アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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 ロープに追い込まれた私が、リア鹿角に足を取られそのままドラゴンスクリューを決められた。

 レースクイーンみたいな衣装を身にまとった金髪ポニーテールは、彼女の技でひっくり返った。

 

 虫に這われた大木の如くドデンとリングに倒れた私は、今まで見ていた景色がだんだんと遠ざかるのに気がついた。

 意識を失おうとしているのだな、と、遠ざかっていく景色が私を見下ろしているもんだから、そんなふうに考え。

 

 

 ――そして一番最後に見た景色が、教育実習生なのに教育実習をしていない、栞子ちゃんのお姉ちゃんとして学園に在籍している三船薫子サンだったのは、なんとなく気に入らない。

 

 さぞかしかっこ悪いものを見たのだろう、こちらを嘲るように笑っている――後輩にドラゴンスクリューを決められてひっくり返った金髪ポニーテールなど、確かに笑える――だけども覚えておいてほしい。

 

 人を嘲るように笑えば、必ず誰かから報復されるものだ――誰かであって自分ではないのか、ツバサならツッコんでくれるはず。

 

 どこを見回したところで、残念なことにA-RISEのデコのセンターは見られず。

 慢性的な消化不良とはこういう感覚なのだろうな――胸を疼くモヤモヤをそんな言葉で表現してみる。

 

 生憎と胃腸は頑丈なものだから、胃薬片手にもうのい心持ちを抱えたことがない。

 

 

 

 毎朝毎度同じ時間に目が覚める――とは言え起き抜けの気分は良くなかった。

 新体操のユニフォームみたいなハイレグで、いかにも悪役みたいなメイクをした理亞ちゃんに、足を持たれてドラゴンスクリュー決められたのだ。

 

 意識が遠くなっていくときに見た景色が教育実習してない教育実習生。

 百歩譲って心配そうな表情を浮かべていたらともかく、ニンマリとした笑顔で蔑まんばかりに見下ろしてくるのだ――これが、知人だったら、自分に原因があるんだろうなって考えることも。

 

「眠りすぎたかな? 体が痺れてる感じがする……」

 

 よもや本当にドラゴンスクリューを食らって倒れたわけではあるまい。

 もしもあれが現実だったら心配そうな表情を浮かべた理亞ちゃんが近くにいるはず。

 弱すぎるからあんな奴ほっておけと彼女が結論づけても、では自分が看病しますのでと海未あたりが放ってはおくまい。

 

 繰り返すけれども放っておかれたのならば、放って置かれる自分自身に原因がある――改善のためには自らの努力が必須だ。

 

 両手両足を生ぬるい泥の中に包まれたような感覚を、手足を振って振りほどき、私はカレンダーの日付を見て思わず呆けた。

 

「夏休み開始の日?」

 

 果林ちゃんには「もうすぐ夏休みが終わるけど宿題は終わった?」と声をかけた。

 彼女は思わず見とれてしまうような美少女フェイス。 唇の端をあげて余裕のある表情を浮かべながら「エマと栞子に手伝ってもらったわ」と胸を張っていた。

 

 何一つ胸を張るような事実はないけれども、彼女がその豊かな胸元を見せつけるように大胆に張ってみせた。

 エマちゃんはまだ同学年だから分かるとして、栞子ちゃんは他の世界にいる「しおりこ」ちゃんの協力があったとはいえ、2学年も下の生徒に宿題を手伝われたことには、ネガティブな感情を抱いてほしい。

 

「実は宿題が終わってなくて……寮のカレンダーを全部夏休み開始日にしたのか……」

 

 勉学の方面では劣等生極まりない読者モデルさんだけど、悪知恵と言うか、どう動けば自分が困らないかって考える時には抜群の才覚がある。

 大体先回りしてエマちゃんが阻止するので「ちょっと頭を冷やそうか」と怒られるだけで済むけど。

 あのような立ち回り方は私にはできないので「学んでおきなさいよ」とニコには苦笑いしながら言われている。

 

 カレンダーを用意するコストと、バレた時のリスクが大きいけど、もしも果林ちゃんが宿題が終わってなかった場合。

 カレンダーを用意している間に宿題をやれよ! と言いたくなる行動も分からなくもない。

 

 どうあがいても逃げられないことに対して、変な行動をするのはままあること――残念ながら私にもたくさん経験があるし。

 

 ツバサが「私は天才だからそんな経験はない」と嘘をついたら「格闘ゲームがやりたくなって変装してゲーセンに行って、案の定正体がばれた時に双子の妹だって嘘をついた」って言うから。

 当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで世間を席巻していたA-RISEのリーダーでなかったとしても、血縁者であれば注目を集めるに違いない。

 

 私がすかさず全力ダッシュで彼女をお姫様抱っこをして抱えて逃げたけど「クレジットがまだ残ってたじゃないの!」と怒られてしまった――照れ隠しもあるんだと思う。

 

 や、あの時のことは迂闊な行動と一緒に英玲奈に死ぬほど怒られたらしく「助けてくれた絵里に対して感謝をしないとは何事だ」とも怒鳴られ、思わずトイレに引きこもりたくなるほど怖かったとか。

 

「や……でも、スマホの時間まで変更はできないはず」

 

 手荷物のスマホを確認してみれば、日付は海の日をさしており、彼女がすごい技術を使ってスマホの時計の設定を変えたとしても、やはり後から「そんなことをしている暇があったら宿題をやれ」と怒られるに違いなく。

 

 ――私は正直どうやったらスマホの時間を変えられるのかわからないので。

 「ちょっと方法を教えて欲しいんだけど」って言い「絵里ちゃん本気じゃないよね?」とエマちゃんに言われてオチをつけることも辞さない……どうやってんのこれ。

 

「……でも、朝食は作ってあげないとね」

 

 なんとも説明じみたセリフ――二の句も告げられないような言い訳とはこのこと。

 こんなんじゃいたずらをした果林ちゃんを責めることなんか絶対にできないな――と、自室から抜け出し、歩く途中で壁に立てかけてあるカレンダーも確認したけど、マグネットがちゃんと海の日にしてあって「芸が細かい」と感心した。

 

 夏休みも終盤となれば寮に帰宅する学生もいる――ちゃんと寮生の予定は把握しておくようにと理事長には厳命されているし、

 

「あれ、絵里ちゃん夏休み始まって早々お仕事?」

「夏休み始まって早々?」

 

 妙な発言に振り返ってみれば「家に帰って絵里ちゃんの料理が食べられなくなるのが悲しい」と言ってた女学生――かすみちゃんのファンで「コッペパン同好会」なるものを作ろうとした。

 

 当然気真面目な生徒会長さんには「何をする同好会なんですか」「なぜコッペパン同好会なんですか」とツッコミを入れられ、すげなく却下されそうになるも「流しそうめん同好会を許可したあなたにそんなことを言われる筋合いはない」とコペ子ちゃんの見事な逆襲もあり。

 

 

 普段とはまるで違う口調に「か、かすみさんのファンは過激な人が多いですからね」と方針転換――いつの日かお台場のガンダムの代わりにかすみんを作るつもりですと胸を張っているコッペパン同好会の未来は一体どこに向かっているのだろうか。

 

 あと、コッペパンの作り方を教えて欲しいと、同好会設立の後に言われて「当人に教えてもらえば」と言ったら「いいものを作ってかすみんを喜ばせたいんです!」って。

 

 あ、さっきついついコペ子って言ってしまったけど――彼女が「本名で呼ばれるより嬉しいです」と。

 「かすみさんのファンは過激な人が多いですからね」と菜々サンが言っていたけれど……よもやそこまで。

 

「コッペパンの先生の絵里ちゃんの料理がしばらく食べられなくなっちゃうなんて、今日の朝ごはんは噛み締めて食べるね」

「え、ええ……?」

 

 とはいえ期待をしてくれているのだから――様々な疑問は頭に思い浮かぶけれども、夏休みの初日に別れて以来の学生たちが続々とやってきて「今日は一生懸命食べるから」なんて。

 

 そして一生懸命料理を作ってたら「今日は海の日。そもそも夏休みの終盤っていうのが勘違いだった」と思えてきた。

 




タイトルの理由は誤字脱字の修正が楽だからです!(そもそもするなよ)
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