もうすぐ4月になる――新社会人の皆様は希望に胸が膨らんでいるだろうか、それとも4月になってほしくないと願っているだろうか。
チート系能力者でもない限り人間には平等に時が流れ、体感が違うばかり。
めまぐるしく時間が過ぎていったと、隣にいるミアちゃんになんとなく言ってみたら「自分はいつも暇」と、嘆くように言われて、頭を撫でてみた――別に褒める要素は何一つないけど、それでもいいんじゃないかと。
働きアリのように忙しく過ごし、気が付いたら恋人の一人もできず30になろうとしている。
「人生は暇つぶし」――とどこぞの誰かが言っていた気がする。
私も完全に同意だ――暇をつぶす何かを探すのが人生であり、人生の目的なんてものは暇をつぶす何かでしかないと思うし。
別に高尚なものである必要はない、最初は暇つぶしで、暇を潰し続けていたらとんでもないことになっていた――人生なんてそんなものかもしれない。
暇つぶしだからいけなくて、高尚なことをしなさいなんて、それこそナンセンスだ――そして高尚なことをしている人は、誰かにそんな指摘をしている余裕はない――自分自身の面倒を見ることで忙しい。
「誰かの言うことなんて気にしちゃダメよ」
「分かった、絵里さんの言うことはひとつも気にしないようにする」
それはとても素晴らしい事と笑ってみせる――少なくとも、絢瀬絵里の影響を受けてしまった園田海未は「金髪ポニーテールのせいでおかしくなった」とネタにされているし。
ミアちゃんが私の顔を見上げてくる――彼女は背が低いからどうしたって上目遣いになってしまうけれども。
「どうして? 今の言葉を言ったら、ボクの家の人は自分の言うことくらいは聞けって言うけど」
全世界に音楽一家として名高い、テイラー家と私なんぞを比較しても「身の程を知れ」と言われてしまうだろうし、そもそも比べられる要素がない。
人間としてどうのこうのと言ったところで、テイラー家の皆様が世界各地の人たちに与えている影響は、私なんぞと比べようもない。
アリと象くらい違うので、とても残念なことに働きアリはせせこましく働くしかない。
なのでこれは個人的な意見だ――テイラー家の皆様に聞かれたら、娘に変な教育をしやがってとタコ殴りにされてもしょうがない。
「私がミアちゃんにとって信用のおける誰かであるなら言うことを信じてちょうだい」
「……」
「それが、誰かにアドバイスを求める人間のすることよ、相手に対しての信頼するって自分の気持ちを担保にして、相手のアドバイスを聞くか聞かないかを決める」
「……」
「アドバイスをくださいと言いつつ、自分の求めるものでないと怒る人がいるけれど、送られるアドバイスは相手次第なので自分がどうこうできません。できるのは自分がアドバイスを聞くか聞かないか決めることだけ――ミアちゃんが聞きたいと思うアドバイスだけ聞いてればいいのよ」
結論としては、色々言ってくる人はいると思うけれど、とのアドバイスを聞くかは自分で決めて、と、なってしまう。
もちろんアドバイスを聞かない選択肢もある――
「じゃあもしも、絵里さんがこの人にはアドバイスを聞いてほしいなと思ったら――どうする?」
「言葉で伝わらない相手だったら――殴り合うか、背中で示すでしょうね」
「野蛮なゴリラだ」
「よく言われる」
ゴリラが頭を撫でるんじゃないと手を払いのけられるかと思いきや、彼女は私に体を預けて、気持ち良さそうに目を閉じた。
言葉っていうのは人間が発明した文明の利器だけど、それに頼りすぎると簡単な答えにすら気がつかなくなってしまうものだ。
だからといって殴り合っていれば、やはりそれはミアちゃんの語るとおりに野蛮なゴリラでしかない――だけども、同じような思考回路を持つツバサや海未がゴリラと呼ばれないのは、彼女たちが自身をゴリラだと呼ばれることを潔しとせず、口が開けなくなるほどに報復するから。
つまり私はある程度、会話ができるゴリラであるに違いない――