アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

87 / 125
曜ちゃんは女の子に筋トレグッズ贈るのはやめろとちかりこから膝蹴りをくらいました

 夏休み明けから絵里が本調子でないのは知っていた――なので、できる限り仕事を分担し、彼女には「侑さんの相手をして」と編入試験に集中するように仕向け、監視役としてはピアニストとしての琴線を揺らされたと、練習に余念がない梨子さんが担当している。

 

 寮の仕事と学園での仕事はいずれにせよ再分配しなければ。食事を作り、寮生の生活相談も請負、学園内部外部問わずの清掃活動にも取り組み、理事長のマネージャーみたいなこともやっていれば眠る時間も少なくなる。

 

「……生活相談だけでも、絵里1人がやってたコトに対して4~5人が必要か」

 

 さらっと「多くの生徒の相談」と言っていたけど、私の想定以上に学園の生徒は悩みを抱えている。

 心理カウンセラーの資格を持った教師こそ滞在しているけど。深夜に不安になって目を覚ましたら、アドバイスをしつつ消化の良いものを食べさせてくれるヒトではない。

 

 悩みを聞くのは好きだ――人望もあるほうだと思う。

 だけれど、学生たちから「絵里ちゃんのほうが相談しやすい」と言われれば「なぜ?」と考えたくもなる。

 

 彼女自身の自己評価については含む部分があるし、なぜあそこまで強硬に自分sageをするのかはμ's2年生組に聞くのが手っ取り早いはず。

 ありえない想定だけど「ツバサさんのほうが能力が高いからです」と言われれば「え、あ、そう……」と数時間は膝を抱える自信がある、ウソであろうとも。 

 

 そして、穂乃果さんはともかく海未さんやことりさんは「誰かのため」であるなら「平気で嘘をつく」――その件については近場の「よっちゃんさんに絵里がデザインを送った」イベントが詳しい。

 

 よっちゃんさんが「スクールアイドルの皆様からプレゼントです」と言われ、千歌さんから「肩たたき券」曜さんから「腹筋ローラー」とネタまみれのプレゼントを送られた(なお、千歌さんに関しては券に直接会ってプレゼントを渡しますって書いてあった)

 

 その中に絵里のプレゼントもあったそうだから「ああ、千歌と同じようなネタ枠か」と梨子さんの「前から推していたアイドルのサイン色紙」の本気のプレゼントとは分けた。

 

 ある程度仕分けが完了し、ネタ枠の面々には「一応イヤミの一つも言っておこう」と中身を確認し、最後のひとつが絵里の送ってきたスケッチブックだった。

 

 これまた絵里の描く絵ってのは「ピカソの描いた絵って言えば10人に1人は誤魔化せそう」な出来栄えで、イラストレーターを本業にしてもいい理亞さんが「画伯ですね……」と嘆くレベル。

 

 私が頭の上がらないヒナも同様に「丸尾末広先生が足の指で描いた絵って言えばごまかせないかな……」レベルであり、やはり理亞さんが「……なんですかこれは」と頭を振るレベル。

 

 ただ、ヒナに頭の上がらない人間は私を筆頭に「絢瀬姉妹」「高坂姉妹」「UTX」「音ノ木坂学院」そして以前に「虹ヶ咲学園」も加わってるから、絵がチンパンジーレベルであろうが関係がない。

 「絵里はともかく、なんで私の情報まで……」とメンバーの口の軽さを呪ったもんだけど、なんてことはない。

 

 ヒナを突けば「綺羅ツバサってのは~」と詳らかに教えてくださる――けど、もちろん罠。

 学園の理事長も「この子扱いやすいわぁ」と最初は思っただろうし、恥ずかしながら自分も「上手く使えば利益になるわね」と考えた。

 

 が、上手く使われてたのは私の方だった――ヒナは一年生当時から権力を握ってたので、A-RISEのリーダーって立場を利用して声をかけ「練習や設備に対する不平不満」を漏らし、あわよくばなんとかしてもらおうと密かに考えた。

 

 ある日不平不満が見事に解消され「あの幼女はちゃんと仕事してくれてるし、こちらに見返りを求める様子もない、困ったら使うか」とお礼をしながらも考えていた。

 

 「やー、設備も良くなったし、都合よく回ってやりやすいわ」なんて考えつつ、ラブライブの前身イベント「スクールアイドルフェス」にて見事に全国優勝――黎明期とはいえ、スクフェスが発展しラブライブに繋がったのは自分たちが見事だったから――だと信じている。

 

 ラブライブ開催が決まり、A-RISEも初代王者の筆頭候補にあげられ、UTXで私たちの扱いは更に良くなった「自分の能力の高さゆえか」と考えていたアホな自分を呪いたい。

 

 ヒナに「音ノ木坂学院に行くから付き合って」と言われ「まあ、この子には世話になってるし」とホイホイ付いて行った。

 

 「ここにはスクールアイドルのμ'sってのがいて」と言われ「聞いたこともないわね」とすげなく返答。

 実際、よほどのスクールアイドルマニアでもない限り「僕らのLIVE 君とのLIFE」を披露したときにμ'sの名前を知っている人間はいなかったと思う。

 

 多くの中学生がライブを待つ中――その時に高坂雪穂さんや絢瀬亜里沙さんと顔を合わせる――なお、変装していたので、亜里沙さんには後年バレたけど雪穂さんは承知してない。

 

 亜里沙さんから「自分たちで曲作りをして振り付けもやってるんですよ」と言われ「ハァ、さぞかしお粗末な出来なんだろうなあ」と思った。

 UTXの芸能科にはプロのスタッフが在籍していて、振り付けや楽曲やトレーニング内容に至るまでほぼほぼチェック対象だった。

 

 「プロのスタッフが付いているし、彼らが認める実力が自分たちにはあるのよ」の自覚があるから「スクールアイドル自ら曲作り? バカじゃないの?」と、考えたのは――まあ、私がバカだったってことで許してもらいたい。

 

「……なっ!?」

 

 前奏から驚いた――や、もう、近くにいた中学生がみんなノッていて、漏れ聞こえる声には「自分たちと同じような生活しているのにすごいよね~」「この前公園で一緒になっちゃってサイン貰っちゃった~」「私はスーパー」ってあって、自分のスクールアイドル観が音を立てて崩れ去った。

 

 A-RISEはプロのアイドルに近しくが望まれていたし、実際にプロレベルの評判は多く聞かれた――だからこそお高くとまって「サインはUTXを通して」とか「いま、プライベートだから」とか言ってた――ちなみにスーパーでは絢瀬絵里さんがサインを書いてくれたそう、私も実際に確かめ、その時書かれた綺羅雪菜さんへのサインは未だに部屋にある。

 

 が、曲がそもそも「素人お遊び」レベルではなく、スクールアイドルとしてもかなりのハイパフォーマンス。

 

 それに、周囲のファンが大声を叫びながらグループを応援している――いかんせん、ステージに立っちゃうのでファンを見下ろすことはあっても、同調した経験はない。

 

「……違う、これは……自分たちの受ける声援とは違う……」

 

 私の声すら聞いているのが余裕の態度を示すヒナくらいで、戦慄している態度を不審にすら思われない、みんなμ'sに夢中になっている。

 

「ねえ、ツバサ」

 

 耳にネッチョリまとわりつくような声だった。

 

「アレに勝つのだ」

 

 全てから逃げ出したくなったし、実際にそのときはヒナを置いてオトノキから全力疾走をしてUTXに戻った。

 「ラブライブ出場はやめよう!」と練習してた英玲奈やあんじゅに言い「正気に戻れ!」とぶん殴られた――や、たしかに正気じゃないかもだけど、女の子をグーで殴るのはどうよ。

 

 もしもμ'sが第一回ラブライブ予選に顔を出していれば、A-RISEのリーダーは正気を保てず、少なくとも自分たち以外の誰かがラブライブの優勝を果たしていただろう。

 

 ちなみにμ'sに勝ての真意は「A-RISEには勝てないから大丈夫」を含んだ発破だった。

 や、英玲奈やあんじゅにも「この子たちが一番危険だ」って何度映像を見せても「取るに足らない」って言って鼻で笑い。

 ヒナもヒナで「何を怯えてるのだ?」と言い「そんなに怖いなら、A-RISEが負けたら生徒会長やめる」とも。

 

 

 ヒナはパッと見扱いやすいし、ナメてかかられるケースもしばしばある――結女の生徒会長にも可愛がられたことだってある。

 

 が「可愛い」とは思っても、取るに足らないとか、できない、方向ではなく「そうなんですねぇ!」「わかりましたぁ!」と賞讃する方向に行ったのが気に入られ、問題を抱えたLiella!の助けにニジガクが入っているのもそれが理由。

 

 絵里とヒナの初対面はUTXで迷った絵里をヒナが助けたんだけど。

 絵里ときたら「助けてくれてありがとう! 全身全霊でお礼をするわ!」と姉妹やご家族揃ってヒナを歓迎し、今までの人生で利用されるばっかだった彼女が感極まって泣くイベントが起きた。

 

 それで終わるかと思いきや、UTXに顔を出すとなれば「ヒナ、あの時はありがとうね」ときっちりお礼を言いつつ手土産を持っていき、ヒナが「自分がなにかすることはないのか?」と言っても「お礼を受け取ってちょうだい」で済ませた。

 

 クリハラの財力や権力を考えれば「億万長者にしてよ」と言っても「わかったのだ」で終わるのに「お礼を受け取ってちょうだい」で済まされるとヒナは思ってなかった。

 「例えば、お金をいっぱいとか」と繰り返し提案するも「身の丈に合わない」「自分がお礼しないといけない」で断る。

 

 絵里も悪いと思ったのか「だったら、妹と仲良くして」と言い、文字通り亜里沙さんと仲良くすれば「いい子ねえ、私も仲間に入れて~」と、なんと絢瀬絵里、ヒナを利用しやがった。

 

 高い能力ゆえに「人を良いように使うには、まずは願望を叶えてやる」が身についていたヒナが「願望を尋ねても答えてくれない」でさえはじめてだったのに。

 「ようやく言ってくれた願望」を叶えたら、絵里の望み通り「妹とヒナが友人になる」の目標が達成され「私も仲間に入れて~」と、ヒナが断れない雰囲気まで作った。

 

 ヒナが一年生時に「どうせ絵里はそのうちスクールアイドルをやるからお膳立てしよう」と考え、スクールアイドルで売ろうとしていたUTXにA-RISEっていう流星が現れたのをいいことに「この子たちを有名にして、スクールアイドルのイベントを大きくしよう」と計画した。

 

 絵里のスクールアイドル化までは多くの時間を要したものの、ヒナの想定通りA-RISEはスクールアイドルの知名度をあげ、それらを抱えるUTXは莫大な利益を得た――ただ、UTXは利益を得てからヒナを切ったので、手痛く復讐されたけどA-RISEには情があった、生徒会長をやめた件もそう。

 

 自分たちが芸能界で成功できたのも「スポンサーの意向」が大きくある――もちろん、実力がなかったとは言わない、後ろ指を指されるほどヒナを頼ってもいないつもり。

 

 よっちゃんさんの話に戻る――絵里が実は高い能力の持ち主だってのは、ことりさんだって、海未さんだって、凛さんだって、てか、おそらく関わった誰しもが知っている。

 

 アイツは能力が低いとか言ったらまず正気を疑っちゃう、ただ、絵が不得意なのはガチっぽい――や、まあ、絵が不得意だと天才みたいで格好いいじゃんとか言われても信じるけども。

 

 デザインの分野に関しても「ことりみたいにはできないわよ~」とか言っていたし、ことりさんからも「私みたいにやってみろ、殺すぞ」と脅迫されていた。

 

 言葉通りに聞くととんでもない暴言だけど、ことりさんが「コイツは自分に追いつけないな」と判断した相手には「え~? 頑張ればいいのに~?」と白々しく言う。

 

 デザインの修行を始める前の曜さんには「頑張れ~」と言ってた――今は「まだまだだなー」で、畑違いの私としては絵里とどっちが評価が高いのかわからない。曜さんだな、とは思うけど。

 

 が、今回、なぜだかは不明だけど「よっちゃんさんに衣装デザイン」を贈ると奇天烈な行動をした――スケッチブックに描かれたデザインみて、彼女が胸に抱きとめ号泣し、そのままの勢いで「こんなモン送ってくんじゃない!」と泣きながら通話越しにキレたエピソードもある。

 

 ことりさんの元に名前を伏されて到着したときには「ふぅん……フィリアの受験は落ちそうだな」と、届けに来た海未さんに言い、近くにいた曜さんも「お、これなら、ちょっと気合いを入れれば渡辺が勝っちゃうでありますよ」と余裕だった。

 

 もちろん、海未さんが笑いをこらえながら「これは絵里が描いたものです」とネタバラシをするまで。

 

「アァ?」

 

 このときのことりさんの表情は絵に描いて額縁に入れるべきだと、曜さんも海未さんも言っている。

 

「コピーして渡しますか?」

「若い芽は潰しておかないと、曜ちゃんが筆を折っちゃう」

「そのヒトがデザインに集中したら、潔く水泳のコーチでもやります」

 

 絵里が若いかどうかはともかく、曜さんにコーチが務まるかもともかく、よっちゃんさんにプレゼントした衣装をブラッシュアップしたのが、本日絵里が身に着けて練り歩いているドレスだ。

 

 妙に口数が少ないのが気になるけど、彼女の言葉通り「そっちのほうがことりの衣装が映える」からなんでしょう。

 

 

 ――などと考えていた夕刻までの自分を殴っておきたい。

 

 

 結女の理事会に喧嘩を売りに行くのを見送り、絵里が帰ってきたら料理でも振る舞うかと準備をし。

 理亞さんに「お酒飲まないんですか?」と言われたのを「そういうところよ」と鼻で笑う。

 

 どうにもまだ、理亞さんには「本気を出せば状況は覆せる」って鈍いところがある。

 

 海未さんは夕食以降、じっと目を閉じ部屋の隅っこで瞑想しているし、梨子さんも手持ち無沙汰なエマさんや果林さんの絵を描いている。

 普段だったら「酒! 飲まずにはいられない!」と騒ぐ連中が揃って、絵里の帰りを待つ――嫌な予感を覚えているのは、私だけじゃないのか。

 

「り……ま、ママから連絡があって!!! 絵里さんが……た、たお……倒れたって!!!!」

 

 理亞さんとの会話から数刻――ではそろそろ料理の準備をと考えていた私に、血の気の失せたランジュさん飛び込んできて、エマさんや果林さんには彼女の介抱を頼み、私は一目散に寮を飛び出した。

 

「何やってんですか! ”タクシー”を使えばいいでしょう!!!」

「ほざけ!!! それは亜里沙さん専用だ!!!!」

 

 胸に渦巻いてくる不安や恐怖をごまかすように「アァァァァァァァ!!」と叫ぶ私は、アイドル時代だったらスポーツ紙の一面を飾っていたに違いない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。