μ'sのメンバーは輝かしい活躍をしている――と語った。
雪菜クンに勉強を教える手を一旦止め、みんなは本当にすごくて、と話すと、不思議なものを見る目で彼が視線を送る。
もしかしたら、輝かしい活躍まで時間のかかった希を怪訝に思っているのかも――確かに彼女は売れっ子ユーチューバーになるまで、まわり道をしたし。
グループの中で唯一「絢瀬絵里に金銭面で世話になり」「絢瀬姉妹が住むアパートに同居した」短い時間だったけど。
希は大学三年生で有名企業に内定し、エリちが就職できなかったら養ってあげると、大きな胸を反らす。
が、卒業後三ヶ月で「なんか違う」と一言残し仕事を辞めた。
それから住んでいたアパートのランクを下げ、貯金を切り崩しつつ、路上で占いをやって稼いでいた。
でも、貯金が尽きるスピードが早く、彼女は私に助けを求めた。
助けを求められれば何とかしようとする――けども、家賃は折半でも負担が大きく「ならウチに住めばいいんじゃない?」と誘いをかける。
その言葉を待ってましたとの笑みに、少々後悔したけど「就職先を見つけて働くこと」「長い間はダメだからね」と厳しく言い放ち、希も背筋を伸ばし。
「μ'sのメンバーに知られれば何とかしようと思うハズ」と、希に言われて、卒業年の二年生組や、すでにコスプレ業界で高い評価を得ていた真姫や、タレントとしてデビューしたての凛、四年制の大学に通いながら、ルビィちゃんの家庭教師をやっていた花陽。
――家庭教師をやっていたけど、ルビィちゃんは大学に進学せずローカルタレントとしてデビューし、地元で高い人気があり。
花陽も黒澤家から傘下の企業にと就職の斡旋を受け、都内での就職活動で芳しい結果が出なかったのもあり、お世話になるのを決めた。
いまはルビィちゃんのマネジメントをしながら、二人でステージに立つことも。
話がズレたけど、希の言うとおり、他のメンバーに迷惑をかけるのも憚られた。
「短い間しか保たなかったんですよね?」
「五時間」
雪菜クンが驚いた顔を見せる――きょうび子どもだって長く秘密は保てる。
誰がバラしたわけではなく、思わぬところから感づかれた。
希が就職先を唐突にやめたことは、みんなが把握し。
長く連絡がないのは、共通の心配事。
他のメンバーからすれば「困ったら絢瀬絵里に泣きつくはず」と見当をつけていた。
希をアパートに住まわせて三時間経ち、他のメンバーには連絡しないと決めていた頃。
アプリに海未からのメッセージが届いた――なんでも、自宅に赴きたいとする内容で――
赴かれれば当然そこには希が居付き、「何をしているんですか?」と彼女が追求される恐れも。
言い訳にめぼしいものがなく「部屋の掃除に時間がかかって」と慌てて送った。
気分を改める時に部屋の掃除をするのは、みんなが知っていたから。
「どうして感づかれてしまったんですか?」
「時間が問題だったのよ」
希が来訪をして数時間、日はすでに落ちていた。
いかに掃除をするのが好きな私も、夜間の清掃は他の住人に迷惑がかかると気がつく。
海未の推理は的確だった、掃除に時間がかかっているで、希が家にいると察した。
「また日を改めてと、来たから……油断していたわ」
「日を改めて来るんですね?」
仲がいいと言いたげだ――や、海未や真姫が何かあるたびに来るだけで、みんながそうじゃない。
世話を焼いている関係で、自分が家に赴くので、家に来られるのは困るのかと言われるとね?
繰り返すけど、凛とことりは格安で使えるハウスキーパー扱いしてるからね、仲のいい人を「アゴで使えるメイド」とかフツウ言わないしね?
「家に上げてしまったんですか?」
「セキュリティを突破されてしまってね」
――大したものじゃない、インターホンが鳴った瞬間、嫌な予感が胸をよぎり、慌てて施錠し、チェーンもかけた。
希に押入れの中に隠れてと呼びかけ、妹にも「知らぬ存ぜぬ」を強調せよと。
痕跡を隠すまでに時間を用いたのが失敗だった、対応している間に鍵を開け、チェーンも突破した海未と真姫が家に上がり込んできたから。
冷静に応対しようとしたけど、海未に亜里沙を人質にとられ、シスコンの私はあえなく投降した。
押入れに隠れていた希は抵抗やむなく引っ張り出され、そのまま園田道場に連れ去られた。
「希のたるんだ精神を何とかします」と私には事後報告だけがなされ、彼女はしばらく園田家の事務員として働いていた。
真姫の思いつきで地元を宣伝するユーチューバーになるまで、金銭面で苦しい生活を送っていたとか。
――や、苦しい部分はお金じゃないとは思うけど、みんながしきりに「お金」と……
「さ、休憩終わり――でも、あなたが優秀で助かった」
「不思議なんですけど、どうして、僕の家庭教師ができる学力があるんですか?」
「え? 中学の内容なら覚えてない? ツバサも覚えてるって言うと思うけど?」
首をかしげる私を怪訝な目で見つめる雪菜クン――誰でも出来るんじゃないとの説明が腑に落ちなかったか、勉強後の食事の折、ツバサに「中学の内容は覚えてます?」と尋ねた。
「覚えているけど?」
「そうよね、中学校……や、高校も行ける?」
「どの教科も、ってわけじゃないけど、ある程度は」
「そうよね……」
会話をする私たちを珍獣を見る目でみた雪菜クンは、どうしても「それはおかしい」 と言いたかったらしく。
後日彼は英玲奈に連絡を取り、結果「お前たちはおかしいと自覚しろ」とお説教を粛々と受けた――
さなかに放たれるツバサの嫌味を「お前の弟に呼びつけられたからな」の一言で受け流すさまを観「対応が手馴れている」と感心した。
残念ながら、私にはできそうもない――少々嫉妬している。