差し出されたコップに入っている飲み物を口に含む、紫がかった……見た目だけは中川菜々や星空凛が作る料理とよく似ている。
しかし味だけは天と地ほどに差があり、故郷の食と瓜二つの理由で、こちらが止める余裕もなく口に入れた彼女も、地球から遠く離れた星の技術でなければ蘇生できなかった……とか。
そんなもんを口に入れては「新世界の味」「煮込んだ上履きの味」と表現しながらも平然としてるんだから、絢瀬絵里っての殺しても死なない人材に違いない。
「なんで三船薫子に拘るの? そんなコトより、もういちどアキハバラみたいなのやって欲しいんだけど」
目の前にいるのは、アニメみたいな色をした金髪に、宝石みたいな瞳をして、白磁の肌はおおよそ地球人では組成不可――絵里と対面したときには「地球人なの?」と鋭い指摘をされた。
これがまたA-RISEのツバサさんにも同様の指摘をされ、英梨々サンも思わずたじろぎ「やっぱり地球滅亡させる! こんな非文化的な星なんか!」と意見を方針転換させたけども――。
妹がスクールアイドルをやっていて、彼女も銀髪で宝石みたいな青い瞳をして、美しいきめ細やかな肌も一緒だと言うに「あなた地球人なの?」的な指摘を受けていないのは、璃々ちゃんの人徳もあるだろうし、異星人さんが地球人の文明に慣れたのもあろう。
自らの価値観にそぐわない文明は全て滅ぼすと――そんなのはドラゴンボールがある世界でやってくれと、事情を伺えば嘆きたくもなるけれど。
まったくもって寝耳に水の滅亡への序章は、スクールアイドルが一体となって成功させた秋葉原のイベントで覆される。
ドラえもんみたいなノリで地球破壊爆弾を発射する異星人と、こうしてティータイムに洒落込んでいる時点で、絵里たちからすれば「重大な裏切り行為」であるに違いなく。
ただ、幾度となく「アキハバラ~」と催促されているのを「今週のサザエさんのジャンケンで負けたから」とか「観たい番組がスポーツ中継で中止になった」とか理由をつけて、イベントを執り行わないゆえに地球滅亡を回避しているんだから、重大な裏切り行為であろうとも許してもらえるはず……や、許されずとも構わない。
全世界にどこを探したって許してもらえるから裏切ろう、なんて人材がいるとは思わない。
んなやつは裏切る前から裏切り者なので、そもそも裏切り者と断ずることすら失礼だ――ならば結局私は、いったいなんだろうか。
悲劇のヒロイン? それとも地球滅亡を回避したヒーロー? ハリウッド映画の終幕10分くらい前に死んじゃう正義漢?
「理由をかこつけて大きなイベントをするには、シスコンに動いていただくのが一番なのよ」
「地球人類は訳がわからないわ、なんなの、シスコンって?」
英玲奈がいれば「シスコンとは地球最強の能力者の異名」とか、聞いた人間が「もしかすればそう?」と考えん勢いで語ってくれる。
これがまた絵里を追加すると、ことりや千歌とかのまともなタイプでさえ「シスコンってそうなのかも」と頷きそうになるから考えもの。
ことりは「全従業員に例のない福利厚生」を目標にし、曜から「そんなんじゃ経営が成り立たない」と進言される理想主義者だけど。
相容れない考えについては極めてドライだし、自分の近くから離れるとなればさらに態度が硬化する。
自分の理想を叶えるために全力疾走は絵里やせつ菜とも似ているけど。
障壁は全身全霊でぶっ飛ばしていく絵里や、死なばもろとものことりは「みんなは手を取り合える」って願いを叶えられそうな気がする。
中川菜々も成長をしていけば、襲いかかってくる人には全力で対抗せねば理想どころではない、と学ぶはず――少なくとも、文明を滅亡させる技術力を持つ相手に「人間は手を取り合えるから仲良くするまで待って」と語れば「いつまで待てばいいのか」とツッコまれ……まあ、答えを窮するんだろうな。
絵里や頭の回るツバサさんなんかは「今決めるこっちゃないでしょ」とうまいこと言って丸め込むと思うけどね。
「姉妹愛……ま、戸籍上で姉妹であるなしはともかく、人類は愛ってのが好きなのよ」
「ふうん? 愛がないから栞子は三船に捨てられたの?」
「捨てられたのを拾ったのが魔王ってのが、地球人類ギャグよね……」
現在虹ヶ咲学園にて「教育実習生」とか「神様」って呼ばれているのが、異世界を統治している(らしい)魔王ベルフェゴール――タクシー代わりに瞬間移動したり、絵里とかに蹴り飛ばされたりしているけれども。
そんじょそこらの人類よりよっぽどいい人なのではないか、とは異星人も、事情を知る私も考えるけれど。
栞子の話に戻るけど、彼女は元々「三船栞子」として産まれ、自死した際の後遺症で昏睡状態にある「三船薫子」の妹。
薫子があんまりにも優秀すぎ子どものころから神童と謳われ。
どういう経緯かわからないけど栞子はそうではなかったので捨てられた。
栞子は「魔王べるる」に助けられ、妹の存在を知った薫子も自責の念に耐えられず遺書を残し自死――個人的には三船家一同をさらし首にでもしたいくらい不愉快だけど、財力は活用させていただかないと。
なお「しおりこ」と呼ばれる存在は「もし三船家に育てられていたら」とするイフの姿だと想定される――いかんせん、異世界人も異星人もわからないとなれば、ただの地球人である西木野真姫としては「ワケガワカラナイヨ」と投げ出すしかない。
「長い間離れ離れになっていた姉妹がイベントで再会する、シスコンの協力が得られそうなイベントでしょう?」
「ううむ、それはいかにも絢瀬絵里が好きそうな……さすがは我が永遠のライバル……」
絵里が大学に通っているとき――私が高校でのんべんだらりと医大受験に向け頑張っているとき――眼の前にいる異星人こと九英梨々は「μ's」のメンバーを知るため接触をはかろうとした……。
だけども、一人目の絵里に卓球勝負でコテンパンにのされ、手を変え品を変え挑むも手も足も出ず「もうやだ! こんな非文化的な星なんか滅亡させるモン!」と逆ギレをするも、妹の璃々が絵里の活躍に目を輝かせているのを見て思いとどまる。
なんでも姉が勝負を挑んで負かされたことなどないから、憧憬の念を寄せる相手となったよう。
ちなみに先日も「エアホッケー」で勝負を挑み敗戦――「コレで勝ったと思うなよ~!」と叫びながら逃走した。
絵里も毎度毎度律儀に勝利せずともいいのに――絵里を含めて周囲の人類から記憶が飛ばされてるから無理からぬ点はあるんだけど。
初対面の相手に勝負を挑まれて全力を尽くすのは、格好いい姿なのか疑問だ。
ちなみに三船薫子にこだわっているのかも、何度となく説明をしているつもりなのに、英梨々ときたら「そんなことは忘れた」と言わんばかりに尋ねてくる。
「ことりの誕生日だし……プレゼントはケンタッキーとかにしようかしら?」
「絵里がとんでもなく美しいんです!!」との称賛を海未から送られてくるたび「ことりの誕生日を祝いに行ったんでしょ」とマジレスをしたくてしょうがない。
画像や動画を見るたび「ホント、なんで綺麗なんだろう?」と首をひねってしまうほど儚げな様子で、例えるなら波紋ひとつない水面に羽化する昆虫を切り取った感じ。
「虫なの?」って絵里は笑うかもだけど、幻想的かつ美麗、一緒にスマホを覗く英梨々も「宇宙トップクラスの美しさね……」と感嘆のため息を漏らしている。
「でも、ケンタッキーって匂いがねえ」
「あなたが食べるわけじゃないのよ?」
ことりに「共食いしてよ~」と言いながらケンタッキーを渡し「わかった!」と言った彼女が、ゼルエルを捕食する勢いみたく貪り食う姿を眺めるのもまた一興。
この手のギャグはむしろことりがノリノリで乗ってくれるので「共食い」関連のイベントは定期的に行われている――トップデザイナーのストレス解消に貢献できるなら「鳥」をネタにしてもいいか。
曜はデザイナーとして才能を持ちながら、あまりに優等生すぎるせいかストレス解消すらスマートで。
梨子を惚れさせんばかりの勢いでゲーセンで無双する姿は「ストレス解消になってるのよね?」と誘った彼女ですら戸惑っていた。
※
夜にことりから電話がかかったとき「出るの嫌だなあ」と思ったけど、誕生日だからしょうがないかぁとため息を付きつつ通話に応じた。
【もしもし~? 絵里ちゃんが”私”のデザインした服を来て、メッチャ称賛されたの知ってるぅ~?】
自身がデザインをした服を含めて称賛されたもんだから、ことりはたいそう満足したそうで――電話越しに「もっと褒めろ」と言わんばかりに、実際に観に行ってない私に感想を求めるのは「わー、いるわぁ、こんな厄介オタクいるわぁ」って。
いない? 相手は行ってないのに、ライブがどんだけすごかったのか語るオタクとか、私の周囲には結構いるタイプなんだけど……もしかして類友ってやつで、自分も相手に嫌がられているのに語っちゃうとか? や、まさかそんな……。
【え? なに曜ちゃん、いまご機嫌で真姫ちゃんにマウント取ってるから邪魔しないで……え?】
そうそう――分かち合いたいとか言って一方的に感想を語る厄介オタクいるわぁ……ことりはまだマウント取ってるって言ってるからマシなのかしら……?
【は? 絵里ちゃんが倒れた? そういう冗談は人の誕生日に言わないでほしいんだけど……】
反応をしたいのは山々だったけど、一方的に通話を切られてしまったのでスマホを放り出し天井を見上げた。
「絵里が倒れることなんてあるのね……私を含めて、非人間か何かだと思ってたけど」
パワフルと一言で片付けるにはありえないほど非人間じみていたから、常識にとらわれない行動も「そんなものかな」と思っていたけど。
「バカね……! 本当にバカよ! 無理をしたら倒れるなんてことは、教えられなくても分かることじゃないの……! あなたに教えられなくたって、私は知っているわよ……!!!」
自分の愚かさに反吐が出る――先人たちの遺したものを現代を生きる我々になんて語る歴史学者なり、学者先生なんかが声高に叫び、自身も過去の犠牲を踏まえて真っ当に、なんて考えてはいたけど。
「過去をふまえて生きてられるか!! 私には前しか道がないのよ!」
うだうだ考えても出口のない迷路に飛び込むのと同じ、だったら大声で叫びながら直線的に進むほかない。
「ヤダヤダヤダ!!! 二度と会えないとか絶対にゴメンなんだからね!!!」