栞子ちゃんが「絵里さんってどんなスクールアイドルだったんですか?」と聞いてきたので「μ'sってグループに加わらせてもらってたわ」と言うと「わだすもグループの一番端っこでいいから歌って踊りてえなあ」と言い「栞子ちゃんは仲間を引っ張れると思うわ」と笑う。
彼女の中では別段ツッコミを入れる話でもなかったようだし、私としても何一つ嘘は言っていないと思っていたので「絵里ちゃん……本気で言ってる?」と、果林ちゃんが虫取りに行きたいと言って補習をサボろうとした際にエマちゃんが出した低音ボイスで指摘を受けた時――首を傾げるしかなかった。
「絵里ちゃん虫取り網ない?」と聞いてきた果林ちゃんに「ないからちょっと頑張って作りましょう」と気の抜けた話をし、二人して「これなら野良犬だって捕まえられる」と自作の虫取り網を完成させた時。
果林ちゃんの背後に大仏みたいな威圧感を誇ったエマちゃんが立っていて「果林ちゃん……今日の補習はどうしたのかな?」って。
その際と同じような低音ボイスで――つまりは、あの時と同じくらい怒り心頭だと。
「立ち位置としては適切だと思うけど……エマちゃんもアニメを見たでしょ? おおよそ真実よ」
「大まかには真実だって穂乃果ちゃんから聞いたもん」
A-RISEのリーダーだけではなく、μ'sのリーダーまでちゃん付けで呼ばれている――Aqoursのリーダーもちゃん付けになっていたから――近々、聖良ちゃんも「ちゃん付け」になる可能性が。
パン好きの共通点で膝を進めて話した結果なんでしょう――私がちゃん付けで呼ばれているからそれに準じた――可能性はないと信じたい。
私は下唇の辺りに指を這わせて「あのアニメを見て、少なくとも私を中心だと見るのは難しいと思うけど」と、やはり首を傾げるしかなく、別段嘘をついてないので、おそらくエマちゃんが満足する発言にはならないと思う。
何やら彼女の中で私の評価が高いようで、絢瀬絵里はすごかったと――私から言わせる話ではなくて、それを損なうような表現はするなと言いたいに違いなく。
「絵里ちゃんや希さんが入るまでは、ラブライブで優勝できるようなグループじゃなかったって、ツバサちゃんに聞いたし」
エマちゃんが「希さん」と呼んだときに「私もその人と同い年なんだけどな」と「敬意の有無」を指摘したくなったけど、そんな空気ではなくて栞子ちゃんもセミの唐揚げを食べながら固まっている。
普通に食べても美味しいんだからセミは唐揚げにしても美味しいんじゃないかしら――と果林ちゃんの発言から発展し「セミの唐揚げ」は夕食のメニューに加わってしまった。
が、やはり一部の生徒以外には不評で1日限りになってしまったけれども、一部の生徒には大変好評なのでおやつ代わりに食べさせている。
――なお、なぜセミがいない時期にセミを食べているのかと言うと、未だに私に復讐の機会をうかがっている神が嫌がらせの名目で送ってくるから。
そろそろ神じゃなくてセミって呼ぶぞと神様には言っておいた。
「それは、私の努力ではなく、周りのみんなの努力よ」
「そこでですね」
エマちゃんが一気に空気を弛緩させた――や、怒ったふりをしているんだったら、最初からフリだと言って欲しかった、この場にいてひとつも口を挟めないでいる果林ちゃんがセミを食べたそうにしていたし。
※
「娘さんをスクールアイドルに?」
「そうなの、スクールアイドルで売り出そうとしているのは絵里ちゃんも知っているでしょう?」
だから雪菜クンも女装しての入学が許されている――「理事長正気ですか!?」と「弟が女装して通ったら面白いかも」と冗談で言ったツバサも泡を吹くくらい驚いていた。
「自由な校風なのだから当たり前」と理事長は説明するけれども――さすがに自由すぎやしないか。
ただ教育者として「規定の制服を身につけていれば男子のもの女子のもの問わない」は推していくと――その模範として雪菜クンは活用されるご様子。
トランスジェンダーであるとか、様々な要因ではなく、制服であればしたい格好をできる――男子とか女子とか性別区別するのではなく、本人がしたい格好をする――区分けは必要だけど、したいことまでさせないのは教育者失格とか。
それはともかく。
「スクールアイドルをやったことないんでしょう?」
「やったことなくても娘なら全国レベルの人気になるでしょうよ」
親バカ全開――が、未経験から全国区の人気になったμ'sの例もあるので、メンバーとしては一概に「未経験では難しいのでは」と指摘することなんかできないし、当人がやりたいと言っているのであれば「未経験可」は積極的に推していきたい。
「日本の生活に不慣れだからって言って、栞子ちゃんを娘さん係にしたって聞きましたけど」
「彼女に教育させたら安心でしょう?」
「道を踏み外すことはないでしょうね」
仮に最初のうちは栞子ちゃんに様々なことを教えてもらっていても、そのうちに立場が逆転するんだろうな――その頃には栞子ちゃんを放っておけなくなって、二人はとっても仲良くなるであろう――そして栞子ちゃんは「娘と仲良くさせても良い人材」だと抜群の評価をされているということ。
「それで……そこでちっちゃくなっている娘さんに、私に何をしろと」
「相変わらず絵里ちゃんは察しが悪いわね――μ'sをラブライブ優勝できるくらいまで成長させたその手腕、ランジュに提供してほしいの」
理事長はノリノリだけれども、娘さん――ランジュちゃんは恐縮しきっており、かといってもスクールアイドルをやりたいという気持ちはあるのか、μ's云々はともかくとして「色々と教えて欲しい」みたいな気持ちはあるご様子。
望まれているのなら――やってもいいかなって思う、なんやかんや言って理事長には大変お世話になっている――給与明細を観たら「もらい過ぎでは?」と首をかしげ、理事長に言ってみたら「あなたが要求したんじゃない」と言われ「給料分は働かなければ」と決意したくらいだし。
それにお金云々だけではなく、学生のためにもいろいろ動いてもらっている――ただの親バカではないし、ただの権力者でもない。
ひとクセもふたクセもあるのが多少問題なだけで。
「私の主義は生徒と一緒に頑張る――なので、どうぞお付き合いの程よろしくお願いします」
「ふふ、無問題ラ! ……私の方は問題あるかもしれないので」
途中まで威勢がよかったけれども――なお、先程彼女が発した「無問題ラ!」を決め言葉にしたいらしい、どうやったら決め言葉になるかは皆に相談しようと思う。