汝、モルモットの毛並みを見よ   作:しゃるふぃ

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第6話

 2ヵ月の時が過ぎた。まもなくメイクデビューとなるが、我々のこなしてきた内容は基礎トレに基礎トレ、あと基礎トレと基礎トレーニングだ。俺自身の知識とタキオンの知見を活かして作った基礎トレーニングだから、普通のよりは効果が高い……と、信じたい。

 

 ただ、不安なのは今後だ。タキオンには明らかに次のステップに進むつもりがなく、偏執的とも言えるほどに基礎トレーニングだけを続けていた。無論基礎が重要なのは理解できるが、それだけで勝てるというわけではない。

 ”時期が来たら切り替える”と言っていたが、考えるまでもなく信頼性はゼロだ。

 

 何とか別のことも取り入れられないかと考えていると、驚きのニュースが飛び込んできた。メイクデビューを1週間後に控えているが、ここ最近はトレーニング続き。休憩も兼ねた一計を案じることにした。

 

 

 

 毎日朝食後、トレーナー室で顔を合わせるうち、何となくだが彼女との信頼関係ができてきたように思われる。それが良いことなのかはわからないが、駄々をこねても良いと思われているらしい。それが舐められているのか信頼の証かは不明だが。

 今日もタキオンは眠そうだったが、それでも一応来てくれてはいた。

 

「タキオン。少し提案がある。いいか?」

「ふぅン? 珍しい。聞くだけ聞こうじゃないか」

「トレーニングについて少し、趣向を変えてみようと思う。先に言っておくが根本的に方針を変えようというわけではない」

「前置きは良い。それで?」

「実は今週末、あるレースがあるんだ。おい、つまらなそうな目をするな」

「観戦をしようって言いたいんだろう。無論意味がないとは言わないがね、私はそれより――」

「シンボリルドルフ会長が出る」

「……ほう?」

「なんでそうなったのかは知らない。が、急遽出走となった」

「なるほど、会長が。知らなかったな――宝塚記念かい?」

「その通り。どうせレースなんてほとんど見たと言いたいんだろうが――シンボリルドルフのレースならば見る価値がある。他の面子もGⅠ、春のグランプリだ。豪華な面子が揃っている。で、どうだ?」

 

 タキオンは脚を組み俯いた。基礎トレからの変更はやはりまずかっただろうか。

 

「無理に、と言うつもりはない。トレーナーである以上従って欲しい指示はあるが、これは相談だ」

「……ま、良いだろう!」

 

 吹っ切れたような声だった。

 

「関西ならではのデータが取れるかもしれないからねぇ。しかも今回は労働力もいる。君、運転免許と車は持ってるかい?」

「両方持ってるが、おい。阪神レース場まで運転しろって言う気か? 何百キロあると思ってるんだ」

「もちろん。何十キロもある精密器具を抱えて走っていけと言うのかい!」

 

 なら行かない、と言い出すのは明白だった。溜息をついて承諾する。

 結局今日のトレーニングは取りやめとなり、荷造りに追われるのだった。

 

 

 

 金曜日の夜、俺は栗東寮前までタキオンを迎えに来ていた。いかに学園内とはいえ真夜中に女性一人はまずいと思ったのだ。ただ、これが良くなかった。厄介ごとに首を突っ込むことになってしまったのだから。

 

「ヤダヤダー!」

 

 美浦寮の前を通りかかった時、駄々っ子の声が聞こえた。それはもう明らかに子供のもので、そうとくれば多分ウマ娘のものだ。もちろん門限は過ぎている。

 やだ、と言うからには誰かいるのだろうが、一応様子は見ることにした。

 

 寮の入り口に二人。少し外れた場所に二人。寮の入り口の方はトウカイテイオーとシンボリルドルフが、外れにはフジキセキとヒシアマゾンがいた。寮長組は入り口の二人を見守っているらしい。心配はいらないようだ。すんなり名前が出てくる自分に感動した。

 

「テイオー……チケットが取れなかったのだろう?」

「うううー、でも、でもぉー!」

「その心だけで十分だ。心配する必要はない」

 

 寮長組と目が合って、お互いに軽く会釈した。

 

「カイチョー……」

「テイオーの応援は受け取った。この上映像越しで応援してもらえるならば、猶の事安泰だろうな」

「……うん」

 

 出る幕はなさそうだ。通り過ぎようかと思い、視線を感じた。フジキセキからだった。

 栗東寮長のフジキセキには、タキオンとの関西行軍は伝えてある。車で行くということも。そして、彼女はじっと俺を見つめて、時折トウカイテイオーに目配せしていた。フジキセキが小さく口を動かした後は、ヒシアマゾンからの微笑交じりの威圧も加わった。

 いけと。なるほど。車に余裕はあるから、構わないと言えば構わないのだが……タキオンと喧嘩しないだろうか。ウマ娘の力で暴れられると車が壊れるので、やめてほしいのだが。そうこう迷っているうちに、会長がこちらを向いた。

 

「おや、君は」

「……こんばんは、会長」

「ああ。こんな時間に、どうしたんだ?」

「タキオンを迎えに」

「……ああ、思い出した。確かに外泊届を提出していたな。私のレースを見に来るんだろう?」

「はい」

「そうか。私の走りが君たちに資することを願っている。そうタキオンに伝えておいてくれ」

「わかりました。それでは」

「……ねえ!」

 

 まあ、そうなるよな。テイオーがこちらを向いて、ぱあっと明るい笑顔を向けた。

 

「これから阪神レース場に行くの!? どうやって!?」

「車だ」

「それ、ボクも乗せてよ! いいでしょ!?」

 

 こうなれば、事態は俺の裁量を超えている。嘘をつくのは心苦しかった。断って欲しいと思いつつ、会長に目配せした。

 

「……千載一遇、か。鶴城トレーナー君、私からもお願いできないだろうか」

「わかりました。君、名前は? 俺は鶴城圭吾。ここのトレーナーだ」

「えーっ、ボクのこと知らないの!?」

「建前上聞いてるだけだ。一方的に知られてるのが怖いって子もいるだろ」

「なんだ、そっか。ボクはトウカイテイオー! 無敵のテイオー様だぞ!」

「こら、テイオー。無理を言っている立場なのだから」

「はぁーい。鶴城トレーナー、よろしくね!」

「そうだ、現地でのテイオーの引率も任せて良いだろうか?」

「……わかりました。帰りは会長が何とかしてくださいよ」

 

 タキオンとは合わないだろうなあ。そう思いながら、俺はタキオンを迎えに行くのだった。

 

 

 

 私服姿のタキオンは、何というか、普段とは随分違って見えた。

 彼女は些か不機嫌そうに空を眺めていたが、足音に気づくとこちらを向いた。

 

「遅かったじゃないかモルモット君。実験アルファと実験ベータ、どっちがお好みかな?」

「どうせ、選ばれなかった方が後回しになるだけだろ」

「もちろんだとも。まぁ安心したまえ、流石に今はやめておこう。事故は起こさないでくれたまえよ?」

「そりゃよかった。ところで同乗者が増えることになった。荷物をトランクに運んだら少し待つことになると思う」

「ほう。しかし、そういうのは私に断りを入れてから決めるべきではないかい?」

「会長に頼まれたんだよ」

 

 タキオンは不満そうだったが、唇を尖らせるだけで収めてくれた。

 車で二人、待機する。タキオンは助手席に乗ろうとしていたが、テイオーが暇するだろうから後部座席に移ってもらった。

 

「トウカイテイオー。聞いたことはあるが……どうだろう。興味深いウマ娘だと良いが」

「会長が目を掛ける程だ。玉石混合の学園の中で、間違いなく玉の側にあるだろう。タキオンと同じだよ」

「そうは言うが、会長はウマ娘というだけで無条件に目を掛けるだろう?」

「そりゃそうだが、あれは並々ならぬものを感じたぞ」

 

 雑談をしていると、人影が見えた。タキオンに一声かけて、耳を塞いだのを確認してから大声で呼びかける。

 

「こっちだー!」

「わかったー!」

 

 元気の良いことだ。タキオンは少し忌々しそうに表情を歪めていた。

 

「言ったろ、呼びかけるから耳塞いどけって」

「違う。どうやら眠れなさそうだと思ってね」

「ああ……頑張れよ。俺は運転に集中するから」

「頻繁に休憩を取るようにしたまえ。それで気が紛れるだろう」

「……さすがだ。8時間近く掛かるだろうが、頼むぞ」

「なあに希望はある。幼いようだから、深夜になれば眠く――」

「ボクが子供だって言った!?」

 

 ああ、やらかしたな。タキオンらしからぬ失敗だが、多分彼女も眠いのだろう。

 一気にうるさくなった後部座席に不安を覚えつつ、出発した。

 




世間ではしっとりテイオーが一般化していますが、私はシットリルドルフの方が好きです。嫉妬、シンボリとシットリは最初と最後が同じだから実質同じ、そして独占力持ち。
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