しずくちゃんに真姫との交渉を頼まれ。
「なるほど……協力をしてあげたいけど、さすがに今日明日で合宿は」
社会人として真っ当に「仕事があるから難しい」って。
スケジュールに穴が開いてるんじゃないかと疑うほどに、度々ニジガクへやってきては学生のみんなから「元μ'sの人だ!」って喜ばれる。
「あれー? 元μ'sはここにもいるわよ~?」と金髪(最近ショートになった)と黒髪(たまにツインテールにする)は嘆いたけど。
私の通話を眺めていた栞子ちゃん、ランジュちゃん、ミアちゃんのいつもの三人組は何かを示し合わせるように頷いた。
同好会のみんなが練習に来る前――もっと言うならしずくちゃんが来校する前に彼女の元へと赴こうとした。
すると、校外へ出ようとしていたのか理事長と鉢合わせし「お疲れさまです組長!」と冗談で言うと。
彼女は頬に傷があるのではないかと疑問を抱くほどに恐ろしい表情になる。
「ポニーテールがないからアイアンクローしやすいわぁ」と、握りやすいと評判の私の顔面を指で潰そうとし。
ソレを目撃した学生から「また理事長が絵里ちゃんいじめてるよ」と。
ココまでがいつもの交遊録、たまに本気で勘違いされそうになるとか「だったら疑われ……」痛い痛いっ!
「どうしたの絵里ちゃん、東京湾に身投げするにはまだ早いわよ」
「そんな機会は永遠に遠慮したく」
早い遅いだと、まるで私に東京湾に身投げする機会があるみたい。
理事長は感心したように「そういえばそうね」と呟き、素で共感したことを隠すように咳払いを一つ。
「ねえ、ちょっと仕事を一つ頼まれてほしいのだけど」
「もちろんお給料は弾んでいただけるんですよね?」
「ってことはやってくれるのね?」
「地獄の沙汰も金次第というではありま……痛い痛い!」
トークを長引かせて逃げようとする金髪の目論見を、理事長はアイアンクローで握りつぶす。
ちょっとそこの学生さん、スマホで何を撮影していらっしゃるのかな? 見世物じゃないんですよ?
「で、何をすればよろしいので?」
「ええ、ちょっと娘”たち”を連れて温泉旅館に」
「……わ、わーい、私の日頃の労苦を慮って、休暇旅行につれてってくれるなんて嬉しいなぁ」
「では用事を思い出したので」と逃げ出そうとする私を「どこに行こうというのだね」と校外に出ようとした目的の桜坂しずくちゃんが言葉で静止。
そのラピュタ王(未遂)のモノマネがめちゃくちゃ似ているんですケド、いったいどこで披露する機会があったの?
諦めたように両手を掲げ、降参のポーズを取ると、ゾロゾロとこの度の企画の参加者が登場。
――なお、右腕を栞子ちゃんに左腕をランジュちゃんにだきまくらにされているミアちゃんは、ラブラローさん(仮名)の参加を知らなかったようで、合宿場に到着してからも「逃げる!!!」と連呼していた。
ケド、しずくちゃんに「こんな山間の温泉旅館から、どこへ逃げようというのだね」と脅迫され、学業に関して聡明な彼女は逃げ場がないことを知り、諦めたように両手を広げ、女の子が口にするのはかなりやばい単語を何気なくつぶやき、海未からアイアンクローを食らっていた。
「いやぁ、顔が小さいから握りやすくていいですね!!!」と海未は「ちょっとはしたない単語」をつぶやいたミアちゃんの顔面を握りつぶそうとし。
真姫にも「女性には品格というものが」しずくちゃんにも「口にする言葉で人はできている」とステイツさん(仮名)は注意をされていた。
喧騒をスルーし、旅館で買われているネコのちくわぶを撫でながら、璃奈ちゃんと一緒になって「いいライブができるといいわね」ってかすみちゃんに言うと。
彼女は苦笑いしながら「りな子もソロで」と言い――ああ、天王寺璃奈ちゃんがこの場に連れてこられたのってそういう……。