前回さらっと流してしまったけど――スクールアイドル同好会には四月になって新入部員が入った――まずは一人目、草むらで眠りこけているところ「緊急事態だ!」と勘違いし、米俵のように抱えあげ、寮で看病の真似事をしていると、エマちゃんが登場し「この子は寝てるだけだから大丈夫だよ」と、不可思議なことを言うので「草むらで眠るのは一般的な行動じゃないのよ」と、慌てていたものだからマジレスをかます。
校内で枕を地面に敷いて眠っているのは、確かに一般的な行動ではなく、エマちゃんもマジレスに思わずつんのめったように黙り、そう言われてみればと唇の辺りに指を這わせ考え込む仕草を取った。
が、近江彼方ちゃんを知る生徒が「彼女にとっては一般的な行動」「授業中以外はよく眠っている」と進言する。
言われた私も「それでも外に眠っていたら風邪を引いてしまう」として、校内で意識を失うように眠ることを潔しとはできなかった。
そのため目覚めた彼女に「部活に入ること」を提案し、そうでなければ「強烈な眠気に襲われた時には寮に来ること」をさらに付け加えた――ダメ押しとして困った事情があるなら相談することと主張。
エマちゃんに「真剣に人助けしようとしてる」栞子ちゃんに「なりふり構わずって、わだすははじめて見たべ」と言われてしまう程の態度をし――後日「どうして?」と尋ねられたものだから「彼女には妹がいる」「妹のためなら何をしたって構わない子を助けることに理由なんていらない」 と。
別に彼女の生活状況なんて知らないのに言ってのけ「ちょっとおかしくなっちゃったのかな」「最近忙しかったから」とランジュちゃんやミアちゃんに悲哀の目を向けられた。
でも「この人がいる部活なら入ります」と、態度を保留していた彼方ちゃんが、眠そうでもない、のんびり屋さんでもない、いつもとは違う真面目な態度で言ったので、シスコンのヤマカンは姉妹関連の出来事に限っては抜群の精度を誇ると――
が、栞子ちゃんに「あなたも血の繋がっているお姉ちゃんがいるわね」と言い「わだすにはお姉ちゃんはいないよ」と笑いながら否定をされ「なんだあてずっぽうだったのか」
その時にはシスコンのヤマカンは全否定されたけれども、これまた後日「わだすには確かにお姉ちゃんがいた!」 と、泡を吹くような感じで栞子ちゃんが、彼方ちゃんの勉強の面倒を見ている私のもとにやってきて「何で見ただけで姉がいるって分かるの?」と言われたから「長年姉をやっているからかしらね?」
近江家のお母様から「家庭教師のお金は」と相談されたので「勉強をしているのに付き合うのは寮のみんなにしていることですから」と断る。
「そうよ、私が何度付き合ってもらってると思ってるの」と、練習が長引いた彼方ちゃんを伴っての食事の最中に、果林ちゃんが言い放ち「果林ちゃん……本気じゃないよね?」と、久方ぶりにエマちゃんの低音ボイスを耳にすることになった。
初体験の彼方ちゃんは「エマちゃんってこんな声出せるんだ」と、背筋を震わせつつ完食。
その後妹を家に待たせていると、暗くなってから帰宅しようとしたので、私もお付き合いさせていただいた。
寮の食事の残りはタッパに入れて「どうぞお食べください」と近江家に提供させていただいた――遥ちゃんには「本当にありがとうございます、お礼できることがあまりありませんが」
と亜里沙に似た雰囲気を持つ妹キャラだったので「どうしてもというのなら私の妹に」と冗談半分で言ったところ、彼方ちゃんが「絵里ちゃん……本気じゃないよね?」と、先ほどのエマちゃんを彷彿とさせる低音ボイスで彼方ちゃんに脅迫され、正直殺されるんじゃないかと思った――
英玲奈にも「シスコンとして恥ずべき行為だ」と怒られたので、もうあんなことはしませんと頭を下げた。
なお遥ちゃんに「どうしてもと言うなら妹になっても」と言われたことが亜里沙に伝わってしまい「お姉ちゃんは妹を増やそうとしているのかな? 結婚したらもう妹じゃないのかな?」と、言われたので「もう二度と誘いはかけません」と一筆書いて送っておいた――どうか許してほしい。
ただ、彼方ちゃんに「どうしても許してほしいなら、遥ちゃんに料理を教えてあげてほしい」と、栞子ちゃんの虫料理を食べてるときに言われ「鹿角理亞、星空凛、そして綺羅雪菜にも料理を教えたけど効果がない」と反応しつつ、それで許していただけるならと。
さて、二人目の新入部員はちらっと話題にあげたけど、彼女が練習を見守る私の前に登場したのはスクールアイドル衣装で――つまり「中川菜々」ではなく「優木せつ菜」状態であり、寮の管理人の仕事で忙しい時のために、代理アドバイザーとして理事長が雇った「鹿角理亞」も首をかしげていた。
スクールアイドル部のアドバイザーが「矢澤にこ」「綺羅ツバサ」と名前だけで勝利宣言できそうなヒト。
いかにメンバーがあまりやる気がないとはいえ、期待させる要素はいくらでもある、ニコの酒量が増えているから、その期待がどれほど信憑性に足るかはわからないけれども。
鹿角姉妹の状況すら把握していた理事長が「絵里ちゃんだけで同好会の面倒を見させると面倒なことになりそうだから」と。
本来は聖良ちゃんを呼びつける予定だったけれども、彼女は彼女で仕事が忙しいとのことで、妹の理亞ちゃんが代理として登場した。
彼女は三食昼寝つきが良くてと笑い、長年引きこもりであったとは思えないほどの運動能力と指導力で同好会の面々の信頼を得ていた――が、それを聞いたツバサが校内に登場する回数が増えた――仕事はどうするのかと言ったら、これが仕事だと言い出したので――まあ、これがやりたいことだというのなら口出しすることじゃないか。
てと、また話が違う方向にどうか許していただきたい――「こんにちは中川さん」と、私が言うと「私の名前は優木せつ菜です」とたじろぎながらも言ってのけた――彼女の意思をはかって、積極的に吹聴はしていないけれど、同好会の中では「会長も同好会に入ればいいのにね」と言った空気は前々から広がっていた。
同好会の結成からしばらく経ってのご登場に先制攻撃をかましてしまったけれども、生徒会長を務めるほどの聡明な彼女が「中川さん」と言われて他のメンバーは何も言わないことで、自分の正体が割れていると判断。
「こんなことを言える義理ではないとは思うのですが」
「前置きはいいから内容をどうぞ」
――ちなみに、彼女が口にしたい内容はすでに同好会の皆は把握している。もちろん私が優秀だったわけではなく、理事長が「優木せつ菜さんが親御さんに正体がバレてしまってね」と何食わぬ調子で言ってのけ「彼女がもしも同好会に入りたいと言うなら入れてあげて」と言いつつ「自分一人で何とかしようとしたら止めてちょうだい」と。
「助けてください――このままだと私は、スクールアイドルをやめなければいけないんです」
「なるほど、では部長の三船栞子さん――どうなさいますか?」
「わだすらで助けになるならいくらでも」
ちなみに部長は三年生がいいんじゃないかと彼女は言ったんだけれども、自分たちが卒業しても同好会の面倒を見て欲しいからと、1年生にして異例の抜擢になりました。
「人の上に立つなんて、わだすにはそんな適性はないとよ~」と泣き言を言いつつ、ランジュちゃんやミアちゃんのサポートを受けつつ、部長会議に出席しているんだからすごい。
こうして四月中に二人の新入部員が入り、同好会は初めてのライブを迎えようとする――しかもそれは優木せつ菜がスクールアイドルを続けられるかどうかが決まる、極めて重要なもの。
初めてのライブが深刻な状況から始まるのは、スクールアイドルのお約束として許していただきたい、穂乃果たちに聞かれたら殴られそうな発言だな……。