とっても仲のいい、果林ちゃんとエマちゃんの両者だけれど。
些細なことから関係が一時的に悪化したことがある。
その騒動の発端は「トンボって美味しそうじゃない?」と、テレビで昆虫の特集を眺めていた果林ちゃんの一言だった。
とある俳優さんがカマキリに扮して昆虫がすごいって言ってる番組は、なんとなくチャンネルを回していたら、栞子ちゃんが「この番組は面白いべ」と教えてくれたのだ。
すっかり管理人の右腕としての立場が板についてきた――基本的に食事の際の左隣は固定されてないのに、右隣は必ず栞子ちゃんが座っている。
「管理人の右腕として、わだすも絵里さんから学ぶとこいっぱいだから!」と、彼女は元気いっぱいの笑顔で答えてくれるけれども。
ただ、「こいつから学ぶことなんてあるの?」と箸で私を差したツバサに言われ「それはもうたくさん!」と具体的な返答はなかった。
「ふぅん」と面白い発言を聞いたとばかりにツバサはつぶやき「たくさんねぇ」と首を傾げながら、先程まで殴り合いのケンカをしていた理亞ちゃんの顔を眺め。
「あなたには謙虚さと理解力がないわね」とナチュラルに喧嘩を売る発言をし「あン?」と威嚇する声をあげられてた。
その声があんまりにも低くて獰猛な獣のようだったので、食事の際のケンカ禁止が改めて規約として設けられるようになった。
さて、トンボの話に戻る。
カマキリの先生の授業を眺めながら、果林ちゃんはごまかすように咳払いし「甲殻類と似た感じになるんじゃないかしら」と「トンボは美味しい」の理論強化に取り組む。
すっかり昆虫メニューに慣れきってしまった我々も「確かめもせずに否定は良くない」とし「では捕まえて確かめてみよう」
足腰強化の名目で山の中に入ったものの、途中で「トンボって今の季節に飛んでるの?」と彼方ちゃんがつぶやき、果林ちゃんの動きが一時停止した。
ハイキングというよりも登山と呼ぶにふさわしい山中で、同好会一同が動きが急停止、まるで果林ちゃんの動きに習ったかのよう。
ミアちゃんへ「んなで山に入るんは自殺行為とよ!」と地元の言葉でダメ出しをしたり、ランジュちゃんに「山は頂上に登ったときの景色が格別で」とマウントを取っていた。
私、ツバサ、理亞の大人組は当然「そもそもトンボは山の上じゃなくて水辺にいる」「頂上に登る必要はない」と気がついていた。
なお「トンボは寒くなければだいたい飛んでる」ので、ここで果林ちゃんが「一年中いるわ」と反応していればよかったけど、彼女の中でも秋のイメージがあったのか。
「山頂は気温が低いからトンボもいる」と言うので、エマちゃんに「嘘はだめだよ~」と窘められていた。
実際にそう、との知識があったのではなく、エマちゃんは果林ちゃんの感情の動きを読み取っての指摘だった――まるで夫婦のようと、栞子ちゃんたちが言ったけれど、私もそう思う。
かくいうこともあり、トンボは筋肉痛のみなさまへ神からの贈り物として届けられ、実物のあまりの大きさにエマちゃんが悲鳴を上げ「なんでこんなものを意気揚々と食べるの!」とイタリア語で果林ちゃんに言い放ち、何を言ってるのかは分からないけれど、悪いことを言われたと感じ取った果林ちゃんは「エマにはわからないのよ」と応え、トンボ騒動は両者のすれ違いを生んだ。
なお、その一時的なすれ違いは数時間で解決し、そこからさらに関係性を深めた結果が「部と同好会で合宿か、私は部外者だから遠慮しておく」と言っていた果林ちゃんを「え? 綺羅雪菜クンも部のメンバーだから参加する?」「女の子だけじゃないの?」「合宿所は自然豊かな山奥?」と発言させ、部外者のお姉さんは「なら私も参加するしかないわね」としてしまった。
バスで相席したかすみちゃんに「部外者のお姉さんがなんでこんなところにいるんですか」と煽られ、余裕の笑みを浮かべて流すかと思いきや「そうよね、私が同好会に参加したら、かすみちゃんの可愛さが霞むものね」と、煽り返した。
が、彼女の目はかすみちゃんの方向をまったく観ておらず、どうやら自然豊かな場所に行けるのがよほど嬉しかった様子で。
「部外者のお姉さん、メロン食べますか?」と言っても「そうよね、私がメロンを食べたらかすみちゃんの可愛さが霞むものね」と要領を得ない発言をし「このお姉さん何も考えてない」と気がついたかすみちゃんが「部外者のお姉さんはエマ先輩が好きですか?」と言い、近くにいたしずくちゃんは耳をダンボにし、おしゃべりに盛り上がっていた同好会および部の面々も一時的に静かになる。
「さて……どうかしらね?」
と、果林ちゃんはかすみちゃんの方を見て答えを述べ、余裕の笑みを称えながら、問いかけた相手を試すような挑戦的な表情をしつつ、さらには「私がエマを好きだったら、かすみちゃんが困る?」と話は思わぬ方向へと導かれた。
今まで山のことしか考えてなかったのに、エマと言われた瞬間に意識を現実へと向かわせるんだから、答えは明白だったけれども。
さすがにそこまでの感情の機微は読み取れなかったのか、かすみちゃんは「しず子ぉ~」と親友に助けを求め、会話はそれ以上進展することはなかった。
なお――もう片方の部外者のお姉さんである西木野真姫は今の会話を聞きながら「なるほどね、余裕のあるお姉さんキャラはこうするのか」と、10近く年下の女の子から演技のコツを掴んでいた。
演劇を嗜んでいる桜坂しずくちゃんから「すみません、まったく存じ上げないです」と言われ「全盛期は数年前だものね」と凹む。
どちらが絢瀬絵里の隣になるかで喧嘩していたツバサと理亞ちゃんが「どうぞ隣になってください」と言ってしまうほどで、演技かなってチラッと思ったけど、声優西木野真姫としての評判を知らないと言われたことはガチでショックだったらしい。
普段なら下ネタのひとつやふたつを交えたトークをするのに、妹の雪姫ちゃんには発声や演技のコツをプロとしての立場からわかりやすく教え、それを観た子からアドバイスを求められれば本気で応じる。
そのおかげか「ちょっと成長できたみたいです」と中川モードのせつ菜ちゃんは喜び、真姫がアドバイスしちゃうので手持ち無沙汰になってた絢瀬絵里は料理に取り組む他無かった。
や、トップアイドルのツバサやそれに匹敵する才能を誇る理亞ちゃんが「西木野真姫には負けてられない」とばかりにアドバイスしたら、寮の管理人は料理作るくらいしかできないし……。