ツバサが栞子ちゃんにアドバイスを送るために――実は同好会の面々は本日オフになっていた。
何をしているのかと言えば、主だった面々は彼方ちゃんのバイト先に顔を出している。
〇〇ってスーパーで働いていると言われて、絢瀬絵里は「ほげっ」みたいな声を上げてしまったけど。
理由は、桜内梨子ちゃんが店長さんしているスナックが身内でいっぱいになるイベントを思い出して頂きたく。
閉店間際に駆け込んでは食材を買い漁っていたスーパーの名前であり、時間帯がかち合わず全身全霊で買い物をしていく金髪ポニーテールの姿はカナちゃんに目撃はされてないけれども。
在庫を処理してくれる集団は彼女も聞き及んでおり「世間は狭いねえ」とコメントされた。
ちなみに、綺羅ツバサを中心としたよく食べる面々の出席がなくなったおかげで、常軌を逸した買い込みは最近なされない模様、私も駆り出されていないし。
さて、なぜ私とも縁のあるスーパーに遊びに行ったかと言うと、元のきっかけはスクールアイドル部の綺羅雪菜氏。
彼がパソコンを猫背でにらめっこしているので、何をしているのかと私が声をかけたら、慌てて画面を閉じ、その模様を目撃した桜坂しずくさんに「スケベ画像を見ていましたね!」と揶揄を入れられた。
彼はしどろもどろになりながらも「近くのスーパーで最近売出し中のアイドルの来店があるんで観ていました!」と語り、たまたま寮にいた彼方ちゃんが「そこは自分のバイト先」「イベントの手伝いがあるからその日は部活をお休みするよ」と言われ「よろしくね絵里ちゃん」とも続けられたけれども、私はべつに部活の顧問ではない。
雪菜氏が「その日は私も部活を休んでイベントに行きたい」というので、同好会は面倒を見ている関係でコメントできるけれども、部に関しては矢澤にこが顧問扱いされているので「にこに言って」と言ったら「そこをなんとか」と彼は頑なまでに続ける。
なにか言いたげなカナちゃんを観て「男性だから色々事情はあるでしょう」と察した私は「わかった、ニコに言っておく」と雪菜クンのお願いを聞き、時間経過後にニコに声をかけたら「ドコのイベント?」と問われた。
べつに隠しておく必要はないと思ったので「彼方ちゃんのバイト先」「梨子ちゃんのスナックの近く」と言ったら「だったら不許可」と言うので、彼が期待を込めていきたいと言っていたのも手伝い「そこをなんとか」と食い下がった。
珍しく私がお願いしたのも功を奏したのか「だったら、何人か連れて監督付きで」と条件を出してもらい「希望者を連れて私が監督する」事になった。
それを雪菜クンに伝えたところ、彼は喜びのあまりに勢いよく私に抱きつき、ありがとうございますと上目遣いをしながら何度も言うので「よほど嬉しかったのだな」と私は別に気にしていなかったけど。
近くにいたツバサ、海未、理亞ちゃんの三名はなんと表記をして良いのか分からない叫び声を上げ、私から雪菜クンを引き離すと一緒に「監督するのなら自分が!」と声を上げる。
部と関わりのないただの友人の園田海未には「ミアちゃんの面倒をよろしく」と言って諦めさせ、ツバサは「そう言えば用事があった」と辞退し、結果的に鹿角理亞が監督し、雪菜クンと同好会の希望者がカナちゃんのバイト先に顔を出すことになっている。
ニコは死ぬほど嫌そうな顔をしたけれども「まあ、条件を出したのは私だから」と、なんとも気になる表現をして、それ以上は何を言うわけでもなく。
バイト先に行く前には、しずくちゃんも「すっごいドスケベなアイドルが来るそうですよ!」と興奮したまま言い、ああ、だから雪菜クンは行きたがったのか、と思うのと同時に、ニコはそういうアイドルが来る場所に高校生が赴くことに抵抗があったのだな、と。
が、カナちゃんのバイト先に「ドスケベなアイドル」が来るのは解せない。
黒澤家と縁が増えたとは言え、いたってフツウのスーパーだ、ユニフォームだってドスケベではない。
そして、岐阜県産の牛肉を宣伝するというのに、どう「ドスケベなアイドル」が関連するのかもわからない。
わからないコトだらけだけども、しずくちゃんは大興奮のままでかすみちゃんに「ミルクちゃんというのはね」とベラベラと語っているのを観て、楽しそうだから良いかと思った。
理亞ちゃんに「理事長からお小遣い」とお買い物代を渡し、必要以上に羽目を外すことのないようと声をかけ「小さな子どもではないんですから」と唇を尖らせられ、そういえばそうだなと。
彼女と同じ年のルビィちゃんはローカルアイドルを始め、よっちゃんもアイドルを始め……マルちゃんは近々伺いますとメッセージをくれたので、そのときに現状を伺おうと思う。
みんな社会に羽ばたいているのだから、そんな年の女性に私がアレコレ言うのは間違っている。
潔く不備を認め「なにかリクエストは」と言ったら「頭をなでてほしいです」と言われて「小さな子どもではないとは?」と思いつつも了承。
――うん、現実逃避に過去のことを思い出してしまったけど、制服を身に着けて校内を闊歩するのはマジで恥ずかしい。
部活に赴く途中の生徒や、帰宅を急ぐ生徒がマジマジと私を眺めている――そりゃそうだ、もうすぐ30になろうかっていうアラサーが自身と同じ制服を着て、構内を歩いているのだ、誰だって見る。
いわば、ゴリラが制服を身に着けているようなもので、ゴリラが制服を身に着けて歩いていれば珍事である。
ゴリラが制服を着ていれば、私だって「なんだなんだ」と目を向けるのは間違いないし、マスコミに模様が提供されれば「珍事」としてお茶の間を騒がせるのも間違いがない。
理事長もなんだってこんな罰ゲームに許可を出してくれたのか「絵里さんとならチューしても良い」とランジュちゃんに言われてしまったのがいけなかったのか。
「理事長にバレたら嫌だなあ」と思っていたけど、人の口に戸は立てられないせいで、瞬く間もなく伝聞され、耳にした理事長は持っていた鉄製の扇子をへし折ったそうだけども、私にはその残骸が届けられただけで実害があるわけじゃない。
顔を合わせたときにちょっと恨みがましい目をされただけで終わったし。
あのイベントの意趣返しなら優しいものだ、鉄製の扇子を曲げたとかじゃなく、へし折ったんだから、絢瀬絵里の首の骨なんぞいとも簡単にへし折れるに違いないし。
さすがに首の骨が折れれば私は死ぬでしょう、死ななかったら一号と二号に仮面ライダーに改造されているはず。
――変身!ブイスリャー!
「ともあれ、服飾同好会に顔を出せば罰ゲームは終わる」
が、校内がめっちゃ広い――UTXで迷った私が迷わない道理はなかった。歩く生徒にも声をかけられず「困った。笑うしか無い」と思いながら案内図を見つけ「天の助け!」とばかりに駆け寄り、服飾同好会を探していると、横から指が一本生えてきて。
「侑ちゃん、割り込んじゃ」
「あ、勢い余ってつい……ごめんなさい」
「いいえ、校内のモノを独り占めしている方が悪いの、さ、どうぞ、私はべつに急いでないから」
急いではいない。
服飾同好会には「南ことり」が顔を出しているそうなので、どうせなら部活動が終わるタイミングギリギリに顔を出したい所存。
それは急いではいないとは関係ない、ないったらない。
「ええと、スクールアイドル同好会……スクールアイドル同好会……」
聞き慣れた単語を口ずさむ彼女に「スクールアイドル同好会の部室には、今はスクールアイドル部のみんながいるわ」と声をかけ「もしかして優木せつ菜ちゃんのお友達ですか!?」と、めっちゃ目を輝かせて言われたけれども。
今の会話繋がってないよね? まあ、いいんだけども。
「優木せつ菜のファンなの?」
「ええ、ライブを見て完全にトキメいちゃいました!! 是非にも一目会って感謝の言葉を」
「……あなたも?」
「侑ちゃんのつきそいと言いますか」
案内をしても良いものか、スクールアイドル同好会と部が兼用している部室までなら、何度も行っているので問題はないケド……。
ただ、ファンだから、逢いたいから、の子を部室まで案内するのはさすがに憚られる。
だけれども、この、高坂穂乃果がいい思いつきをした時――みたいな目の輝きを持つ女の子に現実を押し付け、諦めさせてしまうのはしのびない。
そう……この子なら、ラブライブに出るわけでもない、知名度を上げてもさほど意味のない――そんなスクールアイドル同好会に新しい風を起こしてくれるんじゃないか。
勘――みたいなものだ、穂乃果みたいな目を持つ女の子だから、行動力が人並み外れていて、暴風を巻き起こし周囲を巻き込んでしまうんじゃないか。
その素質は感じられる――既に、なんともおとなしそうな幼なじみの女の子を有無も言わさずに巻き込んでいるところから。
ことりに「用事ができたので、用件があるなら後で寮に顔を出して」とメッセージを送り、ツバサにも「罰ゲーム完遂不可」と送り、両者から「後で覚えておけよ」と返信が来たけれども、それを観なかったことにして中川さんに「優木せつ菜化して部室にGO!」と続けた。
――そして部室まで案内し、ドアを開いて顔を出したら「年甲斐もなく何やってんのよ」とニコに言われ、そういえばニジガクの制服を自分は身につけていたんだと思いだした、アホ丸出しである。