SLAYER'S CREED 継承   作:EGO

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Memory23 女戦士(アマゾネス)式の歓迎

 ──さて、どうしたものか。

 

 金髪の圃人の依頼で、女戦士(アマゾネス)の集落を目指して早数日。

 銀髪の青年は小さく溜め息を漏らしながら、意見を求めるように馬の鬣を撫でた。

 馬も撫でられる感覚に心地良さそうにしながらも、その瞳はじっと目の前の物に注がれている。

 銀髪の青年と馬が見ているのは、女戦士(アマゾネス)の集落があるとされる国の北東に広がる森林地帯の入り口。そこに吊るされた哀れな死体だ。

 生きたままか、死んでからか、両手足の腱を削がれ、両眼を抉られたそれは、銅を穿たれた上等な鎧を着込んでいる。おそらく国軍の兵士──それも近衛騎士に近しい身分のものだろう。

 もっとも獣に食い荒らされた挙句、長いこと放置されていたのか腐敗も酷く、性別も分からなくなっており、見る限りでは生前の武勇も、栄光も知る由もない。

 その死体の首には何か生物の革で作ったであろう貼り紙が下げられており、そこには血で乱雑な文字が書かれている。

 

『──この先、何者も立ち入る事なかれ』

 

「と、言われてもな……」

 

 只人の言語で書かれたそれは、銀髪の青年にとっては馴染み深いものだ。

 おそらく書いたのは女戦士(アマゾネス)の何者かで、文字通り侵入者への警告としてこの死体を晒しているのだろう。

 これ以上この森に踏み入ればこうなると、これ以上ない程に簡単で、効果的な脅しだ。

 

 ──『この森に入るな』は森人(エルフ)の常套句だと思っていたんだが……。

 

 銀髪の青年は言葉もなく苦笑を漏らし、身近な森人──今回は女上の森人だ──を思い出し、同時に浮かべていた笑みを消した。

 彼女から故郷の森に関する話をされたことはない。他の森人たちからだって、いや、そもそも親しい森人がそもそも多くはないのだが……。

 だが、確かに言えることが一つ。

 

 ──あいつらの故郷は、無事では済まなかったんだろうな……。

 

 彼らの森が無事であるのなら、そもそも反乱軍には加わらないだろう。今の女戦士(アマゾネス)たちのように、森に引きこもって自分達の領地を守ろうとする筈だ。

 それをしていないということは、つまりそういうことなのだろう。

 小さく溜め息を漏らした銀髪の青年は、馬の腹を蹴って前進を指示。

 馬は不満そうに鼻を鳴らしつつ、主人の命を遂行するべく脚を動かし始めた。

 蹄が地を蹴る音と共に走り出し、森の風景が高速で後ろに流れていく。

 舗装されているとは言えないが、それでも女戦士(アマゾネス)たちが踏み均したであろう道を、全力でもって走らせる。

 

「伝令は無事だといいんだが……」

 

 金髪の圃人が送り込んだという伝令が、先の兵士の二の舞になっていないとも限らない。最悪死体だけでも確認が取れればいいが、それすらもないとなればどうしたものか。

 

 ──とにかく女戦士(アマゾネス)と接触しないと、だな。

 

 だが、どちらにせよ件の集落にたどり着かねば話にならない。

 鬱蒼と茂る森を駆け抜け、時折道端に吊るされている警告付きの兵士たちの死体を無視しながら、走ること数分。

 視界の端に、古い遺跡のようなものが映った。

 馬を止め、木々の隙間から目を細めてそれに注視してみれば、天高く伸びるピラミッドが鎮座し、星見台と思われるその頂上には昼過ぎだというのに火が焚かれ、黒い煙が印のように天へと伸びている。

 目的地はあれだろう。遺跡をそのまま拠点としているという話だし、地図の座標もだいたい合っている。他に人が住めそうな場所も見当たらない。

 駄目でも、とりあえずあそこから周囲を見渡せば何かわかるだろう。高い場所(ビューポイント)は好きだ。

 雑嚢から水袋を取り出し、一口呷る。森の湿気で額に貼りついた前髪を剥がし、濡れた口元を拭う。あと半日も走れば、遺跡にはたどり着けそうではあるが、最悪どこかで夜営をせねばなるまい。焚き火を焚けば、向こうから見つけてくれる可能性もある。

 

「どちらにせよ、今は前進あるのみだな。もう少し頑張って──」

 

 反乱軍本拠地から走り通しだった馬を労うように首を撫でながら、さらなる無茶を要求。

 馬は不満そうに唸り、抗議の視線を銀髪の青年に向けるが、肝心の彼はどこ吹く風だ。

 馬は仕方ないと言わんばかりに前を向くと、走り出そうと脚を前に出した瞬間だった。

 

「────」

 

 木々の隙間から、何かの囁き声が一人と一頭の耳に届いた。

 それぞれが揃って声がした方向に目を向けるが、そこにあるのは鬱蒼と茂る木々ばかり。

 鷲から情報を拾おうにも、こうも木が多いと上からでは何も見えまい。

 銀髪の青年は僅かに目を細めながらタカの眼を発動し、改めて森の奥を睨みつけた。

 浮かび上がる木々の輪郭(ワイヤフレーム)に隠れる金色の人影を認め、彼は腰に帯びる剣に手をかけた。

 金色ということは何かしら重要なことを知っている証拠だ。女戦士(アマゾネス)ならばそれでいいが、相手が彼女らであるという確信はない。

 もしかすれば、ここまで入り込んできた国軍の斥候という可能性もあるのだ。そうだとすれば、殺さねばならない。

 

「そこにいるのは誰だ!姿を見せろ!」

 

 声に僅かな敵意を込めて、相手に向けて声をかける。

 相手は動かない。ただじっとこちらを見つめてきている。

 

「……?おい、聞こえているんだろ?」

 

 その反応は、銀髪の青年にとっては予想外であった。

 隠れているつもりの相手に声をかければ、まず間違いなく相手は何かしらの反応を示す。僅かに身体が動いたり、呼吸の間隔(リズム)が乱れたり、その場から逃げ出したり、今までの相手は大抵がそうだった。

 だが、今回は違う。当てずっぽうに声をかけたと思われているのか、あるいは見つかっていないと思い込んでいるのか、単に言葉が通じていないのか。

 銀髪の青年は小さく溜め息を吐くといつでも戦闘できるように馬を降り、人影を指差しながら言う。

 

「そこにいるお前だ。出てきてくれるとありがたいんだが……」

 

 先のやりとりのせいか、僅かに気後れしながら言うと、件の敵影がようやく反応を示し、がさがさと茂みを掻き分ける音と共にこちらに近づいてくる。

 さてどう出ると身構える彼を他所に、人影は何をするわけでもなく茂みから姿を現した。

 血に染まった褐色の肌に、踊り子を思わせる露出の多い服装。どろりと濁った瞳が銀髪の青年を気だるげに見やる。

 

 ──女戦士(アマゾネス)!とりあえず、話を聞くべきだよな。

 

 銀髪の青年は姿を現した女戦士(アマゾネス)を見やりながら、言葉を発そうと口を動かした瞬間、彼女が何かを引き摺っていることに気付き、そちらに目を向けた。

 それは、死体だった。殺されて間もないのか、両手足の腱と目玉を抉られた眼窩から血が溢れ出し、緑の葉を赤く汚していた。

 そして、その首には『引き返せ』と書かれた張り紙が下げられている。

 おそらく、この女性がここに来る道中にあった警告文を設置していたのだ。そして、それを無視した侵入者が、彼女の目の前にいる。

 

「あ〜。とりあえず、話を聞いてもらっていいか……?」

 

 銀髪の青年はそっと両手を挙げて敵意がないことをアピールするが、女戦士(アマゾネス)はその濁った瞳を彼に向けたまま、引き摺っていた死体から手を離した。

 

「────」

 

 同時に彼女の口から紡がれたのは、銀髪の青年では聞き取れない言葉の羅列だった。

「は?」と間の抜けた声を漏らす彼を他所に、女戦士(アマゾネス)は矢継ぎ早に言葉を紡ぎ、彼を捲し立てていく。

 

「俺でもわかる言葉で話して欲しいんだが、言葉わかるか?」

 

「……?」

 

 銀髪の青年は無礼を承知で彼女の言葉を遮ってそう言うと、|女戦士はこてんと小首を傾げた。

 違う種族ならまだしも、大きな枠組みで言えば同じ只人である筈の彼女に言葉が通じず、銀髪の青年は露骨に肩を落とした。

 部族全体がこうではないと思う。金髪の圃人からは昔はそれなりに交流があったと説明されている。自分の言葉がわかる外交官のようなものがいる筈だ。

 集落に着いたら、まずはそいつを探すと決めながら、銀髪の青年がどうにかコミニュケーションを取ろうと頭を捻ると、女戦士(アマゾネス)は何かに気付いたのかハッとして、銀髪の青年の背後の森を指差した。

 何かを伝えようとしているのか、必死になってあっちを向けと手振りで伝えてくる様は、側からみれば滑稽ではあるが、冒険者として生きてきた銀髪の青年に取ってはその警告を無視するという選択肢はなかった。

 

「なんだ、何かいる──」

 

 そうして振り向いた瞬間、無防備に晒された後頭部を女戦士(アマゾネス)が無慈悲に殴りつけた。

 凄まじい鈍痛を感じたのも束の間、一気に視界が歪む。身体から力が抜け、踏ん張ることも出来ずに膝から崩れ落ちた。

 

「い、いきなり何を……っ」

 

 銀髪の青年は地面に拳を叩きつけ、僅かに身体を起こしながら|女戦士「アマゾネス》を睨みつけるが、彼女は無表情のまますっと脚を持ち上げ、

 

「──」

 

 何かをぼそりと呟くと、彼の顔面を踏みつけた。

 悲鳴をあげる暇もなく、今度こそ意識を刈り取られた銀髪の青年は地面に伸び、後頭部から滲んだ血と、噴き出した鼻血で地面を赤く汚してしまう。

 突然の事態に固まる馬を他所に、女戦士(アマゾネス)は冷たく彼を見下ろすと彼の両手足を縛り上げ、乱暴に馬の上に乗せた。

 抗議するように嘶く馬を無視し、女戦士(アマゾネス)もその背に飛び乗ると、その腹を蹴って無理やり走らせた。

 彼女の犯行を知るのは放置された死体と、天高くから監視していた鷲だけである。

 

 

 

 

 

 ──さて、どうしたものか……?

 

 森に入る直前と同じ事を思いつつ、銀髪の青年は溜め息を漏らした。

 頭に麻袋を被せられているようで何も見えず、両手は後ろ手で縛られている状態のようだ。それにどこか人目のつく場所に座らされているようで、麻袋越しにいくつもの視線を感じる。

 そして何よりも、普段感じている肌に触れ合う布の感覚がない。辛うじてズボンは履いているようだが、上半身は裸。気絶している内に、服も装備も剥がされたのだろう。

 

『──?』

 

『──?──!?』

 

 麻袋の下で困惑する彼の耳に聞こえてくるのは、おそらくこの国の女戦士(アマゾネス)特有の言語だ。

 何を言っているのかはわからないが、おそらく話題は自分に関するものだろう。現に時折小突かれたり、蹴られたり、身体を触られたりを繰り返している。

 全く、どうしたものか。銀髪の青年は状況もわからないままに溜め息を吐くと、不意に肩に触れられた。

 

「目を覚ましたのだろう?いつまでそうしているつもりだ」

 

「……っ!なら、これを外して欲しいんだが」

 

 耳元で囁かれた頭が痺れるほどに甘い声に僅かに身悶えしながら、銀髪の青年は努めて冷静な声音で返す。

 フッとこちらへの嘲りを含んだ鼻で笑う声が聞こえたかと思えば、勢いよく頭に被さっていた麻袋が外された。

 途端に視界に飛び込んでくるのは視界を白く焼く強烈な陽の光だった。

 手で庇おうにも縛り上げられているため下手に動かすことができず、辛うじて顔を背ける事でそれから逃れるが、今度は敵意に満ちた女戦士(アマゾネス)たちの視線とかち合い、銀髪の青年は気まずそうに視線を正面に戻した。

 そこにあったのは玉座だった。何か生物──おそらく、飛竜の類いだろう──の骨で作られたそれはえも言えぬ威圧感を放ち、座る者にその資格を問うているようにさえ見える。

 

「話には聞いていたが、若いな」

 

 じっと玉座を見つめていた銀髪の青年の耳に、先程と同じ痺れるように甘い声が鼓膜を揺らした。

 声につられてそちらに目を向ければ、そこにいるのはやはり踊り子を思わせる露出過多な格好をした女戦士(アマゾネス)であった。

 砂を思わせる色素の薄い髪を揺らしながら、口元を隠すヴェールの下で冷たく笑うその美貌たるや、まさに女神の如し。

 年は銀髪の青年よりも少し上程度だろうか。筋肉質でありながらしなやかな肢体を揺らして銀髪の青年から離れると、彼女は慣れた様子で玉座に腰掛け、見せつけるように足を組んだ。

 頬杖を着いて嘲りを込めた視線で銀髪の青年を見下ろし、蛇を思わせる鋭い双眸を若い女戦士(アマゾネス)に向けた。

 銀髪の青年もそちらに目を向ければ、そこにいたのは自分を気絶させた女戦士(アマゾネス)だった。

 相変わらず濁った瞳で銀髪の青年を睨んだ彼女は、玉座に腰を下ろす彼女らの王──戦王に恭しく頭を下げた。

 女戦士(アマゾネス)の言語で労いの言葉を投げた戦王は、銀髪の青年に視線を戻した。

 若いながらも鍛え抜かれ、肉体そのものが凶器とさえなり得るまでに研ぎ澄まされている。そんな肉体を持つ者など、精強な女戦士(アマゾネス)とて三人もいまい。

 ぺろりと舌舐めずりした戦王は、戦士として、そして王として威厳を放ちながら問いかけた。

 

「招かれざる客人よ。其方は何を求めてここに来た」

 

「皆を虐げる悪しき王を討つための助勢を頼みに。鉱人も、蚕人も、狼人も、鴉人も、皆立ち上がってくれた。あとはあんたらだ」

 

「知ったことか。我らには、我らの戦がある」

 

「……まあ、そうだよな」

 

 銀髪の青年はそれらしい言葉を並べて交渉を持ちかけてみるが、それをあっさりと却下された。

 ここよりも大所帯と思われる反乱軍とて余裕はないのだ。兵士の死体をそのまま警告に使う程度には国軍と激突している彼女らにとっても、戦力を反乱軍に回す余裕はあるまい。

 深い溜め息を吐いた銀髪の青年を見下ろしながら、戦王は細めた瞳に彼を映した。

 

「我々が近衛騎士の『戦鎚』なる者を討ち取ってからというもの、軍の連中はその仇を討たんと躍起になっていてな。時折私の首を取ろうと刺客を放ってくるのだ」

 

 銀髪の青年を射殺さんばかりに鋭い視線を向けながら、彼女は不意に指を鳴らした。

 同時に彼を囲むように控えていた女戦士(アマゾネス)たちが一斉に武器を取り、その矛先を彼に向けた。

 突然放たれた殺意に驚き、目を泳がせて僅かに慌てる様子を見せた彼に向け、戦王は絶対零度の声音でもって告げた。

 

「貴様がその刺客でないという証拠がない。先日、貴様と同じ事を宣う輩が来たが、その者は私の腹心数名を道連れにして逝きおったぞ」

 

「っ!?ちょっと待て、それはどういう事だ……!」

 

「言葉の通りだ。あの薄汚れた只人(ヒューム)めが、やはり口が上手い輩は好かん」

 

「只人、だと……」

 

 そうして次々と告げられた言葉に銀髪の青年は困惑した。

 金髪の圃人から聞いていた伝令は彼と同じ圃人だ。足の早さと小賢しさが自慢と聞いていたのだが……。

 

「戻ってこないわけだ。ああ、くそ」

 

 その伝令はどこかで殺され、戦王への刺客とすり替わっていた。今回の騒動は、つまりそういう事だろう。

 反乱軍と女戦士(アマゾネス)たちが手を組まないよう、先んじて手を打たれていたということだ。

 伝令が戻らなければ次の使者が送り込まれる。反乱軍からすれば代わりの使者であっても、彼女らからすれば次の刺客だ。そして、その刺客はまず間違いなく殺される。

 それを知らない反乱軍がどうにか彼女らと接触しようと人員を割けば割くほど、彼女らから警戒され、知らずのうちに敵対関係が深まる。

 このままでは反乱軍と国軍と戦いに、女戦士(アマゾネス)が助勢してくれないだけでなく、自分たちの背中を刺してくる可能性とてあるのだ。

 今回ばかりは相手の思う壺の行動を取ってしまった。自分は来るべきではなかったか、もっと慎重な行動を取るべきだった。

 だが、その後悔はもう遅い。既に行動は起こり、引き返せない場所まで来てしまっているのだ。

 あの森で出会った女戦士(アマゾネス)がいきなり手を出してこなかったのはある種の慈悲か、あるいはこうなる事を予期して警告してくれていたのか。

 銀髪の青年はちらりとその女戦士(アマゾネス)に目を向けてみるが、濁った瞳に殺意を宿し、こちらに槍を向けている。王の意志は絶対、ということなのだろうか。

 

「ま、待ってくれ。話を──」

 

 銀髪の青年はそれでもどうにか話を聞いてもらおうとするが、その言葉を遮って戦王が口を開いた。

 

「──」

 

 その言葉の意味を、銀髪の青年が知るよしもない。

 だが彼を囲んでいた女戦士(アマゾネス)たちが一斉に動き出し、縛られて動けない彼の身体を打ち据えた。

 肉が潰れ、骨が砕け、血が噴き出す湿った音に混じり、彼の断末魔の声が玉座の間に響く。

 だが、それでもその合間に「話を聞いてくれ!」と、「俺を信じてくれ!」と彼の声が混ざっているのだから、彼の忍耐も相当のものだろう。

 それに不快そうに眉を寄せた戦王が手を挙げると、女戦士(アマゾネス)たちが攻撃を止め、恭しく一礼しながら下がっていく。

 部屋の中央、血溜まりに沈みながら、月光を思わせる銀色の髪を自分の血で赤く染めた青年を見下ろしながら、戦王は問いかけた。

 

「其方は自らを殺そうとした者に助けを求めるのか。其方は自らを殺そうとした者を信じられるのか。其方は、亜人や異教徒と弾圧される者らの為に何を成すのだ」

 

「……決まっ、てる……っ!」

 

 どうせ返答はないだろうと決めつけていたのか、矢継ぎ早に投げられた問いかけに、彼女も来るとは思っていなかった返答があった。

 女戦士(アマゾネス)たちもざわつく中、先の攻撃で拘束が解けた銀髪の青年は立ち上がり、顔の血を拭うついでに髪をかきあげながら戦王に戦意が迸る双眸を向けた。

 

「自分を殺そうとした奴に助けを求めるか?当然、求めるさ。俺は弱い只人だからな。誰かに助けてもらわないと生きていけない」

 

「自分を殺そうとした奴を信じられるのか?当然、信じるさ。相手に信じて欲しいなら、まずは相手を信じなきゃだからな」

 

「何をするのか?知るか、そんなもの。俺は俺ができるありったけをするだけだ」

 

 文字通りの満身創痍。身体中から血を噴き出し、右腕が歪に曲がっていながらも、放つ覇気に衰えはない。

 それに当てられてか、ざわついていた女戦士(アマゾネス)たちが静まり返り、指示を求めるように戦王に視線を集めた。

 彼女らの視線を一身に受け止めた戦王は頬杖を着いたまま溜め息を吐き、「其方、何者だ?」と彼を見定めるような視線と声音で問いかけた。

 その問いを鼻で笑った銀髪の青年は、得意げに笑いながら告げた。

 

「反乱軍に雇われた、異邦の冒険者(アドベンチャラー)だ。以後、お見知り置きを……」

 

 そして女戦士(アマゾネス)たちのそれよりも優雅に、けれど恭しく頭を下げると、その勢いのままに頭から床に崩れ落ちた。

 べちゃりと湿った音と共に血溜まりに倒れた彼に、女戦士(アマゾネス)たちはトドメを刺すように口々に言うが、戦王はそれを手で制した。

 

『──皆、心して聞け』

 

 彼女らだけに伝わる言語で、お互いに幼き日から知る戦士たちに向け、戦王は言う。

 

『私はこの男に興味が湧いた。すぐには殺すな、試練を受けてもらう』

 

 彼女の言葉に女戦士(アマゾネス)たちは色めき立ち、普段なら口にしないであろう罵詈雑言が飛び交うが、戦王が手を叩くと共にそれも静まる。

 女戦士(アマゾネス)の性か、戦王を含めた彼女らは、すぐに感情が爆発し、熱くなってしまうきらいがある。

 それを止めよとも、直せとも言うつもりはないが、こうして合図を出せばすぐに落ち着きを取り戻せるように、幼少から訓練を積んではいるのだ。

 やれやれと額に手をやって首を振った戦王は、銀髪の青年を指差しながら『牢に入れておけ』と指示を出し、何人かの女戦士(アマゾネス)たちが面倒そうにしながらも彼を担ぎ、引き摺る形で玉座の間を後にした。

 

『ああ、治療も忘れるなよ。死んでもらっては困る』

 

 そして彼が部屋から連れ出される間際に、言い忘れていた指示を出す。

 銀髪の青年を引き摺る二人がその指示に対して頷くと、手持ち無沙汰な友人に神官を呼ぶように指示を出し、連行を再開。

 

「──さて、冒険者よ。其方の力、見せてくれ」

 

 血痕を残して去りゆく彼の背に、戦王は呟き声を投げかけた。

 その声に返事はなく、再びざわめき出した女戦士(アマゾネス)たちの喧騒に包まれ、消えていった。

 

 

 

 

 




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