今回、虹ヶ咲学園のスクールアイドルの中でステージに立つメンバーを選抜させて頂いた。
寮の管理人である私に発言権などあるわけがないと思いつつ、差し入れや飲み物を馬車馬の如く会議する面々の前に配ったりなんだり。
私よりも権力のある皆様が、ああでもないこうでもないと論争をする中で「誰に決まろうが反論、賛美どちらもあるから大変だ」と考えていたのが良くなかったのか。
ランジュちゃんのステージを見たい理事長が疲れたようにため息をつきながら「絵里ちゃんだったらどうする?」とか言うので、ツバサや理亞ちゃんの「優木せつ菜を目立たせるために、パフォーマンスの方向性が違うメンバーを選抜すべき」と言われてにっちもさっちも行かなくなったなと独り合点。
パフォーマンスのレベルからすれば優木せつ菜に劣るランジュちゃんも、一年生メンバーの中で別格の能力の持ち主、それに、ステージに立てば燃えるような熱いパワーで血を沸き立たせるようなライブをする。
トリでステージに立つ優木せつ菜とほぼ同じ方面のパフォーマンス故に、可哀想だけれど彼女は選抜から外すべきと、ツバサと理亞ちゃんの主張は道理にかなっている。
が、理事長から「ランジュの実力ならメンバーに入って当然」「選抜されなかったときの精神的ダメージが心配」と言われ、ツバサがぐっ、石につまずいたように言葉に詰まる。
スクールアイドル部のコーチのツバサとは言え、寮で生活をともにし、同好会のメンバーの練習もなんやかんや言いながら眺めている。
控えめで自己主張は少ないけれども、その実熱いものを胸に秘めていて、ステージの方向性は両極端なのに親友同士と認めあうエマちゃんと性格がよく似ている。
エマちゃんは小さい弟妹のお姉ちゃんなので、譲るべき状況になれば譲っても構わない性格だけれども、ランジュちゃんは理事長から死ぬほど甘やかされて育ってきたので「実力なら私のほうが上なのにどうして」と考える可能性は大いにある。
それに、ステージの方向性が優木せつ菜とかぶるからパフォーマンスするのを譲ってくれと言えば「出来レースじゃない」と、私だって考えるだろうし、ツバサも実力不足でステージができないのなら……と考えているに違いない。
そして、まかり間違って優木せつ菜と方向性が違うから、ミアちゃんか栞子ちゃんを選ぼうとなれば、確実に不満は高まる。
三人が三人いつも一緒にいるなと思うほど仲良しだけれども、実力差は明白。ランジュちゃんが2歩も3歩もリードしていて、栞子ちゃんたちは追いつける気配がない。
友情に亀裂を走らせてまで、優木せつ菜のために最高のステージを、となれば、トリにパフォーマンスに臨む彼女はプレッシャーでとんでもないことになる。
乗り越えられれば御の字だけれども、万が一失敗をしようものならば、よしんばご両親に認められても彼女自身がスクールアイドルをやめてしまうかも知れない。
それに、優木せつ菜は優木せつ菜としてステージに立たなければパフォーマンスのレベルは大いに低下する。
いわば、中川菜々の憧れの「優木せつ菜」になりきることによって、最高のステージを披露するわけで、そこに「絶対に成功させなければならないプレッシャー」や「出番を譲ってくれたみんなのためにも頑張らなければ」と考え、理想のアイドル「優木せつ菜」に集中できなかったら。
さすればご両親を納得させることは難しく、スクールアイドル引退への道のりが極まるかも知れない。
「なら、ランジュちゃんを一番最初にして、トリをせつ菜ちゃんにすればいいじゃない」
「それは名案ね!」
三人の声がハモった、明らかに狙いすましたタイミングだった、結論として彼女たちの頭に浮かんでいたんだろう――では、何を躊躇っていたのか。
「じゃあ、みんなを納得させる説明は全部あなたに任せるわね?」
ツバサにウインクされながら言われ、選考となれば当然「合格と不合格」があり、喜びと悲しみ、どちらも言い伝える人間が責任を持つことになる。
理事長からすれば「娘の友だち二人に落選を伝えて恨み節を聞くのが嫌」だろうし、ツバサも「そういうの慣れてないから、そこらへんは人任せにしたい」だろうし、理亞ちゃんも「ニコさんが欠席なのに後輩の自分が好き勝手できないし」と。
あ、ニコはべつにおサボりではなく、私達が話し合う間、同好会や部のメンバーの合同練習の様子を見てくれている。
自分もそっちをリクエストすればよかった、つい「同好会の子は素直に自分を慕ってくれて嬉しい」とか言うから「ニコに任せるわね!」と見栄を張ってしまった。
「……納得してもらえなかったら、助けてよね?」
各人に恨みがましい目を向けつつ、できるだけやってみると、ため息をつきながら言い、ニヨニヨとした笑みを浮かべる面々には一言二言恨み節を言いたかったけれども。
私は早速同好会や部のみんなが練習に取り組んでいる場所へと赴き、なぜかニコと一緒になって練習を見守っている部外者のお姉さん(読者モデル)に挨拶をしつつ、ヒーコラ言っているみんなに次のステージのスケジュールを発表した。
一年生組ではランジュちゃんともうひとり、私の独断でメンバーを追加させて頂いた「綺羅雪菜クン、あなたにもステージに立ってもらうわ」
私の発言は皆様から「え?」みたいに反応され。
言われた当人でさえ「私ですか?」と首をひねっている。
「あなたは昔、あんじゅに憧れていたそうね」
「え、ええ、優木のおうちは綺羅家の使用人を努めてますので、同じ家で一緒にあんじゅさんも暮らしてましたから」
彼も技術や能力が向上すればスクールアイドル部のセンターを担っても問題はない。
だけども、その彼の並外れた可愛さにもう一つポイントを付け加えておきたい――と言っても、このアドバイスをくれたのは真姫なので、もしも彼のレベルが上ったら、感謝は真姫に言ってほしい。
「ツバサから聞いたけれども、お風呂に一緒に入ったそうね?」
「……」
しずくお嬢様が「時折思い出して夜な夜な」と言い、人差し指と中指の間に親指を挟む謎のグー(遠い目)をしながらガッツポーズを作る。
彼の思わぬ特技で一時的に好感度が上がったものの、真姫との交遊ですべて上書きされ――上書きされたけれども、発言の品位は大いに低下されて桜坂家の皆様から絢瀬絵里は恨まれている。
や、西木野家もお嬢様だし、綺羅家も名家なので、気軽に恨めるのは私だけだったってオチがね? まあ、二人に恨み節を向けられるくらいなら私が引き受けるから良いんだけどさ……。
「あなたの特技、幼いころの憧れ……あなたは今度、優木あんじゅになりきってステージに立つのよ!」
ビシっと指差す私に同好会や部の皆様は冷たい視線を向けたけれども、なんとか選考の悲喜こもごもからは目を背けることに成功した様子。
繰り返すけれども、ジャンプアップに成功したら「これは真姫のアドバイス」と吹聴するつもりだ、失敗したら私の独断ってことにしておく。