高咲侑ちゃんは転科試験のため休学中扱い――
一般の生徒は授業に取り組む時間だと、息を乱してやってきた歩夢ちゃんの顔を見る前に気がついた。
学生が熱心に勉学に励まなければならないシチュのさなか、理由もつけずに音楽室へGO!と一昔前に流行したゲームのようにメッセージを送ったことは、のちに誰かに怒られよう、どなたでも構わない、皆それぞれに忙しいので条件はつけない。
息も絶え絶えに到着した歩夢ちゃんは私に事情を伺おうとしたけど。
音楽室から漏れる旋律を耳にした瞬間に、こちらへ「ありがとうございます」と言いながら頭を下げ、居ても立っても居られないとばかりに中へと入る。
二人の姿が重なるのを見届けた私は、歩夢ちゃんが困らないようにと、廊下から授業を耳に入れようとする。
歩夢ちゃんが授業に取り組んでいた教室で教鞭を執る先生と、教室へと繋がるドア越しに目が合い。
「唐突ですが、今から転校生を紹介します」とすっとんきょうな発言が聞こえて、金髪ポニーテールは促されるままに教室に入った。
「では、上原さんの代わりにノートを取っておいてください」
「え、あ、はい」
それくらいで許されるのなら、と自分の凡ミスを振り返ってると。
「絵里ちゃんだ」「絵里ちゃんだ」と連呼される教室内にて。
「男子は気をつけなさい、そのヒトは先生よりも年上です」と、芸人さんの控室に爆竹を放り込んだみたいな衝撃発言が響いた。
「ええ!?」と生徒より驚いたのがネタにされている私。
凛々しい表情で教壇に立つ女性が「誕生日を迎えると26になります、先輩」と、口調こそ恭しいのに敬意がゼロな台詞を発し。
さらには「先輩はおいくつでいらっしゃいますか?」と追撃もされたので「こ、今年で28になります……」と、周囲からの視線に恥ずかしい思いをしながら正直に告白した。
「でも、先生のほうが老けて見えるよね」
「絵里ちゃん同年代にしか見えないし」
このまま、アラサーが普通科の生徒に入り混じって授業に参戦――と、なるかと思いきや、流しそうめん同好会とコッペパン同好会の部員の二人が逆襲の一手を繰り出した。
王手飛車取りの一手に目を見開く先手番みたく、先生は思わず前のめりになり、自身が守られる立場になった私は感動を覚えた。
コッペパン同好会のみんなが巨大サイズのかすみちゃんを作ろうとし、なんとかお手伝いをと頼まれたのを思い出す。
お台場に日本の守護者と勘違いされそうなかすみんを――コペ子ちゃんはTOKI○のリーダーみたく、ツナギを着てハチマキを付け、設計図を展開し「上にかすみんを乗せて」と、真剣な面持ちで話す。
たまたま寮に遊びに来ていた鞠莉ちゃんがコッペパン同好会の会議に参戦し「ガチじゃない……」本気っぷりにたじろぐ。
素材の強度と持ち運びできる軽さを考えれば、とんでもないコストになると結論づけ、絢瀬絵里は部員たちを諦めさせる路線へ水を向けた。
テレビ局の企画なら予算も潤沢にあろうが、学生が出せる金額を出し合ってでは、到底及びそうもなく。
懸命な努力ならば激励もしようが、我慢と強制に由来する努力なんぞはイジメと何ら変わらない。
周囲がやっているからでひもじい思いをさせるのは、みんなが平等に幸せになる方法ではない。
それに、巨大ロボットに興奮をする生徒会長であろうとも、コッペパン同好会に予算を優遇と語った瞬間に「却下」とにべもなく首を振るレベルだし。
仮に私情でコッペパン同好会に予算を回すとなれば、大胆なリコール運動へと発展する。
や、その日の夕方、忙しそうな彼女と顔を合わせて「ガンダム作る」って言ったら「完成したら見せてください!」と。
中川菜々の顔から一気に優木せつ菜化したからね、書記の双子の男の娘のほうが「ぶふっ」って、吹き出したからね?
正体が露見している相手だった気安さか、それとも副会長が未だに答えに行き着いていない息苦しさもあるのか。
会長は「コホン」と咳払いをし「そのような予算が我が学園にあるとは」と、ちゃんと仕事をしているアピール。
スクールアイドルをやってるのがバレバレ過ぎて「隠す気がないのでは?」「仕事そっちのけでは?」と、噂話もされるけど。
ただ、何を隠そう、実情を存じている双子ちゃんも「次代の生徒会長は中川菜々で」と強く推しているし、なんなら会長にも「スクールアイドルとの両立」を進言している。
相手に強く踏み込めないのは「良い大学に行って親を安心させたい」との理由での、受験とスクールアイドルの両立を論破できないから。
良い大学に行って、良い就職先を勝ち取り――何の因果かトップアイドルへの道へ駆け上がろうとしているよっちゃんを観。
医大受験の勉強の休憩中にアニメにドハマリし、コスプレイヤーとして冬コミに参戦、その後声優デビューし現在も活動中の西木野真姫を観。
せつ菜ちゃんの語る良い就職先での勤務で長年働いたのと同じくらい、もしかしたらそれ以上稼いでいる両者が所属するグループのメンバーとしては。
「良い大学に行くのなら受験に集中したほうが良い」とアドバイスするのも「あなたには才能があるから大学にこだわらなくても良い」としたり顔で言うのもまた憚られた。
少々話が逸れたけど、会長が首を振りながら「予算の申請が通ると思っているのですか」と呆れるほどの巨額は。
コッペパン同好会の会議の熱意に翻意された「小原鞠莉氏」が「金ならあるわ!」と発言し解決する――させてどうする。
時間が経って氏が冷静になる頃には、同好会のみんなは「巨大かすみん」を作ると決意し、工作技術では一日の長がある流しそうめん同好会に協力を求める。
や、依頼したのは私だけど「ではよろしくおねがいします」と、コペ子ちゃんに肩を叩かれたときには、近くにいたミアちゃんもランジュちゃんも驚きを隠せなかったけども。
ともあれ、流しそうめん同好会とコッペパン同好会――そして、情報処理学科および元スクールアイドルの努力の成果は、学園の近くの広場に学生の創作物として置かれた。
上に乗っかるのは安全管理に不備があってままならなかったけども、かすみんボックスを両手に持ち、巨大かすみんの隣で苦笑いする中須かすみさんは、周囲から「愛が重いと当人が苦労する」と囁かれた。
そんな経緯もあり、私をやたらと持ち上げてくれる人達がいるのは知ってた――けど、プロジェクト○や鉄腕ダッシュで放送されそうな、同好会のみんなの物語の最中、私は頼まれごとをされて使いっぱしりをするコマに過ぎなかった。
コペ子ちゃんから「これは御礼の品です」と隠し撮りと思しき「中須かすみ写真集」を頂いたけれども、よほどのかすみん好きにしか通用しないマニアックさで。
「絵里の部屋で怪しい本を見つけたわ!」と、盛り上がった真姫が「あ、ごめん……あなたにもプライバシーがあるもんね……」と、申し訳無さそうに――周囲にいた年齢の近い面々ともども「見てはいけないものを見た」と言わんばかりに顔を眺められ、貰いもんだとも言えずに。
「では、あなた方は、先輩が制服を着ても大丈夫だと言うのですか? 自慢ではないですが、昨年の忘年会で、私は制服を着ました」
生徒たちが「マジで自慢にならねえ」と言いたげな表情で、近くにいた生徒たちと顔を見合わせ。
私も「罰ゲームで着ました」とも告白できず。
微妙な時間が流れた時に、アラフィフが制服を着るイベントを思い出した。
この学園の理事長と通っていた高校の理事長が、特に何の意味もなく自身の高校の制服を身に着けた写真を送ってきたことだってある。
ヒトのスマホの中身を勝手に覗いていたツバサが「どれどれお宝は~?」と検分しているさなかピシリと背中が固まり、そのまま見なかったことにして元に戻すかと思いきや「印刷して額縁に入れておこう」
気がついたら無くなっていたので、理事長が正気に戻って回収したか、誰かが正気を失ってゴミとして捨てたかの二択。
「教師の中でも若手なので、まだ行けると思いましたが、20を過ぎての制服はキツイですよ! 先生はそれを知っています」
「でも、絵里ちゃんは、スクールアイドル部の前座でステージに立つと、高校生だって勘違いされるし」
ちなみに、ソロでの活動を中心としている同好会の前座としても立つ。コレは講師陣一同がそうなので、矢澤にこもそうだし、綺羅ツバサもそうだし、鹿角理亞だってそう。
体調不良による空白の穴埋めで、せつ菜ちゃんの代わりにツバサがステージに立ったのがきっかけ。
生徒会の仕事が長引いて到着が遅れているのかと思いきや、不調を看破されるのが怖くて、上演時間ギリギリで姿を表す。
「じゃあ、絵里、そのヒト持って帰って」と、ひと目で異変に気づいたA-RISEのリーダーが私に指示をし、さらには「私にパフォーマンスで勝てる自信があるなら代役してくれてもいいわよ」と心配げな態度を取る一同に挑戦的な目を向けた。
手を上げた果林ちゃんはエマちゃんに、ランジュちゃんはミアちゃんと栞子ちゃんに首を振りながら止められてた。
中川さんちとも連絡を取り、菜々ちゃんはタクシーで強制帰宅。
なんでも誰に見つからないように朝早くから登校していたらしく。
ご両親から「今度やったらスクールアイドル禁止」を言われたとか。
私やツバサにも言われたので二度とやらないと信じている。
このエピソードでは元スクールアイドルが大トリでの登場だったけど、たいそう盛り上がりを見せたことから「前座でステージに立つのも悪くないか」となり、理亞ちゃんをよっちゃんの代打にしたギルキスもステージに立った。
後日、よっちゃんもギルキスのライブを知り「呼んでよ~!」って言ってたそう「呼べるか!」って梨子ちゃんが応えた。
「絵里先輩がいくら若いと言っても、さすがにそれは無理があります」
「ちなみに先生、これがBiBiがステージに立った時の写真です」
なお、ココで仕事をしている矢澤にこはともかく、真姫は暇そうに見えるとは言え暇ではないので欠席。
では誰かが代わりにとなった際に大喧嘩になり、理亞ちゃんの顔面にアイアンクローをしながら「ヒート……エンドォ!」と言ったツバサがステージに立つ――かに思われた。
「正義は勝つ!」と、殴り合いで勝利したツバサだったものの「今日はステージに旦那様がいるので私が立つ」とあんじゅに命令され。
理亞ちゃんから「ブタゴリラめぇ……」と言われるツバサもたじろぎながら「踊れるの?」と。
「ハァ? 私は優木あんじゅなのよ? 名字変わりそうだけど」
「フェイ・チェンカなんだぜ!」みたいな物言いは、自身が投擲したグレネードを弾かれて爆散するレプラカーンを彷彿とさせ心配になるけど。
あんじゅのパフォーマンスは、一緒にステージに立ったニコが「サインを後でください」と骨抜きになってしまうほど優れていた――
ただ、殴り合いをしてたのに出し抜かれた皆様を黙らせるため。
踊れた理由を「男性とエッチなことをするのも体力がいるから」とするのは良くなかった。
アラサー連中は私を含め「そうだよね~」とも「分かんない~」とも言えずに黙るしかなかったからね……熱気はしぼんでお通夜みたいな空気になったからね……。
「あ……あ……あ、あんじゅさんだ……すごい、アイドル時代となんにも変わってない……」
ちなみに、あんじゅと同じグループの綺羅ツバサとも顔を合わせているし、なんなら英玲奈とも顔を合わせたこともある。
が、やはり推しは別格であるのか。
授業が「なぜ優木あんじゅちゃんは可愛いのか」に逸れ「BiBiとして遜色のないパフォーマンスしてみせたのは、旦那とすることしているからなんだよねぇ」と言おうかどうしようか迷った。