NieR:Automata It might to [BE]   作:ヤマグティ

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徹底的に壊れていく君の姿は美しいので初投稿です。


Episode.14 [アノ日壊レタ何カ]

 

「あれ……ここは…。」

 

一直線の白い道。宇宙のように広がっている空間。

 

私はハッキングを仕掛けた筈なのだが、そこに広がる光景は今まで見てきたハッキングの画面と少し違った。

 

私は…ここを知っているような気がする。

 

一直線の道を歩き続けていると、なにか奥にある広い空間に、沢山の。いや膨大な量の画面のようなものがあるのが遠目に見えた。

 

「これって…。」

 

近づいていくにつれて見えてきたその正体に、ようやく気付いた。

 

 

「私の…記憶…。」

 

 

ここは私の記憶領域だ。私の記憶が、思い出が詰まった場所。

 

何故ここにいるのだろう。辺りを見回す。

 

見えるのは私の記憶が写しだされた沢山の画面。

 

その画面の一枚一枚に写しだされているのは私とナインズとの記憶ばかり。

 

 

沢山ある記憶に目を向ける。

 

その一つ一つを、ナインズたちを。私は今でも鮮明に思い出せる。

 

 

君と工場で初めて会ったときの記憶。

 

遊園地の歌姫と共に戦ったときの記憶。

 

アダムと戦ったときの記憶。

 

君を抱きかかえているときの記憶。

 

 

イヴと共に戦ったときの記憶。

 

 

君の首を絞めるときの記憶。

 

 

君の手の上で君を見ているときの記憶。

 

 

 

砂漠で君を必死に運ぼうとしているときの記憶。

 

 

 

 

洞窟で共に雨上がりを待っていたときの記憶。

 

 

 

 

海で溺れかけた君を助けたときの記憶。

 

 

 

 

一緒に世界中を旅して回ろうと約束したときの記憶。

 

 

 

 

 

君の胸に刃を突き刺しているときの記憶。

 

 

 

 

 

 

 

君の喉を刈っ切ったときの記憶。

 

 

 

 

 

 

君とバンカーで初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

君と草原で初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

君と海岸で初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

君と初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

君と初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

 

君と初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

 

 

君と初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

 

 

君と…………________

 

 

 

 

数えきれない程の、膨大な量の記憶。

 

そしてその沢山ある記憶の中心に、その記憶たちに取り囲まれているかのように、ナインズの形があった。

 

幻覚…、いや違う。記憶が生み出した立体モニターのようなもの。

 

もう二度と、この目で見ることが叶わないと思っていたナインズの姿に、思わず手を伸ばして向かって行く。

 

「たとえ…これが私の記憶でも……私は……。」

 

 

 

 

 

 

ザザッ

 

周囲に異音が走る。

 

咄嗟に辺りを見回す。

 

そして周りで起きている状況に気付き、理性が吹き飛びそうになった。

 

記憶の一枚一枚が、何者かによって干渉されて黒い靄に取り込まれていっている。

 

忘れていたが今ここにいる場所は私の記憶領域、つまり私の中だ。

 

ハッキングを仕掛けた筈なのに私の中にいるということは、逆にハッキングされたことを意味している。

 

私にハッキングを仕掛けてきた何者かが私の記憶を取り込もうとしている。

 

ザザッ

 

ザザザザッ

 

次々と私の記憶に黒い靄がかかって取り込まれていく。

 

ナインズの姿にも、黒い靄がかかり、それを核にするように靄が集まっていく。

 

「やめろ」

 

この状況にとてつもない不快感が込み上げてきた。

 

尋常じゃない程の、A2に向けていたあの憎悪に似たものが湧いてくる。

 

「やめろ。」

 

それでも、靄の侵食は止まらない。

 

ナインズの姿を核にした靄は形作り、黒い人型のようになる。

 

 

「やめろ!!」

 

 

次々と取り込まれていくその光景が、まるで記憶を奪われているように感じた。

 

これが私の中に唯一残る、ナインズがいた証なのに。

 

そう思ってしまったことで、感情がついに爆発する。

 

 

「やめろッッッ!!!」

 

「私の記憶に……ッ!!勝手に入ってくるなっ!!!」

 

 

武器を構え、すぐにでもこの場に居るべきでない異物を排除しようと刃を突き刺す。

 

ドスッ。

 

その勢いで黒い人型は倒れる。

 

私もその勢いでソイツに馬乗りになって、また刃を抜いて突き刺す。

 

ドスッ

 

そして何度も、何度も何度も突き刺した。

 

ドスッ

 

ドスッ

 

それほどまでにコイツが憎たらしい。

 

「これはっ!!この記憶は……ッ!!全部っ!!……全部、全部!!」

 

「私だけのものなんだッ!!触るなぁァっ!!!」

 

 

爆発した感情が、考えるよりも先に言葉を出させる。何を言っているのか自分でも良くわからない。

 

何度も何度も何度も突き刺す。とにかく突き刺し続ける。

 

コイツが記憶に触れてきたという事実が私に尋常じゃない不快感を感じさせる。

 

その不快感からとにかくコイツをこの場から排除しようと必死に突き刺し続ける。

 

とにかくコイツのやった事が気に入らない。

 

いやそれ以前にコイツがここに居ることが堪らなく許せない。

 

だってこの場所は私とナインズだけの場所なんだ。他の誰かが居ていい場所じゃない。

 

それなのに。それなのに。

 

私だけの記憶なのにコイツは勝手に触れたんだ。

 

私だけの物なのに。

 

私だけが持っている物なのに。

 

私だけのナインズなのに。

 

私だけの。私のだけのモノなのに。

 

 

「私の…記憶を…ッ…!!」

 

 

ドスッ

 

何度も刃を突き刺す。感情に任せて。

 

ドスッ

 

何度も。何度も。何度も。

 

ドスッ

 

 

ドスッ

 

 

ドスッ

 

 

 

ドスッ

 

 

 

 

 

 

 

ザクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、手応えが、よく知っているあの感覚になった気がした。

 

 

 

ザクッ

 

 

いつの間にか、あの黒い靄は消え、ナインズに戻っていた。

 

 

 

ザクッ

 

 

 

私は何度も、何度もナインズに刃を突き刺す。

 

いや、何をしてるんだ。すぐにでもやめないと。

 

 

 

ザクッ

 

 

 

ザクッ

 

 

 

だが、そう思っても私の体はナインズを刺し続ける。

 

 

 

ザクッ

 

 

 

ザクッ

 

 

 

ザクッ

 

 

びちゃびちゃと真っ赤な血が飛び散っているあのよく見知った光景が私の目に映る。

 

 

 

 

ザクッ

 

 

 

やめろ

 

やめろ。

 

もう終わった。やめるんだ。

 

 

ザクッ

 

 

ザクッ

 

 

ザクッ

 

 

やめろ。なんで、何でまた私はナインズを殺そうとしてるんだ。

 

 

 

ザクッ

 

 

ザクッ

 

 

もうやめろ。もうナインズを殺す必要はないから。やめろ。やめて。

 

 

 

ザクッ

 

 

やめて。もうやめて。やめてよ。

 

 

ザクッ

 

 

嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

 

ザクッ

 

 

こんなの嫌。もう嫌。嫌なのに。

 

 

ザクッ

 

 

なんで、なんで止まらないの。

 

 

ザクッ

 

 

止まって。もう止まってよ。

 

 

なんで私はナインズを殺しているの。

 

 

殺したくない。

 

 

 

もう殺したくない。

 

 

 

殺したくないのに。

 

 

 

 

なのに。

 

 

なのに。

 

 

 

 

 

 

 

なんで。

 

 

 

 

なんで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで、ずっと_____________

 

 

 

 

「あああああああああああああああ!!!」

 

 

ギンッっ

 

私の叫び声と、ガラスを貫いたような音が辺りに響く。

 

「ハァ………ッ………ハァ……ッ…………」

 

気がつけば、視界はユニットの屋上にもどっていた。

 

私の振るい続けていた刀は、コアの深くまで突き刺さり、コアを破壊していた。

 

〘アクセスキーを取得。〙

 

コアを破壊した事で、目標が達成された。

 

けど、そんな事を気にしているような余裕は無かった。

 

あの手に残る感覚が疎ましくて、コアに刺さっている刀を抜かずに柄から手を離してしまう。

 

それでも…まだあの感覚が手に残っている。ナインズの体を刺した時の、あの鈍くて不快な感覚。

 

いつも私を苦しめてきたあの感覚が。

 

もう、この感覚は二度と感じなくていいんだと心の何処かでそう思っていたのに。

 

どうして……。どうして…?

 

何で…私はまた……ナインズを_______

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフッ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと突然、私の口から笑い声が漏れはじめた。

 

 

「フフフフ…ハハハ……」

 

「アハハ…」

 

 

一度漏れ始めると、そこに続いて次々と笑い声が出てくる。

 

なにが可笑しいんだろう。またナインズを殺したのに。

 

「アッハハハハ……!!」

 

それでも、それでも笑い声が収まらない。

 

訳がわからない。何故か今、私は嬉しくてたまらない。

 

どうして

 

どうしてなの。ナインズを殺したのに、なのに、心が満たされていく。

 

あのよく知った感覚に、嬉しさが、満足感が、悲しみと同じくらいに、いやそれ以上に私の中から溢れてきている。

 

おかしい。こんなのおかしい。おかしいのに。満たされていく心が嬉しくて、心地よくて、抑えることができない。

 

 

 

「アハハハハ…アッハハハハハハ!!」

 

 

 

訳も分からず、ただただ喜びに任せて笑い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして笑い続けている内に、ふと気付いた。

 

あの日私の中で壊れた何かが、再び形を取り戻そうとしている事に。

 

 

 


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