昆虫料理と呼ばれるものがある。
昨今栄養食として知名度を高めているメニューは、そこら辺に歩いている虫を、そのままの形でバリバリ食べているわけじゃない。
寮のみんなや、私の知人らはすっかり慣れてしまったけど、一般的には昆虫をそのままバリボリと食べることはゲテモノ食いに該当する。
普段訪れることがない寮において、果林ちゃんが昆虫メニューを食べているのを初めて目撃した宮下さん。
最初に悲鳴が聞こえた時、あ、また桜坂のお嬢様がとんでもない下ネタを吐いたんだなって勘違いした。
理亞ちゃんやツバサとにらめっこしながらエロゲーづくりをしていたので、感覚が現実に戻ってくるまで時間がかかった。
今は夏休み、登校している学生だって数は少ない。
部活で一生懸命になっている皆様か、家でやることがなくて、ここに居れば無料で食事を作ってもらえるからと。
食べ盛りの皆様が来訪される――ちなみに理事長からも「そんな生徒がいたら積極的に料理を作ってあげなさい」とお達しを受けている。
栄養バランスを考えれば若い子達が好む脂質や塩分の多いメニューを食べさせるよりかは、学園の食材を用いて美味しいものを食べさせた方がいい――との考えが理事長にはあるようだけど。
自分の部屋が魔法を使ったみたいにもとに戻り、結局妹が働く姿を見られないまま管理人室にこもるようになり。
果てには知り合いたちとエロゲーを作るようになったことに対して、彼女が含みがあるのは理解している。
その割には「自分の若いころは」と積極的にクリエイティブな作業に参加するけど、自分達を監視しているんだと思う――学生に参加させて、眉をひそめるような内容を見物させるよりかは、自分が盾になり、学生たちの参加を防いでいるのだと察している。
情報処理学科の一部の学生がゲーム作りに参戦しているのも、理事長が「こんなゲームを作ったら売れそう」と鶴の一声を出し「さすがに学生を参加させるのはまずいのでは?」控えめに進言する我々を「作るの問題がない」と黙らせたのは一体誰だったのか――私は何も覚えていない、記憶になければなかったこととして扱っていい。
世の中というのはそういうふうにできている。
――さて、最初の話に戻る。
我々がゲーム作りに邁進している時、高らかな悲鳴が聞こえたものだから、学生がとんでもない事をして、誰かがとんでもない悲鳴をあげる事態に陥ったのだ。
「きっとしずくちゃんが、とんでもない下ネタを披露して、みんなが冗談半分で悲鳴をあげたんですよ」と理亞ちゃんがいつものことのように言ってのけ、感覚が鈍っていた私も「そうよね」と反応したけど、お嬢様が下ネタを披露されるのはいつものこととはいえ、あのように高らかな悲鳴をあげるのか――と、腑に落ちない部分はあった。
聞こえてきた悲鳴は真に迫るような……いわば、危機的状況に陥ったなにがしかが、助けを求めるようなものではなかったか。
「ちょっと見てくる」と、中座した私に「ならば自分達も」と二人が同行しようとした。
「子どもじゃないんだから一人で行ける」と言った私に向かって「子どもじゃないんだから言うことを聞け」と反論されれば、風の前の塵と同じレベルの人権しかない私は「分かりました」と頭を下げるしかない。
学生のみんなが使用する食事をする場所に向かっている時「そういえば今は夏休みだから」と思い出したようにツバサが言い「聞いたことのない声だった気がする」とさらに付け加える。
確かに私の「聞いたことのない声だった」と認識し、有益な意見を言ったと言わんばかりにドヤ顔かますツバサに、理亞ちゃんは「あまり調子に乗られていると、ラブライブ予選で敗退してしまいますよ」と自身にも当てはまるディスを加えた。
大好きな姉様と参加したラブライブ予選にて、自分のミスで敗退という結果に彩った以上。
さすがの我々も「そうよね」とも言えないし「揚げ足を取って反論」もできない。
自虐的なディスは攻撃力が高いと察したのか、理亞ちゃんも「今のは適当な言葉ではありませんでした」と謝罪する。
そして食堂に現れた我々が目撃したのは、わなわなと震えているギャル――そう、悲鳴の主は「宮下愛ちゃん」で間違いなく。
彼女がどうして悲鳴をあげたのかといえば、朝香果林ちゃんが三船栞子ちゃんに作ってもらった料理を食べていたから。
前置きが長くなったけど、寮の中ではすっかり「ゲテモノを食べているのに読者モデルとしてますます評価を高めている」とネタにされる朝香果林さんと。
ギャルになったのは高校に入ってからで、中学時代は地味な外見をしていて、さらに小さい頃は泣き虫だった宮下愛ちゃんがユニットを結成する話。
そうなんだけど。
コトの始まりが、昆虫を貪っていた果林ちゃんを目撃した愛ちゃんが高らかに悲鳴を上げたってのが、この騒動を目撃していない一同に説明する時、一番の難題になる。
特に愛ちゃんの評価が高くて、強く慕っている天王寺璃奈ちゃんに「DiverDiva」結成のエピソードを語ると、明らかに「嘘をついている」と言わんばかりにじっと見られてしまう。
愛ちゃんが恐怖に怯えて、ギャルメイクが取れかけるほど涙を流したっていうのが、弱点を知られたくない彼女が積極的に情報を流布しない原因かな。
一見すると強そうで、ユニットのステージを見れば、たくさんの子が「SaintSnow」を思い出すけれども。
自分が抱いている恐怖とか不安を「理想の自分が演じるステージを行なうことで解消する」二人が、気高く強く最強のユニットを目指したSaintSnowと一緒にされるのは……あまり気分が良くないけれども。
何と言うか果林ちゃんと、愛ちゃんの二人はとてもよく似ている――本心を隠したがるのもそうだし、周りからよく思われたいと考えるのもそう。
いつしか彼女達も成長して「見栄を張らなくてもいいや」と考えるようになったら――それはそれで困ったことになりそう。
「漬物はコオロギと相性がいい」そんなことを言いながらぬか漬けを食べる愛ちゃんと「この塩加減がやっぱりいい、栞子は昆虫料理のプロね」と大好物のトンボを食べている果林ちゃん。
うん、やっぱり理想の自分を演じて、見栄を張って頂いた方が周囲も落胆しないですむ。
二人って普段からとってもかっこいい会話しているんだろうなっていう、ファンの期待が損なわれてしまうし――