涙でメイクが剥げてしまったので、黒く焼けたパンダ状態になった愛ちゃんに対し「ゾンビ映画に出演するつもりか」とツバサが言い、もれなく彼女はメイクを落とす事態に陥った。
何で彼女が悲鳴をあげたのかわからなかった果林ちゃんに「食べているものに驚かれた」と告げたら「確かに、ファンの前で木に登って蝉を取って食べたら悲鳴をあげられた」と。
エマちゃんがいたら、なぜそんなことをしてしまったのかと怒られたに違いない。
彼女がちょうどスイスに帰国していてよかった――果林ちゃんに低音ボイスが直撃しないでよかった。
「数少ない声ではありますが、ナチュラルなところがいいとの評判が彼女にはありますからね」
ナチュラルとは自然体でいるのが、一般的に「彼女はナチュラル」的な表現だろうけど。
果林ちゃんがナチュラルとは自然体とするより、野生児と表現されたのが適切ではと考える。
「わだすの料理があまりにまずそうだったからいけなかったかな」
心配な声を上げて、眉をひそめて不安そうな表情をする栞子ちゃんには、「昆虫料理は、ハイカラな女子高生には難しいと思うから」と、安心させるように声をかける。
「よかった、わだすの昆虫料理のレパートリーが増えた動画のアクセス数が極めて少なかったから」と言われ、何をやっているのかとツッコミを入れる前に「そうね」と笑みを浮かべながら頭を撫でる。
頬が引きつっていないか不安だ――ラブライブ公式サイトから不適切な動画として槍玉にあげられないかも心配だ。
もしも何かあったらラブライブ運営に繋がりがあるニコかA-RISEの皆様に土下座をして「知らぬ存ぜぬ」を強調するように願いでなければ。
「うう、愛さん、スッピンで人前に出るのは恥ずかしいよ」
理亞ちゃんに「あなたにメイクを何とかできる技術はあったんですね」と言われ、ツバサが苦笑いをしながら「私を一体何だと思っているの」と返答し「キングコングですよね?」
すぐさま殴り合いの喧嘩が始まるかと思いきや「キングコングだってメイク術ぐらいは身につけてるのよ」と大人な対応。
そこは「キングコングではないわ」と否定しなければいけない。
A-RISEのリーダーがキングコングであることを認めたら、彼女に憧れるスクールアイドルが「自分はキングコングになります」とか言い出し、ラブライブ運営からこっぴどく怒られる事態に陥る。
「女子高生なんだからスッピンのひとつやふたつ、見栄を張ってファンの皆様に提供しておきなさい」
「そうですよね、キングコングのすっぴんは見るに耐えないでしょうから」
見るに耐えない代物かどうかはともかく、確かに高校生くらいの年齢なら化粧をせずにそのままでも十分可愛い。
愛ちゃんは人に見せられないと言っているけど、それで見せられないかなったら、多くの人間が素顔を見せられないはず。
ただ、彼女が恥ずかしく思っているなら「そうじゃないよ」と告げるよりも「ギャルメイクはとっても可愛いものね」と安心させなければ。
「μ'sのメンバーは、アニメで白塗りになってましたよね?」
「……あれは現実ではないけど、似たような事はやった」
あの場面が放送された時、事情を知らない雪穂ちゃんは「こんなことするわけないもんね」と姉に告げたそうだけど、言われた当人は頭を抱えながら「あのエピソードは使わないでって言ったのに」と。
当時、自分達とは縁がなかったけど「ヤマンバ」と呼ばれるメイクが流行っていて「A-RISEに勝利してラブライブに出場するためには、自分達も目立たなくちゃいけないんじゃない?」とリーダーが言い出し。
周囲で流行しているものだから「ちょっとやってみたい」と考えてしまった我々は、出来る範囲でヤマンバになって見せ、すぐに生活指導の先生に見つかり、生徒会長を務めていた私はこっぴどく理事長から叱られてしまった。
生徒会長としての評判に悪いものが付け加わったけど、ステージの上で映えるメイクの方法に着目するようになったので。
何気なくA-RISE打倒の一因になったイベントだと思っている。
そんな風に何気なく入ってみたら「実はA-RISEもヤマンバには挑戦したことがある」と告白してくれた。
彼女達としても「流行しているのだから取り入れる要素があるのでは?」と考えて「ではやってみよう」と。
やってみたら自分達のパフォーマンスが色物にしか見えなかったので、生徒達に披露されなかったけど。
もしも彼女達が「ステージにそぐうメイク術を自身でも勉強しよう」と結論づけていたら、μ'sの勝利はなかったかもしれない。
SaintSnowにそういうエピソードはないの? と尋ねてみたら「姉さまがよっちゃんのキャラ作りにハマりまして」と、中二病キャラとしてステージに立ったことがあるらしい。
妙にハマってしまったのか、ファンからも喜ばれたそうだけど「自分達は色物にはなりたくない」と正気に戻り、 中二病キャラは何回かで卒業したけれども。
もしもそれ以降中二病扱いされるような――色物扱いされるようなステージをしていたら、気が抜けて自分は失敗しなかったかもしれないと、理亞ちゃんは苦笑いしながら語り。
何が成功につながって、何が失敗につながるのかわからないけど、何かをすればこうして話題の種になる。
「そ、それでカリンは、なんでそんなものを食べてるの?」
「そんなものですって?」
愛ちゃんの反応は極めて当然だ――木に登り蝉を取ってきて、マヨネーズをつけてバリバリ食べてしまうほうがおかしい。
だけども果林ちゃんの中では、自分が死ぬほど美味しいと思っているものを、食べもしないで否定されたのが気に障ったよう。
一般的に誰もが食す料理を「まずそう、食べたくない」と否定されれば「反感を買う」のは当然だし、自分たちだって「理解を示すのも大事なんじゃない」 とフォローするけど。
果林ちゃんの食べているのは、一般的に食されない、他の人からすればゲテモノ扱いされる代物。
案外子どもっぽい果林ちゃんに「愛ちゃんの反応が一般的よ」と窘めたところで「そんなことなか! わだすの中ではこれは世界一美味しい料理だとよ!」と地元の言葉を使って反発されるのが必然。
「食べもしないで、美味しく食べられる料理を否定するとかなんだとね! それでも食べ物屋をやっている娘さんか!」
感情が極まるとどこの方言なのかわからない言葉遣いになり、マシンガンのように口から言葉が飛び出てくるけど。
もんじゃをやっている「みやした」の娘さんとしては、人が美味しく食べているものを否定した自分には思うところがあるようで。
よくわからない表現と言葉遣いをしてエマちゃんから「もうわかったよしょうがないなぁ」みたいに折らせてばかりだったから、相手が気にするポイントを的確に指摘し、自分の良い方向に話を進展させる技術があるとは思わなかった。
つまり、エマちゃんが彼女にとっては特別で、何を言ってもエマちゃんは折れてくれるって信頼から「よくわからない言葉と表現」を使ってたのだと考えると。
実は果林ちゃんは勉強が苦手なだけで、地頭は極めて賢いのかもしれない。
「栞子! 愛のほっぺたが落ちてしまうような! とんでもない昆虫料理を作ってあげて!」
「わ、わかった! 待ってて! 姉さんに食材を持ってきてもらうから!」
ちなみに栞子ちゃんが「姉さん」と呼ぶのは、クマの神様のこと。
虹ヶ咲学園にやってきた教育実習生として、今でもちゃっかり在籍しており。
「教育実習生なのに教育実習しなくていいの?」「なんで教育実習生のくせにそんなに偉そうなの?」と周囲からネタにされながらも、理亞ちゃんのお菓子を使って脅せば、テレポートしてパシリをしてくれるので重宝されている。