アラサーエリちとお姉ちゃん大好き妹亜里沙   作:のののえみ

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高咲侑さんはそのように言う

 ケミカルとカオスの融合――古きと新しきの調和ではあるまいし、淘汰される文化には悲哀も浮かぶけど、滅するべくしてなくなった制度にはしかるべき理由がある。

 神様が製造した身体だったからか、少々気分が悪くなったもののそこそこ快調――滅多にできない経験もしている。

 

 一方に見えるは綺羅ツバサ――彼女からなんと団扇で仰がれてる。石油王が相手だって気に入らなければ「いくら金を積まれても無理」とそっぽを向く彼女が、英玲奈から「お前が世話しろ」の一声で先ほどから甲斐甲斐しくお世話を焼いてくれてる。

 

 いかんせん表情が引きつっているのが玉に瑕。

 自分の本意ではないと透けて見える。

 態度からして「私は同じグループのメンバーに頼まれたから仕方なくやってるのよ」と言いたげだ。

 

 もう一方に見えるのは絢瀬絵里――こちらは打って変わって楽しそうだ。

 英玲奈の指示がなくても「頑張ってWセツナ」の料理を完食したと聞かされれば、両手をあげて世話を焼くだろうから、満面の笑みで団扇を仰いでも残念ながら問題はない。

 

 ただ、こいつが楽しそうに世話をしているばかりに、彼女の友人たちから那由多は白い目を向けられている。

 

 鏡越しの自分に世話を焼かれるってのは、思いのほか気分が悪いもんだ、動いてるのを見るだけで変な感じがする。

 私は絢瀬絵里だったんだよな? と自分ですら疑問に思う。

 

 ただ目の前にいる人間が絢瀬絵里かって言うとそうじゃない、自分が言うんだから間違いはない――自信ないけど。

 

 なにせ仕事が忙しいと英玲奈が帰宅の途に着こうとし、私と絵里も見送ったんだけど「今日の絵里はなんか変だな?」と首をかしげられ、そりゃそうだ中身が違うんだから、と麻生那由多も頷いた。

 

 双方から疑いがもたれ、中の人も「これは正体がバレる」とでも考えたか、神様からメッセージでも頂いたか「そんなことないわよ? 疲れてるんじゃないの?」とさしあたりもないと言わんばかりに内股になり、左手を唇に寄せて、園田海未を彷彿とさせる投げキッスを放った。

 

 「疲れてるのはお前じゃないのか?」と普段なら冷静にツッコミを入れる英玲奈が「お、おう」と、新婚夫婦の見送られる方的な反応を残し、そんな我々を観察していた面々が音を立てて押し寄せてきた。

 

 絢瀬絵里の中の人は私に対してどのような印象を持ってるのか知らないけど。

 少なくとも友人を見送る時に投げキッスはしない、ハグもしなければ……手はたまに振るけど。

 

 引きつった笑みを浮かべている海未が「おやおや、お二人は新婚夫婦のようですね」と、声を震わせながら言うので、英玲奈も忍びなく思ったのか「どうせなら全員にしてやれ」と眉間の辺りを手で抑えつつ、首を振りながら言い放った。

 

「それでは遠慮なく」

 

 練習を鏡でしたことがある海未でない限りは、自分自身に投げキッスを受ける経験もすまい。

 手当たり次第に投げキッスやハグして周囲の面々から「料理の匂いを嗅いでおかしくなった」と評判になった――そこまで来れば英玲奈に「那由多の世話をしてやれ」と言われたツバサも「そんなものを食べさせたんだからしょうがないわね」と判断する。

 

 ――まあ、那由多にご奉仕するついでに、絢瀬絵里の異常を伺っているのはわかるけども。

 

 

 

 

 私が倒れるまであと数日――なんか何日か後に死ぬワニみたいだ。那由多への扱いは日を増して良くなる。

 自分から見て絵里はかなり優秀な類だけど、アゴで使いやすいかって言うとそうじゃない。

 言われる前から「はい喜んで!」と、積極果敢にご奉仕に向かい、挙句の果てに倒れたポンコツと違って、ちゃんと仕事にリミッターを設けてる。

 

「絵里ちゃん……いつの間に外見とスペックが一緒になったの?」

 

 なんとも穂乃果らしい、周りにいる人間が反応に困る表現で、中の人が入れ替わってる絢瀬絵里を称するけど。

 

 もちろん良いこともある。

 金髪ポニーテールがなんでもかんでも「私がやらなければ誰がやるのよ」と仕事にかまけないおかげで「しゃーないから分担しよう」と、薫子さんの音頭で配分が執り行われた。

 

 前々から私に何かあった時にこうやって分担しようかと、自分のいない場所で計画を立ててたみたいに、気持ちいいほど担当者と仕事内容が決まって行くけど――まあ何も言うまい、私は何せ倒れた身だ、文句を言えば「お前が倒れたからこんな事やってんだろ」と罵られるはず。

 

 

 Aqoursのリーダーに相談に乗ってもらえて嬉しいです! と、喜んでいる生徒を見た麻生那由多が悔しがってるのがバレたか、千歌ちゃんが「あなたも参加したらどうかな」と、助け舟を出してくれた。

 

 Wセツナが調理をしたその日以降――管理の目を盗んでいるのか、それとも止めるのがめんどくさいのか、彼らはキッチンでとんでもないものを悠々と作る。

 

 作っては「那由多さんどうぞ」と……どうにも劇物調理人からすると、私が美味しそうに暗黒物質を食べて見えるらしく。

 日夜に膨張を重ねる宇宙のごとくに食べ物からかけ離れていく毒物は、那由多の犠牲を経て処理される。

 

 「死ぬ、このままだと元に戻れないまま死ぬ……」と薄れていく意識を必死になって保ちながら、涙目になりつつ完食――その姿を眺めれば、いかに初日からA-RISEに喧嘩を売ろうとも「あの子はいい子なんじゃないかな」と感想だって抱く。

 

 千歌ちゃんが助け舟を出してくれるまで時間がかかったけど、それほどに人間関係に致命的な影響を及ぼす発言だったと……なんか違うような気がするんだけど気のせい?

 

 ともあれ許可が下りたので、来月に転入してくる「麻生那由多です~」と説明しながら校内もめぐり「あの金髪ポニーテール賢くって嫌だな」とつぶやいているのが侑ちゃんにバレた。

 

 編入試験に向けて必死になって鍛錬を重ねている現状、誰にも聞こえないと思っていた囁きが、ピアノに意識を向けている侑ちゃんに聞こえてしまうとは――最初から私の動きをさては伺ってた?

 

「あなたは誰?」

「凛さんから人間ゴミ袋ってあだ名されてるのは知ってます」

 

 話題をごまかしてきたけど、麻生那由多の中身が絢瀬絵里であることは付き合いの長い連中にはすぐさまバレ。

 どうしてこんなことをしているのか、については誰かしらから追求されると思ってたけど……編入試験でお忙しい侑ちゃんにその役目を任せるとは。

 

「ちなみにいつから?」

「料理を食べてる時に口調が崩れていたそうですよ? 気が付きませんでした?」

「……なるほど、あの金髪ポニーテールは随分と賢い、初日で英玲奈に正体が感づかれたのに気づいて遊んでたわね?」

 

 おおかた、英玲奈は来ているのにあんじゅはいないから、あれの中身は優木あんじゅなんだ……そりゃ賢い、私なんかよりもよっぽど絢瀬絵里の身体を使いこなしている――A-RISEのメンバーになるってのは凄いのね?

 

 

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