苦手ならブラウザバック
初めて感じたものだった。
心の痛み。今まで鈍感な振りをして、気付かないように目を逸らしてきた孤独の寂しさとは違う。
この感情はなんだろう。
えむくんが司くんと話しているだけだ。
ただ、僕が聞いたことも無い話
「この前のかっこいいポーズして〜!ぐるぐるぐるーって!」
「なっ!あれは転んだだけ……じゃなくて!特別なポーズだからダメだ!」
本当に他愛も無い。いつも通りの。
誤魔化しになってないのに大声で誤魔化す彼が可愛らしい。
なのに何故だろう僕の知らない司くんの片鱗。それが欲しくてたまらない。
手に入らない心の痛み。
2人の話に混ざれないからだとかそんな事かと思ったけど、毎晩自分に向き合い気付く。ソレ。
「司くんの全部が欲しい」
そう。全部が。
ーー思い経てば早かった。
そして彼が異変に気付くのも早かった。
「る〜〜い〜〜っ……!」
「なんだい?司くん。」
不愉快と言いたげに掴みかかられる。彼が不快だと何故か口角が上がりそうになるのをグッと抑える。
おや、しまった声が弾んでいたかもしれない。
「なんだい?っじゃない!!!ずっと付け回るこれをやめて欲しいんだが!?」
「それは無理な相談だねぇ」
そう。思い、起こしたその行動。それは彼の周りに飛び回るドローン。猫のおもちゃみたいなそれは未だ彼の上にいる。
ふふ、我ながらとても可愛らしい機械だ。量産しておいてよかった。
「類が変人なのはもう慣れたが、流石に度が過ぎるぞ!なんの役に立つんだ!」
「司くんの方が変わっているよ、だからショーのヒントになるかもと思って……ダメかい?」
「その捨て猫みたいな顔やめろ!」
何度も乱用してきた彼を頷かせるやり方は通じないらしい。頼られると断れないという性格をこういう風に利用するのは如何なものか、とは思うが。瑞希程ではないし。大目に見て欲しい。
「はぁ……まぁ、ショーの練習等を撮るのは構わん、オレも外からの見え方ってものは気になるからな」
「おや……」
「ん?」
「いや、続けて?」
またしても妥協してしまう彼に1度驚いて、適当に流す。
ちょっとちょろ過ぎないか司くん。心配だよ。
言うなら盗撮と盗聴だ。
怒って欲しいくらいだったのに。この人は。
「だが!!!風呂とトイレはどうなんだ!!!家族ですらもう立ち入ってはダメな領域だ!」
「そういう時こそ人間のリアルなー」
「あー!!!あー!!!聞こえん!!!聞こえーーーーん!!!」
人の話を塞ぐ為には普通耳に手を当てるだろうに、この目の前の人は僕の口を覆い隠してきた。
熱を測ろうとした時と同様、距離感がおかしくないだろうか。そんな事をされると黙ってしまう僕も僕だ。案外ちょろい。
「そもそも!!!そんな事をせんでも他にあるだろ!?」
「……?」
他に……?
どうだろう、小型盗聴器なんて仕掛けたら益々犯罪者だ。
「オレの傍にいればいい!!!ショーも、休み時間も、下校も、ずっとな!」
曰く、未来のスターたる彼はそう自信満々に告げた。
どこまでも真っ直ぐな彼の厚い信頼。
「ふふ、それはそれは……
魅力的な提案だ」
どうしようか。彼が僕の口を覆っていて良かった、破顔してしまっている。
きっと今の僕は酷い顔だ。
「ならお風呂もトイレもついて行くよ」
「それはダメだが?」
顔を見合せ、笑う。
お互いを結ぶこの廊下でずっと談笑していたい。
僕の全部を君にあげる