なろう系の小説を読んだ時に。
前世の記憶が流れ込んだ云々と語り、頭痛を覚えるとか。
熱を出してしまうとか、寝込んでしまうとか。
スクールアイドルとして活躍していた絢瀬絵里に、非現実なことは起こるまいと。
勝手な想定があったのは認める――認めるけれども。
今年の夏休みはエンドレスエイトって感じだった。
そりゃもう手を替え品を替え、様々な夏休みを過ごしてきた。
その記憶が頭の中に全部が全部入り込んできたら。
ポンコツといわれる脳でも、多少の影響が出るのは仕方がない。
ケド、ポンコツゆえにいいこともある。
あまり大量の記憶が脳内に入ったせいか、面倒くさいとばかりに不必要な記憶が抜け始め。
「絵里が頭が痛いなんて」と心配してくれたニコやツバサには申し訳ないけれど。
体調不良は昼過ぎには完全に治った――「いやぁ、ゴメンゴメン」って、手を振りながら食堂に顔を出したら。
時間の取れるメンバーが集結していて、全員から漏れなく文句を言われた。
学園の二学期はこうして始まったわけだけど。
夏休みの宿題を終えていない生徒がいまして。
彼女は心配げな表情をするエマちゃんに「先生にせっつかれるまでが締め切り」とかっこいい仕草と笑みで反応。
私はうなされていたので、現場を目撃していないんだけど。
思わず「そうだよね!」って言ってしまうようなかっこよさだったらしい。
かすみちゃん一筋のコペ子ちゃんの気持ちが思わずに揺らいでしまうほど。
めちゃくちゃかっこよかったそうだから、誰か写真でも撮っておいてくれればよかったのに。
ケド、果林ちゃんの上機嫌は学業が終わってしばらく。
寮で待ち構えていた理事長の顔を見るまでだった。
彼女の表情が鬼神が如き恐ろしさだったのもある。
夏休みの宿題の遅延が仕事の忙しさに由来すると嘘をぶっこんだのも、引け目を感じていた。
仕事を優先する彼女にツッコミを入れなかった教師にも、少々の問題があった。
宿題を取り組んでいないのが仕事の忙しさではなく。
単なる怠けだと知っている学園の最高権力者が(寮内に度々出入りするし)にっこりんと。
「読者モデルと学業の両立がなされないなら、スケジュール管理の不備が疑われるわ……学校の長として見聞したいのだけど?」
「寮長の資質が疑われるわ」と、私へのディスが入ったけれど。
幸運にも私は体調不良で寝込んでいたため、
「見えないところで悪口を言ってごめんなさい」と謝罪された。
理事長が悪口を言ったと告げ口する人もいないだろうし。
悪口を言われたところで慣れているので、さほど気にしなかったけど。
知人たちは何かと、 私がいないところでの悪口を嫌う。
――どうせなら罵詈雑言を嫌ってほしい。
悪口を言える要素がいくらでもあるのが悪いって、言われるのがオチだけど。
ともあれスケジュール手帳は白日の元に晒され。
「忙しいのなら、スクールアイドル活動の是非を考えなければいけないわね」
一言たりとも反撃を許さない強烈な指摘。
果林ちゃんも呻き声を漏らしながら、しばらく熟考ののち。
「徹夜で何とかします」
と、投了した。
※
一人で何とかしようとした果林ちゃんだけども。
その量は一人では終わらないとのミアちゃんの冷静な指摘もあり。
夕食の準備には私も復帰していたので「飲まず食わずの無茶は許さない」と物申し。
同好会やスクールアイドル部のみんなに「手伝ってと頭を下げろ」と言わんばかりに見つめられ。
「うー」「あー」と喃語を漏らした果林ちゃんは。
「一人で終わらない量なので、手伝ってください」
――ケド、問題はここからだった。
受験生相手って配慮があるとはいえ、夏休みの課題はそれなりに量があった。
エマちゃんを先頭にして、彼女の部屋への侵入。
私とエマちゃんで頑張っていたおかげか汚部屋ではなく。
二人で手慣れた調子でスペースを作り、尋問態勢に入る。
どこまで彼女が夏休みの宿題を終わらせたのか。
果林ちゃんの名誉のために、詳細を明らかにしないけど。
夏休みの宿題を常に二人分こなしていたダイヤちゃんをヘルプとして呼んだ。
「妹を思い出して懐かしいですわ」
と、了承してくれ、仕事上がりに来ていただいたけれども。
学生の宿題が終わらないから来てほしいと、主語を省略した私には問題がある。
来訪をして早々「妹みたいな人はどなた?」と言うから。
そういや果林ちゃんって言ってなかったと思い出し。
「え? あ、そ、そうなんですか……」
果林ちゃんを全員が指差すので、失言に気がついたダイヤちゃん。
および、果林ちゃんの宿題が終わってないと言うべきだったと気付いた私。
そりゃもう当人よりも宿題を頑張らざるを得なかった。
私とダイヤちゃんの頑張りもあってか、果林ちゃんの夏休みの課題は朝までに終了し。
読者モデルさんには罰ゲームとして「ルビィさんごっこ」を課せられた。
※
寮でルビィちゃんになりきっている最中。
綾小路姫乃ちゃんがオセロの鍛錬と称して来訪――「がんばルビィ」のポーズしたまま固まる果林ちゃん。
二人の関係は破綻するかに思われたけど、指導していた聖良ちゃんが機転を利かせて。
「ほら! 人に見られたからってやめない! 新路線を切り開くんでしょう!」
と、スクールアイドルとしての鍛錬の一環とアピール。
ラブライブの最終結果が予選敗退であったとはいえ。
それまでスクールアイドルとして伝説を残していた鹿角聖良が言うのだから。
と、罰ゲームでルビィちゃんのモノマネをやらされてるとの風評が藤黄に立つことはなかった。
イベントでのMVP級の活躍により聖良ちゃんが「報酬としてツバサさんとデートがしたいです」と言い。
別に全く興味がないんだけど、理亞ちゃんが尾行したいっていうから。
彼女と二人タッグを組みながら、デート(?)しているお二方を追いかけている。
「長いモノローグでしたね」
「ええ」
一点を見つめたままだんまりだったから「あ、モノローグやってんだな」って理亞ちゃんにバレ……ううん。
私の視線の先にはおめかしした聖良ちゃんと、ツバサが仲睦まじくしている様子。
身体を揺さぶられて「モノローグ云々」言われなかったら、正直に呆然としてたっていうところでした。