津々浦々の飲み屋を飲み会と称しては襲撃し、これ以上は食材がなくなってしまいます――と、責任者のかたの悲鳴じみた声を聞く。
凛から「無駄飯食いな上に大食い」と言われて気がついた。
――なるほど私はよく食べる。
そんな私よりも食欲があるのは綺羅ツバサで、飲み会を開けば店の食材をあらかた平らげてしまう。
以前は常軌を逸した量を食べてはいなかったけれども、大食い勝負で私に負けたことがあって――
絢瀬絵里に負けたのがたいそう悔しかったらしく、私を連れ出しては「こんなに食べるのよ」と上目遣いでアピール。
とある出来事の結果、暇があればこうして飲み会へと連れ出される。
芸能界でもトップを走っていたA-RISEのリーダーとして活躍をしてきたものの、唐突に「結婚するからアイドルやめるわ」とあんじゅの離反に遭ってしまう。
ツバサの良き理解者でもあった英玲奈(シスコン)が「妹がスクールアイドルをしたいと言うのでアイドルやめる」と、これまた裏切りイベントが起こってしまった。
以降は芸能活動を縮小し、暇を見つけては「ちょっと付き合いなさい」と私を襲撃し、トップアイドルと金髪の組み合わせで、全国各地の飲み屋を襲ってきた。
売上に貢献したけれども、様々な悪評もされているはず。
ゆえに、ツバサと飲み屋に行けば「トップアイドルの方はお断りしています」と先んじて対応されてしまう。
今はトップアイドルじゃないんでと言えば「金髪のかたはお断りしているので」と、カンペ読まれちゃう――対応が全国各地に広まっている、鬼か。
髪の毛を黒く染めろと命令されるのではと恐怖したけど、ツバサに言ってみたら「あなたの唯一のアイデンティティを無くしたら、あんまりにもかわいそうじゃない」と、同情されてしまった――罵倒されている気がするのはなぜ?
飲み屋イベントが回避されたけども、ツバサは暇と金を持て余していて。
知恵を絞って「誰かの迷惑にならない飲み会イベントを起こそう」と。
誰の迷惑にもならない飲み会があるものか――
とツッコむべきか。
迷惑をかけているとの自覚はあったのか――
と、指摘をするべきか。
芸能界のトップしか住めないっていうタワーマンションにお呼ばれ。
ツバサの食事の世話をしながら「誰にも迷惑をかけない飲み会」の企画づくり。
迷惑をかけることになった桜内梨子ちゃんや、Aqoursの皆様にはお詫び申し上げたい――全ては私の不徳の致すところ。
トップアイドルが無茶ぶりをした結果だと周囲に吹聴などしないように。
私なんぞの悪口はいくらでも吹聴して貰いたい、褒められるよりも慣れている。
ツバサはトップアイドルの立場に興味がないので、足を引っ張るような人間にも「引きずり落とされるようだったらしょうがない」と男前な対応をされる。
あくまでも自分の頑張った結果がトップアイドルでしかなかった。
ゆえに、足を引っ張られた結果、不評が伴うなら努力不足だと認識する。
溢れんばかりの才能があれば下など見なくても良いのか。
それとも、足を引っ張る人を蹴り落とせば良いと王者の風格漂うゆえか。
これが才能の違い――や、立場の違いってものかなと。
ちょっとネガティブになった瞬間、ツバサが辛気臭い顔をするなと殴りかかってきた。
テレビの企画でパンチングマシーンを殴りつけた時、とんでもない結果を出し、お蔵入りになったとか。
英玲奈が疲れた表情で語っていたから、徒労に終わった企画に同席したのでしょう。
絢瀬絵里をKOせんパンチは叩き込まれないけど、押し倒し、関節を決め逆らえない。
「変なことを考えるくらいなら目の前の事に集中しなさい」と言われ。
「そうね」と応じるしかなかった――
逆らえない状況で逆らうほど、絢瀬絵里は叛逆精神豊かではない。
武士は食わねど高楊枝、私はプライドを捨ててもご飯が食べたい。
で、食事の折、ツバサの出した結論は――「知り合いに店を経営させればいいんだ」
絢瀬絵里に店をさせると言われるかと思いきや「それじゃ、あなたを好きに連れ出せない」
「そう言えば梨子さんがお店をやりたいと言っていた」
トントン拍子に外堀を埋められた梨子ちゃんは、イエスとしか言えない状況で「お店やらない?」と言われ、同席した私の顔を穴が開くほど鋭く見つめた。
「そんなに熱を帯びた視線で観られると照れるわね」と言うしかなく、梨子ちゃんも逆襲の一手「その人にたまに手伝ってもらう」により、たまに生殺与奪を彼女に握られて仕事する。
同席して失言をした私が「たまに店を手伝い」するのは当然と言える――
バーの話だけど、内装やデザインは美術部出身の彼女のセンスに由来した雰囲気の良さを保っている。
かかっているBGMも耳になじむもので、決して食事の邪魔にはならない。
だけれども度々私の知人で貸切になれば、雰囲気はガラリと変わる。
まさに銃弾が飛び交う戦場、次から次へと提供される料理、及び酒。
やまない愚痴、酒を飲むとなれば仕方がないにせよ、基本ノンストップ。
料理や給仕をする店員は、目まぐるしく働く――用意された食材を食べつくす勢いは止まらず、酒を飲む勢いは上がるばかり。
食材もお酒もふんだんに用意されているのに――在庫管理してるスタッフの表情はいつだって不安げ。
よく食べるメンバーが集結した時――ダイヤちゃんが「これだけの量があれば賄えるはずですわ」と胸を張っていう。
とんでもない量を見て動物園のパンダの食事を思い出した――あやつは可愛い外見をして大食漢。
黒澤家で給仕の仕事をしている方々に協力を頼み、僭越ながら私も参加、あ、スタッフとして。
飲み会のさなかで食材の追加がなされた。
スタッフ総出で開いている店に駆け込み、勢いよく確保していく。
なお、最初は驚かれたけど、今はお店も手慣れたもので「在庫処理してくれる人たち」扱いしてる。
戦場を彷彿とさせる飲み会が終わればスタッフに特別手当が与えられ、一端として参加しているから私にも。
黒澤家のお嬢様は豪胆でいらっしゃる。
報酬に小切手に好きな数字をと言われ「あ、それ、ドラマで見たことある!」
と、反応し、数字を書いている途中で恐ろしくなった私は「何よりも特別な、ダイヤちゃんのハグをください」と逃げた。
お給料とは別にダイヤちゃんのハグをいつも頂いています――
ハグしたいために飲み会を開いている噂もあるけど、私は関知しない。