AFOが倒れた時期と同じくして誕生した非合法組織。
ナイフから戦闘機まで多種多様な兵器を世界中で売り捌いており、たった数年で裏社会の兵器工場と呼ばれるまでに至った。兵器の質は正規軍にも劣らない性能であり、その秘密を探ろうとした人間は全て死亡。そのため、他の組織からは素晴らしい商人であると認識されている一方で全貌が見えなさすぎて警戒されている。
表向きの入院期間が終わり、夜神は久しぶりの学校に心を踊らせていた。なぜなら実質3連休ではあったが、半分くらいは仕事していたからである。帝国の資金源であり象徴である彼女は色々と作業が多いのだ。
「諸君!おはよう」
「おーおはよう」
「久しぶりだな夜神さん!」
そんなわけで久々の登校となった彼女であったが、ほとんどのクラスメイトとの反応は至って普通。一応はメチャクチャな重傷を負っていたのだが、その場で甦ったので今はあんまり心配されていなかった。
「おはよう刹那。調子は…良さそうだね」
「当然だ。入院という事ではあったが、実態は経過観察に等しい物であったからな」
「そりゃ完全に死んでたからね。でも安心した」
そう言いながら夜神の手をさりげなく握る耳郎。
いつもの彼女とは様子が違う気がするが、それはある意味で当然の行動であった。生き返ったとはいえ、耳郎は友人が死ぬ瞬間を目の前で見ていたのである。 それは
そのため、生きていると分かっていても耳郎は気が気でなかった。本当なら夜神の首を触って大丈夫かどうか確かめたかったが、彼女にそこまでの勇気はない。
「どうだ?私の手は温かいか?」
それでも普段はしない行動であったが、夜神は特に動じることなく応じた。
「…いつも通りひんやりしてる」
「私は生きた
「なにそれ」
夜神の体温は見た目通り冷たい。
本人は中身が機械だからと言っているが、単に代謝が低いだけである。これは彼女が不死身だからというのもあるが、肉体を二つに分けている事も大きかった。
「ククク…そのままの意味だ。人の
やはり正しくヒーローを目指す者たちの眩しさは素晴らしい。
彼らを見ていると、あの魔王の酷薄さが際立つな。奴は温もりを与えるどころか、元の私を全て殺し尽くした死神のような存在であった。
特に個性を与えるために触れられた手。
生きているはずであるのに、奴の手はゾッとするほど冷たかったと記憶している。できれば私より先に逝ってほしいものだ。
「っ…!それは反則でしょ…」
「ん?」
なんだ?響香の顔が少し赤いな。
熱ではなさそうだが、どうしてこちらから目を反らそうとしているのだろう。もしや、公衆の面前で手を握る事に気恥ずかしさを覚えているのだろうか。
「なに…そう赤面することでもあるまい」
一週間後には全国民が見守る中で鎬を削り合う戦いをするのだ。この程度で恥ずかしがっては、やれる物もやれぬだろう。これも私が未来を変えた影響であるのならば、一応は何か言っておいた方が良いだろうな。
「せ、刹那なにを?ひゃっ…」
夜神はそう考えると、彼女の両手を握った。
そして、自身の方に耳郎の身体ごとグッと寄せた。必然、両者の顔はくっ付きそうなほど近づく。
「響香。貴殿は真の心を持っている。それは、数多の
この言葉に嘘偽りはない。
彼女はこの世界を愛おしいと思いながら、自身の存在を刻み込むために破壊を振り撒いている。爆豪の両親が死んだ原因が自分であると自覚しながら正義に揺れ動かず、世界を歪めながら救う者として振る舞う。
そんな破綻しきった精神でありながら、夜神の心は些かの狂いも起こさない。何故なら、彼女の全てはとっくの昔に狂気に堕ちていたからだ。
夜神にとって世界とはゲンサクの事であり、それに出てくる人間は魔王と博士を除いて素晴らしい存在だと思っている。逆に、それ以外の人間には何の感情も抱いていない。もちろん既に彼女の記憶は失われているが、前世の残骸が極めて自動的に登場の有無を判断していた。
「響香よ。貴殿は己が道を行け」
故に、その言葉は心からの物であった。
つい2日前に犯罪者を虐殺した立場の人間が言うセリフではないが、その声色からは真摯な思いが伝わってきた。
とは言っても、彼女は耳郎の胸中については全く知らない。自身の死で精神に不調を来しているとは思っておらず、本人的には『貴殿の人生は素晴らしいのだから、恥ずかしがらずに堂々としろ』という意味で喋っていた。
「ズルいな…ホント」
けれど、それでも彼女の心は晴れた。
物理的に近づいたことで夜神が生きていると実感できたのもあるが、一番は彼女の声であった。いつも通りの喋り方に、いつも通りの口調。死んだ夜神が何も変わっていない事に、耳郞は安心したのだ。
「ククク…当然だ。私は全てを知りながら
「そっか。けど…ありがと」
「礼なぞ不要だ。元より身から出た錆である」
どうやら元に戻ったようだ。
どの言葉が響いたかは分からぬが、これで響香の体育祭は良い思い出となるであろう。私も開催を心待ちにしているが、爆豪勝己の両親を殺めた件を早めに解決せねばならぬ。
本体と接続してわかったが、彼女は自身の両親を元にした死兵を自らの手で機能停止するまで爆破したようである。その歳でそれを成せる胆力も素晴らしいが、両親もまた強かった。死んでなお命令に抗い、決して傷つけまいとする意志。
自暴自棄になっていたとはいえ、本当に惜しい人を殺めてしまった。機会があれば、花でも供えに行かねばならんな。
「(死体は残っていたはずだからな。慰霊碑ではなく、彼女の家の墓に納められいるはずだ)」
それはそれとして、接続した時に爆豪勝己への妙案を思いついた。中々に良い案であり、成功すれば彼女は更に素晴らしいヒーローになるだろう。もし失敗しても問題はない。きっと彼女であれば、それすら乗り越える素晴らしいヒーローになることは明白であるからな。
「…あの…刹那。ウチそろそろ限界なんだけど…」
そう夜神が考えていると、やけに動揺している耳郞の声がした。不思議に思って思考を止めると、彼女の様子がさっきと変わっていることに気づく。
目が潤んでいて、頬が先ほどよりも赤面している。ついでに耳も真っ赤に染まっているし、イヤホンも心なしか赤い。よく見れば、恥ずかしさからか握られている手はプルプルと震えていた。
「ふむ。元気になったと思ったが赤いな…どうやら足りなかったようだな」
夜神は何食わぬ顔で呟くが、誰がどう見ても原因は彼女であった。そもそも、夜神の顔は精巧な美術品のように整っている。言動と思想と服装が悪目立ちするという点を除けば、彼女は八百万に並ぶほどの美少女だ。
だがしかし、本人にその自覚がないのだ。
自身の姿や格好がカッコいいという事は理解しているが、夜神は自らの顔にまるで興味がなかった。なぜなら、彼女の元の肉体は個性も含めて今の自我が生まれた瞬間に変貌している。実験体の少女は何も残せず消え、生まれたのは際限なく改造可能な完成された肉体だったのだ。
故に、夜神は自身の首から上をアインザッツという名の兵器の部品としか考えていなかった。頭脳体であるため戦闘機で言う所のコクピットだという自認はしている。だが、あくまで兵器の一部分であるため美少女という感想を持ったことがなかった。
「せ、刹那。そろそろ離し…」
一方、耳郞は違う。
彼女は明確に夜神が美少女の部類であると認識している。もっと言うと、小学生時代に初めて出会った時から耳郞は彼女のことを目が離せない存在だと思っていた。鮮烈に登場し、自身に嫌がらせを行っていた者を殴り飛ばし、こちらを見ながら唐突に笑い出したあの姿。その瞬間から、耳郞響香という少女の人生に夜神刹那という
「ただの確認である。そう気負わずに力を抜け」
そして、彼女達は10年という時間を友人として過ごした。
もはや親友と言っていいほどの出来事を積み重ね、耳郞にとって夜神はいて当たり前の存在となった。けれど、その日常が崩れてしまった時。彼女の抱く感情が変化し始めてしまったのだ。
その気持ちに自覚はなく、それの名前が何であるのかも耳郞は知らない。されど、この状況において彼女の心臓は激しく鼓動していた。
「あの…ちょっと待っ…!」
首に手を当てられ、腰に手が回される。
火照った首筋にひんやりとした感触が伝わる。それにより心臓は殊更に鼓動を早め、腰の手によって身体全体が夜神に抱きしめられた。耳郞の頭には柔らかな感触が伝わり、静かな心音が彼女の耳へと届く。
「どうだ?落ち着くか?」
抱き締めるという行為は相手に安心感を与える。
親しき間柄であるほど効果的であり、意気消沈している人間に対しても抜群である。かつて夜神は、特殊な不死性を持つが故に壊理という少女に躊躇なく触れた。色々と省略するが結果として彼女の精神状態は回復し、一緒に同居するほどの信頼を夜神は得た。
「(なにこれ!?なにこれ!?)」
その経験を生かし、彼女は耳郞を正常な状態に戻すために優しく抱き締めていた。だがしかし、それは夜神の大いなる勘違いである。現に耳郞響香の赤面は直るどころか、むしろ加速してイヤホンの先まで真っ赤に染まっていた。
「(ふむ。熱いな)」
これは悪化している気がするな。
何故だろうか。体育祭では騎馬戦という他者と触れざるをえない競技もあるのだが、これでは心配だ。聞いた所によると学生時代の悪い思い出というのは、大人になってからも尾を引くらしい。
ならば、響香の熱が正常になるまで私は全力を尽くそう。幸いにも、まだ試していない行動は幾つかある。とりあえず今の彼女の体育祭が良き思い出となるためには、抱擁の更に次の段階へと移行する必要があるようだ。
「夜神君!」
夜神が次の行動を試そうとすると、それを止めるかのように委員長から声をかけられた。ちょっと声を出すのが遅い気もするが、未だ純情な青年にそれを求めるのは酷な事である。何せ2人の雰囲気は教室が静かになるほど近寄りがたく、声をかけるのには真面目な彼であってもかなりの覚悟が必要となったからだ。
「ん?なんだ飯田天哉」
「何がではない!ここは学校で俺たちは生徒!そのような不埒な行為は控えるべきだ!」
「不埒か…ふむ」
夜神にその自覚はない。
しかし、クラスメイトから見た姿はそうではない。彼女は来て早々に額がつきそうになるほどの至近距離から告白まがいの宣言をし、そこから強引とも取れる抱擁を行っている。
同性同士であるというのに2人の雰囲気は妖しく、耳郞に至っては息も絶え絶えの限界寸前である。そのせいで女子の大半はどうしたものかと手をこまねき、男子はこれ見ていい関係なのかと顔を見合せていた。
「そうだ!」
「異な事を言うものだ。ただ抱き締めているという行為に、そのような感情は介在しない」
「そういう話ではない!耳郞君を見たまえ!さっきから生まれたての小鹿みたいにプルプル震えているぞ!」
「であるな。故に抱き締めている」
「そうではなく早く離したまえ!」
「その命令は否定させてもらおう。
「耳郞君!聞こえているなら早いところ夜神君に言ってくれ!俺では彼女の言葉は難しい!」
「…無理」
「どうやら厳しいらしい。というわけで今は引く時だ飯田天哉」
「俺は学級委員長だ!クラスの風紀を守るためには今は引くわけにはいかない!」
それから同じような話を三度ほど繰り返した。
事態は平行線であり、相澤先生が来るまで終わらない。そう皆が思った矢先、不機嫌なオーラを漂わせている爆発寸前の少女が動き出した。
「おい軍服女」
「なんだ爆豪勝己。今の私は次なる段階への移行を考え…」
彼女は我慢していた。
負い目もあるし、4日前に殺された事も考慮して多少のことではキレないと決心していた。しかし、物事には限度がある。人目も憚らない言動の数々に、飯田天哉との終わらぬ言い合い。
それによって、ついに爆豪の堪忍袋の緒が切れた。
「面倒だから黙っとけ!!」
「がふっ!?」
綺麗な右ストレートが夜神の顔面を抉った。
渾身の力で殴られた彼女は宙を舞い、地面に落ちる前に五発ほど殴打されて壁まで吹っ飛ばされた。
「来て早々うるせぇんだよ!!」
「ごふっ…それはすまないな。しかし、私の行動は世界が今より狂わぬようにするための愛ゆ…」
「それ止めろって言ってんだよ!!」
顔面が原型を留めていないほど損傷しているというのに変わらぬ調子で喋り続ける夜神。そのせいで爆豪は更に苛ついて追撃をかまし始めた。
「落ち着いてかっちゃん!ここ教室!教室だから!」
「緑谷君の言う通りだ!だから爆豪君はその拳を抑えてくれ!」
「離せデク!!」
流石にそれ以上は看過できないので緑谷は急いで止めに入った。後ろから羽交い締めにして何とか引き離そうとするが、完全にキレているせいで全く止まらない。
「かっちゃん暴れな…あ」
故に、こちらでもハプニングが起きた。
止めようとした緑谷の足が引っ掛かり、爆豪と共に倒れてしまったのだ。
「いたた…かっちゃん大丈夫?」
「…おう」
すると、何故か急に彼女は大人しくなった。
緑谷はこの世界でもクソナードなため知らなかったが、今の2人の姿勢はいわゆる床ドン。ラブコメや恋愛映画で幾度も使われた女の子がドキドキするあれである。
「そっか。良かった」
「…おう」
緑谷は平常運転だが、爆豪の頬は軽く紅色に染まっていた。
これは彼にとって彼女は守るべき対象であり、それ以上の感情に未だ変わっていないからだ。一方爆豪の場合は、自らの罪を見せた親友にして大切な人という認識である。
「(ふむ…こんなに仲良かったか?)」
よって、2人の甘酸っぱい雰囲気を夜神も察した。
なんだか記憶と少しばかり違う気もしたが、性別が変わってる時点で誤差だと彼女は思い直した。そして、へたり込んだまま動かない耳郞をまた抱き締めようとした時。
「お早う。おまえら静かに…」
教室のドアが開いた。
現れたのは、このクラスの担任である相澤消太。彼は目の前に広がる意味不明な光景に絶句した。
「(これは…何だ?)」
真っ先に目に飛び込んできた耳郞響香は真っ赤な顔でへたり込んでおり、夜神刹那は壊れた壁に腰掛けていた。下に目を向ければ、緑谷出久が爆豪勝己を押し倒している。それを見て峰田実は血涙を流しているし、飯田天哉は頭を抱えていた。
その他の問題は八百万がアワアワしているぐらいだったが、シンプルにカオスな状況だった。
「…とりあえず席につけ。あと夜神は放課後職員室に来い」
故に、さしもの彼でも少し言葉が詰まった。
殴り合っているならまだしも、この状況は生徒に事情を聞かなければサッパリ分からない。とりあえず、問題児である夜神が何かを起こしたのは確定だと相澤は考えた。
「ふむ。理由を聞いても?」
「一応は退院したばっかりだからカウンセリングだ。あと普通にUSJでの反省文」
「自明の理だな。了解した」
そして、全員から事情を聞いた相澤は放課後のカウンセリングを明日へと変えた。心に関係はしているが、重い話でもなかったので自身より向いているミッドナイトに頼む事にしたからである。ちなみに、明日に変わったのは普通に彼女が忙しかったからだ。
◆◇◆◇◆◇◆
そして放課後。
あっという間に今日の授業は終わり、夜神が職員室へ向かおうとした時。教室前の廊下がいつもより騒がしいことに気づいた。
「ほう…面白い事が起きそうだ」
目を向ければ、廊下には他クラスの生徒達が集まっていた。
どうやら敵情視察との事で、普通科からB組までかなりの数がいる。本来の歴史において、彼らがA組に来るのは今から2日前のはずだった。しかし、入院した生徒が出たという噂を聞いたので自重。今回は各々の担任に大丈夫かどうか聞いてから来ていた。
ヒーロー目指すだけあって良い子ばかりである。
「──少なくとも
とはいえ、それで手心を加えるほど彼らは優しくない。先に煽ったのはいつものごとく爆豪だが、喋っている彼も彼でかなり挑発的な発言をしていた。
「良い言葉だ。
そして、それに乱入する夜神。
肩にかけた軍用ロングコートを翻しながら喋る彼女に、啖呵を切った彼も驚きを隠せなかった。
「アンタは…」
「夜神刹那。死によって生まれた存在するはずのない
「…心操人使だ。入院した生徒ってのはアンタだな?病み上がりとはいえ、アンタも足元に気を付けた方がいい」
心操…確かにいた気がする。
記憶によると
「ふむ。星を目指す者か、はたまた星と共に歩む者か。どちらにしろ貴殿の未来に幸あらんことを」
「…まだ入院してた方がいいんじゃないか?」
「コイツ素でこれだから諦めた方がいいぞ」
本気で心配そうな顔をする心操に忠告する爆豪。
宣戦布告しに来たというのに、彼からは生来の真面目さが見え隠れしていた。
「隣のB組のモンだけどよぅ!!」
すると、また乱入者が現れた。
今度は隣のクラスの鉄哲徹鐵である。B組きっての漢である彼が、爆豪の煽りと夜神の不遜な言葉を聞いて黙っていられるはずがなかったのだ。
「
売り言葉に買い言葉。
ガン飛ばしながらデカい声で喋っている鉄哲に対して、場にいる彼らは三者三様の反応を見せていた。有象無象の一人として見る者、自身の障害の一人として見定める者、愉快そうに歪んだ笑みを浮かべる者。
「本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」
その言葉は決して間違っていないが、それに真っ向から返す者はいない。心操は言いたい事は言ったので帰ろうとしているし、爆豪はそもそも眼中にない。それは正史においても同じであり、彼女はクラスメイトから聞かれぬ限り無視して帰ろうとしていた。
「クハハハッ!異な事を言うものだ!
そんな中、夜神が言葉を返した。
彼女にとって、彼らの勝ち負けは無様な姿だとは思っていない。何なら起き抜けに虐殺を行った夜神にとって、その程度は青春の楽しい思い出の一つになるとさえ考えている。
「されど罪過を背負いし愚者は自らの咎に喰われ、淀んだ内側を晒すだろう」
「…つまり何が言いてぇんだコラ!!」
「勝利者は
彼女は自身以外は全てヒーローだと言っている。
しかし、そんな迂遠な表現が伝わるわけがない。彼らからすると、自分以外は全て敗者であると言外に言っているようなものだった。
「好き勝手言ってくれるなぁヒーロー科」
「意味わかんねぇ事ばっか言いやがって随分と上から目線だなオイ!」
必然的に殺気立つ他クラス。
意に介していないのは夜神と爆豪だけであり、他のクラスメイトは冷や汗をかいていた。
「待てコラどうしてくれんだ。おめーらのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!!」
「関係ねえよ」
「ウム」
当然ながら言動を非難されるが、両者とも全く響いていない。なぜなら、どちらの意思も最初から決まっているからだ。
「はあー!?」
夜神は未来を知っているが故に。
爆豪は緑谷というヒーローに救われたが故に。
「上に上がりゃ関係ねえ」
当然のように彼女は答えた。
自身の心に寄り添ってくれた緑谷と並ぶ存在になるため、体育祭で勝つ。その言葉に夜神は訳知り顔で頷き、良い笑顔を浮かべた。
「素晴らしい檄だな爆豪勝己」
「てめぇは死ね」
「残念ながら私は
「チッ」
そうして彼女は職員室に向かった。
その後、残ったクラスメイトは爆豪の言葉に感化されて檄を飛ばし合い、緑谷もまた彼女の言葉で決意を固め直している。彼らは体育祭までの12日間で各々がやるべき事に時間を費やし、訓練や練習に励んだ。
そして、あっという間に12日間は過ぎた。
やれる事はやった。であれば、全力を出すだけ。
これから始まるのは、雄英高校一年生全員がそれぞれの夢を宿して挑む体育祭。そこにはドラマがあり、様々な人間の運命が邂逅する。
だがしかし、波乱は起きる。
自らの咎を身勝手な方法で修正しようとする悪。それの介入は少女の憎悪を呼び覚まし、虐殺者の一端が暴かれる。
混沌渦巻く体育祭の開幕である。
【
アインザッツの今はなき前世の知識が記された日記帳。
原作の出来事が記されており、この世界にあってはならない代物。ただし、この日記帳を書いた時点で彼女の記憶は相当に薄れていた。そのため襲撃事件や裏切り者は記されているが、細かい事象のいくつかは抜け落ちている。
ちなみに前世では本誌派でエピローグ読む前に事故死。続きを気になっていたが、時が経つにつれてその気持ちも忘れてしまった。今ではエピローグがあった事すら覚えていない。