アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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番外編 私とミルクちゃん

 いつか自分の姿が妹に見られると覚悟はしていました。

 それが予想外のタイミングであったこと、パフォーマンスには影響なさなかったこと、想定通りに何事も進まないとは知っていても、彼女の前でミルクちゃんとして現れたことは――きっと、運命か何かか、それとも奇跡と呼ぶような出来事か。

 

 あの後のスーパーやイベント会場などを回り、月島農場の牛肉を宣伝することができました。

 歩絵夢と一緒にアイドルっぽく活動していた頃とは、売り上げは雲泥の差です。

 露出度の高さだけがポイントでないのは、自分の知っているつもりですが。

 何も知らない人から見れば、過激な格好をして販売しているから多売を維持していると揶揄されることもある。

 

 それでも――ステージに立っている人から見れば、私のパフォーマンスは、かつての鹿角聖良よりも、輝いて見えると言ってくれるに違いありません。

 もちろん鹿角聖良を知っている人から見れば、同一人物のパフォーマンスだと認めたくない部分もあることを私はよく知っています。

 

 妹がどちらなのか、おっかなくてとても聞くことができません。

 縁を切りますと言われたら、自分はどうなってしまうことか。

 

「また違う女の人のことを考えてる」

「どうして女性限定なのかはわかりませんが、妹です」

 

 なんでも歩絵夢からすると、私が彼女以外の女の人のことを考えていると一発で分かるようで。

 心を読む能力があるのか、それともテレパシーでも扱っているのか、私が彼女の顔を見つめたところで、何を考えているのかなんてさっぱり分かりません。

 

 望んでいることくらいならばわかりますよ? それで十分ではありませんか。

 何から何まで心の中身が分かってしまったら、それはそれで大変なのではありませんか?

 

 

 農場の宣伝を歩絵夢としている時、評価が芳しくなかったのは、どちらかのパフォーマンスが優れていなかったから――ではなく。

 

 私がスクールアイドルを嫌っていたからです。

 

 その事を語るには、自分の恥ずかしい出来事をあけっぴろげにしなければいけません。

 ただ、その出来事を語ってしまうと、別の方々にもいわれのない中傷が起こりそうな気がしてなりません。

 

「なるほどね、あなたって妹大好きキャラだったんだ」

「シスコンの風上にも置けないやつだな」

 

 誰の発言だかは、察しはつかれると思います。

 前者は絢瀬絵里さんで、後者は統堂英玲奈さんです。

 

 発言の是非はともかくとして、もっとひどい言葉で罵倒されても仕方がない立場ではあった。

 彼女らからすれば、とんでもない罵詈雑言ではあるんでしょうけど、他者理解は得られません。

 

 シスコンではないから何なのか、妹大好きキャラでもいいじゃないか、今となってはそんな言い訳も思いつく。

 

 SaintSnowが北海道の予選で姿を消し、Aqoursがラブライブ優勝を飾った時――が、原因ではありません。

 妹の理亞が一人でラブライブのステージに立ち、千歌さんらがいた時には準優勝、ルビィさんらがいた時には優勝を飾りました。

 

 私に表現し難い感情を抱かせたのは、理亞が準優勝を飾った時でした――とても嬉しかったと思います。

 

 断定できないのは、私が周囲の声に耳を傾けたから。

 

「理亞さんが失敗しなかったら、SaintSnowでラブライブ優勝ができたのに」

 

 言った人は、発言したことすら覚えていないかもしれない。

 思い出したとしても、たいした発言ではなかったと言うかもしれない。

 

 理亞が一人きりでステージに立ち、Aqoursの一年生組を破ってラブライブ優勝を飾った時、私も観客席にいました。

 どういう経緯でA-RISEの3人や、絵里さんが会場にいたのかはわかりませんが、理亞が「やりました姉さま!」と泣きながら私に抱きついた時に、彼女らも同席していましたから。

 

 心の底から喜んでいたはずです、自分の代わりに全てを犠牲にしてラブライブ優勝を飾った姿は、本当に素晴らしく尊く見え。

 理想のスクールアイドルがいるのならば、彼女こそが全てのスクールアイドルが模範とするべきスクールアイドルなのだと。

 

 ツバサさんが「ここからはスクールアイドルだけで話し合うこともあるでしょう」と、 主役と観客を分けるような感じで。

 よっちゃんさんは自分のことのように理亞のラブライブの優勝を喜んでいて、花丸さんもルビィさんも「やったね!」と、本心から喜んでいる様子でした。

 

 理亞も少々戸惑う表情をしながら「なんで負けたのに晴れやかなの」と言いつつも、Aqoursの方々や理亞は彼女らだけで打ち上げに向かい。

 それから帰宅した時に「少し眠いです」と言って、布団に入り――翌日、起き上がれなくなっていました。

 

 以降、函館聖泉女子高等学院に通うことなく中退し、彼女の面倒は自分が見ると、両親の誘いを突っぱね東京に上京しました。

 なぜだかわかりません――北海道を離れなければと考えたのかもしれません。

 

 ですが自分一人の稼ぎでは、二人で仲良く暮らすには足りず、たくさんの方々の助けを借りることになりました。

 皆様にはとても頭が上がりません、なんやかんやいいながらも苦労を負担してくださった絵里さんには、どうやって接したらいいのかが分かりません。

 

 一番親身になって面倒を見てくださったおかげで、妹が絵里さんにベタ惚れになってしまったことだけは許せませんが。

 

 

「理亞ちゃんの優勝喜んでいないわね」

 

 A-RISEの方々と一緒になれて喜んでいたのは間違いありません。

 絵里さんも共通の知り合いではありますが、μ'sのメンバーで、ある程度尊敬していた――くらいです。

 

 言ってみればA-RISEの方々に付き添うついでみたいな人に、早々に「喜んでいない」と追求され、そりゃもちろん反発の意識は浮かびます。

 なんだこいつはと感情を抱くのは何ら不思議なことではない。

 

 「あの時は勢いがはやった」と絵里さんも後年に謝罪していただきましたが、とても断罪する気にはなりませんでした。

 喜んでいなかったのは事実ですし、悲しきかな、理亞にもきちんと読み取られていた。

 あの時よっちゃんさんや、ルビィさんや、花丸さんが、本気で理亞のラブライブの優勝を喜んでいたからこそ。

 

 ラブライブの優勝で燃え尽きてしまったのも本当ですが、結果を出したのに私が喜んでいなかったことが 彼女の人生を狂わせてしまったのです。

 

 ――妹大好きキャラと言われて、とても否定なんぞできません。

 

「仕事を紹介するわ」

 

 と、東京に来て早々ツバサさんが私たちの住むアパートにやってきて、理亞も絵里さんへの好感度が上がってなかったから、とても喜んでいました。

 

 正直な話、なんとかなるだろうと。

 引越しの作業が終わって生活が落ち着いたらゆっくり仕事を探す――

 そんなことを考えていた時だったんです。

 

 手を回したのはダイヤ「トップアイドルのスケジュールをいじくり倒すのは疲れましたわ」と、後年、苦笑いしながら言われました。

 珍しくオフが続いたとA-RISEの方々にも言われましたが、休日に協力できてよかったですと、頭を下げるしかなく。

 

 

 だけども、なんとかなると考えていた私は、すぐさま飛びつかずに「考えさせてください」と、選択肢もないのにコメントし。

 ツバサさんにも「突然来てしまって悪かったわね」と、言われて、一時の交流はそれで終わりました。

 

 自分は何とかなると考えていたけれども、妹はとても聡明だから、この状況は長く続かないと気が付いていました。

 

 

 私と来たら正直な話、不安の一つも覚えていませんでしたし、 二人で暮らせる事を喜んでしかいませんでしたし。

 

 その日の夜。

 眠るときに「私はこれからどうなるのだろう?」と、唐突に「自分は大丈夫なんだろうか」と、気がついてしまい。

 ツバサさんが現れて「仕事を紹介する」と言われ、自分は遠慮してしまった。

 これがもしもとんでもないチャンスで、飛びついていればよかったと後悔するイベントだったら。

 

 妹を起こさないように静かに準備をし――今から考えてみれば、自分はいったいどこに行くつもりだったのか。

 アパートから飛び出し「ツバサさんに謝らなくては!」と駆けようとした瞬間に、首の辺りを捕まれ「ぐえっ!」とアヒルの鳴くような声を出してしまいました。

 

 あの瞬間がもしもビデオで撮影されていようものなら、人生で一番鹿角聖良がかっこ悪い瞬間だと後世まで語られるに違いない。

 

 ただ、後世まで自分の名前が残っているでしょうか? 残っているとすれば私より、理亞――彼女の才能ならば、A-RISEと一緒にスクールアイドルの伝説として語られているかもしれない。

 

「どこに行くつもりなの?」

「絵里さん……」

「まさかとは思っていたけれど、本当にアパートから飛び出すなんて――監視のアルバイト、向いているのかしらね?」

 

 A-RISEの皆様が監視するのはスケジュール上無理だったので(オフとはいえ、事務所の許可がおりませんでした)絵里さんが代わりに、逐一動向を調べていたそう。

 その後に亜里沙と顔を合わせた時、やたら風当たりが強かったのは、この時のイベントが原因です。

 

 ほぼ飲まず食わずで鹿角姉妹を監視していたそう。

 私が危機感を抱かず、ツバサさんに会った翌日以降に家を飛び出そうものなら、亜里沙から今後に口を聞いてもらえることはなかったはず。

 

 私の猪突猛進加減も、少しは役に立つことがあるようです――物事はできるだけ良い方向に考えなければ仕方がありません。

 

「もしかして現実に気がついたつもり?」

「その通りです。姉妹で暮らしていくには私の稼ぎでは足りません、妹に労働させるつもりもありませんし」

「バカね、だから現実に気がついていないというのよ」

 

 絵里さんが人の悪口を言わないタイプなのは、実はこの後の交流で気がついたことです。

 滅多なことでは、直接に「バカ」とかその類の言葉を使わず、使ったとしても、言われた相手が逆襲できるようにしておく。

 

 悪口を言って、報復される状況に仕向けておく――凛さんやことりさんに対してが顕著で、絵里さんが彼女たちに向かって気に障るようなことを言うのは「報復してぶん殴ることに罪悪感を感じて欲しくないから」だそう。

 

 ただ、悪し様にバカと言われれば、聖人君子だって腹を立てるものでしょう。

 

 それでも、この時ちょっと腹を立てた自分を、二度と思い出せないトコにぶち込んで、消し去ることができたらとたまに考えることがあります。

 

 本当にただのバカだったのです。

 恵まれた環境にいることにまるで気が付いていなかった。

 

「あなたが困ったら、助けてくれる誰かがいる。本当に現実が見えていないわね」

「……え?」

「私では頼りにならないかもしれないけど、まあ、聖良ちゃんが働いている時に、理亞ちゃんに料理を作ってあげられる人くらいにはなれるわ」

 

 役に立たないかもしれないけどと笑う。

 

「働き口はよりどりみどりよ、ダイヤちゃんがね、とてもはりきっている、どの職場で働いていただきましょうかってね」

 

 つまり、 ツバサさんは本当に、仕事を紹介するだけのためにわざわざやってきてくれたのだ。

 ダイヤから「仕事を紹介しますわ」と言っても、理由をつけて断る事を予測をして。

 

 困窮してにっちもさっちもいかなくなることがないように、断る余裕があるうちに話を持ってきた。

 ここまで考えれば、自分がどれほど恵まれた状況にいるのか、周囲の手助けで自分が生かされているのか。

 否が応でも気がついてしまう――しかもきっかけは、両親がダイヤに連絡を取ったからと言うからではないか。

 

 娘の私は理亞をあなた方には任せてはいられないと、喧嘩半分で家を飛び出してきたというのに。

 

「何でもするつもりですよ……バカな私は、言われるがままに過ごしていた方が良さそうです」

「ダメよ、やりたい仕事はあなたが決めなさい、あいにくとね、言われたことをやってくれる人を、スポンサーさんが求めていないものだから」

 

 働き口はよりどりみどりだし、どれを選んでも後腐れないようにしてくれるつもりでもあるそう。

 いったい私が何をしたから、こんな風に助けていただけるのか――もうちょっと、人選はしたほうがいいんじゃないかと。

 

 そんなふうに私が言えば。

 

「ま、お姉ちゃんのことが大好きな妹に免じて……かしらね?」

 

 

 スクールアイドルを苦手にしていたのは、この時の恥ずかしいエピソードを思い出してしまうからで、ミルクちゃんとしてステージに立つことには、もちろん迷いもあります。

 

 でも、過去のこととか、未来のこととか、自分自身が不安に感じていることとか、全てを忘れ去ることができます。

 

 ミルクちゃんである自分を思い出して凹むこともありますが――

 

「そういえば、歩絵夢――なぜ牛柄のビキニを着て、私をステージに立たせようと思ったのですか?」

「あー」

 

 歩絵夢は私の作った食事を食べながら、どうでもいいことを打ち明けるように理由を述べてくれた。

 

「あなたは誰かに身体を見られるのが好きだから」

「まるで痴女みたいではないですか、私のどこを見てそのような勘違いをしたんですか?」

「まず、スリーサイズの詐称」

 

 書いてくれと言われたので、テキトーに書き上げたスリーサイズは、おおよそ的確ではありません。

 詐称と言われればそれまでですが、誰かに体を見られるのが好きと何の関係があるのか。

 

「聖良さぁ、脱いだらすごいって言われるの好きでしょ」

 

 さすがに首を傾げるしかなく、自分がそのように感じた記憶もなかった、そのように褒められた経験もありません――そもそも褒め言葉なんでしょうか。

 

 すごいというくらいだから、褒め言葉ではあるんでしょうけど。

 

「それと、ルビィさんごっこ」

「……まあ、変なことをしているのは自覚しています」

「違うわ、変なことじゃない」

 

 どう考えても変なことです――黒澤ルビィさんの真似をしながら、踊り狂うんですから。

 誰がどう見ても頭がおかしくなったと指摘するに違いありません。

 

「あの姿はね、あなたがなりたい自分の姿なのよ」

「……は?」

「どうしたってあなたは、理亞ちゃんの前で見栄を張ってしまう、かっこいい姉としての姿を自分のなりたい姿だと勘違いしている」

「つまりは、理亞が憧れる姿を、自分が憧れている鹿角聖良だと思い込んでいると?」

 

 そんなことはないと思われた――ただ、自覚していないだけであなたはそうなのよと言われれば、歩絵夢が言うのだから、と納得してしまいそうになる自分がいる。

 

「あなたにはね、変身願望がある。それがルビィさんごっこであり、正確に書かなくてはいけないスリーサイズをテキトーに書いてしまうって部分」

「つまり、自分自身を変えたいということですか? 私は……今の自分を恥ずかしいとは思っていませんが」

「それは嘘ね、あなたはいつだって、自分自身を変えたいと考えているはずよ」

「どうしてですか?」

「鹿角聖良がすごいって言われることに、罪悪感を抱いているから。脱いだらすごいで喜ぶのは、普段の自分と違う姿を見られて褒められたからよ」

 

 それでは自分がとんでもない変態か、とんでもない愚か者ではありませんか――と、嘆くように言ったら。

 

「そんなことないわよ、アイドルに向いてるじゃない? 極めて女の子的だと思うわ……昔のことで、聖良がステージに立って喜ばれることにトラウマを感じているから、こうしてリハビリをして……もう一度、鹿角聖良としてステージで輝いたら……理亞ちゃんも、喜んでくれるでしょうね」

 

 なんだか色々と煙に巻かれたりなんだりされたような気もしますが、ミルクちゃんとしてではなく鹿角聖良として、ステージに立って妹に喜んでもらえたのなら。

 

 過去のことなど、どうでも良くなるかもしれません――それこそ、ミルクちゃんに変身をしなくてもです。

 

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