山間に建てられた旅館にバスが到着した時、おかみさん達は気が気でなかったとか。
理事長が「高貴な方々がお泊りになる」と電話をかけ「いたずら電話だ」と皆さま思いつつも準備を重ね。
彼女が娘のためにチャーターした、リムジンバスが駐車場に停まり。
「これはよもやすると、ひょっとするのでは?」と従業員一同背筋を伸ばされた。
ところが。
一番最初に降りてきたのが「本日の主役」と書かれている。
右肩から腰のあたりにたすきを掛けた中須かすみちゃん。
やはりデマだったのではないか、と皆様心配されたけど、次に降りてきた人間を見て一度恐縮した。
かすみちゃんに異常な愛情を深めていると評判の桜坂しずくちゃんを、従業員の一人が存じていらした。
我々は宿に着いた瞬間にコントみたいに盛り上がり、部屋に向かおうとした矢先。
お客様のお部屋はこちらになっておりますと、恭しく頭を下げた大女将に案内され、たどり着いたのは宿で一番上等な部屋。
そう、大女将はかつて若かりし頃のしずくちゃんのご両親を女将として案内したことのあるベテラン。
「へえ、ここで私が仕込まれたんですね」と言おうとしたお嬢様の口を抑えるのに必死だった。
大女将が涙ぐみながら「大きくなられて」と語っているエピソードの感想が「ここで子作りしたんだ」ではあまりにもいたたまれない。
ともかくみんなで泊まる部屋はジャンプアップする。
なお練習場所は自然の中になっている。
大きな声で歌ったり踊ったりすると思っていたかすみちゃんと璃奈ちゃんは「同好会のメンバーは行きたがらないわけだ」と震えた。
つまりは、私以外は参加メンバーも参加場所も知らされており、参加するかしないかは個人の意思に由来すると確認できた。
なぜ私だけ人権をないがしろにされるような、とため息をついたら、いつのまにか背後についていた真姫に「愛されているわね」と、孫を眺めるようなおばあちゃまみたいに、目を細められた。
扱いが完全に年端も行かない子供みたいだけど、あえて何も言うまい。
森の中の練習場で――もちろん練習場とは間違っても言うことができないほどの自然の中で。
鬼教官であられるしずく嬢は、一年生組を前にして高らかに宣言をする「貴様らはゴミだ!」と言ったあとですぐさま。
「本当にそう思っているわけではないのであしからず」
と訂正を入れてくれた――私たちも誰一人「一年生組をゴミ」と考えていないことは容易に想像がつく。
彼女は口ではひどいことを言うものだけど、その内面みんなをとても大切に思っており。
頑張りや努力は報われることが約束されていると常々言っているし。
繰り返すけれども、世間では頑張りや努力というのは結果を残さないと認められない。
どちらかといえば頑張っているとか努力しているとか言っているのに、何もしていない連中のせいでそんなことになっている。
教官役を務めるしずくちゃんは、細めの長い棒を持っている。
私や真姫はあれで何をするつもりなのか理解しているし、海未にも「かれこれこういう事情で」と説明してある。
耳元で囁いたら「私は耳が性感帯なんです」と、生徒会役員共の生徒会長みたいなセリフを言ったけれども、何か私に含むことでもありますか。
「貴様らは……まず声の出し方がなっていない!!」
ちなみにこれ真姫や私が及川さんから、一番最初に言われたこと。
キサマなどと彼女の旦那さんが仕事で使う台詞は、言ってはいないけれども。
真姫からの受け売りであるのも違いないけど、声の出し方がちゃんとしていないって言うのは私も、真姫もよく知っていた。
演劇部出身の彼女がそこら辺が気になるのは仕方がない。
海未が「そうなのですか?」と真姫や私に言ってきたので、本職である真姫に対応を任せた。
「発声にもプロとして技術がある」「弓道でも日舞でも、一般の人ができないなにがしかがあるようにね」最初の発言では海未はピンとくるものがなかったのか、真姫が続けて説明する。
その言葉に「私の不明を詫びます」と頭を下げる海未。
誰かはただ声を出すだけだと言って馬鹿にするかもしれないけど、ただ声を出すだけでも様々な技術がある。
例えば人間の発声で一番邪魔になっているのが舌――これを何とかするだけで、声の大きさは5倍にも10倍にもなったりする。
スクールアイドルとしてそれらに技術を磨いてきた私たちでさえ、声優のプロが語る声に関するトレーニングは、自分たちが本当に技術もへったくれもなく努力や頑張りだけで突き進んでいたのだと認識する。
ただしずくちゃんが持っている細い棒は――それ以前の体の使い方であるとか――呼吸法に関連する指導のためのものだ。
はたして及川さんが使っていた言葉を、しずくちゃんが言ってのけることができるんだろうか。
……できるんだろうなって思っている。
友人達の為ならなんだってするような彼女。
すごく恥ずかしい言葉だって言ってのけるに違いない。
「足場の悪い地面で立っているのも難しいだろうけど……まずは踏ん張ってみせみようか」
地に足をつける――この程度ならまだ誰に聞かれても問題はない。
踏ん張るって言葉がどういう意味を指すのか、海未はまだ知らないものだから「地に足をつけるとはいいところに目を付けましたね」と、感心したように言っている。
私たちも「確かに地に足をつけるって言うのは大事だものね」と及川さんのトレーニングの前には思ったもの。
「よし、そして次はお○ん○んをセンターに!」
いきなり伏せ字が入るような表現をするお嬢様――及川さんにはもっと過激なセリフを言われたけど。
さすがのしずくちゃんも口にするのははばかられたんでしょう。
ちなみにこれ「下腹部に力を入れ前に向ける」 ってことで、別に「おちんち○」をセンターにすることじゃない。
……ちなみにこの後「おち○ちんを揺らす」感じでと、下腹部に力を入れるトレーニングとかさせられたけど。
「ほら!!! 皆さんできていませんよ!」
「……しずく、私たちにはないものをセンターにするのは無理」
恥ずかしかっているメンバーの中で、唯一ランジュちゃんが正気を取り戻して、毅然とした態度でツッコミを入れる。
ちなみにこの発言、真姫も及川さんに言ったものだ――おそらくこの後の発言は、及川さんにあやかったものになるに違いない。
「仕方がありませんね……おま○ま○をセンターポジションにしてください!!!」
「ま……!?」
普段から下ネタが多い彼女に慣れている一同とはいえ、そこまで直接的な表現をすることはなかった。
ミアちゃんはあからさまに「なんであいつをアイアンクローしないんだ」と言っているけれども、海未も呆然としてしまってそれどころではない。
真姫や私はちゃんと意味のあるトレーニングだから黙っているだけで、それとお嬢様にも同じことをやってもらうつもり。
逆襲される機会が分かっているから、暴走もある程度は見守ることができる。
「ほら、璃奈さん! おまんま○をセンターにしてください」
「……こ、こう?」
「かすみさん!!!」
「わかってるよ! トレーニングなんでしょう!」
しずくちゃんが趣味や性癖で言っているわけじゃないのはみんな分かっているので。
しぶしぶといった態度をしながら、恥ずかしそうに下腹部をセンターポジションに向ける。
正直な話この後で何を言われるかわかっている私たちとしては、友情が崩壊しないか心配でならない。
「次にケ○アナを締め上げろ!!!」
「!?」
海未が驚いたように私や真姫の顔を眺めるけれども、これもまた及川さんから受けたトレーニングの一環だ。
ちなみにこれ肩の力を抜くためのトレーニングでもあるし、下腹部に力を入れて横隔膜を上下させるためのものでもある。
ほら、おトイレを我慢している時に両肩に力が入っている人っていないでしょう? 大きいのを我慢している感じになると怒りも雲散霧消するものだし……って、言われたんだけど。
ちなみにケ……力を入れると発声にも影響がある。
瞑想をする時の呼吸法にも役に立つそうなので、興味がある人はぜひ調べていただきたい。
しずくちゃんの名誉のためにも。
「できていない人は、この長い棒で突き刺すつもりですから!!!」
そのための長い棒――及川さんは棒なんて持ってなくて、指だったけれども、さすがのお嬢様も指を友人のア○に突き刺す覚悟はなかったらしい。
私も真姫も「できてない!」って言って、何回か突き指された。
そのおかげで出来るようにはなったけれども、何か大切なものを失った気がする。
「みんな安心してちょうだい、しずくが例を示してくれるから」
真姫が棒を片手にみんなを指導しようとしているお嬢様の前に出。
なんとなくイメージができないのか首をひねっているメンバーの前で、にこやかに微笑んでみせる。
ちなみにだけど彼女は棒なんて生易しいものを持っていない、指を霊丸と同じポージングにし、 何かヘマをしたら突き刺すぞと言わんばかり。
布越しとはいえ、あの指を刺されたらすごく痛いだろうなぁ……体験のある私としては、できれば女子高生にあんな思いはしてほしくない。
「わかりました、例を示すために少しお腹を晒してもよろしいでしょうか」
「わかったわ、みんなも彼女のお腹の動きをよく見ておくように」
女の子しかいないせいなのか、彼女は着ているワンピースを見事に脱ぎ捨て下着姿になる。
いくら友達のためとはいえ、森の中で下着姿になれば、蚊に刺されて大変なことになるような気もするけど。
蚊も遠慮する気持ちがあるのか近寄って来ない――まるでなにか魔法みたいな力で守られてるみたいに。
「このようにお腹がへこみます……ぐーっと、鎖骨を盛り上げるような感じで」
「……ヨガのポーズみたいね」
「正しいです」
触ってもいいですかと言われるので「どうぞつまらないものですが」と、反応するけどそれはどうだろう。
この模様を写真に撮ったらお嬢様が大好きな桜坂家の面々が、どれほどのお金を出してきてくれるかわからない。
何をしているのかと殴りかかってくる危険性は大いにあるけど。
「なるほど持ち上げるような感じか」
「ミアさん! ケツア○に力が入っていません!」
「そんなことどうやって判断するって言うんだ!」
「こうです!!!!」
彼女は何一つで遠慮することもなく、手に持った棒でミアちゃんのお尻に棒を突き刺した。
悪役が正義のヒーローにやられる時みたいな声を出しつつ彼女は悶絶する。
相当強い力でやったのだろう、見ていた面々がそれぞれ悲鳴のような声を出した――おそらくなんでこんな目に遭わなきゃいけないのかって考えてるに違いない。
「そうです今の痛みを抑えるような感じで! それに力を入れるんです、持ち上げる感じです!」
「お……おぅ……おぉ……」
海未が思わず手で顔を覆った――先ほど彼女にアイアンクローをかました人間とは思えない……気持ちはわからないでもないけど。
「しずく……」
友達の惨状にランジュちゃんも考えるところがあったのか、怖い表情を作ってしずくちゃんに詰め寄る。
彼女も殴られる覚悟があったのか、どうぞやってくれと言わんばかりノーガードのポーズを取る。
「アタシに同じことをやってみせなさい」
「ほう?」
真姫も私も歓心するような声を出しつつ驚いた。
さらに理事長に見つかったら何をするだァーッではすまない――彼女もしずくちゃんと同じように下着姿になり、しなやかな肢体を露出させた。
そして璃奈ちゃんやかすみちゃん栞子ちゃんに呼びかけるように「よく見ておきなさい!」って、羞恥で頬を染めながら。
「遠慮せずにやりなさい! しずく!」
「分かりました、覚悟しておかなければいけませんよ!!!」
ぐさっ! と本当にマジで遠慮なくしずくちゃんは突き刺し、ランジュちゃんはお尻の辺りを押さえながら悶絶する――それでも彼女は、お腹のあたりを見せながら倒れこむ。
あまりの痛々しさに栞子ちゃんや璃奈ちゃんが手で顔を覆いながら、見たくないと言わんばかりに首をするけど。
かすみちゃんが「二人の犠牲を無駄にしちゃだめだよ!」と見るように申告する。
ランジュちゃんのお腹は今までに比べてへこみと膨らみの大きさを増していて、漏れる声は今までよりもかなり大きくなっている。
彼女に声を張り上げる余裕はないから、単純にこれだけで声量が大きくなったと言えるのだろう。
だけども彼女一人が犠牲になって物語はハッピーエンドというわけにはいかない。
「ダメですかすみさん! 全くもってアナ○がしめきれていません!」
「だって! だって! かすみんはアイド……ぎぃぁぁぁぁ!!!!!」
何か大切なことを言おうとしていたのでしょう。
台詞の途中で彼女は尻の純潔を散らし、悲鳴のような甲高い声をあげた――とんでもない声だったので誰かが飛んでくるんじゃないかと不安になったけれども。
深い森の中に様子を見に来ようという殊勝な人はいなかった――だからこそお嬢様は下着姿になってるんだし。
「この辺りでいいでしょう……では、海未さん、肉体的なトレーニングの指導を私を含めてよろしくお願いします」
「……あなたは鬼かなんかですか」
「誰かのためには鬼にもなれる女ですよ私は」