朝は優雅な時間――妹が穂むらへ仕事に行くとなれば、では妹が最高のメンタルで職場に行けるようにと、日が上がらぬうちから気合を入れ、彼女にはおずおずとした態度で「そこまでしなくてもいいよ、お姉ちゃん疲れちゃうから」と。
どれほど夜更かしをしても、どれほど疲労が溜まっていても、では仕事をと考えれば、シャキッと気合が入り、妹にそこまでしなくてもいいと言われてしまう程に気合を入れる。
綺羅家での勝手がわからなかったから、自宅にいるのと同様に日も昇らぬうちから掃除を始めていると、ツバサがもぞもぞと起き出して、何をしているのと言われたので「掃除をしているの」と言ったら、早くもウチを自分の家のようにしているのね、と。
表情までは読み取れなかったけど、声色は喜色めいているので、殴り飛ばされずにいた。
手伝うわけでもなくソファーに腰掛けた彼女は「毎朝、掃除してるの?」って、言うから「掃除は毎日するものじゃないの?」と首を傾げる。
そんなのは暇人のあなただから、と言われると思いきや、彼女は感心したようにため息をつき「マメな性格をしているのね、穂乃果さんが一家に一台あれば便利と表現されるだけはある」
褒められているのかけなされているのかはわからないけど、ひとまずお茶をご所望みたい。
掃除をするのを止めて、手を洗ってからティーポットにお茶っ葉を入れ、細かな作業をしてからツバサにお茶を提供する。
「たしかに、一家に一台あれば便利ね」
「未来の世界では、絢瀬絵里型のメイドロボが作られるかも」
最初はもてはやされると思うけど、次世代の高性能機が誕生すれば、ロートルとして廃棄処分でもされるか。
金髪はコストが高くなるから、量産される暁には髪を地味な色合いにしよう――ツバサが笑いながらいい「そんなんじゃ私の要素が無くなるじゃない」と、苦笑いをするしかなかった。
「どうしてお茶の入れ方までマスターしてるの?」
「お茶をおいしく飲んでもらった方が、茶葉も報われるでしょ」
有り体に言えば妹のためだけど、ツバサが答えに満足しないと予測し、もう一つの理由を語った。
言い放ったのも嘘じゃない、食事を美味しく作るのもそう。
食品ロスと騒がれてるから、ではなく、命をいただいているから、命に報いるためにも、美味しくいただけるものを作る。
失敗して捨てられるようならもったいないし、奪われた命も報われない。
日々の感謝が生活を成り立たせている――忘れると、生活全体がささくれだつ。
「……耳に痛いわね」
「ごめんなさい、説教じみてしまったかしら」
「いや、切羽詰まってると感謝を忘れる――二人に付き合いきれないとされた原因がそれかも」
答えは二人にしか分からないし、私が聞いていい領分かも不明。
推測だけども、付き合いきれないからやめた――ではなく、他の理由があるはず。
言っても少し気分が紛れるだけで、問題の解決には至らない。
トップアイドルA-RISEが常勝街道を進み、あらゆるポッと出のアイドルや、似たグループを蹴散らし、アイドルといっても、歌手と言ってもA-RISE。
さすがに芸能人とくくると違うけれども。
輝かしい活躍をされる中「結婚するからアイドルやめる」とあんじゅに言われ、英玲奈にも「妹がスクールアイドルやるので」と言われ、ゴシップ誌やネットで不仲説がしきりに称えられた。
ケド、二人が離れてもトップアイドルとしての地位を保ってしばらく。
「アイドルはもういいかなって」
仕事をセーブし始めたのは「もういいかな」って簡単な理由だ。
人によっては潮時とか、ここまでとかの表現を用いる――体力気力の限界と、言う人もいるかも。
彼女は「もういいかな」と感じたけど、芸能界では彼女のトーク術と、交遊術は手離せなかったみたい。
なので仕事は続けている、家賃が払えなくなっても嫌だしと、ツバサは笑いながら言う。
「英玲奈にやりたいことをやれと言われてしまった」
「やりたいことをやれ、難しいわね」
「そうなの、手始めに弟の世話をして、二人にはそうじゃないと否定されたけど」
彼に対する溺愛具合から、やりたいことをやるの範疇だと思うし、やりたくないのを無理にしているとは言い難い。
でも、長い付き合いの両者が私でも気が付くのを、見ないふりでもしない限りは気がつく。
逃避だけど「そのうちわかるんじゃない」と励ますように言い、ツバサも感じているのか「わかるのかもしれないわね」と苦笑いした。
「お茶請けに何かない?」
「掃除をしているのに、棚は漁っていないの?」
「許可をいただければ」
「全部許す、弟の衣装タンスも漁っていいわよ」
家の中は自由にしていいと許可を頂いた――でも、さすがに思春期の異性の部屋をあれこれするのは憚られた。
ツバサだって、そこまですまいと冗談で言ってるに違いないし。
「ラブライブってアニメの同人誌を仕込んでおくから」
「それって、弟くんが読んじゃいけないようなやつ?」
「……ああ、そっか18歳未満禁止か」
かつて、μ'sの活躍をアニメにして、僭越ながら協力したけれども。
アニメに出演したスクールアイドルは「アニメのキャラの同人なので」と言い訳をされ、各人それぞれに、口にするのをはばかられる内容で活躍。
なお、私たちの尊い犠牲があり、Aqoursのアニメが放送された暁には「成人向け二次創作禁止」のお触れがなされた――それにあやかったのか、ブームが過ぎたのか、μ'sやA-RISEの各人が活躍する同人誌も下火になっている。
「A-RISEの同人誌だから丁度いいかなって」
「トラウマレベルよ、それ」
「仕方ない、後で部屋で読みましょう」
お茶請けを探し、茶葉もワンランクアップしたものを使ってもいいと許可をされ「彼女の舌を満足させる」お茶を飲みながら、ツバサの自室で「成人向け同人誌」を読む。
「や、本当に美味しいわ、このお菓子」
「誰からもらったの?」
「ベテランの俳優さんにもらった、食べてから感想を言ってあげればよかった」
ツバサの感想はその人を大変喜ばせ、提供されるお菓子の数は日に日に増えて行ったそう――食べていなかったので「これからは食べましょう」と言うしか……。