アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

26 / 125
そして絢瀬絵里はスクールアイドルとはと理事長に説く

 唐突に理事長に呼び出され「せつ菜さんの退学は我が学園にとっても痛手」と、固い表情と、重い口調で言われれば、私だって思わず唾を飲み、重厚な雰囲気で頷く。

 

 もちろん当該生徒は学生名簿に存在しないので、正確には「中川菜々」の退学と言わなければだけれど、それだと生徒会長の退学なので、私なんぞとはまるで縁のない話になる。

 

 もちろん優木せつ菜の退学に関しても私への依存度は小さい、お前なんぞに何ができるのかと言われてしまえば「料理くらいは」と、涙目になってうつむくしかない。

 

「そこで、スクールアイドル同好会、及びスクールアイドル部、双方に合宿に赴いて頂きましょう」

 

 今度は私が首を傾げる番だった。

 せつ菜ちゃんの退学を防ぎたいので、彼女の実力を短期間で向上させるがため、集中的にレッスンに取り組む。

 それならば話は分かる、ならば彼女一人に集中させるために、スクールアイドル部の皆様は学園に残って頂かなければ。

 

 もちろん彼女たちが優木せつ菜に影響を与えるから、と言われてしまえば首肯せざるを得ないし、胸ぐらを掴み上げられ「あなたは首を縦に動かしていればいいのよ」と言われてしまえば、権力もへったくれもない私は「そうですよね」としか。

 

 しかし今回は理事長も下手に出て、できればあなたの納得が欲しいと願っているご様子。

 何らかの企みがあるのは重々承知だけれども、優木せつ菜の退学を防ぐためには実力を向上せねばとは、私も考えていたので。

 

 だって彼女は部活動に取り組む以外は生徒会長として忙しい。

 緊急の生徒会の用事があれば「中川さんが呼ばれていますね!」と言いながら、優木せつ菜さんは車を急発進させるように練習を中断するしかない。

 これではご両親の理解を得るために、スクールアイドルとしてハイパフォーマンスをさせるとの目標は達成しづらい。

 

 練習不足で思わず力が入り、高校生活を棒に振るような怪我をされてしまってはそれこそ「娘を退学させるしかない」「スクールアイドルは娘に悪影響」とご両親に判断されても仕方がない。

 

「でもそれなら、私は賛同するだけで参加はしなくていいですよね? 寮生のご飯は私が作らないと」

 

 そうなのだ。 

 部と同好会で合宿に行くことに、 私はそれほど関わりがない。アイドル達のコーチをしている、理亞ちゃんやツバサ、ニコといった面々は合宿に同行しても問題がない。

 ただ、私の役回りは寮の管理人をしながら同好会の面倒を見ているにすぎないので、優先するべきは寮のみんなの生活だ。

 

 つまり私は寮にいて「みんな頑張ってるかな」と、思いつつ寮生の面倒を見るのがベストで、教えることにもスクールアイドルとしても定評があるみんなの方が、合宿に赴いて当然。

 

「絵里ちゃんにはぜひにも合宿に参加して欲しいの、寮のみんなのご飯は矢澤さんに面倒を見てもらうから。能力としては申し分ないでしょう?」

「確かにニコなら、みんなのご飯を任せるに値する人材ですけど、私がニコのようにみんなのレッスンができるとは」

 

 

 合宿所に向かい、特に何をするわけでもない金髪ポニーテール、扱いとしては難しい。

 確かに料理は作れるけど、エマちゃんを中心に料理上手なメンバーはいる。させるまでに時間がかかるけれども、ツバサも「元々お嬢様だからね」と料理は嗜んでいる。

 

 合宿というくらいだから生徒の自主性に任せてもいい、綺羅雪菜と中川菜々に料理をさせなければ、人間が食べられるものは作られるはず。

 近江彼方ちゃんもふんだんに腕を振ってくれるに違いない、1年生が増えて「しずくちゃんはまるで妹のよう」と喜んでいるから。

 

 ただ、前面に積極的に出てくる中須かすみちゃんの付き添いみたいな感じだ。

 演劇部と掛け持ちをしているので、どちらも中途半端にとの心配もあるけれど、同好会はラブライブに出場しようとする部活とじゃない、中途半端になったところで何が問題があるのか。

 

 や、ラブライブ優勝のために人生をかけた理亞ちゃんからすると、どちらも真剣に取り組むつもりと言ったしずくちゃんに怪訝そうな顔をするのは仕方がなかった。

 「そんな表情をしていると、後でツバサから一つの事しか真剣にこなせないゴリラがなんか言ってると、言われてしまうわ」と、友人をダシにして申し訳ないと思いつつ、脇腹の辺りを突く。

 

 ただ、理亞ちゃんの想定通り今のところは「どちらも中途半端」であると言わざるを得ない、演劇部の皆様から苦情が来ない限りは、掛け持ちのままとは考えているけれど。

 

「そう言われると思ってね、あなたがいなくちゃ合宿でコーチをしたくないって女の子に声をかけたの」

「私がいなくちゃコーチをしたくない人?」

 

 

 理事長は暇人じゃないので、私の知り合いだからといって、みんなと仲良くできるから合宿に呼ぶ。

 なんてことはしてくれない、それに優木せつ菜の問題を抱えている以上、そうするのがベストだと判断したから呼んだに過ぎない。

 

 つまりは彼女の何らかの能力を著しく向上させる誰かが、私が合宿にいないと参加したくないと言ったに違いない。

 スクールアイドルとしての能力を向上させる能力の持ち主と言えば、海未や真姫あたりが該当するけれども。

 

 その両者も残念なことに自分の生活で忙しい。

 どちらのスケジュールを把握しているって訳じゃないけど、ここで働くようになるまでは「絢瀬絵里の数十倍は忙しい」と疲れた顔をして言っていたものだし。

 

 ただそのエピソードをことりの邸宅を掃除しながら言ってみたら、屋敷の主が「ふぅん~?」と死ぬほど可愛いらしい声色で言ってのけ、振り向いてみると背筋が永久凍土になりそうなほど恐ろしい表情をしていた。

 

「それにね、ニコちゃんのいい気分転換になると思うし」

 

 私が参加しないと合宿でコーチしたくないなんて、言ったメンバーがいるって理事長に言われても、首を縦に振るつもりはなく。

 そんなワガママを言う子に付き合うつもりはないっていうのも、もちろんあるんだけど、何でもかんでも私の都合のいい方向に向かっているのもまた気に入らないポイントだった。

 

 困ったことがあれば人間として成長できるので、と、パワハラ発言してくる上司みたいなことは言わないけど。

 ここ最近私は寮の仕事をしつつ、同好会や部のみんなの面倒を見ていて、久しぶりに興奮を覚えていた。

 

 スクールアイドルに携わるのはとても楽しい、自分がスクールアイドルをしていたからっていうだけじゃなくて。

 なんと表現していいのかわかんないけど、自分の人生の目的みたいなものを見つけたって言うか。

 

 すごく楽しいからこそためらいを覚えてしまう。

 自分ばかりが楽しんでいていいのか、自分が楽しんでいる代わりに他の人が辛い目にあってはいないだろうか。

 

「……まあ、ニコが気分転換になるって言うなら」

 

 が、自分ばかりが満足するイベントではないと気がつかされ、では合宿に向かいますと頭を下げる。

 理事長がラブライブ優勝に向けて本気になるあまりに、芸能界でも御用達なプロ集団を呼びつけてしまい。

 

 元からスクールアイドル部のコーチとして雇われていたニコの立場が非常に微妙なことになってしまったことで、酒の席に同席するケースが非常に増えたものだし。

 それに――動画を公開すれば、部のパフォーマンスよりも同好会に入った優木せつ菜のほうが、評判がいい。

 

 「スクールアイドルはプロのアイドルではないのだから、プロのアイドルのマネをしていればいい」

 「誰もマネできないパフォーマンスをスクールアイドルがしてどうするんですか。夢を見させるんじゃなくて、夢を諦めさせるようなマネをスクールアイドルがしてはいけない」

 

 と、あんたらクビと言われる覚悟でツバサと一緒になって言ったら、理事長も「スクールアイドルはプロのアイドルではなかった」と、自分の不備を認め、契約上プロの方々の指導はある程度の日数続けられるけれども、その後の指導はニコに任せてくれると約束してくれた。

 

「興味があるんだけど……絵里ちゃんが言った、夢を見させるんじゃなくて、夢を諦めさせるようなマネってどういうこと?」

「ラブライブ予選決勝、パフォーマンスの実力で言うならば、A-RISEが優勝してしかるべきでした。それでもμ'sが優勝したのは、A-RISEと遜色のないパフォーマンスを披露できたのと……A-RISEは芸能界もアイドルとしてスカウトが来るほど並外れた実力の持ち主、ステージを見てこんなふうにはなれないって諦めてしまう子もいるんですよ、スクールアイドルって……誰がしてもいいものだから、誰かが諦めてしまうようなとんでもないパフォーマンスは……やっぱりそういうのは、スクールアイドルじゃないなって気がするんですよ」

 

 おそらくプロの指導の結果、ある程度、実力を発揮し始めたスクールアイドル部の皆様と違って、優木せつ菜が評価されるのは――スクールアイドルっていうのが、アイドルとは違うんだって……そういう意思表示みたいなものかなって。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。