだすはこんな人が多いところに入って、悪目立ちしたりしないか」
「目立った方がいいと思うわよ、スクールアイドルをやるんだから」
三船栞子とエマ・ヴェルデと今のところ2名しかいないスクールアイドル同好会は、ちょっとしたトレーニングとアイドル研究に余念がない。
学園にはもう一人「優木せつ菜」という名前のスクールアイドルがいるけれども、本名ではないのか学園にその名前はなかった。
果林ちゃんも「誰かが優木せつ菜を名乗っているなんて」と――これだけ大きな学園なんだから、正体を隠さなくてもいいのにといいだけだった。
彼女が加わってくれればエマちゃんも活動しやすくなるのにと、果林ちゃんは言いたいようだけど、彼女と二人の能力では今のところ大きく水を開けられているので、活動方針で亀裂が走りそうだな――なんて。
彼女たちは優木せつ菜の正体に感づいていない様子だけど、私は優木せつ菜を眺めた時「ツバサの弟さんそっくり」と思わず言いそうになった。
彼が年齢を偽って学園のスクールアイドルとして活動していない以上は、当然もう一人の綺羅雪菜のそっくりさん「中川菜々」が優木せつ菜の正体であるとアタリをつけている。
私が見た限りお金持ちのお嬢様くらいの認識しかなかったけど、それをツバサに言ってみたら「それなりの名家よ」と説明してくれた――綺羅家も「それなり」だそうなので私から言わせれば「とんでもない名家」ということになる。
つまり親の許可が取れないので「中川菜々」の名前が出せない――果たしてそれはスクールアイドルと言えるだろうか。
学生たちを先導する生徒会長としての姿はスクールアイドル「優木せつ菜」と重ならないけれども。
「ねえ、ツバサ、もしもご両親にスクールアイドルの活動が反対されたらどうする?」
「力づくで納得させるわ」
「なるほど――中川さんちって、納得してくれそうなお家柄?」
「かなり高いパフォーマンスをすれば――かな」
集団の中に綺羅雪菜クンを発見したのでツバサ共々背後から歩み寄り、肩を叩きながら「山手中央警察署の安浦ですが」「この辺りで女装している変態がいると聞きまして」と声をかけたら、合格発表を見ることもなく逃げ出したので私たちは「レインボーブリッジ封鎖できません!」「やられたらやり返す! 倍返しだ!」と、思いつくままに名言を叫びながら追いかけ、彼をつかまえてからしばらく――理事長に呼び出された。
三人揃って正座させられ「何か申し開きしたいことは?」 と般若みたいな顔をした彼女に言われたので「彼の高校の合格は取り消さないでください」と頭を下げながらお願いした。
なお、雪菜クンも栞子ちゃんも無事に合格し、この春からは虹ヶ咲学園の学生になる。