「あの世界の栞子が大変不遇なのは理解してもらったと思うが」
「で?」
「この世界の栞子と合わさることにより、ほんのひと時でも幸福な時間を」
「で?」
「この世界にいる栞子もファンに受け入れられるために努力を」
「で?」
パンクなお姉ちゃんの格好をしている神様に対し、何を言おうとも「で?」で済ましているのは私ではなく園田海未。
もちろん事情があることは私でさえ理解している。
もうひとつおまけに言えば「大変不遇な目にあっていることも」理解はしている。
あの世界にいるって言う自分も、不遇な目にあっているんだろうなと思う――できればμ'sやAqoursの仲間が不遇な目に遭っていると嘆いていてほしい。
自分自身の不幸がどうでもいいとか言わないけど、まずは仲間のことを優先しておいてほしい。
あの世界にいる絢瀬絵里は、おそらくこの世界にいる私よりも優秀だろうけど。
何を心配されたところで「あなたに言われる筋合いがない」と言ってしまう程に優秀であってほしい――高望みだろうか? もともとの素材が絢瀬絵里では優秀さで期待できないかな?
「なぜ話が通じんのだ」
「あなたのやったことが究極の自己満足だからよ」
栞子ちゃんが何とかしたいと言ってこの状況になっているならともかく、もともとのきっかけが彼女だとしても、別世界の三船栞子を憑依させたのは神様の独断だ。
神様は身勝手な存在だっていうのは理解しているけど、自分がいいことしたから理解されないのはおかしいと――まあ、そんなことを言われても「お前が勝手にやったんだから、問題が起きても自分で責任を取れ」としか言いようがない。
「自己満足で結構ではないか、私は神だぞ」
「なるほど、神様に日本の法律は意味ないだろうから、神殺しをしても問題はなさそうね――理亞ちゃんのお菓子はまだまだ在庫があるから」
「待て、話せばわかる、身勝手をしたことについては謝罪をしよう」
彼女が逃げる前に口の中にお菓子を入れるくらいはできる――一部でも口に含んだ瞬間に泡を吹いて倒れるだろうから、追撃は至って簡単。
そうなれば「話がややこしくなるので」と見守っている方々にも手伝って頂き、神は人間によって見事に屠られるのでしょう。
理亞ちゃんにはあまりの美味しさに神様が昇天したといえば「これからもお菓子づくりに精進しなければいけません」と気合を入れるに違いない――気合を入れて完成させた物品が私が食べられるものであることを祈る。
「そりゃね、人生で、何もかもが自分の思う通りに行って、自分の思った通りの結果を生み出し、自分が望む通りの人生を送れるんだったら、神頼みなんて誰もしないのはわかってるでしょ?」
「人間は誰しも自分の思う通りに生きていけるものだぞ」
「神様みたいな力でも持っていない限り、人間にそんなことは不可能よ」
「私が読んだ小説は」
「物語だからね、残念なことに現実では、自分の思うとおりに生きていくとしがらみが多すぎるのよ」
クマの神様が良かれと思ってやったことが、人間の私達に歓迎しない結果となり、神様でさえこうなのだから、人間が自分の思う通りになんて無理な話。
奇跡とか、誰もが努力した結果で、みたいな、夢物語ならアリかもしれないケド。
ただ思う通りに生きていくことを諦めちゃいけない、思う通りにならなくても思う通りに行くように努力したことは無駄ではないから。
「彼女は必要とされていないのか? どこの世界でも」
「……もしも、そんな人間がいるとしたら、必要とされていることに気がつかずに、自分のわがままに生きようとしたガキンチョくらいかしら」
「お前のことか」
「残念なことに、そんな私を必要としてくれる人がいる。自分のやっていることに自信がなくなったら、そう考えるようにしているわ」
ね、と振り返ってみる――どうせこんな魂胆だと思っていた。
神様の超常現象的な力で「しおりこ」ちゃんは呼ばれたんだろうなって、奇想天外な人生を歩んでいると、神様の気まぐれにも対応できるようになる。
やはり経験は無駄にはならない、失敗も――そこで諦めない限りは、意味がないことなどないのだ。
「姉さんの姿をしていますが……口調がまるで違います。ここに来てからそんな経験ばかりです」
「尋ねたいんだけど……しおりこちゃんが、いなくなってしまえばいいとか、必要じゃないって、誰かに言われたの?」
「……そのような風評があることは知っています、自分のしたことを考えれば当然の顛末です」
「残念ながら当然ではないわね」
呆れたようにため息をつく。
さすがに私なんぞに否定されれば気分を害す。
見上げて睨みつけるような目をされると戸惑いを覚えるけど。
自分のやっていることが正しいとは限らないし、正しいと思ってやったことがうまくいかなかったなんてたくさん。
今こうして「しおりこちゃん」のためになるようにって、考えたところでためになるとは限らない。
それでも、誰かのためになるようなことを諦めちゃいけない、うまく行かないって想定は、何かを諦める原因にはならないんだ。
「誰かが必要じゃないとか、必要であるとか、そんなものは誰も決めることができないものよ、人が生きている限り、生きていかなくちゃいけないのよ。
他人のどうでもいい評価に戸惑って、自分のしなければいけないことをやらないなんて――そんなのは、未熟な自分がしなければいけないことをしないのに理由付けをしているだけ」
でも人は、簡単に気分が落ち込む――モチベーションの維持だって難しい。人はどうして生きているんだろうと考えれば、気分は落ち込みドツボにハマる。
ただ、怠惰に理由をつけてはいけない、やるべきではないと判断をしてやらないのはいいケド。
やらなくちゃいけないことをやらないのに理由づけをして、自分の出した言い訳に甘えていると人生どん詰まりになる。
「人生どん詰まりいるやつは説得力が違う」「人生の迷子なのに立派なこと言ってる」「成功体験が少ないから説得力がないのが玉に瑕よね」皆さんが好き勝手に言ってらっしゃる。
「あなた、どんなことがあってもスクールアイドルがやりたかったんでしょう? だったらやりなさいよ、他の人の評価とか、噂話とか、そんなつまらないものに戸惑って、自分の好きなことをしないなんて――もったいないじゃないのよ。
知ってるんでしょ? 好きなコトを出来なくなってしまった人の顔を。
だったら……自分がそうさせてしまったんだったら。
自分自身は、責任を持って好きなことをしなさい。
それがスクールアイドルだって言うんだったら全身全霊でスクールアイドルをやりなさいよ。
今あなたはスクールアイドルができる環境にいる。
それなのに他人のなんとかかんとかでって理由をつけて何になるって言うの」
彼女はどこまでスクールアイドルのことを好きだかわからないけど、自信なさげな彼女が、何をするにも弱気な彼女が――スクールアイドルをやっている時間だけは、技術が伴ってしないかもしれないけど、他のみんなに比べて劣っているかもしれないけど、すごく楽しそうで、すごく輝いていた。
そしてスクールアイドルに対する努力だけは、どんなに悪く言われても「やってみせます」って答えているから。
「元の場所に戻っても、責任を持ってスクールアイドルだけは真面目にやりなさい、それがあなたにできる唯一の罪滅ぼしよ……その世界にいる優木せつ菜もスクールアイドルが大好きなんでしょう? だったら……彼女の表情を曇らせてしまったのだったら。
彼女の表情が曇らないように、全身全霊でスクールアイドルをやりなさい――生徒会の仕事なんかにかまけていないで、全身全霊で好きなことをやりなさい――それが、あなたにできる……あなたが傷つけた人に対する、唯一の罪滅ぼしなんだからね」
近くにいる海未がさすがに戸惑った表情を浮かべる――罪滅ぼしの自覚はあったけれど、あまり白状していなかった。
気がついているかなって思ったけど、真姫や海未や、穂乃果あたりの表情を見るに、戸惑いを持って受け止めているから、あれが本当の絢瀬絵里なのだくらいの考えはあったんだと思う。
本当かどうかはともかく、μ'sのみんなが結束するために骨を折ったのは確かだ――それはニコもそうだろうし、希も頑張ってくれたと思うし――みんながみんなそうだと思うし――。
「私がどこまでスクールアイドルが好きなのかは分かりません――」
しおりこちゃんは先ほどの表情から一転、こちらを心底信頼するような――そのように単純に、自分の都合のいいことを言われたから信頼するっていうのは、将来に悪い人に騙されそうで困る。
それでも彼女が魔窟のような虹ヶ咲学園でスクールアイドルを頑張れば、同じくスクールアイドルを頑張った仲間達に助けてもらえるかも。
や、どう考えても、別世界の虹ヶ咲学園は魔窟かなんかだと思うし、通っている生徒の大半も悪魔かなんかだと思うけど――理事長はとりあえずクビをすげ替えた方がいいと思うし、ランジュちゃんは別の世界にいる綺麗なランジュちゃんと入れ替わった方がいいんじゃないかと。
や、この世界にいるランジュちゃんは譲るつもりはないけれども。
「私が傷つけてしまった人のことは……自分のできることで笑顔にしていきたい……そっか……簡単な気持ちを忘れていました……あの人から離れてしまった影響でしょうか……まったく……」
しおりこちゃんはどこか遠くを眺めるような目をしながら空を見上げ、満足そうに頷くと。
「自分のしなければならないことから――もうこれ以上逃げるつもりはありません。
どのような批判、どのような悪評が自らに立とうとも、自分のやるべき事から逃げるつもりはありません――逃げたくなってしまったら、仲間のことを思い出します……こんな私にも、仲間と呼べる人たちがいるようですから」
それからしばらくして「わだす口調」の栞子ちゃんに戻り、友達のランジュちゃんやミアちゃんが泣きながら「おかえり!」って言って抱きつく、機を逸した私たちアラサーと神様はそんな光景を眺めながら「結構長い間しおりこちゃんと付き合ってたんだな」と――
なお、別世界の自分自身を聞いて、友情を深めた皆様のことは私が語ることではないので――特に桜坂しずくちゃんには大きく影響を与えた模様でして。
や、かすみちゃんが「しず子が~」と言っていたのを私は又聞きしただけだから――詳しいことは知らないけれども。
そして長い間お待たせして申し訳ない――かのんちゃんと穂乃果と私との交流の話をこれからしたいと思う。
また過去回想かよと、言わないで欲しい――現在私は冬コミに出すエロゲー作ろうぜ! と、息巻いているところであるから。