喫茶店には多くの人手があり「秋葉原にもメイド喫茶以外のお茶を飲むところがあったのね」と感心したように呟くと「あなたって本当に秋葉原のことをアニメとオタクの街だって思ってた?」と真姫が呆れたように呟いたので「北口と南口で全然違う光景が広がってたのは知ってる」と、肯定も否定もできない返答をしてしまった。
メディアで紹介される秋葉原は路上にメイドさんがいたり、秋葉原に行く前にお風呂に入るのが先では? と言いたくなるアニメ好きの方々がいるけれども、一般の方々だってたくさんいる 。
そういう方々が利用する喫茶店なんだろう――真面目な雰囲気で、従業員が少なくとも「いらっしゃいませお嬢様」と、お嬢様でもなんでもない私を見て接客するような場所ではない。
秋葉原のメイド喫茶でありがちな「サインを求められる真姫を観て歯噛みをする絢瀬絵里」も残念ながら見受けられなかった――せっかく歯噛みするためのハンカチを用意していたのに。
そのように言ってみると「メイド喫茶に先に行っておけばよかった」笑いながら反応してくれた――
「雪姫」
真姫が待ち合わせ場所に私を伴って登場すると、女の子が二人はなんとも言えない距離感で座っていた――肩が触れ合うほど近くにいるわけでもなく、仲が悪いとすぐにわかるほど距離が離れてるわけでもない。
ユキと呼ばれた女の子はこちらを一瞥し、すぐさま目を逸らした――金髪の赤いヘアバンドをしている女の子は「はじめまして」とぺこりと頭を下げたというのに。
「緊張しているのよ、あなたが憧れの人だそうだから」
「……こちらのお姉さんではなくて?」
私なんぞにどう憧れる要素があるというのか――百歩譲ってμ's時代の自分に憧れると言うならば別だ、そのような人は散見されるのも知っている。エマちゃんにはすっかり同級生扱いされているけれども、初対面の時にはサインを家宝にしますと言ってくれた。
「それならスイスにあるから大丈夫だよ」とサインの行方を聞いて度肝を抜かれた――「コースター代わりに使ってるよ」とか「フリスビーみたいにして遊んでたら壊れちゃったよ」と言われるかと思いきや、家宝にするようにとスイスにある実家に送ったそうだ――エマちゃんの小さい弟や妹たちには是非おもちゃとして活用してほしい。
「雪姫、自己紹介くらいはしなさい」
「西園寺雪姫、そちらの人とは半分しか血が繋がってませんけど、一応妹です」
――全国各地に存在すると言う西木野総合病院の院長の子ども、スキャンダルになりやしないかと思うけれども。
追求すると面倒なことになりそうなので、まあそれはそれとしてと、メニューを注文する「端から端まで」とボケを挟もうとしたら「これでいいわよね」と真姫に先んじてボケを封じられた。
「なるほど……すみれちゃんは元々子役をしていたのね」
姉妹の邪魔をせずに私たちは交流しましょう――と、いうわけではないけど、緊張しいみたいな彼女に対して会話を促してみる――真姫もそのように考えて「彼女は芸能事務所に所属していて」と話題を出してくれたんだと思う――確かに可愛らしい、私なら受からないオーディションも、彼女なら満場一致で受かるに違いなく。
が、言われた彼女も首を捻り、真姫も首をひねり、雪姫ちゃんも不安そうな面持ちをしている。
「絵里、こちらの人をテレビで見たことない?」
「あなたに勧められるアニメや、凛に見ろと送られてくるバラエティ番組や、ツバサに送られてくる出演番組を見ているものだから」
全部見ている暇はないと泣き言を言ったら、彼女たちはわざわざ「自分の出演シーンを編集して提供」してくるので、それこそ見ないわけにはいかなかった――なお一番確認するのに時間がかかるのが、真姫の出演したゲームであり、地上波のテレビ番組を好き好んで見ている暇はないのである。
もちろんここでエロゲーをプレイしているから、テレビ番組なんて見ている暇はない――と言うこともなく。
「そうですか、別に構いませんけど――恥ずかしながら、大河ドラマにも、朝ドラにも出演したことがありますが」
「そうなの、ごめんなさいね、興味のあることにしか興味がないものだから」
真姫は既に私の意図に感づいているので、苦笑いしながらも冷たい態度をたしなめたりはしない――とても残念なことに、興味を持ってもらおうとする仕草には、とことん冷たいのである――言いたいことが言えなくて回り道した自分の過去を思い出してしまうので、言いたいことは自分ではっきりと言えが私のスタンスである。
知人らには「未だにあなたは回りくどい言い方をする」とか「言ってもわからないから殴りつける」と、身から出た錆な反応をされるけれども。
「ギャラクシー……」
最初発信源がわからなかった――秋葉原の喫茶店だから、コアなお客様がいて「よくわからない独り言が」耳に届いたのかと思いきや、真姫も「ギャラクシー?」と つぶやきながら首をひねり、雪姫ちゃんも「……」あからさまに視線を逸らし――そして。
「……はっ!?」
当人は言ったことに気がついていなかったのか、 慌てて口元を押さえ――そんなことをしたところで、彼女の妙な独り言は私達の耳に届いている――そのせいか今までの会話はどうでもいいことになりつつある。
本来は雪姫ちゃんに「興味を持ってください」的な会話をしていただき「彼女の出演番組を」眺めるつもりだったけれども、真姫も「ギャラクシー」にすっかり興味を持ってしまった。
「口癖なの?」
「感心した時とかよく使ってしまうものでして……」
雪姫ちゃんの補足説明によれば、事あるたびに「ギャラクシー」なる表現を使ってしまうようで「美味しい」とかも「ギャラクシー」に なってしまうとか――心が揺れ動く表現を「ギャラクシー」と表現してしまうのはとても面白い――彼女の外見と相まって、もっとそこをしていれば「子役」としてももっと活躍できたのではないか。
「また気の強い感じで――ちょっと偉そうな口調にして、ギャラクシー! とか言ったら、注目を集めそうね」
もっともっとしつこいくらいに「ギャラクシー」を推してと真姫が言い、彼女の活躍のしなささには雪姫ちゃんも気になるところがあったのか、アラサーの演技指導に対して特に口を出すこともなかった。
「他の人にギャラクシーとあだ名されるくらいに」「感嘆表現には事あるたびに使ってみましょう」と平安名すみれちゃん活躍計画は進められ、ケーキを一口食べれば「ギャラクシーな味」可愛い格好を見れば「ギャラクシーな可愛さ」と言い。自分がステージに立つ機会があれば「ギャラクシーな衣装」と表現。
後はもっと、見て欲しいところや、感じてほしい部分には「何度も繰り返して言う」を意識してみましょうと。
「この衣装はとっても かわいい、かわいい、かわいいんだからね!」みたいな感じで――
影響されてしまったのか「今日はギャラクシーな女の子に会ってね」と、寮で栞子ちゃんに言ってしまい「わだすは都会のハイカラな言葉が分からないので……」と。
あと、不評かと思いきや雪姫ちゃんにも「会ったばかりの人のために真剣に頑張っているところが良かったです」と高評価だったようで「あなたは女の子を落とす天才ね」と言われたけれども――いったいどこの誰を落としたというのか。