アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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番外編 一番衝撃を受けたのはかすみんだった 覚醒編

 はじめてそのアイドルさんを目にしたとき、あんじゅさんを思いました。

 

 姉の幼なじみにして自分の初恋の相手でもありますが、優木あんじゅさんは、胸もたいへん豊かでいらっしゃって、母性溢れるスタイルでありましたが、性的、とは違います――や、幼少時の自分は、暴露の通りあんじゅさんとお風呂に入っておりましたが、気恥ずかしさが手伝って、あまり覚えていません。

 

 今となっては、姉の好感度を上げるために自分の世話を焼いていたとの裏事情も把握しているため、しずくさんに脇腹をヒジで突かれながら「もっとその辺の事情を聞かせてくださいよ」と言われても「さほどピュアピュアな思い出ではありません」としか。

 

 ええ、しずくさんもやらしいの天才を目指すとか、トチ狂ったことを言っておりますが、女性を性的に観た思い出とかには、ひとっつも興味を持っていないのは知っています。

 

 口からはとんでもない下ネタが飛び出すことがありますが、どうやら真姫さんを模しているだけのようで、興味があるのは相手を性的に見るよりも、好意から相手をどう見る、だそうで。

 

 距離を近づけるための手段が下ネタ、なのは「どうしてこうなった」としか言いようがありませんが、男女問わず、恋愛事情のネタを集めているのは、演劇やスクールアイドル活動に好影響を与えている模様です。

 

 演劇部の部長からも「人間観察が上手になった」とべた褒めされていて、主演に起用する話もあるとか。

 

 ――一度、かすみさんに「そういうのやめたほうが」とコメントされたときに「かすみさんも、本当に美しい女性の顔を見たら分かるよ」と言ったそうなので、理想のヒロインになるために頑張るみたいです。

 

「雪菜ちゃんはどうして女の子の格好をするようになったの?」

 

 なんとなく、ではあったのでしょう、エマさんが話題の種として私に話しかけてくれました。

 しずくさんの追究に困り顔だったのに助け舟を出してくれたのかもしれません。

 

「私の感覚からすると、女装っていう感じではないんですが」

「女の子の恰好なのに?」

「はい、理想……でしょうか? こうでありたい自分が、こう、であったまでで、女の子になろう、ってわけじゃありません」

 

 理想の姿がアーノルド・シュワルツェネッガーだったら、頑張ってそれを目指しただろうし、マジンガーZとかでも、じゃあ頑張ろうか、となったかも知れない。

 自分がそれを目指せるから、とか、ちやほやされたくて、とかじゃなくて、こうでありたい自分が優木あんじゅさんだったから、じゃあ、私はそれを目指そうとなったわけで。

 

「教えてくれなくてもいいけど、どうしてあんじゅさんを理想に?」

「そう……ですね、しずくさんと理由がかぶるかもしれませんが」

 

 思春期を迎え、綺麗なあんじゅさんを思い出したときに、彼女が美しく見える瞬間が姉を熱心に見つめていたときだと気が付き、初恋が姉が原因で終わるのは……まあ、お笑い草ではあるのですが。

 でも、恋が終わって残念っていうよりは、自分が目指す姿はアレだ、と思って、それはおそらく思春期特有の世間ずれみたいなもので。

 

「ステージの上で、あのときのあんじゅさんみたいになったら、私はすっごい歓声を受けるような……ただ、なんて言いますか、歓声って言うより、喜んでもらえるんじゃないかなと思うんです」

 

 エマさんがぽかんと口を開いたまま黙ってしまい、あまりに変なことを言って驚かせてしまったと反省していたら、果林さんに「良い考え方をしているわね」と頭を撫でられました。

 

「ステージではないけれど、ファンが喜ぶ理想の朝香果林をモデルとして目指しているから……エマはきっと、喜んでもらう姿ってのが、よく分かってなかったんじゃない?」

 

 このこの、と果林さんがエマさんを突く。

 絵里さんやツバサ姉からすると「果林ちゃんって子どもっぽい」そうなんですが、年上として彼女を観ていると、とてもそうは見えないです――

 

 

 

 

 彼方さんが働くスーパーは入場制限がかけられてしまうほど、男性客でごった返していた。

 地方のゆるキャラとか、おえらいさんが考えた変なマスコットが来店! みたいなときとは空気も熱量もまるで違う。

 

 売上には大いに貢献してくれそうだけれども、スーパーを活用しに来ただけのお客様からすれば「なんだこの状況は」なわけで、ミルクちゃんは今後呼ばれないんだろうなと。

 

「理事長からお金を頂いているけど、無駄にならないように」

「絵里ちゃんが活用できる食材を買えばいいよね」

 

 さすがはエマさん――絵里さんのことを「ちゃん付け」したときにもかなり度肝を抜かれたけれども、姉が「ちゃん付け」で呼ばれている原因になってるってのもびっくりした。

 

 遊びにいらっしゃるμ'sやAqoursのメンバーも許可が取れれば「ちゃん付け」になっていて、来校していない面々は「さん付け」で呼ぶ。

 

 なので、凛さんはちゃん付けで、花陽さんはさん付け、よっちゃんさんはちゃん付けで、花丸さん、ルビィさんはさん付けと、よく分からない状況にもなっている。

 

 今も、理亞さんが大人ぶりたい(絵里さんの評価を上げたい)場面を先んじて「こうすればいいよね」と物事はハッキリ言えとばかりに省略し、理亞さんはぶーと言いながら唇を尖らせ、果林さんから頭を撫でられている。

 

 絵里さんやツバサ姉を中心とした年上組からは、子どもみたいに扱われる果林さんだけど、理亞さんに対してはめっぽう強い。

 

 なんでも、かすみちゃんと似ているから扱いやすい、だそうで。

 

「袋代が有料だからエコバッグも持ってきたよ」

「理亞ちゃんは袋代が有料って知ってた?」

「ば、バカにしないで! スーパーの買物は遊びじゃない!」

 

 ニジガク三年生組にイジられ倒し、理亞さんも「ここはボケてオチを付けるしかない」と察したのか、アニメで使用されたセリフを披露――なお、当人はそんなこと言ったこと無い、だそうで。

 

 バク宙してくださいよとかすみさんに言われ「仕方ない」と、その場で宙返りしたときには、周囲の方々も思わず拍手を送った。

 抜群の身体能力を誇るので、ひと目を集めるのにまるで苦労しない。

 

 ただ、そんな理亞さんでも「絵里さんとツバサさんに追いつくのは難しい」とか言うので、二人が実は人間じゃない疑惑が私の中にある。

 

 や、武装した成人男性の集団を二人で返り討ちにして、Aqoursのメンバーを守りきったとか、明らかにおかしいですからね? 姉は武勇伝を語るように説明してくれましたが、聞いたメンバーみんなドン引きしてましたからね? 理事長なんて聞いている途中で正座しましたからね?

 

 

 ミルクちゃんが登場して、ドコから声を出しているのかっていうアニメ声で「はっきゅーん! みんなげんきかにゃー!」と叫び、岐阜県産の牛肉を宣伝しているさなか、理亞さんが「姉……さま……?」と呟き、エマさんが「姉さま?」と応じ、しずくさんが「そう言われてみれば、鹿角聖良さんに似ている?」と首を傾げた。

 

 が、私の知っている鹿角聖良さんは、露出度が高い牛柄のビキニを着て「はっきゅーん」とか「もえぽよ~」とか言ったりしないだろうし、言ったとしても色んな意味で酔っている。

 

 他人の空似に違いあるまいと、膝を折りそうな理亞さんに肩を貸しながら――それでも、イベントを最後まで観なければ、と私に気を使っていただいて。

 

 彼女のパフォーマンスは、本当に人並み外れていて、それを考えると、正体が鹿角聖良さんだと認めたくもなるんですが……。

 目を離せないんです、あんじゅさんの理想の姿とも似ている――と言ったら怒られるかもしれませんが。

 

 私がココに来たがった理由を来る前にも説明して、しずくさんには「あなたがスケベだからそう思うのでは?」と言われ、なかなか認めては頂けなかったんですけど。

 

「くっ、あんなにドスケベな格好をしているのに……確かに、真姫さんと似た印象を抱く……どうして……」

 

 普通に考えれば、牛柄のビキニを着て胸をプルンプルン震わせながら電波ソングを歌う姿と、思いが届かなくていじらしい美少女を観たときと同じ感覚を抱くっていうのはおかしいんですが……なんだかすごく切ない印象を抱くんです。

 

 

 あんなことやらされて可哀想って話じゃなくってですよ?

 

 

 

 ステージは拍手に包まれて終了し、理亞さんは照れた表情をしながら「重かったでしょ、ごめんね」と言い労をねぎらわれ。

 結局、ミルクちゃんの正体は聖良さんかどうかは確かめられず、理亞さんも「ミルクちゃんはミルクちゃん」というので、しずくさんも「そうですよね」としか言えない様子。

 

 姉妹だから分かることがあるんでしょとか言えないですよね……。 

 

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