王子との婚約を破棄され追放された転生聖女は庶民に“酔いどれ”と笑われている   作:若年寄

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第陸拾捌章 公爵の打った布石

「するてぇと何ですかい? ローゼマリーの正体こそヴァイアーシュトラス公爵その人だってンですかい。しかも転生武芸者になってローデリヒ皇子の子供を孕むたァ恐れ入谷(いりや)鬼子母神(きしもじん)だぜ」

 

「きし…? いえ、それは良いとして、公爵をどうしたものやら」

 

 ローゼマリーことグレゴール=ユルゲン=ヴァイアーシュトラス公爵に勝利したヴァレンティーヌは彼女(或いは彼?)を拘束するとアンネリーゼが詰めている番所へと転位魔法を遣って現れたのであった。

 全身が血塗れの全裸女性を連れてきたのを見た時には開いた口が塞がらなかったものだが、善く善く事情を聞けば壮絶な話である。

 

「しっかし聞けば聞くほど聖都スチューデリアってェ国は闇が深くて嫌ンなるぜ。俺が公爵の立場だったとしても復讐を選ンでいるだろうよ。まず間違いなくな」

 

 母親が聖帝に陵辱された末に生まれたグレゴールの数奇な運命にアンネリーゼは心底同情したのか、顔を顰めて自分でも復讐に走ると吐き捨てた。

 

「それには同意しますがやり方が良くありませんわ。公爵の策謀のせいで無辜の民がどれだけ苦しめられてきた事か。蝗害の被害だけでも莫迦になりませんのに心無い貴族から搾取されてきた農民達の心は既にスチューデリアから離れています。それは取りも直さず経済の混乱にも繋がり商人達も苦しめられる結果となっていますわ。更には打ち壊し(・・・・)と称する農民・町民による暴動で商家や金貸しなど富裕層が襲われて、家屋や家財を破壊されお金や食料を強奪される事件も少なくないそうです」

 

「これは俺達、黒駒一家も頭を抱えている問題でやすよ。事件を調べようにも犯人は虐げられている貧困者だ。同じ境遇同士、気持ちが分かる上に、あいつらに取っては胸のすくような話でやすからね。英雄扱いされちまって調査に協力すらしてくれねェンでさ。下手に捕らえようものなら“お前らも金持ちや貴族の手下か”ってなもんで襲われて被疑者を奪われる事もしょっちゅうでね。手下の中には重傷を負って病院に担ぎ込まれたヤツもおりやすよ」

 

 蝗害からの十年で既に人心は聖都から離れている。

 それがヴァイアーシュトラス公爵による策略であるというのだから恐ろしい。

 ローゼマリーとの面談の準備をしていたヴァレンティーヌと並行してアンネリーゼは搾取をしていたとされる悪徳貴族達を調べていた。

 いくら傲慢な気質の多い貴族といえども飢饉という非常事態で領民から搾取する領主が多すぎると今更ながらに不審に思えてきたのだ。

 どれだけ愚かであろうと、民は生かさず殺さずを胸とする残忍な心根の持ち主であろうと、農民を虐げ続ければ最終的に自分に返ってくるのは分かるはずなのだ。

 アンネリーゼが聖女としての特権を活用して領主達に面談を求めると、拍子抜けするほど捜査に協力的であり、中には聖女の来訪を待ちかねたかのように縋りつく者さえいたという。

 なんと悪徳貴族の皆が皆、青白く血の気が引いて幽鬼の如く痩せ細り、ほとんど自失の状態であったのだ。

 彼らは共通して首筋に牙を突き立てられた痕があり、吸血鬼に操られていた事が判明したのである。

 地母神に返り咲いたクシモではあるが、裏の顔である淫魔王は未だ健在であり、淫魔軍の仕業ではないかという疑惑が浮上した。

 つまり事件の裏にはやはり慈母豊穣会の影があったのだと疑うよりないのだ。

 

「しかしねェ……」

 

「何です?」

 

 首を傾げるアンネリーゼにヴァレンティーヌが問う。

 

「どうにも今回の事件と教皇ミーケが結び付かないンでさ。確かに野郎は恐ろしい程強いしゲルダ先生を攫っていっちまった憎い奴だ。けど十年もかけて真綿で首を絞めるように聖都スチューデリアを追い詰めるような悪辣さ、陰険さとは無縁のような気がするンでやすよ」

 

 長年、目明かしとして数多の事件を解決し、暗黒街の顔役として多くの悪党を見てきたアンネリーゼだからこそ見えるものがある。

 教皇ミーケは口調こそ無頼であるものの彼が悪党かと問われれば確信を持って首を横に振るだろう。

 ヴァイアーシュトラスは時間稼ぎと連携してゲルダを攫ったと云っていたそうであるがアンネリーゼの見解では、ただタイミングが重なっただけだと見ている。

 

「お嬢、教皇ミーケがキルフェの野郎に頼み事があったと云っていたのを覚えてやすかい?」

 

「野郎って…いえ、今はそんな事を気にしている場合ではありませんわね。ええ、覚えていますとも。それが何か?」

 

「ベアどんが教皇キルフェから絞り取った(・・・・・)ところによるとミーケが頼み事を持ち込んでいたのは確かなようでやす」

 

 その言葉にヴァレンティーヌはきな臭いものを感じたのか眉を顰める。

 しかしアンネリーゼはそんな彼女に苦笑しながら手をパタパタと振った。

 

「話の流れで悪い事を想像しちまうのは無理もありやせんがね。実はその頼み事ってェのは至極まっとうなものでやすよ。むしろスチューデリアに救いの手を差し延べてくれていたンですぜ」

 

「救いの手とおっしゃいますと?」

 

 首を傾げるヴァレンティーヌにアンネリーゼは紫色の物を見せた。

 

「こいつは甘藷(かんしょ)という芋の一種でね。荒れた土地でも育てる事が可能な救荒作物、つまり飢饉の救世主と呼ンでも過言ではないもんでさ。しかも栄養価がかなり高いときている優秀な芋でやすよ」

 

「カンショ…ですか? つまり教皇ミーケは?」

 

「ええ、飢饉に喘ぐ聖都スチューデリアの為にコイツを普及させようとしていたンでやすよ。ただご存知の通り、スチューデリアは慈母豊穣会を禁教にしている。元老院は頭っから罠だと決めつけて甘藷の普及を拒ンでいたンだそうでやすから呆れた話でさ」

 

 それでも飢餓に苦しむスチューデリアの民の為に根気良く交渉していたそうだが色好い返事が貰えなかった。

 ならばと枢機卿オリバーの傀儡として民衆とは別の意味で苦しんでいるキルフェに甘藷の普及を依頼しようと考えたのである。

 民衆を飢餓から救ったという功績があればキルフェも負い目なく名実共に教皇を名乗る事ができるし、何なら慈母豊穣会が後ろ盾になって枢機卿からの支配から救い出してやろうと秘やかに交渉していたそうな。

 しかしキルフェは既に天魔宗と通じており、秘書である女性を母胎にして転生武芸者となっていたのだ。

 しかも秘書はキルフェからすれば姪の娘にあたるそうで、彼女からすればキルフェは大伯父という事になる。

 その事実を知ったミーケの怒りは凄まじく、キルフェに強い殺意を持っていたのは当然であり、そのタイミングで対峙した聖女達がミーケの殺気に当てられたのは不幸というよりなかった。

 

「慈母豊穣会はその教義から子供やその母親を特に守護対象にしているそうでやすからね。いや、それでなくてもキルフェの罪は許されるもんじゃねェでしょう。あの場に教皇ミーケと旧知であるゲルダ先生がいなかったらと思うとぞっとしやすぜ」

 

「確かに私達も無事では済まなかったでしょうし、何より教皇様を怒りのまま斬り捨てられていたら星神教と慈母豊穣会、いえ、下手をすれば聖都スチューデリアと慈母豊穣会との戦争になっていたでしょうね。そうなっていたらスチューデリアのダメージは計り知れません。きっと再起不能となっていたはずですわ」

 

「同感でさ。だからこそゲルダ先生と対峙して冷静さを取り戻したミーケは人質交換を提案し、先生もそれに乗ったのだと後になって分かりやしたよ」

 

 キルフェを殺さず、教皇ミーケのメンツも保つ。

 その両方を成立させる落し所がキルフェとゲルダの人質交換だったのだろう。

 ゲルダを人質にされる痛恨の敗北と思っていたが、実は神掛かり的なタイミングであったのだと胸を撫で下ろす二人であった。

 

「よう、ヴァイアーシュトラス公爵を捕獲したって?」

 

 そこへベアトリクスが姿を見せた。

 春先とはいえ相変わらず布地の小さいビキニとコートのみの寒そうな姿である。

 しかし“火”と“生命”を司る『不死鳥』の聖女であるベアトリクスは全身に漲る“火”の魔力と持て余す程の生命力によって常に体温が高く、真冬でもほぼ裸に近い恰好をしている。何なら人の目がなければ裸で過ごす事も平気だ。

 むしろ聖女としては美しい装飾に彩られた木浴場で薄衣を纏って信徒と対面をする事により威厳を保っているという。

 もっとも本人は深く考えてはおらず、行為をするのに便利(・・・・・・・・・)だな程度にしか思っていないのであるのだから周囲、特に修道女達の気苦労は絶えない。

 

「ベアどん? 船にいねェでキルフェは大丈夫なのかい?」

 

 星神教を裏切り、転生武芸者と化したキルフェを見張る重要な役目があるベアトリクスに対して声に若干の非難が混じるのは仕方ない事だろう。

 アンネリーゼも不良聖女と呼ばれているが、仕事に対しては生真面目であり、暗黒街の顔役だからこそ自分を律している。

 だからこそ役目を放置したように見えるベアトリクスを見る目に厳しい光が宿る事になるのだ。

 するとアンネリーゼの表情(かお)が険しくなっているのを察したベアトリクスは苦笑いを浮かべて手を振った。

 

「キルフェの野郎は誰の手も届かない所に隠したから安心してくれ、黒駒の兄弟。もう天魔宗も慈母豊穣会も手出し出来ないさ」

 

「そんな所、どこにあるってンだい?」

 

「分からないか? 地獄だよ。冥王が俺様に仕事を頼んできてさ。その代わりに冥府の裁判所で預かってコキ使ってくれるってよ。秘書を犠牲にしたのも許せないが、冥王の裁きを受けずに勝手に転生したのが一番許せないって云ってな」

 

「なるほど、確かに生きてるヤツには手出しできねェわな」

 

 感心しているアンネリーゼであったが、ヴァレンティーヌの反応は違った。

 神妙な顔でベアトリクスに問い掛ける。

 

「相談もなく冥王様に教皇様を預けた事は不問にしましょう。それで冥王様からのお仕事とは? もうすぐ産まれるローデリヒの子供の事もありますし、今はあまり余裕が無いのですが」

 

「それだ」

 

「それとは?」

 

「そのローデリヒが一揆勢に拉致された。一揆に加わっている貴族の一人がローデリヒの友人でな。言葉巧みに誘い出されたらしい。このままでは死ぬ運命にない者が大勢死ぬ事になるそうで冥府としてはこの動きを止めたいそうだ」

 

「何ですって?!」

 

 どうしてこうも次から次へと問題が発生するのか、ヴァレンティーヌは頭を抱えたくなった。

 

「ったく、冥王もいい加減だぜ。一揆で民衆を死なせたくないなら蝗害の時にも手を打って欲しかったぜ。それとも飢饉で死ぬのは運命の内ってか?」

 

「そうじゃねぇのさ。一揆の目標は聖都じゃないんだよ」

 

「はぁ? どういうこったい?」

 

 訝しむアンネリーゼにベアトリクスが深刻な顔で答える。

 

「一揆の攻撃目標はカイゼントーヤ王国、つまり一揆勢、いや、ヴァイアーシュトラス公爵の目的は同盟国であるはずの両国に戦争をさせる事にあったんだよ」

 

「しかし一揆ですわよ? 攻撃されるカイゼントーヤ王国の被害が出るのは分かりますが、戦争はもっとも愚かな政治判断です。勿論、一揆は止めるつもりですが、万が一カイゼントーヤに損害が出ても聖都側が補償すれば避けられるのでは?」

 

「いや、戦争は起こる」

 

「何故ですの?」

 

 断言するベアトリクスにヴァレンティーヌが喰って掛かる。

 

「その為のローデリヒだ。ヴァイアーシュトラスは自分が捕らえられる事も見越して布石を打っていたのさ。ローゼマリーはカイゼントーヤ王国に拉致されているって云えば、ローデリヒは一揆勢の旗頭として動くだろう。そうするだけローデリヒはローゼマリーに魅了されているのだからな。淫魔王直轄の吸精鬼(サッキュバス)の魅了は半端ねェぞ。百年前の淫魔軍の恐ろしさは黒駒の兄弟も覚えているだろう?」

 

「ああ、連中の怖い所はサッキュバスに魅了されたヤツは将校、政治家、商人、傭兵、僧侶、などなど職業や性別問わず、悉く裏切って淫魔軍についちまった事だ。鼻血が頭に上ったローデリヒなんざ我からカイゼントーヤに突撃していくだろうよ」

 

「そんな…では私のした事は?」

 

「ほっほっほっほ、勿論、麿(まろ)の思惑通りでおじゃる。ローゼマリー(・・・・・・)が消えた事でローデリヒは一揆の先頭に立ってカイゼントーヤ王国を攻撃するであろう」

 

 声のする方を見ればローゼマリーことヴァイアーシュトラス公爵の姿があった。

 

「おいおい、牢番の連中は何をしてやがった」

 

「ほっほっほっほ、勿論、ナニ(・・)をしておったわ。いかんぞ、たまには部下達の欲望を発散してやらねばな。御陰で簡単に鍵を奪えたでおじゃる」

 

「チッ! だから小遣いをやる時、“安い()を買うな。身にならねェからな”と云ったンだよ!」

 

「遊ばせるのなら自分で良き遊郭(ところ)に案内してやるべきでおじゃったな。可哀想によ。遊び方が分からず安宿の飯盛り女で済ませておったようでおじゃるぞ?」

 

 アンネリーゼが睨みつけるがヴァイアーシュトラスは涼しい顔で笑うのみだ。

 そして更に恐るべき事実を投下する。

 

「ほっほ、『獅子』の聖女の云う通り、一揆勢が攻め込んだだけでは戦争にはならぬ。だからこそ一揆に合わせてカイゼントーヤ軍が呼応して攻撃をするように示し合わせておるのよ。既に運河にはカイゼントーヤ軍の軍艦が列を為して待機しておろう。一揆勢など鎧袖一触した後に聖都へと攻め込む手筈となっているのでおじゃる」

 

「ぬ、抜かりましたわ! カイゼントーヤ国王の御正室はヴァイアーシュトラス公爵の妹君! カイゼントーヤ王と公爵は心胆相照らす仲だったのでしたわ!」

 

「相手に気付かせずに布石を打つのは戦術の極意、麿に勝利した事で目論見を防ぐ事が出来たと思った事、それがそなたの敗因でおじゃる」

 

「だが冥王には筒抜けだったようだぜ。御陰でまだ間に合う。ローデリヒを止めるには充分さ」

 

 ベアトリクスは見えぬはずの布石が冥王の知るところであったと笑う。

 しかしヴァイアーシュトラスに動揺は見えない。

 

「愚かなり。冥王に筒抜けとな? 罪人がただ髑髏にされたと思っておるのか? 彼らこそ冥王へのメッセンジャーよ。一揆の真相を伝えるためのな。だがそれだけでは冥王は現世に介入できぬ。冥王が現世の『不死鳥』の聖女に依頼をした最大の理由は星神教の教皇であるキルフェが冥府の(ことわり)を踏み躙って転生した事実よ。そして、それを唆したのが麿である真実よ」

 

「そ、そうか! 俺様とした事が一揆の真のターゲットを知らされた事で舞い上がっちまったぜ。冥王の目的は一揆で出る死者を防ぐ事でもカイゼントーヤとの戦争を止める事じゃなかったんだ。裁きも受けずに転生したキルフェの身柄を抑えることにあったのか!」

 

「その通りでおじゃる。事はもっと単純な事よ。異世界の者が転生する分には見て見ぬ振りをしていた冥界も、流石に冥府の存在意義を揺るがしかねない星神教の教皇による転生を許すワケにはいかなかった。そこで事前に報せていた一揆の情報が生きるのよ。冥王はこれを口実に、してはならぬはずの現世に介入したのでおじゃる。しかも死してはおらぬキルフェを冥界に引きずり込むという大過まで犯してな」

 

 冥界まで巻き込む公爵の策略に聖女達の背筋に氷塊を突っ込まれたかのような悪寒が走る。

 

「善くやるぜ。アンタは策略を進めつつ冥王に貸しまで作ってたってのかよ」

 

「策略などではない」

 

「どういう事ですの?」

 

「策というものは自分や仲間の勝利の為に編み出すもの。麿の策、否、作戦は聖都スチューデリアさえ滅びれば後の事はどうなっても構わぬという謀略とも呼べぬ代物である。聖都の滅亡さえ叶えばカイゼントーヤに蹂躙されようが、自らを地獄に堕とそうがどうでも善いのでおじゃる。慈母豊穣会の利益にもならぬどころか重大な裏切り行為であるから破門は必至。或いは絶縁されるかも知れぬでおじゃるが、それもまた一興よ」

 

 まるで(うろ)のような公爵の目に聖女達は言葉も無かった。

 ただただ目の前の存在が恐ろしい。

 

「冥王に貸しを作った理由はただの一つ。麿の身勝手な時間稼ぎの為に髑髏にされた者達や恐怖を味わいつつ真っ二つにされたインゴ達の幸福な転生を見逃して貰う為よ。これで許して貰おうとは思わぬ。ただの麿の自己満足に過ぎぬからな」

 

「罪人の幸福な来世を祈る事が出来るのに何故、憎しみを捨てる事が出来なかったのですか?」

 

「麿の初めての記憶が母の死であった」

 

「えっ?」

 

「麿が受けた屈辱、祖先が受けた苦痛、もはやどうでも良い」

 

 公爵の腰から蝙蝠にも似た翼が広がり、頭部に山羊の如く捻れた角が出現する。

 

「許せぬのは聖帝! 母を陵辱しておきながら殺した男! 許せぬのは先代! 聖帝に云われるがままに母を斬り捨てた男! 母の人生は二人の父によって踏み躙られたのだ! 母は無縁仏となったせいで星神教徒として葬られなかった。それが意味する事が分かるか? 母の魂は天国どころか地獄にも行けずに永遠にこの世を彷徨っておるのだ! 死してすら安息を得られぬ母の為に()が出来る事はただ一つ! 星神教諸共聖都スチューデリアを滅ぼし、この土地そのものを母上の、否、全ての無縁仏の安息の地とするのだ!」

 

 翼が羽ばたき、ヴァイアーシュトラスの身が浮いた。

 

「聖女共よ! 一揆を止めるも良し! 私を討つも良し! ただし一揆を止めればカイゼントーヤ艦隊は止められず、私を追えば一揆勢は有象無象の烏合の衆と化し暴徒となるであろう! この絶望的な状況でどこまでやれるか見ていてやろうぞ!」

 

 後手に回り過ぎた事態に然しものヴァレンティーヌも虚勢を張る事も出来ないのか押し黙ってしまった。

 一揆勢を止めるとなれば、その間にカイゼントーヤ軍が動くであろう。

 だからといって元凶であるヴァイアーシュトラスを先に討てば頭目を失った一揆勢は散り散りとなり半グレよりも厄介な賊の群れとなるのは想像にかたくない。

 

「では私は行かせてもらう。だが最後に慈悲をくれてやろう」

 

「慈悲?」

 

「私はスエズンにてカイゼントーヤ艦隊の指揮を取っている。もし一揆勢より私の討伐を望むのであればスエズンに来るが良い。これは布石にあらず。私は逃げも隠れもせずにそなたらと戦おう。では、さらばだ」

 

 ヴァイアーシュトラスは何故か慈愛に満ちた眼差しで微笑むとあっという間に上空へと上昇し、遙か南へと飛び去っていった。

 後に残されたのは状況の打破を必死に考える三人の聖女であった。




 難産でした(汗)
 今回は親の介護とは関係無く普通にスランプでした。
 誰が読んでも恰好良い戦闘を目指すのも過酷ですが、誰が読んでも納得する戦略を目指すのも茨の道ですね。
 けど一話一話全力で書く以外に方法が無いですよね。
 力不足を嘆いている場合じゃないですわ。

 ついにヴァイアーシュトラス公爵の本命の戦力、カイゼントーヤ艦隊の登場です。
 聖女達に悟られずに艦隊をスエズンに集結させる事に彼の狙いがありました。
 つまり怨敵の子供を身籠もる事さえ本命から目を遠ざける囮だったのです。
 果たしてヴァレンティーヌ達は一揆勢と艦隊から聖都を守る事ができるのでしょうか。

 それではまた次回にお会いしましょう。
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