目まぐるしく時間は過ぎていき、あまりの忙しさのせいか「私だけ一日が12時間なのでは!?」と理事長に泣き言を申し上げた。
アラフィフなのに南ことりのマネだってやってのける彼女は「だったら少しじっとしていればいいのよ」と提案――
疲労のせいか「さすが年の功!」と失言を漏らし「疲れてるんだったら永眠させるわよ?」と、金髪ポニーテールはアイアンクローをくらい。
本日ばかりは「理事長が絵里ちゃんをイジメている」のヤジも飛ばなかった。
が、忙しなく動いている職員の皆様がたや、全身全霊で青春を送っている学生を眺めていれば「笹食ってる場合じゃねえ!」のパンダのAAみたいに立ち上がる。
「あなたは回遊魚なの?」と、忙しいにもかかわらず悠々としているツバサに苦笑いしながら言われた。
音楽科の試験が差し迫る中で侑ちゃんに「ピアノだったらいつでも聞くわよ!」と肩を叩きつつ。
ビリーズ・ブートキャンプの動画を真似してトレーニングに励む桜内梨子ちゃんに「暇だったら指導して」と声をかけ。
「おう、任せておけや、オメーをアイアンクローしてからな!」
――と、りこっぴーったらトレーニングの成果か、以前にも増して握力を増強させており、そろそろスナック経営するピアニストから、スナック経営するプロレスラーに転向したほうが良い。
「アダダダダダ!!」と叫ぶ私と「この人の犠牲が無駄になるから、指導を受けてくれるわよね?」と微笑ましい調子で語る桜内梨子ちゃんとの対比、一枚の絵にしたら専門家はどのように論評するか興味がある。
評価されるためにやってるんじゃないから、自身の論評なんて毛虫ほどにも興味がないけど、他人がどのように言われるかは実に興味がある。
このエピソードから、桜内梨子ちゃんを暴力女と表する人間がいたら、ダッシュして殴りかかるからそのつもりで……や、侑ちゃんが梨子ちゃんに遠慮して声をかけないもんだから、ちょっとコントやって声をかけやすくしたのよ?
こんなふうに理事長とか教職員の方々とか、もちろん元スクールアイドルのみんなとも仲良く過ごしていたんだけど、ある朝、いつものように寮生たちの朝ごはんをエマちゃんとか、ニコと一緒に作り上げ。
学生たちがこぞって「片付けは自分たちが!」と声を上げるのに感動を覚えてると、理亞ちゃんが腕立て伏せに励んでいるのが見えた。
キレイなフォームだと思う――野暮ったいジャージでトレーニングしてた時期もあるけど、ツバサから「女子力の欠片もない」とヤジられ、ジャージからトレーニングウェアと表現を改められる程度には女子力も向上した。
部屋で古着として活用されてそうな芋ジャージ(ことり命名)からジャンプアップを決め。
アドバイスを曜ちゃんに求めた。
「なんで渡辺なんだよ!」と梨子ちゃんからは言われたけど……。
露出度が上がったのは曜ちゃんの業績だとしても「動きやすく発汗性があり、トレーニングに差し支えない服」は、ツバサやことりが希望していた女子力を上げる服装ではない。
確かに筋力トレーニングの専門書に載っても差し支えなさそうなフォームや、モデルになってもおかしくない体躯はスクールアイドルを目指す学生……もしくはそれ以下の小さい子のお手本になる。
ケド、聖良ちゃんが語ったのは「全てのスクールアイドルと模範となりうる理想的な姿」であり「やぁ! フォームめっちゃキレイじゃん! 理亞ちゃん才能あるよ!」と曜ちゃんに褒められた姿じゃない。
「これで姉さまの希望に添えた」と喜ぶ姿には、軽口で辛辣な発言をする面々も「鹿角理亞はビリー隊長コースだ」と――や、もちろんそれはそれで理想的な姿かもしれないけど……。
と、私が考えていると背後にことりが忍び寄り「絵里ちゃん」と、めっちゃ可愛い声を出して呼ぶので「あ、すっごい機嫌が良さそう」と思った私は早速「ねえことり、服ない?」と言った。
「え? 服? もちろんあるよ?」
「絢瀬絵里をとびきり美少女にするスペシャルな服をことりに用意してほしいの! 金ならあるわ! 理事長が!」
もちろん、絢瀬絵里が借金をしたとしても理事長からすれば「東京湾に沈むんなら手伝うわよ?」でしょうし「お金を貸して」と言っても「金利は200%ね」ってこともなげに口から出されて終わる(人生が)
けども、今回の目的は着飾った絢瀬絵里が理亞ちゃんの隣でトレーニングすることにより「私の女子力やばすぎ……!?」と、きれいなフォームで腹筋運動をする彼女に気がついてもらう。
カエル足で腹筋をする姿は「女子力……5か! ゴミめ!」と呼ばれるにふさわしい。
ただ、理亞ちゃんはすんなりフンフンやってるけど、同好会や部のメンバーは最高が三回だった。
筋トレ慣れしてないかすみちゃんや璃奈ちゃんは、筋肉に効きすぎて翌日休もうとしたくらいだからね? やってる理亞ちゃんってすごいのよ? 女子力が微塵もないだけで。
「そ、それは誰かと出かける予定のため?」
「ふふっ、そういうって野暮じゃない?」
ことりに「筋トレするから可愛い服出してけろ」と言ったら「ゴリラには全裸が似合ってるよ!」と暴言を吐かれてイベントは終焉――殴られて人生の結末を迎える可能性すらある。
絢瀬絵里をとびきり美少女にする服装だ――理亞ちゃんが覚醒して完全なる美少女となれば、私なんぞを超越した姿になるであろうし、ことりのプロデュースした服装を身につければさらなる飛躍を遂げるに違いなく。
仮に私が没落していても、理亞ちゃんの覚醒に協力したので聖良ちゃんに飼ってもらえるかもしれない――乳牛のユウジロウはジェントルマンなそうなので、牛舎の新入りの絢瀬絵里にも優しくしてくれるであろう。
「わかったぁ! 待ってて! 超特急で用意するからね!」
「え、ええ……なんかすごいやる気ね……?」
普段ならば「何するつもりだ」とか、ヤンキーだって裸足で逃げ出す眼光を向けつつ胸ぐらをつかむと言うに、今日ばかりは「待ってましたぁ」と語る勢いで飛び出す。
その背中を眺めながら「陸上短距離で世界新も狙える勢いだったな」と呟くと、お茶の香り豊かに湯呑が差し出された。
「ありが……ニコ!? な、なによ!? ニコがお茶を入れてくれるなんて、天変地異の前触れなの!?」
「いいえ、絵里には優しくしてこなかったなって思ってね……」
病弱な美少女が「あの葉っぱが散ったら命が尽きます」と告げるみたいに、儚げな笑みを浮かべながら。
「後悔したことがあるならソレ」と言いたげに、今の会話を聞いていたエマちゃんやツバサまでもが「ほら、ゆっくり休んでなさいよ」と言い、ソレに感化でもされたのか、目につくみんなが「休め休め」と――気分はまるで女王様か何か。
「や、なによ、罰ゲームかなんか言いつけるつもり?」
「絵里ちゃん準備できたよ!!!」
まさしく超特急だった――ことりが持ってきたのは、まさに絢瀬絵里を輝かせん格好だ、縁があるまいと首を振りながらカタログを眺めていたら「わぁ! 私のドレスを選んでるの!?」と妹に処刑宣告されたのを思い出……違う違う。
いついかなる瞬間にそれを身につける想定をし、ことりが用意していたのかは謎だけども、その色はまさに純白、祖母譲りの金髪もさぞかし映えるに違いなかろうもん。
仮に絢瀬絵里のカメハウスのウミガメレベルの女子力であろうとも、これさえ身につければフルパワーフリーザくらいにはなれよう。
さっきまで私にかしずいて世話してくれたみんなが、口をまんまるに開きながらほうけてしまう程度には、華麗、美麗、まさしく絶対と表現される一品。
「個人的にはこういうのは着るほうが好みなんだけどぉ。絵里ちゃんは奥手だからことりが誘うよう……」
「筋トレするにはちょっとゴテゴテしてるけど、ほら、見てよ、ことり、あの理亞ちゃんの女子力の欠片もない感じ」
「うん”最期”まで聞いてあげるよ?」
「でもね、いきなり、あなたには女子力がありませんってなれば、反発は必至、だから、ことりが持ってきてくれた世界最高の服を着て筋トレをすれば、理亞ちゃんだって、あ、自分が求めるのは可愛いだ! って気づいてくれるはずなのよ!」
「この服を見なさい! たとえ絢瀬絵里が身につけようと世界最高の美少女となりうるわ!」と胸を張りながら言ってのけ、さすがことりと褒め称えつつ、服がどれほど素晴らしいかオタ特有のマシンガントークでべらべらと話し続けると、言われた彼女は「もういいから!」と。
「でも、筋トレはダメ、服を着てくれるだけでいいよ」
「理亞ちゃんに意図が気がついてもらえないと」
「気がつくよ」
ことりが「そうだ」というのなら、自分のために用意してくれたって部分を含めて、感謝を込めながら身につけるしかあるまい。
彼女に手伝ってもらいながら「うわぁ、服だけは立派だわぁ」と頭に浮かべながら、恥ずかしい思いを抱えつつみんなの前に登場する。
先程までボクササイズにも余念がなかった理亞ちゃんも、肩にタオルをかけながら直立。
「……」
「……」
けど、あまりに私の姿が痛々しかったのか、みんなったら直立不動のまま微動だにせず、私も私で「なにか口にしてことりにケチが付いたら嫌だな」と考えて無言でいる。
「さて、鹿角理亞さん、なにかコメントは?」
だんまりが続いて波紋ひとつ無い水面と化した場所にて、静寂を破る発言は南ことりからなされた。
「……自分の女子力はやべーです」
「正解!!!!」
その後、ことりには「この服の代金は絵里ちゃんが宣伝して稼いで」というので「口を開かなきゃ服も美麗に見えよう」と心得た私は、果林ちゃんを思い出しつつモデルさんっぽく校内を練り歩いた――仕事が山積みだったけれども、普段手伝いなんかやってくれない面々が続々とやってきて、私の顔を眺めた後で業務の遂行にあたった。
トップデザイナーさんは大変満足され笑顔満開で帰宅。
「肩の荷が下りた」と、服の宣伝にも一役買った絢瀬絵里も満足していると、理事長から「コッチに着替えて」と肩を叩かれながら言われ「すごい、絢瀬絵里よりも高そう」なんて軽口を叩きながら服を身に着け。
「ちょっと付き合って」
「高く付きますよ?」
「成果次第ね、結ヶ丘女子高等学校……知っているでしょう?」
「ええ」
「高名な音楽学校を前身に持つ、音楽で売っている高校――どうにも、スクールアイドルが予選にすら出られずに敗退ってのが気に入らなかったらしくてね」
「ナニソレ」と口から出しそうになった――