アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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そして絢瀬絵里は命名センスがかすみちゃんレベルとネタにされる

 妹の働いている姿を眺めつつ、姉は和菓子作りの見学でもしよう。

 そのように考えていたのが高坂家の皆様に察せられたのか、早朝に起きだした私に「今日は学園に行くんですよね」と、なぜか既に起床していた雪穂ちゃんに言われて「それはもちろん」と応じると「できるだけ早く行った方がいいんじゃないですか、学生達も食べ盛りですから」と。

 

 言われてみれば学生たちには、しばらく旅に出る――食事は任せられるメンバーに任せると、言っておいたけれども。

 何かと不安定な時期だから、いつも通りでないと不安を感じる子もいるかもしれない。

 

 「確かにそうね」と、単純な私は雪穂ちゃんに言われるがままに学園に向かう準備をし、彼女は学園に向かうことを推進したのに、何故だか不安げな表情をしながら「亜里沙のことはおまかせ下さい」と言うので「あなたなら信頼できるから任せておけるわ」と、笑顔を作ってみせると、なぜかはよくわからないけど表情が引きつっていた。

 

 私の笑顔はそのように不安げに感じるほど、不気味な産物なんだろうか――おかしいなニコを意識したつもりだったんだけど、私に彼女のような笑顔を浮かべるのは難しかっただろうか。

 

 なぜだか私の妹を孫娘かなんかだと思っている高坂家のご両親からも見送られ、私は仕事へと向かう――食事を任せた面々が一生懸命、学生たちの朝食を作っているに違いない。

 

 始発の電車が動き始めて一時間も経っていないから、仕事に行く方々も、もちろん学生たちもいないから人通りが少ない。

 閑散とするこの辺りの時間が好きだ、しばらくすると人がゴミのようだとムスカ大佐のように言いたくなるほど、東京の駅というのは人で溢れる。

 

 六時手前に学園までたどり着くと、ニコが起き抜けみたいな感じだったので「ずいぶんゆっくりだけど大丈夫なの?」と声をかけたら、幽霊でも見るような顔をして「なんでここにいるの? 穂乃果の家に行ったんじゃなかった?」と言うから「通勤してきたんだけど」と言ったら「初日くらいゆっくり休みなさいよ」と言われた。

 

 「かくかくこういう事情で」と説明をすると「なるほど、高坂家の皆様は亜里沙ちゃんへの好感度が高いからね」と呆れたような、納得したかのような、何とも言えない表情でニコはため息をつき。

 

 「せっかく来たんだから掃除でもしてもらおうかしらね、どうせじっとしてなんかいられないんでしょ?」と彼女は私のことをよくわかっている。

 黙っていろと言われたところで黙っていることができない、そしてじっとしていろと言われたところでじっとしていることができない。

 

 すぐに何か自分に出来る事があるんじゃないかと探してしまう――そういう性分をニコはよく理解している。

 先ほどの10倍か20倍くらい呆れた表情をしているけれども、気のせいだとしておきたい。

 

 掃除をしているとエマちゃんが早くも起き出して「どうしたの? 泊まったっていう話を聞いたけど」と、彼女もまた幽霊でも見たような表情で話しかけてくるので「かれこれこういう事情で」とニコと同じ説明をすると「確かにそうだよね、絵里ちゃんの作る料理は美味しいから」と彼女はにっこりと笑って見せ「でも今日は任せておいて、ニコちゃんと頑張って絵里ちゃんの代わりになるような料理を作るから」と、力こぶを作って見せた。

 

 彼女の力は私の左腕をいともたやすく痛めつけてしまう――ここで逆らったら私の首をへし折られてしまうに違いないと考え「分かったわ、あなたの腕を期待しているから」と。

 

 私の態度がどれほど彼女の信任に値したのかわかんないけど「任せておいて」と、応じてくれたエマちゃんは、私が掃除する間「牛をさばいてる暇なんかないから」「羊料理も難しいから!」ニコに悲鳴じみた声をあげさせたけど、出てきた料理は学生たちからも好評だった。

 

 いつもの面々は「絵里の代わりができてしまって、ついに金髪ポニーテールもリストラされるのか」「大丈夫ですか、就職先の斡旋をしますか」と、煽ってきたけれども、理亞ちゃんに就職先の斡旋ができるんだろうか――ちょっと興味本位で「できればお願いします」と、言ってみようかなって思ったけど、栞子ちゃんやランジュちゃんが私の腕をクイクイと引くので、発言は飛び出さずに済んだ。

 

 なお、私が就職先の斡旋をお願いしたら「鹿角家に永久就職しますか」と、声をかけるみたいだったので、私は失言をしなくて本当によかったと安心した。

 

 朝から二人の喧嘩を止めるつもりもないし――学生のみんなも、朝の喧嘩が日常茶飯時になってしまっては困る。

 普通の女の子は殴り合いの喧嘩なんかしないだろうし、一人の女を巡って争いをするというのだからレアケースにも程がある。

 そこまで私に価値があるものでもあるまいし、自分になびかないから躍起になっているだけなんだろうけども。

 

 

 

 歩夢ちゃんから「しずくちゃんのお話について」と、真剣な口調で相談されたので「ついに来た、彼女はぜったいに引き止めないと」と、決意も改め、 侑ちゃんの姿が見えないから「彼女がどうしたの?」と、声をかけてみると。

 

「侑ちゃんは、すごくえっちなっていうか、そういう認識がないみたいで」

 

 と、言われて「それはすごいな」と思った――しずくちゃんときたら、侑ちゃんの反応が少ないので「自分のネタがもしかして通じていないのでは?」と、その方向性の向上心は違うと、みんなからツッコまれた方面へ家事を取り、侑ちゃんに気づいてもらおうと必死にネタを披露したけど、反応してくれたのはごく少数だった。

 

 あまりに必死になったせいで「桜坂しずくはとんでもない変態」疑惑が、今更ながらにみんなに持たれたけれども、私もフォローをするのが大変だったけど……彼女は目標に向かって一途に頑張っているだけだから、みんなは優しくを見守ることにしましょう。

 

「反応するのは違うと思うし、かといっていつまでも赤くなってはいられません」

 

 その通りだ――むしろ歩夢ちゃんみたいに、恥ずかしがるのが正解なような気もする。

 ミアちゃんも当初は「しずくはド変態だな」とツッコミを入れていたのに、ここ最近は「いつもの事だからしょうがない」「しずくの声が聞こえないとなんとなく寂しい」と――下ネタを肯定する方向に向かってるけど。

 

「目標に向かって一心不乱になることは悪いことじゃないけど」

 

 腕を組んで考えてみる――以前までの私なら、他のメンバーの評価を上げるために「真姫に頼んでみたら」とか「海未に相談をしてみたら」と、丸投げすることがあるけど。

 ことりのイベントから「ちょっとぐらい自分の考えで動いてみてもいいかな」と思うようになったので、ここでもしも至らないことがあれば、他のメンバーに土下座でも何でもするつもり。

 

「普段の演じている自分がフツウだというのなら、第三者から見た時にどう映るか、認識するというのはどうかしら?」

「そうしたら少しはネタを控えようって考えますかね?」

 

 四六時中構わずというよりは、TPOをわきまえて――彼女の目標は把握しているので、あくまでも邪魔にならないように。

 

 少しばかり控えてほしいとの話だから、彼女だって居丈高に「下ネタが言いたいんですから邪魔しないでください」と、怒ることもないと思うし。

 そのように怒ったならばお説教の一つもしなきゃいけないけど、外野の私がガヤガヤ言ったところで、そんな考えもある。 

 

 学生の問題は学生間で解決するべき、彼らが困る様子ならば、大人が面倒を見る。

 そして責任を取り、成長を促すのが年寄りの仕事だ――若者には是非にも挑戦していただきたい――果たして下ネタを連呼するのが挑戦と言えるのかどうかは、私の中でも疑問ではあるけど。

 

「名付けて、桜坂しずくインタビュー作戦……新聞部の子に付き合ってもらうのは心苦しいけど……」

「それだったら、同好会でインタビューしてもらうっていうのはいかがでしょう? あ、スクールアイドル部のみんなもインタビューしてもらう方向で」

 

 確かにそれならば、スクールアイドル部の皆にも注目が集まる―― いかんせんライブを行うとなれば、同好会がやるっていうイメージが学生間で高まっている。

 

 ライブに来てもらえれば、スクールアイドル部のみんなのレベルは高いので満足はさせられるけど、同好会の面々には固有のファンがいるものだから、出ないとなるとがっかりするコもいる。

 

 推しがライブに出る予定くらいファンなら把握しておけ、という方もいるかもしれないけど、スクールアイドルのライブにそこまで敷居を高くする必要もない。

 

 どこの誰でもウェルカム――妨害とかされたら怒るけれども、よもやスクールアイドルが学内で行動するだけで、活動を妨害して何になるというのか。

 

 そんなことを考える奴はよほどの変人に違いない――それこそ金髪ポニーテールの生徒会長でもない限りは。

 アニメでそういう設定にされた浦の星女学院の生徒会長さんは「共通点ができて嬉しいですわ」と喜んでいた――なぜ喜んでいるのか疑問でならない。

 

「……歩夢ちゃんもスクールアイドルだからインタビューされることになるけど、大丈夫?」

「……あ」

 

  同好会でインタビューされるとなれば、いかに新入部員とはいえども、スクールアイドルである以上、実力がないからインタビューできません――と、なってしまうのは良くないし。

 実力の有り無しで優劣が決まってしまっては、UTXみたいに勝ち負けを基準にして評価を決める芸能科と一緒になってしまう。

 

 UTXの芸能科に入る以上、ある程度の競争は覚悟の上――なら、話は通じるけれども、スクールアイドルがやってみたいで入った子を「ではあなたの実力が満たないのでインタビューしない」――なんて、そんなことはニジガクではやらないだろうし、やるという方針ならば理事長と殴り合いの喧嘩をしなくてはいけない。

 

 自分が気に入らないから邪魔をするであるとか、実力が満たされていないから仲間に入れないとか。

 そんなことはスクールアイドルでやるべきじゃないし、やった生徒会長はもっと殴られるべきだと思う。

 

 浦の星女学院の生徒会長も「わたくしも殴られますわ!」と、言うかもしれないけど、現実でやったやつだけ殴って欲しいとお願いすれば、彼女だって強くは出られまい。

 

「大丈夫です、実力はみんなより劣ってるかもしれないけど、始めたんだから……」

「その意気よ、自分の心に勇気があれば、いつでも前を向いて歩ける……自分の心に嘘ををついていると、人の邪魔ばかりをするものよ。前進してれば前には壁しかないから、遠慮せず破壊してちょうだい」

 

 何と言うか、みんなの反面教師にしかなれない人生だなと、高校時代の至らない自分を思い出し自嘲するけれども。

 詳しい経緯は知らないのか、歩夢ちゃんは不思議そうなものを眺める目で、私を見上げてくる。

 

 その目は純粋で、しずくちゃんの下ネタに慣れることはないと思った――どうかそのままでいて欲しい。

 ことりのように生き残るために修羅の道を進み、特大のベッドをダブルベッドに変えてしまうような凶暴さは持たないでいただきたい。

 

 

 ――や、まあ、デザイナーの世界っていうのは、目指す人間を含めて、弱肉強食の世界に身を置いているようだから、仕方ないっちゃ仕方ないけどね……。

 

 弱肉強食の世界にいるっていう人間は、人を蹴落として自分を上げようとするけれども、立場に見合っていない実力なら、人から認められるわけでもないのに、どうしてだか邪魔をしようとする。

 そして立場に見合わない実力だと、下の者から弱肉強食の掟とか、そんな感じで排除されて死ぬ――

 

 優しいみんなに囲まれた私は排除されずに生き残り、みんなのために何かしようと思えど、元の能力の低さかなかなかうまくはいかない。

 

「絵里さんは不安になった時どうしますか?」

「目をつぶって片足立ちする」

「片足立ちですか?」

「不安ってね、考えてもしょうがないことなの、考えないために何をするかって言うと運動しかなくてね……思いっきり目をつぶって、不安定な片足立ちをして、ふらふらと揺れているとね、自分の抱えてる不安どころじゃなくなるのよ、そうやって自分をごまかして、どんどんどんどん前に向かって走っていたら……まあ、なんとかなるのよ」

 

 不安を感じたらごまかすしかない――それに運動にはもう一つメリットがある。

 脳の血流が良くなるので、もう新しい考え方が思いつくこともあるのだ――それでなくても頑張って運動すると眠くなるし、体力を使い切って眠って新しい日が始まると――やっぱり不安はどうでもよくなるものだ。

 

 だけれども、私の発言は歩夢ちゃんの不安げな表情を覆すことができず「やっぱり体を動かすしかないわね」と、この場に目をつぶりながら片足立ちをする、妙な二人組が誕生した。

 

 や、自分も目をつぶってるものだから歩夢ちゃんが目をつぶってるかどうかわからないけど、素直な彼女ならば、一生懸命やってくれると信じている。

 

 指をさして笑ってくれれば、それはそれで不安も何とかなりそうだし――

 


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