アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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ミアちゃんが甲高い声でブタゴリラー! って言ってくれたら全力で推します(ない)

 侑ちゃんの勢いに根負けをした理事長先生が「今日のところは勘弁してください」と言い華麗な土下座を放ったとき、ランジュちゃんがトンガリみたく「ママー!」と叫んだので見事なオチが付いた。

 

 そこですかさず「ブタゴリラー!」とミアちゃんが裏声で言い放ち、ブタゴリラはひどいあだ名だ、名付け親は誰なんだと、ガヤガヤと周囲はにわかに騒ぎ出し。

 

 ゆえに侑ちゃんはそれ以上追求できず、女学生が外出するには遅い時間にもなっていたので、最高権力者が御自らそれぞれのご両親に連絡を取り。

 落ち着いた頃に「これから編入試験の予定を決めます」と侑ちゃん、そして歩夢ちゃんに告げた。

 

 ケド、学校の最高権力者は立場が立場なのでとてもお忙しく、侑ちゃんの音楽科編入のための雑事は私に委ねられた――「は?」と、相手は年上で敬意を払う立場なのに、度し難いことを言われたので口からトンデモナイ言葉が出てしまった。

 

 理事長先生も気分を害すこともなく「気持ちは良く分かります」と謝罪した私に同意してくれた。いやいやトンデモナイと続けようかと思ったけど、それでは話は平行線。

 

「まず、試験を行うのは悪いことではない、転校生はいつでもウェルカム、オーケー?」

「はい」

 

 転科が珍しいイベントではあるものの、科を問わず転入生は珍しくはない――理事長先生が仰るとおりいつでもウェルカム。

 よくも悪くも才能があふれる生徒はマイペースなので、転入する生徒が拍子抜けするほど受け入れられる。

 

 逆に合わないなと感じた生徒には「では居場所を見つけましょう」と様々な生徒から「コッチおいでよ」と誘いをかけられる、ソコでは合わなくても別のトコで合う可能性は十分にある。

 ニジガクは規模も大きいし、生徒数も多いので「クラスに馴染めない? じゃあ部活(同好会)しようぜ!」が十分に通用する。

 

 村社会みたいな学校があるのは知っているし、ソッチのほうが好き、馴染みがあるも構わない。

 でも、必ずクラスではみんなと仲良くせねばならない、授業はまとまって全員で受けなければならない、なぜなら他の場所もそうだから、でルールを強制するのはよくない。

 

 といって勝手を許すかといえばそうではなく、やらかした方々には「園田道場送り」になるケースもある――あ、ミアちゃんも、作曲に集中するって嘘ついて、部屋でバーガーとコーラをお供に匿名掲示板でのレスバに集中してたから一回拉致されたことがあったね……。

 

「でも、特別扱いはよくない」

「はい」

 

 つまり、理事長が教師陣に指示をし、自ら会議にも参加し、彼女を是非にも、は侑ちゃんにも周囲の学生にも悪影響を放つ。

 他の教師に一任をするのも同じで、ではどうするかになると、理事長から委託されたどうでもイイヤツが提案し、侑ちゃんのために頑張りました、と周囲から思われればいい。

 

 講師とか肩書がついていると教師に一任と同じ結果、そして生徒単独で任せるには荷が重い。

 ある程度の暇を持て余していて、それなりに信頼がある人間に一任が適切。

 

「一人で不安なら、ええい、ツバサちゃんと理亞ちゃんもつけるわ!」

「野菜の安売りみたいにオマケでつける人材じゃないんですけど……」

 

 理事長の後ろでシャドーボクシングとスクワットをし、あからさまな脳筋ムーブしているお二人を観て、むしろ私が添え物では? と疑問を抱いたけれども――

 

 

 

 

「絵里さん」

 

 「ああ、ミルクちゃん」と反応をしなくて助かった。

 まともにっていうとなんだけど、いつもみたいに「露出していないところがむしろ珍しい」衣服ではなく、就職活動をする学生みたいな装いのパンツルックできちんと決め「いつもこれくらいシックだったら」男子学生から「露出魔っぽい人」と言われずにすんだだろうに。

 

 千歌ちゃんに露出云々で指摘を受けた時に「若いのだから出さなければ」と反論し「グハァ」とダメージを受ける人間多数――ダイヤちゃんや梨子ちゃんは「出す自信がない」とおしとやかな印象を持つ服装を好むから「若いうちに出しておけ」は痛感した様子、でもマネはしないで欲しい。

 

「あら、就活? 学園では講師をいつでもウェルカム」

「理亞をお願いします」

 

 重々しい雰囲気を携えてやってきたので、その空気を少しでも弛緩させようと冗談まじりに言ってみたら「もう、歩絵夢の家に永久就職」等の余談を挟まずに、目的を披露。

 

 わざわざ私が一人でいるところを見計らって声をかけるくらい――さっきツバサが理亞ちゃんを「おいゴリラ、スパーリングしてやるよ」ボクシンググローブ片手に連れ出したので、なんかあったな、とは思ったけど、聖良ちゃんのために時間を作ってくれたのか。

 

 ……相当だな。

 

「なに、それは妹を永久就職させろって相談?」

「彼女が望むのなら、是非にも」

 

 歯を食いしばるわけでもなく、何かを我慢しているわけでもなく、それが自分のほんとうの望みだと言わんばかりに。

 聖良ちゃんだって、中々相当なシスコンっぷりだ、過去に英玲奈や私から「シスコンキャラ」とキツい言葉を決められたけど、今でも私はそれくらいのことを彼女がやらかしたと信じている。

 

 や、まあ、シスコンキャラと言われて「トンデモナイ罵詈雑言」だと受け取るのはそんなにいないんだけど……。

 

「妹を手放したくなった?」

「……なぜ、そのようなことを仰られるのですか?」

 

 質問を質問で返してきた――純粋な疑問ではなく、追求されて困る部分を突かれたんだと思う。

 

 どうしてか、は私だって問いかけたい、疑問はこちらが呈したい。

 

 理亞ちゃんにとって鹿角聖良って女性は目指すべき目標でもあり、いつまでも追いつけない理想でもあり、永遠に傍にいたい人でもある。

 

 いつかは離れなければならないけど、物理的に離れたと言って縁が切れるわけではない。

 

 聖良ちゃんは自ら学園までやってきて姉妹との交流をするけど、理亞ちゃんから歩絵夢ちゃんの農場まで行ったり、ミルクちゃんの職場に顔を出すことはない。

 それは職場で働く姉さまを観たくない、って薄ら寒い感情ではなく、いつかは離れるけど心は通じていると信じているから。

 

 そして、離れるとわかっているから。

 

 理亞ちゃんだって人間だから、たまには悲しくなって「姉さまにお会いしたいな」と考えるだろうし、聖良ちゃんがやってるんだから、自分も職場にって。

 

 でもそれじゃあ、永遠に離れた時にどうする、会いにもいけなくなったらどうなる、心の拠り所がなくなって生きていけなくなったら……そんな思いを大切な人にさせてしまったら。

 

「私も同じミスをしたわ」

「……は?」

「妹の職場に下心満載で押しかけて、結局、周囲の協力もあってか会えずじまい、その時、私は妹は大好きだけど、妹離れをしなければって痛感したわ」

 

 住居(学園の寮)が住める状態でなくなり、高坂家に押し入った時に、結局妹には会えずじまいになったイベント。

 

 あれは亜里沙から「なんとかしてお姉ちゃんと顔を合わせない方法」を提案され、皆様で協力してくれたのだ。ニコが「ああ、あそこの家は亜里沙ちゃんが好きだから」と言ったのは、自分たちで独占したい、ではなく、そんな無茶ぶりも叶えてくれるほど仲がいいってニュアンスだった。

 

 いやぁ、ニコには頭が上がらない、遠回しにちゃんと忠告してくれる――しかも私がきちんと後で気がつけるように配慮して。

 

「今がその時です、鹿角聖良の手を離れ、理亞が……理亞が……すべての人の模範になるために!」

「それを理亞ちゃんが望んでないっていうのよ! 妹が望んでいると勝手にあなたが思っているだけよ! あなたは……あなたは最低よ!」

 

 理亞ちゃんにも――今は聖良姉さまが会いに来てくださるし、の思いもある、それに甘えている部分もある。

 でも、まだ甘えていたいんだ、ラブライブ優勝の時の傷が癒えきっていないから、まだまだ聖良ちゃんの支えが必要なんだから。

 

「……理亞」

 

 私がかつての海未みたいに手をあげようとしたとき、理亞ちゃんが聖良ちゃんをかばうように前に出て、その姿に姉がポツリと呟いた。

 両手を広げ、この人を絶対に守るんだと凛々しい表情を見せる姿は、たしかに聖良ちゃんの語る、すべての人の模範になる姿かもしれない。

 

 彼女がツインテールにしてたリボンをほどき、振り向かずに手だけで聖良ちゃんに渡す。

 

「模範となりましょう」

「……」

「誰もが理想とする鹿角理亞になりましょう、もう……もう、SaintSnowの鹿角理亞はいらない」

 

 彼女がツインテールにし続けていた理由、ラブライブ優勝後に無気力になってもツインテールができるように、と髪を切ることもなく。

 学園で働くようになってからも「まるで高校生」とアラサー連中から言われようとも、絶対に自分はツインテールと言い放っていた鹿角理亞が――。

 

「私は、独り立ちをします……過去は振り返らない、過去へ続く道なんてないから、行けない道を眺めるしかないから……私は前を向く! 虹を越えて! 日向を見るんだ!!!」

 

 

 「おい綺羅ツバサ、スパーリングの続きだ!」と幾学年も上の先輩に向かって叫び「上等だコラ! 身の程見せてやるわ!」とA-RISEのリーダーも応じる。

 

 その姿を見て、聖良ちゃんはリボンを握りながら泣き続けた――声をかけようと思ったけど、対応は歩絵夢ちゃんに任せる。

 

 さすがに百合の間に挟まる女との蔑称は与えられたくない。

 

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