SLAYER'S CREED 継承   作:EGO

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新年一発目の投稿です。
細々と更新していきますので、今年も一年よろしくお願い致します。


Memory22 女戦士(アマゾネス)の集落へ

 国軍による反乱軍襲撃から幾日か。

 フードを目深く被った銀髪の青年は、夜の森に身を潜めていた。

 夜空を閉じ込めた蒼い瞳を細め、暗闇に閉ざされた森の奥に煌々と燃える篝火の炎を睨み、それに照らされて踊り狂う兵士たちの影の数を確認。およそ五。

 伏兵を警戒してタカの眼を発動すれば、ただですら視界が黒く染められ、木々の輪郭(ワイヤフレーム)と、敵を示す赤い人影だけが浮かび上がった。その数、六。やはり篝火脇の茂みに隠れている輩がいた。

 危なかったと安堵の息を吐きつつ、すぐに表情を引き締めた銀髪の青年は手首を回して両手首に仕込まれたアサシンブレードの抜刀、納刀に不備がないかを確認。

 成人し、独り立ちの手向けとして父から贈られたこれも、三年経っても折れず曲がらずにいてくれるとは。

 今日も頼むと鞘を撫でた銀髪の青年は音もなく茂みの中を進み始め、森の闇の中に溶けて消えていく。

 その後、静寂の中で制圧された野営地には六人分の死体が転がり、襲撃者は一切の痕跡を残さずに霞のように消え失せる。

 銀髪の青年の手で壊滅した野営地は、これで三つ目だ。

 

 

 

 

 

 夜も明け、山の輪郭が白んできた頃。

 とある森の中に隠すように設置された反乱軍の野営地に、銀髪の青年の姿があった。

 切り株に腰掛けながら黙々とアサシンブレードの刃を研ぐその姿は真剣そのものであり、敵ではない筈なのに話しかけるのも億劫になるほどの迫力を放っている。

 そもそもとして、只人の彼に話しかける物好きが反乱軍にどれほどいるのかという話にもなるが……。

 砥石と刃が擦れる高い音を聞きながら、この野営地の責任者である蜥蜴人の僧侶がしゅるりと鼻先を舐めた。

 

「我らでで潰した軍の野営地は十五。我らが総大将に指示された最低限の目標(ノルマ)は超えましたな」

 

 そのまま彼は奇妙な手つきで合掌し「よき戦働きだった」と仲間たちを称賛しつつ、討ち取った兵士たちの健闘と冥福を祈った。

 敵とはいえ、兵士たちも王の都合に振り回された哀れな被害者の可能性もあるのだ。多少の同情をしてやる程度には、この蜥蜴人の僧侶は只人を恨んでいるわけではなかった。

 それはそれとして、こちらより弱かった己の非力を恨めという程度には蜥蜴人らしく野蛮でもあるのだが。

 そんな彼の言葉を聞いた森人の戦士は不満そうに鼻を鳴らし、腕を組みながら「冥福など祈ってやるものか」と舌打ち混じりに告げた。

 故郷の森を焼いた軍の連中だ。惨たらしく死のうが、潔く死のうが、死んだのならどうでもいいのだ。その魂が円環(サークル)を巡って再び生を受けようが、魂が消失(ロスト)しようが、彼には預かり知らぬ事なのだから。

 

「とにかく、すべき事はした。ならば手早く撤収するだけだろう」

 

 眉を寄せ、彫刻のように美しい貌を歪めながら告げた言葉に蜥蜴人の僧侶が「そうですな」と首肯すると、森人の戦士は黙々とアサシンブレードを研いでいる銀髪の青年に目を向けた。

 

「貴様も、いつまでやっているつもりだ!撤収するぞ!」

 

 刃が研がれる音が不快なのか、単に只人である彼が気に食わないのか、語気を強めてそう言うと、銀髪の青年はアサシンブレードの刃を睨むように見つめ、刃毀れや歪みがない事を確認。

 結果に満足いったのか、アサシンブレードを手首に装着した彼はちらりと森人に目を向け、肩を竦めた。

 

「あまり怒らないでくれ。何事にも万全を期したい性格なんだ」

 

 彼としては悪気のない、けれどどこか煽りとも取れる言葉に森人の戦士は額に青筋を浮かべ、腰に帯びた剣に手をかけた。

 森人語で悪態を吐きながら銀髪の青年を射殺さんばかりの視線を向けるが、そんな彼を蜥蜴人の僧侶が制した。

 

「彼の言うことに一理ある。本拠地を襲撃された我らには後がないのだ。慎重に慎重を重ねなければ」

 

「それは理解している……ッ!すまん、少し熱くなってしまった」

 

 彼の忠言に森人の戦士は深く息を吐くと、銀髪の青年に謝罪の言葉を投げて眉の皺を伸ばすように指を当てた。

 ぐにぐにと眉間を揉みほぐしている彼を横目に、銀髪の青年が緩めていた鎧の留め具を締めると立ち上がる。

 

「それで、撤収の経路は。出来るだけ街道は避けないとならないが」

 

 足音一つなく蜥蜴人と森人の戦士が囲んでいた地図を覗き込んだ彼は、小さく息を吐いて目を細めた。

 先の襲撃はこうして軍に対しての牽制や、妨害を行った部隊の痕跡を辿られた結果だ。本拠地の場所は知られてしまい、この地域の警邏の部隊がいつにも増して増えてきている。自分たちが潰して回ったのも、その内のいくつかの部隊の拠点なのだ。

 本拠地を移すため、その移動の経路を悟らせないようにする陽動を兼ねての間引き。今回、銀髪の青年への依頼はその作戦への参加であった。

 

「こちらの森はどうだ。いくらか敵がいたとしても、ついでに潰してしまえばいい」

 

 森人の戦士が地図を指でなぞりながら提案すると、蜥蜴人の僧侶は「うむ」と小さく声を漏らして僅かに思慮し、頷いた。

 

「そうですな。こちらの森から、ついでにこの街道の様子も探ることにしよう。検問があれば、破壊せねば」

 

 ぎょろりと目玉を回し、シューと鋭く息を吐きながら蜥蜴人の僧侶が言うと、森人の戦士も無言の首肯で応じ、銀髪の青年も「それでいこう」と頷いた。

 先の襲撃で多くの馬を失い、生き残った馬たちも襲撃の第二陣や、緊急時の脱出に備えての準備に使われているため、余裕はない。つまり移動は徒歩になるが、一日二日歩き通すなど、この場にいる三人なら造作もない。

 とりあえず設置した簡易的な天幕を取り払った銀髪の青年は、それを雑嚢に突っ込んだ。

 

「もう一踏ん張りってところだな。油断するなよ」

 

 

 

 

 

 そんなやり取りから数時間。野営地を片付け終えた頃には山から顔を出したばかりだった陽の光が天頂から降り注ぐ中、銀髪の青年を先頭に反乱軍本拠地に戻ってきた三人は、どっと出た疲れを吐き出した。

 常に警戒しながら森を横断し、途中で発見した検問の位置を地図に印をつけ(マークし)、小規模なら破壊、大規模なら更に迂回を繰り返したため、遠回りを強いられたのだ。

 おかげで本拠地を包囲せんとする敵陣を食い散らかせたと思えば、その苦労も無駄ではないのだろうが……。

 

 ──引越しを終わらせるには、もうしばらくかかりそうか。

 

 本拠地の大通りを歩きながら、横目で荷物と人──非戦闘員や怪我人だ──を満載にした馬車が通り過ぎるのを見やり、森人や蜥蜴人を中心とした護衛の部隊と合流するのを見送る。

 高山街と本拠地を何度も往復し、人の行き来を守る彼らの苦労に比べれば、単に本拠地の周りを走り回るだけの自分は何と楽なことか。

 銀髪の青年は洞窟の天井を見上げながら溜め息を吐き、いつにも増して鋭く睨んでくる反乱軍兵士たちの視線を受け流す。

 本拠地の治安維持だけでなく、襲撃を警戒、拠点移動の護衛と、ただですら少ない人員を様々な仕事に割り振り、一人一人がほぼ休みなく仕事に従事しているのだ。流石の森人だとて、不眠不休で働けるわけでもない。

 疲労と苛立ちと、只人に向けている憎悪の感情が入り混じり、暇そうにしている只人である彼に、敵意が集まっているのだろうか。

 だが、そんな彼らの苦労の甲斐あってか少しずつ人は流れているのだ。ここが無人となり、もぬけの殻となるまでここを守り続けることが、彼らの役目(ロール)なのだ。それに殉じる他にない。

 しかし、先の襲撃や引越しの護衛による人員の分割、疲労の蓄積と、様々な原因はあれど本拠地の防衛能力が下がっているのも事実。再び先日と同規模の襲撃があれば、全滅する可能性も高い。

 

「ままならないな」

 

 人を逃さなければならない。だがその配分を間違えれば、自分たちの首を絞めかねない。その絶妙な調整を行なっているのが、あの金髪の圃人らしいが。

 銀髪の青年は顎に手をやり、小さく唸った。

 予断を許さない状況ではあるが、卓を睨んで顰め面になっている金髪の圃人の姿を予想して神妙な面持ちになりながら、それでも自分では力になれないと溜め息を吐いた。

 自分は身体を動かすのが得意であって、あれこれと考えるのはあまり得意ではない。出来ることを、ありったけの力でやるだけが性分なのだ。自分にできないことをやってくれる人がいるのなら、その誰かを信じる他にない。

 彼は己への不満を誤魔化すようにいつもの足取りで自身にあてがわれたあばら家に向かう。

 すれ違う亜人たちの強い敵意と、それに混ざるほんの僅かな信頼を込められた視線をまとめて受け流し、足音一つなく通りを進む。

 途中で人と物資の往来が激しい大通りをそれ、喧騒から逃げるように僅かに早歩き。

 視線の先に見え始めたあばら屋はいつも通りの襤褸具合ではあるが、少しずつ内装が整ってはきているのだ。一応、衣食住の確保が報酬の一部ではあるのだし。

 彼はいつも通りに足音一つなく玄関の前に立つと、彼女がいるかもしれない可能性を考慮して扉を叩こうと手を挙げた。

 それとほぼ同時。ぎぃと古い木材が軋む音と共に玄関が独りでに開き、中からひょこりと真白い触角が顔を出した。

 そのままゆっくりと玄関が開いたかと思えば、蚕人の女王が恭しく頭を下げた。

 

「お帰りなさいませ、冒険者様」

 

「ああ。ただいま」

 

 そんな彼女の態度に思わず苦笑した銀髪の青年は返事をすると、「そんなに畏まらなくてもいいんだが」と告げる。

 彼女との同棲もそれなりに長い期間になってきた。女王として、あるいは自称伴侶としての一線があるのだろうか。

 蚕人の女王は困り顔を浮かべ、「善処いたします」と一応は返事をするけれど、おそらく直すつもりはあるまい。

 銀髪の青年はそれも彼女の決めたことならと無理強いはせず、玄関を潜ろうとすると、ばさりと何かが羽ばたく音が耳に届いた。

 鷲が降りてきたかと無警戒で振り向く彼の視界の外では、蚕人の女王が露骨に不満そうに目を細め、白い瞳でこちらに向かって降りてくる大きな翼のついた人影を睨んだ。

 その直後だ。凄まじい勢いで下降してきた何かが二人の前に着地し、舞い上がった砂塵が視界を隠す。

 けほけほと咽せる蚕人の女王を庇いながら、砂が入った為か刺すように痛む瞳を気合いで開き続け、降りてきたその何者かを見やると、その人物はゆっくりと銀髪の青年に歩み寄り、腕代わりの翼で彼の頰を撫でた。

 闇より暗い濡れ羽色の翼が頰に触れた途端、その柔らかさに馴染みのある銀髪の青年はすぐに客人の存在に気づき、僅かに表情を和らげた。

 そっと頰に添えられた翼に手を重ねながら「久しぶり、でいいのか?」と客人に問いかける。

 

「たかが数日。されど数日。私からすれば、十分に久しぶりと言える」

 

 そうして返された声は跳ねるようでいて、けれど凜としていて鋭く響く。

 翼と同じ濡れ羽色の瞳に銀髪の青年を映し、ふわりと柔らかく笑みを浮かべた客人──鴉羽は、「無事で何よりだ」と彼の帰還を喜んだ。

「ああ」と頷きながら彼女の言葉を受け取った銀髪の青年は、「いつからこっちに?」と彼女と、彼女が率いる傭兵団についての質問を投げた。

 彼らと同盟を組んで早数日。拠点の移動や、捕虜の扱いに関して、やるべきことは多いだろうに、彼女はここにいる。それが疑問なのだろう。

 彼の問いかけが意外だったのか、鴉羽は鋭い瞳を僅かに見開いて驚愕を顕にすると、その美貌に微笑みを浮かべて彼に言う。

 

「正式に雇われたのだから、合流するのは当然だろう。もっとも、全員が来たわけではないが……」

 

 彼女はそう言うと「捕虜の世話をするのは面倒だな」と大きく溜め息を吐いた。

 

「『狩人』との戦いで生き残った手勢の一部と、我々とは別に動いていた部隊を連れてきた。残留組は捕虜と共に件の鉱山街に向けて移動しているだろうさ」

 

 それでもやるべきことはやっているようで、生き残りや別働隊を連れてこちらに来てくれてようだ。

 ただですら手勢が足りていない反乱軍の現状からすれば、十人であろうと五人であろうと、人手が増えるのはいいことだ。

 

「なら、よかった。それで、お前はなんでここに?部下への指示出しはいいのか?」

 

「ん?ああ、問題ない。素人は連れてきていない、最低限の情報をやれば、あとは自分達でやれるさ」

 

 銀髪の青年はいつまで経っても離れる気配のない彼女の翼の感覚にむず痒くなりながら投げかけた問いに、鴉羽はなんて事のないように言う。

 彼らは一人一人が凄腕の傭兵だ。彼女の言う通り、素人など一人もいない。ならば、心配の必要はあるまい。

 

「冒険者様はあなたがなぜここに、正確にはこの家を訪ねて来たのかを聞いているのです。答えなさい、鴉人の長よ」

 

「そう怖い顔をするな、蚕人の女王よ。戦友が視界に入ったのだから、挨拶をしようと思ってな」

 

 そして、いつまで経っても銀髪の青年から離れる様子を見せない鴉羽に我慢の限界を迎えたのか、蚕人の女王が語気を強めに問いかけると、鴉羽はそれを受け流すように微笑みながら理由を口にした。

 だが蚕人の女王は納得する様子を見せず、じとっと鴉羽を睨みながらそっと銀髪の青年の腕に抱きついた。

 むと小さく唸り、僅かに眉を寄せる鴉羽の様子にも気付かず、蚕人の女王は言う。

 

「貴女がこちらに来てから、毎日のようにここに顔を出しているではないですか。戦友に会いたいがために、同胞たちを放っておくのですか」

 

「生憎、蚕人と違い我々は一人一人が精強でな。一人では何もできない貴様らとは違うのだ」

 

「我々を侮辱するのですか……っ!」

 

「事実だろう?」

 

「〜〜〜!!!」

 

 そのまま始まるのは、それぞれの部族を束ねる者同士の口論であった。

 蚕人の女王が指摘すれば、鴉羽はそれを軽く受け流しながら反撃を挟み、返す言葉が思いつかない蚕人の女王はただぎゅっと銀髪の青年の腕を掴むばかり。

 今でこそ蚕人の女王として振る舞っているが、実際にそうなったのはつい数週間前だ。成人して間もない少女が、長年同胞と共に戦場に立ち、生き残ってきた鴉羽の口喧嘩でも勝てるわけがないのだ。

 二人に挟まれる銀髪の青年は、俺が留守の間に何がと困惑するが、その問いを投げる前に鴉羽が言う。

 

「いつ帰ってくるかもわからない相手に会おうというのだ。別に毎日顔を出すくらい許せ」

 

「戦友に会うのなら、戦場でいいではないですか」

 

「出会えず、そのままどちらかが死んでしまえば二度と会えんのだぞ?平和な一時を使い、こうして顔を合わせ、言葉を交わす。それが何よりも尊いのだ」

 

 戦場で生きる者と、待つことしかできぬ者。それぞれの言葉はある意味では正解であろうが、問題はお互いにそれが理解できないことだ。

 同じ種族ですら分り合うことが難しいというのに、種族も、生き方も違う二人が通じ合うなど、それこそ何年も時間をかけてようやくだろう。

 二人の話は更に続きそうになるが、銀髪の青年が咳払いをした事を合図に二人は揃って口を閉じた。

 

「まあ、仕事をしてくれるなら会いに来てくれても構わないさ。ただ、喧嘩はなしだ、いいな」

 

 そして目を細め、子供に言い含めるように優しい声音で二人にそう告げた。

 それぞれに、それぞれの事情があり、思想があるのだ。それが言葉でぶつかり合い、互いの理解を深めていく分には横からとやかく言うつもりはないが、力で訴えることはないように鍵を刺す。力で殴り合えば、片方が死ぬまで終わることはない。少なくとも、この国はもうその段階に──どちらかを殲滅するまで終わらない状況になりかけている。

 本当にままならんなと額に手をやりながら溜め息を漏らす彼を他所に、蚕人の女王と鴉羽はほんの一瞬視線を合わせ、女王は青年の腕を抱き締め、鴉羽は翼で彼の頰を撫でる力を強めた。

 先ほどの口論が無意味とは言わないし、彼が辞めろというのなら話はそこまでだ。

 

 ──ですが、この方の隣を譲るつもりはありません……っ!

 

 ──だが、こいつの隣を譲るつもりはない。

 

 二人が静かに火花を散らす中、銀髪の青年は通りからこちらに向かってくる栗色の髪の圃人の姿を認め、表情を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 蚕人の女王と鴉羽の睨み合いは、栗色の髪の圃人の来訪を合図に終わりを告げた。

 彼が開口一番に告げた『大将が待っている』という言葉だけで、今から何をすべきかは理解できる。

 二人とのやり取りで緩んでいた意識を研ぎ澄まし、蚕人の女王にまた留守にする旨を伝え、司令室へ。

 仕事に戻ると飛び去った鴉羽の姿を見送り、彼は駆け足で司令室を目指した。

 人混みを避けるべく立ち並ぶ家屋の屋根の上を疾走し、遺跡の階段を数段飛ばしで駆け上がる。

 そうして五分もしないうちにたどり着いた司令部には、やはり予想通りの人物がいた。

 金髪の圃人は卓に向かってはいるが、疲労のせいか額に汗を滲ませ、顔色も悪い。側から見ても不調となっているにも関わらず、それでもやらねばならないという意志の力でもって行動し続けているのを肌で感じる。

 銀髪の青年はやはり無理をしているなと、彼の手伝いもできない己の未熟を呪いながら「何か問題か」と単刀直入に話題に入った。

 卓に貼り付けられた地図と、馬車の在庫や人員に関してがまとめられた羊皮紙を睨んでいた金髪の圃人は顔をあげ、銀髪の青年の顔を一瞥した。

 

女戦士(アマゾネス)の集落に送った伝令が戻らない。彼女らに捕まってしまったのか、あるいはたどり着けなかったのか、それは定かではないけど、何か問題が起きたのは確かなようだ」

 

「そうか。なら、次の依頼はそれだな?」

 

 彼が重々しく告げた言葉に銀髪の青年が問うと、金髪の圃人は小さく頷いた。

 雇われの身とはいえ、一応は反乱軍の主戦力の一人だ。出来ることなら、物資や人員の移動の護衛に回したいが、今は戦力を増やすことも急務。

 今までの功績と実力からして、強さを掟とする女戦士(アマゾネス)たちの相手には申し分ない。伝令として送った人員も、弱いわけではなかったのだが……。

 

「頼めるかい」

 

 彼という戦力を失う危険性(デメリット)と、女戦士(アマゾネス)たちを引き込む利点(メリット)を天秤にかけ、今回は後者の選択を取る。

 金髪の圃人は苦虫を噛み潰したような表情で問うと、銀髪の青年は不敵に笑みながら言う。

 

「任せろ。駄目でも無事に帰ってくるさ」

 

 彼はそう言うと「馬を借りていくぞ」とだけ告げて、部屋を後にしようと踵を返すが、部屋の入り口からこちらを覗きこんでくる人物に気づいた。

 鴉羽のそれとは違う、宝石を思わせる澄んだ黒い髪と燃えるように輝く緋色の瞳。無邪気な子供のように目を輝かせ、銀髪の青年を見つめいるのは半森人の少女だ。

 構って欲しいのか、あるいは単に顔を見に来ただけなのか、いつもいる筈の女上の森人の姿もない。彼女も何か仕事をしているのだろうか。

 銀髪の青年はちらりと金髪の圃人に目を向けると、彼は「馬の準備にも時間がかかるよ」とまだ多少の余裕があることを教えてくれる。

 彼なりの、少女への気遣いなのだろう。銀髪の青年は「そうか」と頷くと、そっと半森人の少女の前に片膝をつくと、彼女の頭を撫でてやった。

 絹のように柔らかく、櫛も不要なほどに髪が指の間をすり抜けていく感覚が心地よい。

 少女も彼に撫でられて気持ちがいいのか、目を細めながら甘える猫のようにぐりぐりと彼の手に頭を擦り付ける。

 その姿に多少なりとも癒しを感じた銀髪の青年は、微笑みながら彼女に言う。

 

「遊んでやりたいが、俺も仕事なんだ。ごめんな」

 

 ぽんぽんと優しく頭を叩いてやりながら謝罪すると、少女は見るからに落ち込み始め、鋭く尖った耳が力なく垂れていく。

 

「大丈夫だ、すぐに帰ってくる。仲間を増やして、ここの皆が無事に引っ越せるように」

 

 そんな彼女を励ますために、何一つ確定していないというのに既に成功するのが確定していると言わんばかりの声音で言うと、少女は頭に置かれた彼の手に自分の手を重ねながらこくりと頷いた。

 

「帰ってきて、引っ越しも終わったら、お前の世話役のあいつも呼んで、あと他の子供たちも呼んで、何かしよう。ままごとか、かくれんぼでもいい。お前がやりたいことを、できるだけ叶えてやる」

 

 銀髪の青年がそう言うと、半森人の少女はぱっと表情を明るくしてこくこくと何度も頷いた。

 やはり、子供には娯楽が必要だ。大人たちが気を張り、予断を許さない状況だとしても、子供たちを縛り付ける理由にはなるまい。

 まあ、この拠点に子供が何人いるのかという話にもなるが……。

 

「だから、何をするか考えておいてくれ」

 

 銀髪の青年はその疑問は口にはせず、半森人の少女にそう依頼した。

 少女は満面の笑みを浮かべて頷くと小走りで廊下の向こうに消えていき、そちらから聞き馴染んだ女上の森人の声も聞こえてくる。

 今頃、何故かご機嫌な少女に困惑し、どうしたものかと悩んでいるのだろう。

 その姿を想像して苦笑を漏らした銀髪の青年は「それじゃ、行ってくる」と金髪の圃人に告げて、今度こそ部屋を後にした。

 その背を見送った金髪の圃人は溜め息を漏らし、囁くようにぼそりと漏らす。

 

「──無事に戻ってくれ」

 

 他の皆は認めないかもしれないが、銀髪の青年は反乱軍にとって欠かせない人物になっている。

 彼を欠いては、一部の種族の士気にも大いに関わることだろう。

 いつかくる決戦まで、この軍の士気を下げるわけにはいないのだ。

 故に、祈る。彼の無事を、彼の帰還を。

 

 

 

 




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