アルティメットスぺちゃん爆誕【実況プレイ風動画】 作:サイリウム(夕宙リウム)
「よく来たな、スペシャルウィーク。」
「あ、はい。どうも。」
ネイチャさんとちょっとした話、実家に帰っていたということは彼女も知っていたみたいで。お互いの家の話を少ししながら生徒会室まで歩いて来た。彼女も入るのかな、と思ってたけどそうではないみたいで。『じゃあアタシ他にも用事あるから。』と小走りで走って行っちゃった。
やっぱり、というか一人でここに入るのはちょっと緊張するなぁと思いながら扉を開けると、この部屋の主から声を掛けられる。
「む、もしや練習中だったかな? それならばすまないことをした。」
「あ、いえ。暇だったのでちょっと走ろうかなぁ、って思って着替えてただけなので別に大丈夫です。」
「そうか、ならいいが。……こちらが招いたのだ、好きな席に座ってくれ。」
そう言いながら指さされた方のソファへと腰を下ろす。会長はそれを見ながら『あまり自分で淹れたことがないからうまいかどうかわからないが……。』とカップを取り出しお茶を入れてくれる。私にはそれが紅茶、ということしか解らないけど優しい香りが漂ってくる。
「それで、何のご用……。」
「すこし、落ち着き給え、スペシャルウィーク。暇なのだろう? レースではもちろんだが、何事にもタイミングというものがある。急いては事を仕損じる、という言葉もあるだろう?」
言葉を、遮られる。生徒会長は多忙だから早く終わらせようとした……、ううん。あんまりここに長居したくない気持ちがちょっと漏れてたのかも。やっぱり負けそうになった相手とお話しするのはちょっとしんどい。会長はドリームシリーズに進むみたいだからもう気にしなくてもいいんだけど、やっぱり気にしてしまう。
そんなことを考えていれば、自身の目の前にカップが置かれる。会長の方を見れば、目線で『飲みたまえ』と。
澄んだ水面に私の顔が一瞬移り、それを手に取れば振動ですべてが消える。口に運べば熱が喉を通り抜け、茶葉の香りだけが口と鼻の中で残り続ける。
「紅茶は苦手かい? 砂糖とミルクならそこにある。好きなだけ入れるといい。」
「……ありがとうございます。」
香りは嫌いじゃないけど、それに味が付いてないとちょっと苦手かもしれない。これも顔に出てしまったのかすぐに会長に指摘されてしまう、すこし顔が熱くなっているのを自覚しながら砂糖とミルクを追加していく。お姉ちゃんに止められそうな量の半分くらいにしておいたから大丈夫……。あ、びっくりした顔。多かったみたい。
「ふっ、甘い方が好みか。」
「す、すみません……。」
「あぁ、いや。別に非難しているわけではない、ただ君の新しい面を見れたことが嬉しく……、いや面白いというべきかな?」
そう、楽しそうに笑う彼女。『レースでの君、特にジャパンCでの君が頭から離れなくてね。』と言葉を重ねる。確かにあの時はすごく必死だったけどそんなに変だったかなぁ? と思いながらもう一度紅茶を口に運ぶ。……うん、もうちょっと砂糖欲しいけど甘くておいしい。これなら飲めそう。
「……さて、あまり君の時間を奪うのも良くないだろう。本題に入ろう。スペシャルウィーク、突然ですまないが君が今年出走するレース、大まかな予定でも構わないが教えてくれないだろうか。あぁもちろん誰にも口外しないと誓おう。」
「は、はい。」
別に、秘密にするようなことではないのでお姉ちゃんが決めたルートをそのまま会長へと伝える。春の三冠と秋の三冠。そして海外遠征として芝の2つのレース。お姉ちゃんが決めたらのならここから増えるかもしれないけど、このレースのどれかを走らないってことはたとえお姉ちゃんが止めたとしても絶対に出る。そうじゃなきゃ私がここにいる意味がないのだから。
「なるほど……、時にスペシャルウィーク、君が世間からどのように見られているか気にしたことはあるかね?」
「世間……、ですか? いえ、全く。」
「ふむ、なら質問を付けたそう。テレビやネットで自身の評判を見たことはあるかい?」
「レース映像とかは見ますけど……、それ以外は見ないです。」
自分がどう思われているか、とかはそこまで興味がない。目の前で言われたら何か思うことがあるかもだけど、私の知らないところで何を言われようが特に気にしない。他人は他人だ。あとテレビを見ない、ってことで会長さんちょっと驚いていたけど見た方がいいのかな……? お姉ちゃんと話す時間が減るのは嫌だけど、見ておいた方が強くなれるとかだったら聞いておかなきゃ。
「そうか。……スペシャルウィーク、話は変わるが君は責任という言葉について深く考えたことはあるかい?」
「…………毎日ずっと考えています。」
「それはいい心がけだ、だがあまり思いつめないように、とも言っておこう。……すでに理解しているかもしれないが、少々君の立場、というものについて話した方がいいかと思ってね。今日はわざわざ来てもらった、少し面倒な話になるかもしれないが我慢して聞いてくれるとありがたい。」
さっきまでの柔らかい雰囲気を少し変化させながら、会長が言葉を続ける。
「7戦7勝。これまで五人しかいなかった三冠の六人目にして私と同じ無敗三冠、そして私を下したジャパンCに、シニアの強者たちをものともしなかった有馬記念。ホープフルを含めればGⅠ6勝だ、今はまだ私の方がGⅠの勝利数で勝っているが……、いずれ抜かされるだろう。」
君は最終的に何冠になるのだろうね? そう私に笑いかけながら彼女はそう問いかける。私はただ、そこに8を足すだけです。その過程に何が起きようと、誰がいようと、私はそれを成すだけ。
「無敗記録の長さ、そしてGⅠ勝利数の多さ、そして実際に相まみえたレース。その全てで君は私に勝った。……これが何を意味するか解るかい?」
「……わかりません。」
「君は、次の私になることを。簡単に言えば頂点に君臨することを望まれている。」
色んな感情を押し込めたようなシンボリルドルフが『もちろんすぐの話ではない、君のシニア期が終わってから、それ以降の話になる』と言葉を付けたし、さらに重ねる。
「いわば……、象徴だな。いずれ私は卒業する、そうなれば生徒のみならず世間は、社会は新たな道しるべを望むことだろう。トゥインクルシリーズにおける日本の頂点にして、象徴。それに最も近いのが、君だ。」
「もちろん“生徒会長”という形にこだわらなくてもいい、ソレに求められるのは道を示し続けることだけだ。その役目さえ果たせれば形は何だっていい。私は私の理想である『すべてのウマ娘を幸せにする』という言葉を胸にこの立場を求め、結果を出し、この場所に立っている。」
「力なきものはそこに立つ資格はない、結果を出せぬものは立つことすらできない。しかしながら力を示してしまったものは君がどう思おうと、ソコは君の場所になってしまう。今はまだ君の場所ではないが……、いずれそうなる可能性が高い。故に今日声を掛けさせてもらった。」
「あまり良い言い方ではないが、君が積み上げた勝利の責任が君に求められている。決して強制するわけではないが、いずれそうなるかもしれない。故に君自身の意思をあらかじめ聞いておきたくてね。」
「もちろん今すぐ回答を求めているわけではない、時間をおいてもいいし。やりたくないのであればそれで話は終わりだ。ただ、もし君に何かしたいことがあるのなら。どんな小さな事でもいい、もし君が日本のレースを背負うような存在になったとすればどんな未来を望むのか。それを、聞かせてほしいんだ、」
「問おう、スペシャルウィーク。キミは何を望む?」
皇帝が、私に。
そう、問いかけた。
非常に、急な問いかけであったことは理解している。
だが、これ以上遅らせることができないほど事態はややこしくなっていた。
まだあのジャパンCで私が勝っていればここまでややこしいことにはなっていなかっただろうが……、いや別に彼女が勝ったことが好ましくないというわけではない。確かに敗戦に悔しさを感じることはあるが、それ以上に私を超えるようなウマ娘が現れてくれたこと、そして私が追う立場になったということは非常に好ましい。“皇帝”としても“シンボリルドルフ”としても。
だが、世間はそう簡単には収まらない。
私が負けたことでスペシャルウィークが次の皇帝として見られるような土壌が出来上がってしまった、世代交代、というべきだろうか。シニアに長くいた私がジャパンCを最後にドリームに移籍すること、そろそろ卒業の時が迫っていること、そしてスペシャルウィークよりもGⅠ勝利数が多いのが私だけになってしまったことから、彼女を次の皇帝に、という声が大きくなってしまった。
その気持ちは、痛いほど解る。観客は停滞を望まず、刺激を好む。それは競技者であっても同じ。
次をブライアンやグルーヴに頼もうにも、ブライアンはすでにドリームに移籍。グルーヴはまだシニアながらも少しGⅠ勝利数が足りない。そして二人とも高等部だ。GⅠ勝利数や学年だけでそれを決めるわけではないが、より多く若い方が有利になるのは確か。
そして部外者、つまりファンたちの間だけの話ならばよかったのだけれど、URA内部でも彼女を次の私にしようとする動きが高まっている。私やシンボリが介入できないほど強く、大きくなってしまっている。
私が生徒会長になった時はまだ良かった、当時のジャパンカップでの敗戦があり今ほど自身が大きく見られていなかった。それにシービーの様な他の三冠、マルゼンスキーの様な圧倒的な実力を持つウマ娘。私以外にもこの立場に収まる者がいた、幸いその時は彼女たちが譲ってくれたがゆえに問題は起きなかったが……。
スペシャルウィーク、彼女たちの時代では“彼女以外見当たらない”という事態が起きている。
確かに短距離マイル、そしてティアラ路線で活躍している者たちがいる。ダートで他と隔絶した実力をもつハルウララというウマ娘もいる。だが、日本というこの芝とクラシック距離に重きを置く国において。彼女の姿は大きすぎた。
私では止められないほどに、彼女を次の私に。いやそれ以上の存在として祭り上げようとする動きが起きている。そして彼女の実力と、未だなお衰えないその体のことを考えればシニア級でも勝ち星を重ねるのは目に見えている。勝てば勝つほどにこの動きは大きくなり、彼女が振り返った時にはもうどうにもならない状態に陥ってしまうだろう。
故に、問いかけた。
もしすでに彼女の中に明確な理想、私の様な理想が宿ってくれているのあればそれを支え、大きくしていけばいい。もしそれがなければ、支えていく方法も、上手く乗り越える方法も、用意していた。まだ形が見えない小さな理想でも、それを育むという準備は、出来ていた。
「何も。」
いつの間にか、私自身も。彼女が次の私に。いやそれ以上の存在になってくれることを期待してしまっていたのかもしれない。そいして、彼女なら受け入れてくれるだろうと、思い込んでしまっていたのだろう。年下の彼女が、自分に勝ったという事実に、いつの間にか飲み込まれていたのかもしれない。
明確に否定の意思が込められた彼女の言葉はひどく冷たく、暗かった。一瞬にして光が消えてしまった、彼女の瞳のように。
「何も、望みません。その立場には全く、興味がないです。」
「私は誰かの上に立つとか、そういうの嫌いです。強制されるとか、気が付いたらそういうことになってるのとかも、大嫌いです。」
「私は、私のために、私たちのためだけに走ります。レースに出て、勝ちます。そこには私たちだけの想いしかいりません。誰かが勝手に想いを乗せるのは構わないですけど、それを勝手に私の想いにはしてほしくないです。」
「誰かのためとか、そういうのが大事なのはわかります。とても大事なことだということも、解ります。……でも、会長のように私は『全てのウマ娘のために』みたいなことはできません。」
「私は、やりたくないです。」
「んふふ~、なんかお菓子たくさんもらっちゃった!」
ルドルフ会長に多分『次の生徒会長にならない?』って聞かれて、『いやです!』って答えたらなんかたくさんお菓子貰っちゃった! 全然知らないのばっかりだけど多分全部高い奴~! お姉ちゃんが『高い菓子は大体うまい』って昔言ってたし! おいしい奴だ! お姉ちゃんが食べれないのは残念だけど……、ちょっと走るのやめてどこかで食べちゃおうかな?
元々今日は走らない、ってお姉ちゃんに言われてたしやり過ぎたら怒られちゃうし。でも貰ったお菓子を食べちゃダメ、とは言われてないもんね! お姉ちゃんに見せる分を置いておいて後は全部ここで食べちゃう? いや食べたい。晩御飯前だけどいいや!
そんなことを考えながら学園にある外のベンチに腰掛ける。寮の部屋に戻るのはお姉ちゃんがまだ帰って来てないから嫌だし、カフェテリアを使おうにもまだ閉まってる。まぁ一番近くの座れそうな場所がここだったというのが一番大きいけど。
「どれから食べよっかな~、クッキーの缶に焼き菓子の箱に~。」
「……ン? スぺちゃん?」
明日ぐらいに襲い掛かってくるカロリーを忘却して頂いたものを物色していると、声が聞こえた。
「あ、エルちゃん! 練習帰り?」
「そうデ~ス! スぺちゃんは……、全部買ってきたんですか、ソレ?」
多分だけどターフで走ってきた帰りなのだろう、肩からタオルを掛けたエルコンドルパサーがそこにいた。いやエルちゃん『もしかして全部今からそれ食べる気デスか?』って! 流石に全部は食べないよ~! ちゃんと2、3個は残して夜お腹空いたときに食べるよ!
「……どっちみち今日中に食べる気なんですネ。なんというかスぺちゃんのお腹のこと忘れてマシタ。」
「それにこれ全部さっき会長さんからもらったの、……よかったらエルちゃんも食べる?」
「ケ! スぺちゃんが誰かにあげる!? あ、明日は槍どころかもっとヤバいものが降ってきそうデース!」
もっとヤバいもの、って何!? と突っ込みながら箱を開けていく。さすがに全部食べたらお姉ちゃんに怒られそうだったし、エルちゃんが来てくれてちょうどよかった。確か彼女も食べる方だったし……、とりあえず全部開けちゃおうか。
そう思いながら紙袋から箱を取り出し封を開けていく彼女、シンボリルドルフから詫びの意味を込めて贈られたそのお茶請けの菓子たちは徐々にベンチの隙間を埋め尽くしていく。そしてスペースがなくなっていくほどに『え、スぺちゃんこれ今日中に食べるつもりだったんですか? ヤバくない?』と顔色が悪くなるエルコンドルパサー。
だが、それでも菓子は菓子。うら若き乙女たちの目の前にそれが置かれれば起きることは一つだ。しかもトレセンの生徒会室に送られる、もしくは常備できるレベルの高級品。味は保障されている。二人とも目に付いたものの封を開け、口へ運んでいく。
「ん~、おいしいデスね! にしてもなんで会長さんからもらったんデスか?」
「なんか生徒会長にならないか、いや目指さないか? かな? そういうお話しだった。」
「……へぇ。」
「でもよくわかんないし断ったら『時間取らせたお詫び』ってもらったの。……あ、あと『賞味期限切れそう』って。」
「あぁ……、うん。すごく納得しました。」
学園の多くを取り仕切る生徒会であり、そしてそこに参加しているメンバーも強豪ぞろい。そうなれば自然と送られるものも多くなっていき、いずれ消費のスピードが追いつかなくなる。これまではオグリキャップが出張して回収していたが、今回は彼女の番だった、というわけだ。
「……ねぇ、エルちゃん。」
「ん? 何ですか。」
「聞きたいことがあるの。」
「……私のことって、どう思ってるの?」
◇◆◇◆◇
「どう、って……。」
正直、スぺちゃんからそういうことを言われるとは思ってなかった。受け入れはするが、一定のラインは超えさせない。自分から関係性を深めるようなことはしないような子だと。
「私さ、解らないんだ。みんなが私のことどう思ってるか。」
普段の彼女じゃない、私が見たことのないスペシャルウィークが顔を見せる。
「私ね、お姉ちゃんがいるの。実家に帰った時に色々話したら怒られちゃってね。『スぺは全然他の子のこと解ってないよ。だからちゃんと顔を合わせて話してみなさい。』って。……色々考えたけど、私には解らなかった。」
「だからさ、エルちゃん。……私はどう思われてるの。」
真剣な、顔。レースの時の様なほかを拒絶するような冷たさは感じられない。
「そりゃぁとっても強いウマ娘ですけど……、まぁそう言うのを求めてるわけじゃないですよね。」
深く、そして強く頷く彼女。初めて、自身の内側へと招き入れようとしているのか。彼女のことは深くは知らない、同期として、友人としてその表層を知っているだけ。踏み込むのは避けていた。でも、今日は違うみたい。多分、いや絶対本音をぶつけた方がいい。
「普段のあなたと、レースの時のあなた。その乖離がとても大きいウマ娘、ですかね。……私は、ダービーの時にスぺちゃんがかけてくれた言葉を覚えている。信じている。でも……、他の子は違う。」
「…………レースの時の私は、そんなにおかしいの。」
「おかしいわけじゃないです、けど冷たすぎるというか。……スぺちゃんには何か、絶対に勝たなきゃいけない理由があるんですか?」
その瞬間、一瞬にして彼女の雰囲気が変わる。レースの時の彼女だ。何物も寄せ付けず、自分以外の何かを全て障害として扱うかのような冷たい雰囲気。最初は気圧されていたが、今なら耐えられる。けどやっぱり顔には出てたみたいで、私の顔を見た彼女がすぐにその雰囲気を弛緩させていった。
「うん。私は、負けられない。」
「負けたくない、ではなく?」
「何があっても、私は勝たなくちゃいけない。……この、さっきの、私ですか。」
目の前で私の顔が歪んだことで、ようやく自身の纏う者が誰かを恐れさせるものだと理解してくれたのだろうか。別にそれを使うな、とは言わない。むしろレースで使ってくれなきゃ私たちへの侮辱だと思ってしまうだろう。だって私たちは、そんなあなたに背中を見せるためにここにいるのだから。
「普段のぽよぽよしながらお腹膨らませてるスぺちゃんと、さっきのスぺちゃん。みんな後者の方を本当のスぺちゃんと思ってるみたいですし、実際私も不安になってたんですけど……。」
動揺している、というべきだろうか。感情が顔に出ている彼女を見れば違っていて欲しいと願ったあの予想は間違っていたと確信できる。そも、目の前の彼女が演技であるのならばわざわざ私にこんな話を振るはずがない。
あぁ、ほんと。外れてくれてよかった。もし当たってたら人間不信になりますもん。
「そう、ですか。」
「ま、多分だけどその『勝たなくちゃいけない理由』ってのは聞かない方が良いんですよね? スぺちゃんあんま踏み込まれるの嫌いそうですし。」
「嫌い、ってわけじゃないですけど……。確かに聞かないでくれると嬉しいです。……全部終わったら、話せると思いますから。」
「じゃ、楽しみにしておきマース!」
触れてほしくないところには触れない、私にもそれがある。だから自分がされて嫌なことはしない。ま、『全部』が何か気になりますけど話してくれるのなら今は待つことにしましょう。
「ん~! 今日は長年の疑問も溶けましたし! トレーニングもうまく行ってますし! いい一日になりマシタ!」
「そうなの?」
「えぇ! おっと、言うの忘れるところでした! たとえスぺちゃんに負けられない理由があったとしても……、私たちはそれを気にせず全力であなたを叩き潰しに行きます。ターフではどっちが速いか、それしか関係ありません。だから! 変なこと考えて手を抜くとか、そういうの絶対やめてくださいネ! 私はその、冷たくて他の出走者なんてただの石ころにしか見えてないようなスぺちゃんをぶち抜くためにやってるんですから!」
「うん、私も全力でやるよ。……あ、あと私そんなに酷い顔してるんですか!?」
してマース! と言いながら思いっきり立ち上がる。大阪杯で、とか。次走で、とかは言わない。私の目標はもっと先だし、性格が悪いとか言われそうだけど、凱旋門賞とかでスぺちゃんを追い抜いたとき彼女の顔がどうなるのか見てみたい気持ちもある。だからこれからの私のことは秘密、現地で会いましょ。スぺちゃん。
……あぁ、後。これも、言っておかなきゃ。
「それとスぺちゃん、グラスには気を付けた方がいいと思いますよ。」
「……グラスちゃん?」
「セイちゃんとかキングには私みたいにちゃんと話せば伝わると思います。まぁ二人とも今海外ですけどね? 話すなら電話とかじゃなくてちゃんと顔を合わせてした方がいいんですけど……、多分グラスにそれをやると逆効果になると思います。」
彼女の心は彼女にしか解らない。グラスとスぺちゃんの関係は私のよりももっと複雑で、入り込む隙間はない。もし私が手を出してしまったらもっとひどくなってしまう。そんな気がする。私もずっとあんなグラスを見続けたいわけじゃない、だから手助けはするつもりだけど……。
「さっき言った冷たいスぺちゃんのことを本当のスぺちゃんだと思ってる、っての。多分グラスが一番感じてると思います。……だから今度。グラスが同じレースに出るときは彼女のことをよく見てあげてください、あの子はそれを強く望んでるはずですから。」
次回
止まった時間が動き出し。大阪杯が、やってくる。
Re:PART4 「邂逅」