きっかけの起こりは「絵里ってことりさんのマネできるよね?」という、ツバサの無茶振りだった。
優木せつ菜の食事場への潜入は「あなたのための合宿なんだから」と練習に集中させることで回避したものの、綺羅雪菜の食堂への潜入回避はツバサに頼むしかなかった。
部の中では能力はからっきしなのに、彼は人気を抜群に保っており、コメントでは「かわいい」「かわいい」と連呼されている。
性別を公開しているため「だが男だ」的なコメントがされるけれども「だがそれがいい」と返答されるのが約束になっている。
ニコにこの異常現象の原因を尋ねてみたら、彼女は苦笑いしながら「まずはパフォーマンスを観られないと話にならないから」と言い、自分たちの時代とは違ってスクールアイドルも増えたと前置きし「どんなにすごいスクールアイドルでも、そもそも動画をクリックしてもらわないといけないのよ」と。
つまり、どれほどスクールアイドル部の他の皆様が綺羅雪菜よりもすごいよ、と訴えたところで、その凄さはファンの皆様に動画を観てもらわないとしょうがない。
有名子役の雪姫ちゃんがその部分を伏して、人気がパッとしない以上、動画を観てもらうには恐ろしく高いハードルがあるのだな、と察した。
彼がセンターとして適切かどうかは分からないけれども、仮にスクールアイドル部でパフォーマンスを今後続けていくのなら、センターは綺羅雪菜固定になるんじゃないか。
よもや理事長がそこまで考えて彼を入学させたのなら、先見の明がありすぎたけれども、本来部で活躍させたかった娘には「栞子と一緒がいい」と突っぱねられているので、一つうまいことが行けば一つうまくいかないことがあり、何もかんも上手くはいかないんだなと思う。
さて、そんな彼だけども肩身の狭さは感じているようで、せめて料理をして気晴らしをと言われれば、私も「そうよね……」と情をかけてしまいそうになる。
なるけれども、彼に料理をさせれば食べた人間が歓声ではなく、悲鳴を上げてしまう劇物が完成し、練習どころではなくなる。
が、実力と人気の落差を感じている彼に、コレ以上練習をとなれば、オーバーワークにもなりかねない。
そこで絢瀬絵里は「お姉さんの相手をして、プロのワザを盗んできて」と指示し、ツバサに「後でなんでも言うことを聞くから」と重ねて伝えておくように言った。
どのような酷い無茶振りがなされるかと思いきや、みんなの前で「南ことりのマネをしろや」で済まされた。
「ありがとうツバサ、弟さんとデートできてよかったわね」と心のなかで感謝の言葉を申し上げつつ、それなのに、なんとなく憤りを覚える何かも感じつつ、南ことりからタコ殴りにあう原因を作ったぶる〜べりぃ♥とれいんを彼女のマネをしながら歌いきった。
寮でたびたび披露する機会があり、寮生からすれば物珍しいものではないイベントも、自宅通学のしずくちゃん、かすみちゃん――特に前者の演劇を嗜むお嬢様はえらく感服した様子で「素晴らしいです! どのようにしたらそんな事ができるんですか!?」と顔を近づけて迫ってきた。
ツバサの「しずくちゃんが盛り上がるから、色々質問させて絵里を困らせてやろう」との魂胆はものの見事にハマり、微妙に真面目一辺倒だった真姫も「チュンなぁ」と言いながらちゃっかりモノマネを披露し、しずくちゃんからツバサ共々距離を取りつつ、私のことを観ながら笑っていた――ここで、このイベントが終わればよかった。
「南ことりさんのマネなら私も」と理亞ちゃんが言い、実力と人気が釣り合ってないコトで彼女からいじられていた雪菜氏がココぞとばかりに「無理なさらないでください」と逆襲しようとした。
ツバサも私も、雪菜クンへの当たりの強さを把握していたから、どちらかが悪くなるまでは様子見を保ち、同好会および部のみんなも中立を保って会話を聞く姿勢を持った。
「理亞さんにやらせるくらいならば私が」と雪菜氏が言い、会話を注視する一同は「女の子と言われても遜色のない声と言われても性別が違うから」と彼がドツボにハマるコースを先読みしたものの。
雪菜クンは「南ことりというより優木あんじゅに激似」の声色で「ことりのモノマネ」を披露し、皆々の度肝を抜いた。
その声を聞いたしずくお嬢様も感服したようにため息を漏らし憧れの視線を向け、かすみちゃんがすかさず「戻ってこーい!」と頬をひっぱたいていた。
その反応は正解だ、桜坂家の皆様にも「合宿と聞き及んでいましたが、男性がいるとか」「もしもキズモノになるようなら」と、バタフライナイフ片手に言われた絢瀬絵里としては(ツバサ・真姫も同席)
些細なきっかけから恋心へと発展し、若さに任せてなんて事態になれば、おそらく合宿から無事に帰っては来られまいと。
お嬢様もチョンボに気がついたのか「そ、そうよね、男性相手にそのようにするのははしたない」と言い、男性が女性と遜色のない可愛らしい声を出したと気が付き――かなりドツボコースに至ったのではないかと、大人組は背筋が凍った。
「ふふん、姉さまがされるルビィのモノマネに比べたらなんてこともない」
聖良ちゃんがストレスを溜めると「ルビィさんごっこ」なる遊びをする、ついその現場に絢瀬絵里とダイヤちゃんが遭遇してしまい、ごっこは封印の危機に至った。
が「そういうのを決めるのはルビィ」とダイヤちゃんが言い、聖良ちゃんも「彼女にダメだと言われたら潔く」と頭を下げる。
おそらく誰しもが「許可なんて取れるわけない」と考えていたのに、ルビィちゃんは「別にいいですよ」とあっけらかんと言ってみせ「聖良さんのその姿はとっても可愛いので、もっとやってほしいです」と、さらに付け加えられてしまい、マネージャーとして同席していた花陽や、イベントのきっかけを作った私、ダイヤちゃんの度肝を抜いた。
かくして理亞ちゃんの前でもルビィさんごっこは披露されるにいたり、Aqoursのメンバーからは「アリといえばアリ」と微妙な評価を受けつつも、ルビィちゃんからは「それでアイドルをやってほしいです」と願われているけれど……まあ、そんな未来は永遠に訪れまい。
「私がやるルビィのマネも、姉さまからあんまりに可愛いから他の子には見せてはなりませんと言われてるし」
「お?」と私は首をひねり、真姫も「ん?」みたいな表情をして、カナちゃんも「ん~?」と。
シスコンが揃って「姉が妹のやることにストップを掛ける」違和感を覚え、ツバサが先んじて耳を塞いだ――結果的にその卓越した勘により、彼女だけが猛獣の嘶きにおびえてうなされる夢を回避し、私としては、その能力を分けてくんないかな、と願うことに。
「雪菜ちゃん! がんばルビィ!」
とんでもない声が聞こえた、一瞬人間が発したものではないと錯覚するに至った、猛獣の鳴き声的な低いダミ声が、理亞ちゃんの類まれなる声量で発せられ、近くにいた雪菜クンは一発で昏倒し、離れていた我々も一部の面々が昏倒してしまう。
しずくちゃんも声を聞くのに集中したせいで意識が飛び、ミアちゃんと栞子ちゃんはランジュちゃんに寄り添うように倒れ、阿鼻叫喚の騒ぎになってしまったけれども、その原因を作った理亞ちゃんだけが「あまりの可愛さに倒れてしまった」と解釈。
繰り返すけれども、悪夢にうなされた面々の睡眠不足から、練習は短く効果的に、が叫ばれた。
そしてこの、短く効果的に、少人数で集中となった結果、桜坂しずくちゃんが西木野真姫にアドバイスを求めてしまったのは、私は悪くないのだと桜坂家の皆様に主張するつもり。