前置きが長くなったけど、この場にいるメンバーを推測してくれたと思う。
私に軒先を貸してくれそうな(果たしてタワーマンションの軒先とは一体どこだろうか)ツバサと、話し合いの現場を提供してくれた梨子ちゃん。
先んじて梨子ちゃんには「何日間かただ働きしてくれたら」と言われ「考えさせてください」と応じた。
友人連中に声をかけ、誰一人私の状況を不憫に思わず軒先を貸してくれなかったら、梨子ちゃんの奴隷となる所存。
三食をまかなう貯金はある。
働いた結果「仕方ない、彼女にお給料をあげよう」となるまで保てば幸い。
「なるほどね、亜里沙さんのために放浪か」
笑われるかと思いきや、馬鹿にするでもなく理解を示してくれた。
梨子ちゃんには「バカなんですか」と、言われたけれども、一言だけでお小言は終了。
彼女が先んじて馬鹿にしたから、ツバサの追撃がなかったと思えば、梨子ちゃんの優しさを理解して頂けるかと。
回りくどいのでは? と、おっしゃる方もいるかもしれない――とても残念なことに、私もそう思う。
「私物を売り払っているかと思えば、そんな事情か」
放浪生活において生活資金と考えた私は、ダイヤちゃんに「私物を売りたいんだけど」とアドバイスを求めた。
「言い値で支払いますわ」と言われたけれども、世界でトップのサッカー選手の年俸を言ったら「それくらいでいいんですか?」と返答され恐ろしくなる。
もしも「それくらいでいい」と言ったら、ツバサの隣室に引っ越したかも。
元A-RISEの二人からは何度も「綺羅ツバサの面倒を見なさい」と命令されたから。
ダイヤちゃんから「オークションでも開いたらいかがですか」と言われたので「それは面白そう」と考えた私は、早速メッセージアプリで「私物を売り払うので、一口1000円からご参加ください」と知人にメッセージを飛ばした。
誰一人反応がないと思いきや、真姫から「下着も売りさばくの?」と返信され、成人向けゲームに出演しているから、冗談半分で「下ネタ」を言ったと察し「使用済みだから高めで」と。
そんなものいるかと、各人からお叱りを受けると思えば。
真姫から「言い値で支払う」と反応がされ「ダイヤちゃんと通じてる」と判断し「メッシのお給料くらい支払ったらプレゼントする」
と、絶対に冗談だと気が付くはず。
いくら真姫が私にある程度好意的だからとはいえ、μ'sの他のメンバーとさして変わるわけじゃない。
だから返答としては「メッシの年俸と同じだけの価値が、あなたの下着にあるわけないでしょ」と。
冷静なツッコミは来ず「借金をすれば何とかなる」と、ガチめいた返答が来て、冗談なんだろうかと考えているさなか。
海未から「分かりました、貯金がありますので支払います」とメッセージが届いた。
海未は大学へと進学し、穂乃果とウキウキなキャンパスライフを送ったらしい――ことりはデザインの道に進むため留学をしたので、幼なじみの未来は少しだけ分かれた。
なんたら女学院のパリ校で素晴らしい成績を残してしばらく、ことりは日本に帰る。
でも、高校時代のピュアピュアさが消失していた――何でも口の悪い友人の影響だとか。
海未の話に戻るけど、大学生活を送る傍ら「作詞活動を始めた」
アルバイトと同じくらい稼げればと言っていたし、私も「小銭稼ぎぐらいしかできないんじゃない?」と笑いながら言って、もしも困ったら自分が頑張ることに決めていた。
――が、とんでもない稼ぎを海未は片手間の作詞活動で入手。
現在、園田道場で弟子に指導する一方、有名人の楽曲の作詞として名声がある。
大金を絢瀬絵里の下着に提供できるのだから、貯金は日本の国家予算ほどあるのかも。
少々話がずれてしまったけど、高給取りの物品買い占めが問題となり、限度額が設えられ――絢瀬絵里の私物は皆様に買い叩かれ――ただ、想定以上の利益を確保。
真姫や海未には「機会があったら」と第二弾の開催を迫ってくる――軒先を貸してと言えば「それくらいなら」との返事も期待大かな。
先約のツバサを優先したけれども、すげなく断られてしまえば、かれこれと事情を説明して、雨露をしのぐ場所を紹介してもらいたく。
少なくとも世界のトッププレイヤーの年俸よりは負担が少なくて済むはず。
代わりに下着をよこせと言われればまた考える。
「なるほどね、私に断られたら他のメンバーを頼る……か」
「背に腹は代えられないので、一番に頼んだってことで友情の印としていただきたく」
アテがあるなら「だったらその人たちに頼めば?」と、反応残すのは当然。
恩着せがましく「一番に頼んだ」と言ったけど、あんじゅや英玲奈から彼女の面倒を見るように頼まれたのも、一番にした要因である。
その前から「頼むならツバサかな」と考えていたので、どちらにせよ最初に頼むのはツバサ、ってことに。
「別に広い家だから、一部分を提供するくらい構わないけど」
「ありがとうございます」
「条件があるわ」
梨子ちゃんが酒を提供しつつ「うわぁ」と言いたげな表情を浮かべる。
「とんでもないこと言われるんだろうな」「ご愁傷さま」と顔に書いてあるのが悲しい。
考えれば、表情から思考が分かるほどの付き合いか。
「九人組のスクールアイドルがいるから観に行こう」と誘われてからの付き合いなので、6年ほど交流を続けている。
もっとも、梨子ちゃんはオトノキからの転入生ってことで、同じ高校の先輩がヤキを入れに来たと勘違いされてしまった。
さらに、μ'sのメンバーなので千歌ちゃんたちが恐縮しまい、酒を酌み交わす関係になるとは予測もしなかった。
何が起こるかわからないと言うけれども、わからなすぎでは? と神様にクレームを申し付けたい。
申しつけても、取るに足らないとスルーされて終わるか。
「家庭教師を頼みたい」
「ん? 家庭教師は必要な知り合いがいるの?」
「今まで言ったことなかったけど、私には弟がいてね」
綺羅ツバサときたら、A-RISEのリーダーとしてμ'sとラブライブ出場争い、そこで敗北したというのが「人生初の敗北」だった。
何をやってもうまく行くと言っているし、私も「本当のことなんじゃないか」と思ってしまう。
優秀な姉を持った故か、弟さんは大変だったようで、すこしズレた生き方をされてるとか。
「ズレたってどういうこと?」
ズレなるものがどういうものか尋ねておきたい。
筋骨隆々のマッチョマンが出てきて、あとはよろしくと言われても「よろしくできない」
何を是正すればの話になっちゃう。
言えばツバサも「筋骨隆々ではないけど、よろしくできない場合もある」と、苦笑いしながら、弟さんについて話し始めた。
かなり流暢な感じで弟さんのプライベートを交えた話をする。
もしかするのではないかと考えたけど、彼女がブラコンというと、心の中に嫌気がさすので断定はしないでおく。
「可愛い格好をさせていたら、ついに自分から女装するようになってね」
「……」
梨子ちゃんと顔を突き合わせながら「ズレたのはツバサのせいでは」と考えたけれど、ここで反応をして「軒先を貸してやらない」と言われると困る。
「とりあえず目的は聞いておきましょうか」
「そうね、虹ヶ咲学園の入学――」
「……受験まであと何日だっけ」
「二週間あれば十分でしょ」
新年明けてしばらく「恋人ができた」と、妹に告白をされ、あれよあれよという間に引っ越しの準備を終わらせ、恋人さんが女の子と見紛うばかりの可愛らしさで固まる。
それでも姉として立派に挨拶が出来たと思っている――
軒先を借りられれば平穏と考えたのに、女装癖のある男の娘を二週間で高校に入学できるレベルに指導せねばならない。
「ま、何とか頑張ってみますか、これからよろしく」
「交渉成立ね、梨子さん」
「はい?」
「お代は色をつけておくから、わかっているわね?」
「……色をつけてくれた値段次第ですかね」
梨子ちゃんが両手をパーにしてツバサに見せると、彼女は「その二倍」と、よくわからない言葉をつぶやく。
が、梨子ちゃんはうれしそうな表情で「ありがとう絵里ちゃん」と言ったから「どういたしまして?」と首を傾げながら応じた。