新聞部の皆様にインタビューを受ける前、我々はしずくちゃんに厳重に注意喚起をした。
「新聞に載せられるような受け答えをしてほしい」と、部長の侑ちゃんも言ったし、顧問代わりにさせられてる私も言ったし、新入部員で同学年の璃奈ちゃんも、友達のかすみちゃんもお願いをした。
彼女の何か知らない欲求が満たされたのか「皆様がそこまでお願いするのでしたら」と、普段からお嬢様スマイルを浮かべていれば、ステージで下ネタを連呼し、客が帰る悲劇を体験しないで済んだのに――
ちなみにあのお客、黒澤家に頼んだ仕込みで、当然のようにしずくちゃん以外は事実を知っている。
彼女が下ネタ封印し、 桜坂しずくに似つかわしいステージを披露できるようになったら「あの時はね」と、説明するつもりだけど、仕込みだと気付かれたわけでもないのに、彼女にはノーダメージだった――「過激な下ネタを披露できました!」と、何故だか喜んでいた。
笑みを浮かべているけど心の中では傷ついている――そんな可能性もあるので、璃奈ちゃんやかすみちゃんの同学年の二人組や、私とばかり絡んでいて同学年だっていう認識がいまいち少ない、栞子ちゃん、ミアちゃん、ランジュちゃんのお三方にも状態を調べていただいた。
後者の三人はお嬢様の財力で結構いいものを食べたらしく「あの時のメニューは本当に美味しかった」と、言うので「目的を忘れてないかしら?」と、ちょっと怖い目を向けると「元気そうでした!」と、素直にコメントしたので特に何も言うまい。
この騒動の結果、しずくちゃんが心の中身を覗かれる事をひどく恐れていることが分かったので、下ネタの連呼もその影響が根強いと思われる。
これから友情が育まれていくうちに「自分の心の中をさらけ出しても平気」と、認識できるようになれば意識は変わるかもしれない。
「ごめんね、忙しいところに声をかけてしまって」
「私の影響で若者の未来が狂ったとなれば、責任を取るしかないから」
本日のスペシャルゲスト――新聞部の皆様の中にも、真姫のファンがいたらしく、同好会や部のメンバーそっちのけでサインを求める一幕もあったけれど。
何てサインして欲しいのか問われて「成人向けゲームに出ている時の名義」を答えていたけれども、みんな「あなたは未成年だよね?」とのコメントはできなかった。
真姫が喜んでいたというのもあるし、しずくちゃんが「負けてなるものか」みたいな表情を浮かべていたから。
ちなみに真姫が喜んでいたのは「彼女は成人向けゲームの名義ではサインを基本的にしない」ので「かなりのレアケース」であり「転売されたら一発で分かっちゃうわね」と、言っていたけれども――
もしも彼女を悲しませるようなことがあれば、正義感の強い暇人である絢瀬絵里が、自らの不相応な正義感にしたがって、新聞部の皆様に鉄槌を下すつもりなのでそのつもりで。
あ、改めて説明するとレアケースだから、価値判断を理解しているっていう判断ね? 他の人が求めるような自分の名前を書いたサインよりも、他の人が持っていないサインを求めたってことで――彼女にその意図があるかどうかは分からないけど。
「真姫が見ていたら、自分たちの忠告に従って、きちんとしたインタビューを答えてくれるに違いないわ」
「……ちなみにそれ、あなたの判断なの?」
「いや、学生間の問題は、学生の提案を優先するわ」
「あなたはどう考えた?」
「真姫が見ているから張り切るんじゃないかしらね?」
他のメンバーに聞こえないように言うと、真姫は苦笑いしながら「あなたはとても悪い人ね」と言った。
ちなみにこのイベント、しずくちゃんがきちんとインタビューに応じても、いつもの通り新聞紙面に載せられないような内容の言葉を連呼しても、どちらでも良いと思っている。
後者の場合、諸事情でしずくちゃんのインタビューだけが新聞に載らない可能性があるけど、しずくちゃんを知っている人間からすれば「なんか新聞に載せられないようなこと語ったんだな」と、一発で把握してくれる。
見た目は清楚なお嬢様なのに歌声がエロくて、下ネタを連呼するところが大好きと、なぜだかコアなファンがついている――コアなファンだけを満足させてどうなるのかとの考えもあるみたいだけど……。
演劇部の台本担当の皆様には「彼女はどんな台詞でも言ってくれるから大好き」と、なぜだか好評価で、部長さんにも「結局のところなんでもやってくれるから大好き」と、本当にどうしてだか分からないけど、しずくちゃんは評価が高い。
「なんでも役に合わせてやってくれる人は……確かに、舞台では助かると思う。しずくちゃんがなんでもやるから舞台で欠かせない人になるか、主役を演じるから舞台で欠かせない人になるか、今決めることではないから」
どちらの道を選んでも彼女の生き方だから、と――真姫は昔の声優さんで、もう亡くなってしまったけれど、バイプレイヤーとして有名な人がいて、名前のある役から、 モブAみたいな役まで、毎週のようにアニメに出演していた人がいて。
と、語ってくれた人は確かに「ああ、あのキャラ」と思うようなキャラから「え? あのキャラもそうなの?」みたいな役まで演じていた。
どうやら息子さんと現場で一緒になったようで、彼女にしては珍しく、仕事場でサインをもらったとか。
私情を職場に持ち込まない彼女なので、ついつい驚いてしまった。
「彼女にサインをしたのも、自分が仕事を忘れてサインもらっておいて、サインを書かないのはね……」
「なるほど、そんな事情があったのね」
と、こんな風に話し込んでいると、ついにしずくちゃんのインタビューの時間がやってきた。
インタビュアーの女の子も、カメラを持つ女の子も、緊張したような表情を見せる――当然だと思う、開口一番とんでもない下ネタを吐く可能性だってある。
使われるかどうかはともかくとして、開口一番にネタを披露した瞬間を写真に撮りたいに違いない――繰り返すけど、インタビューの内容は紙面に載せられない可能性が高いけどね?
「では、これからインタビューを始めたいと思います」
「はい、ナニからナニまで、全部聞いてくださいね!」
やりやがった――人差し指と中指の間に親指をはさみ、カメラに向かって撮れとばかりに、特徴的な握りこぶしを向ける。
「メリークリト○ス! おっと、クリスマスはまだ早いですよね、性夜は毎日行われてるから間違えちゃいましたよ」
インタビューを聞いている面々が、やっぱり言った、忠告を聞くとは思ってなかったと、嘆きの声を上げているけど、真姫は悶絶するほど笑っているし、私も「結構面白いこと言うわね」と思わず呟いていた。
「下ネタだけに、ポロリと出てしまいましたね! 手だけではなく口もちゃんと動かす性分なので、何でも聞いてくださって結構ですよ」
指で丸を作りながら、それを上下に動かしつつ応える。
その仕草は紙面でも載せることができない。
注目が集まるとはいえ載せた瞬間に発禁されるような、内容を載せるわけにはいかないはず。
しずくちゃんの倫理観は諦めているけど、新聞部の皆様の常識を私は期待しているからね?
「では最後に、ファンの皆様にメッセージを」
「はい、ステージの上のアイドルは、みんな何かしらに演じています。ファンの皆様から理想だと言われるような素敵な姿を披露するために、日々努力をしています。
ファンの皆様は私でもスクールアイドル部の皆様でも同好会の皆様でも、他の学校のスクールアイドルでも構いません。
どうかステージの上に立つアイドルの姿を応援してください――ステージの下にいる自分達は、至って普通の人間です。
ご期待に沿える覚悟はありませんが……ステージに立つ私はファンの皆様に全身全霊で答える所存です――どうかファンの皆様、ステージで輝くスクールアイドルをご期待ください。
私もファンの皆様に応えられるように、ステージの上では全身全霊で輝いてみせますので」
ランジュちゃんと栞子ちゃんがポカンと口を開いている――以前しずくちゃんの状態を調べてもらった時には、自分自身のこともしずくちゃんに語ったに違いなく、それを踏まえた内容を、ファンの皆様へのメッセージとして最後に提供してきた。
今までの内容は何一つ使われなくても、最後のメッセージだけは使われるはず。
カメラを持つ女の子は何度も写真を撮り、インタビュアーも何一つ口を挟まず録音していた。
自分たちも何一つコメントができなかった――彼女が何を望んでいるのか、どんなことを望んでいるのか考えたこともなかった。
「同好会がラブライブに出場したら……面白いことになるかもしれないわね」
真姫の言葉に頷くしかなかった――部のみんなには申し訳ないけど、もしも代表として同好会がその舞台に立ちたいというのなら……。