栞子やランジュとトランプで遊ぶ――神経衰弱とは、いかにババ抜きが弱かろうとも、ダウトで御自ら「ダウト」と言ってしまおうとも、記憶力さえ良ければ(もしくはトランプの癖さえ見分けられれば)勝利できる簡単なゲームだ。
栞子は能力こそ高いものの緊張しいであるとか、素直過ぎる性格で騙されやすいとかで、他者から評価されるほど力を発揮できない。
「しおりこ」の方が緊張しない分ステージで声援は頂ける、けどランジュから見れば「ダメ」だし、ボクから観てもやはりダメだ。
梅雨時だったかに絵里やツバサが「そんな程度でスクールアイドルをやられては困る」と「しおりこ」にやたら厳しい態度で接し、ボクも同学年で一緒にスクールアイドルをやっているかすみやしずくや璃奈も「何故?」と首をひねっていた。
ランジュも最初期こそ「レベルが低いからスクールアイドルをやっちゃダメなんて酷いじゃない」と庇うように前に立っていたものの――スクールアイドル部が予選落ちしたころかな? ダンスや歌、それにコンビネーション……ステージを構成する全てがUTXより劣っていたのに、挨拶で東京予選で一番の歓声を得た。
ボクも栞子に話しかけ「これが日本で言うところの判官贔屓ってやつなの?」って言ったら「わだすもステージのレベルじゃ、とてもUTXの皆さんには勝てんけんども」と前置きして「部のみんなを応援したくなるとよ」と言われた。
「応援したくなるぅ?」楽曲こそ、真姫や海未、千歌や梨子が関わっているおかげで(僭越ながら自分も)素晴らしいものだったけど、披露する側の実力はとても見合わない。
自分はさほど関わってないから「何やってんだ」とは言わないけど……いや?
「違う……実力は発揮できていない、ステージもグダグダだった、や、似ている? ……穂乃果やことりや海未の一番最初のステージと……似ているのか?」
後期と比べれば劣っていたけれども、それでもスクールアイドル部とは雲泥の差がある。
「ランちゃん! なした!?」
「うう……ごめんなさい、無問題ラ」
こちらが「アイヤー」と言ってしまうくらい、ハンカチで目頭を押さえながらグスグスやっているので「どこか行こうか?」と言うと「ここにいたい」って。
結局スクールアイドル部が退場するまで(アンコールでもされそうな勢いだった)ランジュが感極まっているので、ボクも栞子も彼女だけが気づいたなにかや、輝きやトキメキ(侑ではあるまいし)みたいなものを胸に――
栞子は「あのとき感じた気持ちは……わだすの中でしまっとくとよ」と後日に気づいたものの、ボクは恥ずかしながら侑の演奏を耳にするまで気が付かなかった――性格には忘れかけていた、が正しい。
※
侑ってのはこれまた、梨子や真姫が持て囃すほどピアノの腕前自体に特別なものはない――違和感を覚えたのは音楽科の生徒から「ミアちゃんからも、梨子さんや真姫さんにレッスンを頼んでくれないかな?」と言われ「ボクは普通科だから」と断ったとき。
「梨子も真姫もレッスンくらいすればいいのに」と思いつつ、フラフラと歩いていると梨子の姿を見かけたので声をかけようと思ったら、侑を連れて音楽室に入るのが見えた。
梨子がせつ菜の失言にマジ切れしたとき、彼女を全裸にして音楽室で正座させたイベントがある――ボクは「なんでそんなにキレてるんだ、カルシウムが足りないんじゃ?」と考え。
栞子に「梨子はきっとカルシウムが不足しているんだ、ほねっこでも食べさせたほうが良い」と言ったら、彼女は頷きながら「ミアちゃんはランちゃんと私がどっちが大切?」と軽い調子で言うので「ハァ? なんでそんな軽く、どっちも選びづらいようなことを言う……」と口から出して、梨子が怒った原因が分かった。
侑はそんな失言をする子じゃない、だけどボクは梨子のもう一つの噂を知っている――夜な夜な女の子を音楽室に連れ込んでは、夜にしかできないレッスンを施すというのだ。
女の子にしか満足できないように「調律」を施し、昼間は「お預け」をして「意のままに動かす」――
「侑が調律されるのでは!?」と考えたボクは現場を抑えようと、こっそりドアに張り付き漏れ聞こえる音に耳を傾けていた。
「……侑のピアノの音?」
拙いと思う――音楽科の生徒なら誰しもとは言わないけど、技術ならいくらでも上がいる、ネットを探せば侑より上手な人が世界中にいることだって分かる。
「……ッ! そうか、コレが、ボクが【しおりこ】をダメだと感じた理由か!」
ダメなのは分かっていたけど、感覚的に「そうじゃない」と感じただけで「どうしてダメなの」って尋ねられれば答えに窮するに違いなく。
「それにこれが……スクールアイドル部に見たモノ!」
今まで言葉にできなかったものが閃きのように脳裏に浮かび、単語自体は簡単なものなのに「誰にとっても手に入るもの」ではないと気がつき、それを持っている侑に強烈なジェラシーを覚えた。
その日の夜、ランジュの前で「ボクは練習をしなければいけない」と言い、彼女がとても嬉しそうにしたのを覚えている。
※
「ボクの勝ちだね」
次は七並べでもとランジュが言うので「七並べでもボクが勝つよ」と胸を張ったら、栞子も「勝てんけども、みんなでワイワイやったら楽しかね」と笑っている。
「ともだちってそういうものじゃない?」
ランジュがトランプを切りながら、心配そうに部屋のドアを眺める。こうして部屋にこもって遊ぶもの、寮のリビングで手持ち無沙汰にしているもの――時間をつぶすために少しでも楽しもうとしている。
「それにアタシは……ともだちって作ろうとするものじゃなくて、なってもらうものだと思うし……世界中から集まった子がスクールアイドルって同じ文化に浸って、でもそれだけじゃなく、手を取り合って一緒に何かをしてもらえる誰かになる文化ってのが、一番のいいとこだと思う」
「語っちゃった」とランジュは笑うけど「しおりこ」のステージに感じた違和感はそれだった。
彼女は確かに優れたパフォーマンスをするし「少なくともまったくダメ」レベルではない、トップ集団に比べればそこそこではあるけど……。
優れていても「他に優れた人がいるからそっちに行くよね」では、何の意味がない、だったらスクールアイドルではなくプロのアイドルのパフォーマンスでも眺めていればいい。
でも、プロのアイドルではなく、スクールアイドルのファンになりたい、なってもらいたいと全力を尽くすからこそ、スクールアイドルってのはスクールアイドルなんだ。
スクールアイドル部は全力を尽くしていた――不出来だったかもしれない、歴代最悪クラスだったかもしれない……でも、ファンに心の底から感謝した「あなた達がいるから、自分たちはステージに立てる」
もしもそんなスクールアイドルを応援したくないって言ったら、プロのアイドルでも眺めておけっていう、そっちのほうが幸せだ。
「ん? ママから電話……もしかして、全て解決って?」
「まだあわてるような時間じゃないよ」
でも、時間からすれば「監視委員会」やら「練習妨害」やら「普通科に嫌がらせ」とかする人たちをバッサリやった頃合いだ。
「え……? 絵里さんに大事……? び、病院は!? あ、アタシたちも……な、なんで!? みんなに知らせるだけなんて!!」
ボクは一瞬で状況を理解した――かなり無理をしている様子だったけど、自分が言ってもなと考えていた。
だって、自分以外のみんなが――特に海未なんかは「絵里ってば綺麗じゃないですか! 撮影させてくださいよぉ!」って言いながらも、表情が泣きそうになっていた。
食事すらロクに取れず、いつの間にか壁際で瞑想に入ったから「だいじょうぶ?」みたいなセリフも言えなかった。
誰しも心配だけども「まさかそんなことはない」って思いながらいつもの通りに過ごして。
「ランジュ、ボクらが外出すればおまわりさんにお世話になる時間、ココは大人たちに任せるんだ」
「……でも!」
「その通りです、私たちには自分たちでできることがあります」
このタイミングで入れ替わりやがった――思わず、口汚い言葉出てきそうになって、海未がリビングにいたのを思い出し漏らさずにすんだ。
「国家権力など取るに足らず……それよりも、スクールアイドル全員で病室に向かうこ……【しおりこちゃんは黙っとれ!!!!】」
殴ってでも黙らせようと、息を整えていた所に「栞子」の叫び声が聞こえ
「ランちゃん、わだすどもが行ったら二次災害に遭うようなもの、心配で、怖くて、泣きそうだけんども、動いてはいけない人が動いたらダメ」
「栞子……」
「しおりこちゃん! わだすな! 前から言いたかったんだけど! 誰もが幸せになる解決策よりも! 誰もが幸せになる気持ちのほうがよっぽど大事だとよ!!! 人間は!!!! 気持ちで生きてるんだから!!! 適正とか、解決に至る妙案とか、正しいかどうかなんて分からんよ!! でも気持ちは!!! 人を幸せにする気持ちだけは!! 愛だけは絶対に正しい! 未来永劫!!! ぜったい! ぜったい!!!!」
ランジュの目に力が戻り、ドアから飛び出してボクたちよりも頼りになるメンバーに状況を知らせに行った。
「キミはバカだよ」
「え、あ、うん、わだす……頭は自信ないけど」
「しおりこに言ってるんだ」
果たして栞子を睨みつける感じで言って正しいものかはわからないけど。
「なんでキミは今【正しい選択】とか【人それぞれに見合った適正】とかが分かるんだい? やってみなければわからないものを【コレこそが正しい】【適正】とか言えるキミは未来人かなにかなの?」
ボクはそんな当てにならない正しさより気持ちを信じるよ、気持ちだけで生きてるってわけじゃないけど、決めつけられる正しさよりは絶対にソッチのほうがいいから。