しずくちゃんに「妹さんにプレゼントするなら何がいいでしょう?」と。
見上げながら問いかけられた。
背中に寒気の走るようなゾクゾクっとする声で言われれたのを抜きにし。
「かれこれこういうものがいい」と、説明した。
彼女が立ち去ってから「はて、妹にプレゼントとは?」
と、考えたけれど。
よほどプレゼントでもない限り、贈り物をいただければ喜ぶはず。
よもや、かすみちゃんと同様に自分のもの扱いするわけじゃない――もしそうなら全力で妨害せねば。
でも頭脳明晰で、抜け目のない彼女が魂胆がバレるようなヘマを犯すわけがなく。
考えすぎか、と、なんだか嬉しそうな背中を眺めながら。
妹には後々何を贈られたのか尋ねておくことにしよう。
別に妹に電話したいから、ダシにするわけじゃないわよ? 本当なのよ?
桜坂教官がまったりと野球観戦をしていた一同の前に姿を現す。
「コッチのピンストライプの球団弱いね」とミアちゃんに評され。
先発五番手同士で、乱打戦が予想された展開は。
ピンストライプじゃない方の先発の頑張りにより、一方的展開になりつつある。
両者とも防御率が5点近く、2戦連続でノックアウトされている者同士。
一方が完封ペースでピッチングすると誰が思うのか。
「ごきげんようQU4RTZの皆様――それと、その他二名」
聞き慣れないグループ名を発した桜坂女史は。
身体を舐め回すようないやらしい視線で我々を眺め。
この手のやらしさに慣れてない、彼方、エマの両者が胸元を隠す事態に陥った。
――確認しておきたいんだけど、そのいやらしい視線。
どうやって身につけたの? まさか演劇部で活用してないよね?
「くおーつ?」
「そう、私の頭の中に――天啓が如く、思い浮かんだ名前」
高校時代のよっちゃんみたいな中二ポーズをしながら。
死ぬほど偉そうな態度で、こちらを固めで睨めつつ。
時折「ククク……」と含み笑いをする――よもや中二病に罹患したわけでもあるまい。
聞いているメンバーも「あれが中二病?」
「え? 病気にかかっちゃってるの?」「まあ、いつもの下ネタも病気みたいなもんだけどね」と。
かなりひどい反応してるけど――お嬢様が結構傷ついてるケド。
「まさか、曲作りもしず子が?」
「私に音楽のセンスがあるわけがなかろう!」
舞台上で叫ぶ俳優のように両手を広げながら叫ぶお嬢様。
ネガティブなことをそこまで偉そうに叫べるのは才能である。
周りで聞いている面々も、ちょっと気圧されながら。
「あれ今? 偉ぶれないこと言ったよな?」と、首をかしげながら、大女優の言葉を待っている。
「だけども――私の記憶の中には、あなた達にふさわしい曲を……」
「作るとでもいうのか!!!」
ミアちゃんが言葉の途中で叫んだ――だって彼女は、頭の中に思い浮かんだ誰が作ったともわからない曲。
それがきっかけでスランプに陥っている。
ランジュちゃんでさえ「ミアがスランプになるなんて……」と、友人の問題の解決に歯がゆい思いをしている。
こうして癒し系の面々を取り揃えて野球観戦をしているんだって。
ミアちゃんの心の重石が少しでも軽くなったらとの意図がある。
――それに私とかすみちゃんが付き合っているのは、料理担当と罵詈雑言を受けるため。
「ミア子のためだからやるんですからね!」と、口汚く罵られるのを了承してくれたかすみちゃん。
前世で徳を積んだ神様生まれ変わり? 私みたいにMっ気が強いわけでもあるまいし。
「話は最後まで聞きな、ベイビー」
「……」
ポケットの中からチュパチャップスを取り出し。
ミアちゃんに差し出したけど、何のために持ち歩いてるか知っている私は思わず苦笑い。
――成人向け声優御用達グッズだそう。
使用済みだったら全力で止めていた――まさか未開封を装ってるわけじゃないよね?
そこまで変態行為をしないよね?
「私の記憶の中にあるのは、先輩、とか、あなた、と呼ばれているひとが、とても素晴らしい曲を作ったとあります」
「……」
「この桜坂しずく、ティンと来ました――誰の記憶にもかろうじてある【あなた】をよく知っている人物がいるのではないか」
どうやら――私の記憶にもある「誰か」は知人連中にも保持されている模様。
けど彼女は諦めたように首を振り、推理は途中で暗礁に乗ったことを態度で示す。
おそらく「誰か」の情報があまりにも多すぎて、逆に特定に至らなかったってこと。
つまり、くおーつっていうグループだけじゃなくて。
もしかしたらμ'sにも、Aqoursにも、様々なスクールアイドルと関わりがある誰か。
関わった人間とその情報が多ければ、この世界に存在しない(であろう)
人間である以上は、この人だと言えなかったんじゃないかな。
「私の知り合いの中で、そのような人物は記憶にないと言った人間が二人いました――片方は侑さん」
歩夢ちゃんに話を聞きに行ったら、侑ちゃんも一緒で。
スクールアイドルでない彼女にとも、考えたしずくちゃんながら。
不自然に話をごまかすのも変だと思い、尋ねたところ。
幼なじみの歩夢ちゃんが「そのような記憶があるかも」と言ったのに、侑ちゃんは「全くわからない」と。
「残念でしたね【しおりこ】さん、あなたも栞子さんと同じように、そのような記憶があると言っていれば【不自然】ではなかったのに」
侑ちゃんのエピソードからして、知らないことは不自然じゃない。
でも、記憶をある程度共通している三船栞子が、片方は知っていて、片方は知らないのはあまりに不自然だ。
「何を誤魔化している?」
「……なりふり構わず何かを追求するのは、あなたの悪い癖です」
「以前に、同じようなことをしたと言いたげですね」
「私の知っているしずくさんも、とんでもないタイミングでスクールアイドル部に転部をしたものです」
どこかでそんな話を聞いたような気がする。
彼女自身から耳にしたのか、それとも私がそんな記憶を保持していたのか。
断定はできないけど……私の考えとしては。
「過去は乗り越えなきゃダメよ」
「絵里……さん……」
とんでもないタイミングだったと思う。
かすみちゃんの心を激しく傷つけたと思う。
謝っても謝っても許されないようなエピソードだとは思うけど。
そんな過去にとらわれて大切なものを見失ってはいけない。
過去はやり直せない、なくすことはできないから。
今の自分が乗り越えるしかない。
過去を無かった事にするんじゃなくて、やり直すことでしか。
「人にはなくしてしまいたい過去なんていくらでもある」
一歩踏み出す。
「それでも人は、過去の自分をなかったことにはできない」
もう一歩前進する。
「過去の自分は、振り返る道具じゃない――なかったことにして、生きるものじゃない。糧として武器にするって言うのよ!」
私の背中に、ここにいる皆が続いた。
一歩先に踏み出し……新しい世界へ、目の前にいる【しおりこ】ちゃんも、涙を流しながらその手を取った。
「これが人間の答えです……神様には……絶対に絶対に分からない、これが前に進むということ。終わらない夏休みは、もう終わりです」