さて、どこかの世界にいる自分自身を憑依させた栞子ちゃんだったけど、解除方法まで調べての行動ではなかった。
結論から言うと数日経過したけど元に戻っていない。
理事長に事情を説明して「諸事情のために休学」扱いされてるけど、長引けば出席日数にも差し当たりが出る。
こんな時に限って瞬間移動でホイホイやってくるクマの神様は音沙汰が無いし、しおりこちゃんは、なんだかよくわからない知識を持っているし。
一つ目は、自分たちを知っている風ではあるけど、同年代の人間だと言ったコト――「それってつまり、Aqours、μ's、同好会、部のみんなが同年代の高校生ってこと?」と千歌ちゃんが尋ねて「その通りです」と応じたけれども、Aqoursの結成にはμ'sとの関わりがあるとかで「それって変じゃないの?」と、鞠莉ちゃんに言われたけれども。
Aqoursの結成にμ'sが関わってるとすれば、μ'sはAqoursの結成前に有名にならなくちゃいけない。
つまり、発起人の千歌ちゃんが「μ'sを見られる環境」を作らなければいけないので、当然のように真姫、凛、花陽の一年生組が入部したて、ではいられないはず。
しかもAqoursの3年生組は昔にスクールアイドルをやっていたとか「アニメだね?」と、面々が首をかしげるエピソードを教えられ。
もしも鞠莉ちゃんらが、スクールアイドルをやっていたならば、千歌ちゃんが最初に目視をするのが、彼女たちであるのが自然だ。
「狭い田舎の中で隠し事なんて無理だよ」と曜ちゃんが言うけれども、私だってそう思う。
千歌ちゃんや果南ちゃんらが幼なじみである以上、3年生組がスクールアイドルをやっていた過去を隠しつつ、千歌ちゃんがμ'sに憧れるというのがそもそもおかしい。
アニメではそうする必要があって、ストーリー構成上、物語が作りやすかったと説明されたから「そんなものかな?」と考えるけれども。
しおりこちゃんが「現実での話です」と言うので「現実でそれはおかしいのでは?」となってしまう。
Aqoursの3年生組の実力が千歌ちゃんが憧れないレベルだった――と、考えれば話は通じるかもしれないけど、どうやら彼女たちは内浦から東京に呼ばれるほどパフォーマンスが優れていた。
入りたての1年生やスタダを披露した頃の2年生組が、彼女たちよりも劣っていたとは、やっぱり考えづらい。
つまりは何らかの事情でμ'sは4月の早々に結成され、短い期間でハイパフォーマンスを発揮し、それを見た千歌ちゃんがAqoursを結成したということになる。
ただ、それでもμ'sの先輩がAqoursの3年生組という事実は変わらないので「果南ちゃんたちがスクールアイドルをやってたって知らないことすら失礼なのに、μ'sに憧れてグループを結成するとか……」と、千歌ちゃんが曇った表情で言っていた。
今のところはしおりこちゃんの発言を疑う要素しかないけど、かといって彼女が現実と言っている以上「そんなわけない」と否定したところで喧嘩になるだけだ。
こちらがある程度言いたいことを飲み込み、 彼女にはゆっくりと休んでもらいたい――いったいどんな人生を送っていたら、見えるわけもない適正が把握できるのか。
それが二つ目――どうやら彼女は、生徒会長の適性が中川菜々さんに無いと察したらしく(全員が首を傾げた)選挙期間でもないのに、無理やりに選挙のスケジュールを押し通し(理事長と懇意だった)選挙の結果会長職についた。
それは不正選挙なのでは? とランジュちゃん、ミアちゃんが言ったけれども、 彼女の語ったエピソードを聞く限り、どう考えても不正選挙としか思えない。
選挙に当選したとはいっても「ある程度生徒に息が掛かっていたのでは?」と誤解されても不思議ではない。
その点については選挙での態度を含めて、彼女が反省しきりだったので、何を言うこともできなかった――ひどいことを言ったとは彼女が言い、ひどいことの内容も教えてくれたけど。
「本当にひどいこと言った」とは、ツバサや理亞ちゃんの発言だけど、菜々ちゃんが「そんなのはどうでもいいです」とまるで気にしてなかったので、我々がとやかくいう話ではない。
ただ、優木せつ菜と中川菜々との兼ね合いを観て、生徒会長としての適性がないと判断したのに「生徒会長としての立場にいるのに、自分がスクールアイドルとして活動するのはオーケーなの?」のツッコミに対しては、言われたしおりこちゃんも含めて、誰一人適切な反応ができなかった、ホント、黙っていることしかできなかった。
でも、人が間違えない何ていうことはできない、間違えたのなら改めればいい、やり直してしまえばいい、全部なかったことにするなんてできないんだから、もう一度最初からやり直せばいい。
今のしおりこちゃんに必要なのは、自分と向き合う時間と、周囲のみんなは優しいのだという認識。
罪の意識からか、自分だって消え去った方がいい、なかったことにしたほうがいいのですと語るけれども「そんな人間は世の中にはいないから気を強く持て 」「物事をやらない理由を探して言い訳しているに過ぎない」と、本来ならば言いたい。
でも、それらのアドバイスを耳に入れられる状況じゃない、弱気になっている子を袋叩きにするようなものだから。
※
「なるほどね……スクールアイドルとしては及第点って言ったところか」
とにかく不安を覆すためには、運動しかない――体力が尽きるまで動き尽くして、美味しいご飯を食べて、ぐっすり眠ればある程度回復するはず。
真姫の判断なので、自分なんぞがとやかく言える話じゃない――彼女もまた忙しいので、暇人の私がしおりこちゃんの面倒を見ているけども。
「お茶やお琴の……何だっけ? 先生?」
「師範です」
「そうそう、師範――すごいっていう触れ込みは聞いていたけど、実際に動きを見てみると大したことはないわね」
海未から高校一年生で師範ですか? と首を傾げられ、日本舞踊でも「どこの流派なんですか?」と言われてしまったけど、彼女の能力は、彼女の触れ込みほどすごい動きには見えなかった。
あれやこれやの師範であるとか、嗜んでいるとか、とにかくまぁスペックの高そうなことを彼女から聞いたけれども、スクールアイドルをやるのなら「そんなのは関係ないから頑張れ」レベルで。
元々いた場所でもランジュちゃんのバックダンサーに甘んじてた以上、周囲の声や、彼女自身が思っていたよりも、彼女自身の能力は優れてなかったのが悲劇を呼んだんじゃないか。
つまり、彼女が周囲からできる人と思われていたし、彼女自身も周りの期待や師範云々の話から「できる人」だと勘違いしてしまい。
能力が平凡極まりないのに生徒会長に立候補し、なんだかよくわからないけど当選し、学園をめちゃくちゃなイベントに導いてしまった。
「ママ、クビになった方がいいよ」と、ランジュちゃんが思わず言ってしまうほどの、トンデモエピソードがしおりこちゃんの口から語られ「そんなわけないでしょう」と言った理事長も後日に耳を傾け。
結果的に「教育者としての自覚がない、そんな奴はクビになっていい」と態度を改めた。
理事長の娘ってそんな好き勝手できるの? と、素でことりに問いかけてしまった私は「できるわけねぇだろボケナス」と、当たり前の反応されてしまった。
「……スクールアイドルとして経験がありませんから」
「なるほどね、経験がないものにチャレンジするのはいい――でも、チャレンジするのなら今までのことは忘れなさい、師範であるとか、適正を見る力とか、そういうのって全部ノイズだから」
「ノイズ?」
「そう、はじめてやるものに対してね、自分の成功体験とか、これで上手く行ってきたっていうことにこだわってしまうと、十中八九失敗するのよ。
だってそうでしょう? 初めてやるものに今までやってきたことを糧にできるかすらわからないし、上手くいくかどうかも分からない――それなのに昔の成功体験にこだわることに、何か意味ってあるの?」
A-RISEもスクールアイドルで全国的な知名度を誇り、殴り込みのような形で芸能界デビューしたけど、結局売れるのが早かったのは、小さな事務所に入った矢澤にこが先だったというオチがつく。
「μ'sにならともかく、ニコさん単独に敗北するなんて」とツバサは後年、苦笑いしながらネタにしたけど、彼女たちは「スクールアイドルでうまくいっていたから、それを踏まえて芸能界でも」と考えたようで。
「私がこんなヘマをするとは、リーダーとして恥ずかしい限りよ」と英玲奈やあんじゅに謝罪するイベントにも繋がり「何を謝る必要がある」「結果的にトップになったんだからいいじゃない」と言われたけれど。
ツバサは「自分の判断で売れるまで苦労をかけてしまった」と、かなり責任を感じている。
何から何までうまくいくし、何をやっても成功する(そうじゃないけど)とネタにするツバサでさえ、過去の成功体験にこだわり失敗するくらいなんだから、師範であるとか、日本舞踊の経験があるとか、興味のない人にとってどうでもいいことにこだわるのに何の意味があろうか。
「今までの自分を全部忘れて、言われた通りの動きをする――この動きができるようになるまで、今夜は寝かさないつもりよ?」
「……わかりました、誠心誠意努力します」
※
返事は良かったんだけれど、彼女の動きは「予想以上に動けない」と同好会や部のみんなにネタにされてしまうほどで
「なんでそうなの?」と疑問に思った私が、彼女の1日のスケジュールを聞いてみると「そりゃそうだわ」と、納得するしかなかった。
まず、スクールアイドルに集中できる時間が少ない。
これではスクールアイドルとして鍛錬している同好会に差をつけられてしまって当然。
「私は部で最先端のトレーニングを」と語ったけれども「未熟な人間がプロと同じトレーニングをして最大限の効果を得られるわけがありません」と、当たり前のツッコミをされた――ちなみにミルクちゃんとしてではなく、鹿角聖良としての来訪だった。
今まで寮に訪れることがなかった花陽、希の元μ'sから、Aqoursの鞠莉ちゃんや曜ちゃん花丸ちゃん、ルビィちゃんと言った面々までが来訪し、あれやこれやと話し合う。
それを寂しく感じたのか聖良ちゃんもやって来て「あ、ミルクちゃんだ」「ミルクちゃん!」とみんなから言われたけれども「私の名前は鹿角聖良です」「その人は赤の他人です」と――まあ、何も言うまい。
あ、先ほどスクールアイドル同好会は鍛錬する時間が、と言ったけれども、なぜだか活動を妨害され、練習する時間が少なかったというエピソードを聞いた時。
ことりがテーブルを叩き割り、結果的に彼女の借金は増えた――
けど、ことりが先んじてテーブルを叩き割らなかったら、私も壁を破壊したかもしれないし、ツバサも地面に大きな穴を開けたかもしれないから、この点の借金の返済に関しては私も協力するつもり。
そんなこんなで、μ's、Aqours、A-RISE、SaintSnow、同好会、部の皆が集まっての「何とかしよう」のエピソードはまだまだ続きそうだ――そろそろ学園に復帰しないと、栞子ちゃんの出席日数が危うくなる――果たして彼女に登校させていいものか……。