【完結】ハンターハンター世界で転生者が探偵()をする話   作:虫野律

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※14話~22話まで連続投稿です。


機械仕掛けのティンカー・ベル [玖]

 メリッサのオーラはほとんど残っていない。銀色の粉を使う個体の発が死後に強まった結果、体外のオーラのみならず、内に存在する、所謂潜在オーラをも削り出したからだ。

 

 持ってあと3分強といったところでしょうか。

 

 しかしそれほど問題はない。

 メリッサの飛行速度は、オーラ未使用状態の最速で時速960キロほど。つまり、スタート地点であるビルから1のビルまでの約33キロ、往復66キロを加減速等を考慮しても5分以内に行き来できるのだ。ただ、これでは間に合わない。

 だからメリッサはそれを実行した。

 

──練。

 

 削られていたはずのメリッサのオーラが再び力強さを取り戻す。

 

 上手くいってくれましたね。これで本にオーラを纏わせられます。

 

 現在の飛行条件上、遷音速(せんおんそく)と呼ばれるメリッサの最高速は、当然凄まじい空気抵抗に晒される。そんな中で文庫本程度が無事なはずがない。オーラによる防御がなければ真に届けることは不可能であろう。

 それに、のんびりしていられる状況でもない。

 

 故に、メリッサは覚悟を持って自らの存在を、未来を全て捧げた。則ち、バックアップの全消去及び5分後の自らの完全な、そして永遠の活動停止を制約と誓約として設定したのだ。

 欲したのは真を助けるために必要十分なオーラの復活。精神世界に来る前に作成した制約と誓約──「真のため以外での発の使用禁止」──とも矛盾しない新たな誓いは、相乗的な効果を生み、メリッサに想定以上の力を与えた。

 

 結果、メリッサは超音速飛行の実用化に成功する。

 

 ソニックブームをも完全に制御し、瞬く間に目的地に到着。滑らかに減速し、本を両手で抱えるように拾い上げ、即、最高速へ。

 

 これは命を極限まで圧縮して得られた最期の耀き。

 しかし後悔はない。早く、確実にミッションを完遂するためには必要なことだ。

 

「……」

 

 嬉しかった。真と出逢ってメリッサはたくさんの感情、その本当の意味を知った。嬉しいという感情自体、出逢わなければずっと分からないままだったかもしれない。

 それに──……。

 

 真の姿を視認した。4匹のパプに追われている。

 

 私が存在していられるのは、あと20秒もありませんね。

 

 その間に殲滅すればいい。今のメリッサならば不可能ではない。

 文字通り命を燃やし、さらなる加速。閃光となり──。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 突然、轟音がしたかと思ったら、俺を追いかけ回していたパプが()ぜた。2匹、3匹、そして4匹とあっという間に全て爆散してしまった。

 

「……」

 

 あまりの非現実的な出来事に言葉が出ない。

 

「お待たせしました」爆心地から一息で近くまで来たメリッサが本を差し出す。「どうぞ」

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

 なんとか礼を言った俺に、メリッサが口にしたのは感謝の言葉だった。

 

「こちらこそありがとうございました(・・・)

 

「……」

 

「──さようなら」

 

 メリッサが言い終わった次の瞬間、首が、翼が、腕が、機械でできた身体全てが分解され、砂に落ちる。小さな部品たちはもう何も言わない。

 

「メリッサ……」

 

 しかしここで感傷に浸って立ち止まるわけにはいかない。

 

──周、同時に隠。

 

 仮想現実管制室へ向かいながら、本に()密性の高いオーラを込める。

 

 この本は俺が元いた世界で有名なミステリー小説だ。出版された当時は「アンフェアだ」との批判を多く受けていたようだが、本格ミステリーに見られるパズラー的要素と叙述トリックの両立、純文学のような美しい文章、そして人間の本質に迫る描写が魅力的な作品だ。

 そう、この本のメイントリックは叙述トリック、つまり「実は語り部である主人公が犯人でした」というオチなのだ。

 ビルにある本を不思議アイテムとして使った場合は、その本の内容が反映された現象が起こるという点──先程逃げている時に残りの3冊でも検証した──を(かんが)みると、この叙述トリックの名作ならば俺の意図した効果が得られる……と思う。分からないことが多すぎるから断言はできない。けど、もうこれに賭けるしかない。

 

 ビルに駆けこm──。「!」急停止。

 

 1階の受付カウンターに1匹のパプがいる。待ち伏せだろうか。こういうことをする個体もいるんだな。

 

「……」

 

 ビルに入ってから落ち着いて念じようと考えていたが、そうもいかないようだ。もうここでやってしまおう。

 

 念じるは「この精神世界に現に存在し、及び当該文庫本の効果の発動後に存在するに至った全てのパプを幻術世界に閉じ込めること」だ!

 

 叙述トリックは作品全体又は一部分に(かか)騙し(ミスリード)──嘘のテクニックだ。それは言い換えると、ありもしない幻影を真実だと思い込ませるということ。つまり幻術系の効果が期待できる。

 

 だから俺は、俺の世界に存在する全てに嘘をつく!

 

 もう時間も手段もない。隠もいらない。好きなだけ持ってけ!

 

──練!!!

 

 恨み辛みとか色々雑念はあるけど、今だけはただオーラを練り上げることだけに集中する。俺の潜在オーラが恐ろしい速さで顕在オーラに変換され、直ちに本に吸い込まれていく。

 まるで空間を喰い荒らすように獰猛な烈風が砂を巻き上げる。

 

 そして──そして世界が光で満たされた。

 

「──くっ!」

 

 目が開けられない。どうなった。パプは……? 本は……。

 

 数秒か、数十秒か、定かではない時が流れ、次第に光が収まっていく。

 ゆっくりと目を開ける。

 

「!」

 

 目の前にパプが横たわっている。しかし動き出す気配はない。

 

 成功したのか……?

 

 いや、まずは足を動かさないと。もう本当にオーラが残っていない。具現化を維持できるうちになんとかしないといけない。

 今度こそビルに駆け込む。急ぎエレベーターに乗り込み、26階のボタンを押す。

 

「頼むぞ」

 

 もう1人の俺が制約と誓約をクリアできなければ詰みだ。ここまで来てそれはあってほしくない。

 俺以外誰も使わないエレベーターは、すぐに最上階へと到着する。

 

 扉がいつもよりも緩慢にスライドする。そう感じるだけだ。分かっている。

 

「……く、そ」

 

 意識が朦朧(もうろう)としてきた。それでも無理矢理進む。足が(もつ)れ、転ぶ。

 

「──っ」

 

 早く立てよ!

 

 思うように動かない身体に怒りが湧く。しかし動作は機敏とは言い難いものにしかならない。

 

「!」

 

 左手の指先が煙になり始めた。もう具現化が解けかかっているんだ。

 

「──なら……!」

 

 できるかなんて知らない。だが、強く、願う、敢えて左腕のみの具現化解除を!

 イメージだ。明確にイメージしろ。大丈夫、俺は念の天才なんだ。できないはずがない!

 

 果たして、左肩から下が消滅する。左腕を形成していたオーラが霧散しそうになるが、すぐに回収。あくまで俺のオーラだ。そこに存在していればコントロールは容易い!

 

「──sぃ!」

 

 これで若干の猶予を作れた。

 

 例のノートパソコンを起動し、前回同様「現在の様子(TPS視点Ⅰ)」をクリック。

 

 マジで頼むぞ……。

 

 そして、奥の壁に備え付けられた大画面が映し出したのは、飛行船(?)の座席らしきものに座って小説を読む主人格の姿だった。

 

 やはりまだ真実に辿り着いてはいない。

 

 だがこれは予想済みだ。なぜなら『嘘つきは探偵の始まり(ライアーハンター)』が何の反応も示さないからだ。

 発動条件が満たされたならば、何らかのオーラの動きがあるはず。俺がそれに気づかないわけがない。

 

 だから当然、対策も考えてある。というか、デスクトップにそのものがある。

「時間操作」のアイコンへマウスポインタを合わせ、選択する。するとパソコンの画面に「巻き戻し」「一時停止」「早送り」のアイコンが出現。

 

 瞼を下す。呼吸。開ける。

 

 意を決してクリック。

 大画面の映像が目まぐるしく動き出す。 

 押し続けている間は時間が早く進行するようだ。どんどん時間を進める。

 

「……」

 

 内心、神に祈り、ではなく罵声を浴びせながらじっと画面を見つめる。

 

 そして10秒にも満たない永遠の後、映像の流れる大画面の左側に、世界の真実を思い出した趣旨の、主人格の思考を伝える短文が表示された。

 しかし俺の念に動きはない。なぜだ、と思ってすぐに気づく。よく見ると主人格は絶状態なのだ。

 

 それなら、と「念能力管理」アイコンを選択する。すると主人格の念に関する情報が表示される。絶状態は制約と誓約らしい。

 だが問題はない。「制約と誓約の変更」の項目が表示されているからだ。クリック。制約と誓約の一覧が出てきた。それぞれの制約と誓約の横に有効無効を決めるチェックボックスがある。その中から多分これだろうというやつを選び、無効化する。

 

 そうして、ついにその時は訪れた。

 

──『──』の発動条件を満たしまた。『──』の発動条件を満たしました。

 

 脳内に響き渡る無機質な声。

 

 震える手でマウスを操作し「通話(電話)」のアイコンをクリックする。

 

 主人格の、おそらくは携帯電話が鳴り始めた。

 

──prrrrrrrrrprrrrrrrrr……。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 携帯が鳴りだした。俺とよく似た、けれど俺よりも純粋なオーラが携帯から溢れ出ている。

 

 来たか……!

 

 ジンに一言断る。「悪い。どうしても出ないといけないんだ」

 

 ジンからすれば何が何だか分からないだろう。しかしそれでも首を横に振りはしなかった。

 

「構わねぇよ。早く出てやれ」

 

「すまん」

 

 謝罪なんだか感謝なんだか判然としないことを言ってから通話ボタンを押す。

 

 そしてすぐに言う。「俺だな?」

 

 電話を取って初めに言うセリフではないが、今はこれが正解のはず。

 ほとんど間を置かずに返ってきたのは想像通りの言葉。

 

「そうだ」俺の声だ。「よく真実(答え)に思い至ってくれた」少しかすれている。「ありがとう」

 

「あ、ああ。どういたしまして?」

 

 自分に言われてもな。そもそもこれは俺自身のための行為だし、恩恵を受けるのも俺だ。非常にややこしいというか、変な感じ。

 

 向こうの俺が続ける。「早速で悪いが時間がない。すぐに発動できるよな?」

 

 そう来ると思っていたよ。大丈夫。ちゃんと発は設定済みだ。

 

「勿論だ。少しは自分を信じたらどうだ?」

 

 一瞬の無音。

 

「はは、それもそうだな」

 

「ああ、そうだよ」こちらからも確認がある。「発の内容は2つとも把握しているか?」

 

「勿論だ。少しは自分を信じたらどうだ?」

 

 こ、こいつ……。つーか俺だった。あーもう、調子狂うな!

 

「大丈夫だ。事が終われば俺たちは統合される。こんなことはこれっきりだよ」

 

 おー、思考も読めるみたいだ。そういうもんか。なんかモヤっとするが、自分だし、気にすることではないな。

 

「じゃあ、いっちょやりますか」

 

「だな」もう1人の俺が即答し、さらに付け加える。「タイミングはこっちで合わせるからいつでもいいぞ」

 

「了解」

 

 再度ジンに断りを入れる。

 

「これからちょっとだけ妙なことをやるが、悪いことは起きないから心配しないでくれ」

 

「……わけが分からねぇが、まぁいいよ。嘘を吐いてるようには見えねぇし、協力する約束だしな」

 

「ありがとう」

 

 ジンは好きではないが、今度はしっかりと言えた。

 

 うん。そんじゃ、集中してっと。

 

 すぅ、と瞳を閉じ、気持ちを切り替える。すると瞬時にオーラが静謐(せいひつ)さを帯びる。

 

 肉体の中心にして、精神の最奥にあるオーラの火を大きく、激しく、熱く。

 

 俺の意思に──意志に呼応して爆発的に膨張していく。やがてそれは精孔(しょうこう)から噴出し、大地を抉り、(くう)を裂く。次元が歪んでいくかのような錯覚。

 

「……」

 

 行こうか。

 

 全てのカードは揃った。あとは蹂躙するだけだ。

 

 そして俺は──世界に嘘をつく。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

──『嘘は真実(リバース)偽りの友情(スタンド バイ ライ)』。

 

 エヴァンが最初に発動したのは、選択した対象とオーラ及びメモリを共有する能力。

 まずは、この能力で精神世界にいるもう一人のエヴァンである加貫偽(かつらぎ) (しん)、現実世界の全てのパプ及びパプを支配する世界樹と念を共有する。

 これは次に行う、人の身にはあまりにもすぎた所業の下準備だ。

 

「おいおい……」エヴァンの奇跡を間近で見ることになってしまったジンが呆然と呟く。

 

 今のエヴァンは、神の領域に片足どころか首まで浸かっている。さしものジンもこれほどのオーラを感じたことはない。だが、嫉妬などという矮小な思いは決して抱かない。

 ジンの内に芽生えたのは、まだ少年だったころに感じた未知への憧憬──原始の熱。それはやがて身を焼き尽くしてしまうかもしれない。しかしそんなことジンにとってはどうでもいいことだ。

 ただ、ただ純粋に未知を求めている。それが全てだ。それで充分だ。

 

 ジンが見つめる中、エヴァンは次の発、則ちこの夢を終わらす特大の嘘を──楽しげに──ついた。

 

──『嘘は真実(リバース)嘘つきたちのネバーランド(パラドキシカル ワールド)』。

 

 エヴァンのついた嘘が、偽りの世界(フィクション)が、仮想現実が真実の世界へと変貌していく──どこまでも都合のいい夢でしかなかった世界が終わり、残酷で苦しい、けれど少しだけ幸せな、そんな世界へと。

 

 この発は真の持つ『嘘つきは探偵の始まり(ライアー ハンター)』の完全上位互換。世界樹とパプ、そしてもう1人の自分との相互協力によって成立する超大規模特質系能力だ。その力は人の想像──創造できる次元を優に超えている。

 しかし『嘘は真実(リバース)偽りの友情(スタンド バイ ライ)』により規格外のオーラを手にした今のエヴァンならばそれができてしまう。

 

 こうして嘘つきは世界を創造した。

  

 まだ雪が降る、冷たく美しい季節の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 世界のある場所では、父と共に会社をより発展させようと努力する痩せぎすの女性が。

 

 世界のある場所では、海を愛し、空に憧れた男が。

 

 世界のある場所では、スクープを追いかける男たちに駆け寄る少女が。

 

 世界のある場所では、互いのために料理を作る、姉妹のような2人が。

 

 世界のある場所では、買い物に出かけた、恋に浮かれる少女たちが。

 

 世界のある場所では、香水の瓶を割ってしまった娘を叱る夫婦が。

 

 世界のある場所では、人になりたいと願う、1人の──が。

 

 そして、遠い世界のある場所では、ミステリー好きの青年が。

 

 そんな、誰かが夢見た世界。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 一世一代の大嘘を吐いてからもう少しでふた月が経つ。

 あれからも俺は相変わらずだ。ミステリー小説を読みつつ面白い依頼を待ち焦がれる日々。残念ながらここ2ヵ月は愉快な事件はなかったが、まぁ悪くはないと思う。

 

 そんな感じで過ごしていたらミザイに呼び出された。

 で、今はカフェに来ている。今日は春らしくぽかぽか陽気だ。 

 

 ガヤガヤと中途半端に混雑しているカフェのテラス席で、アイスティを口に運ぶ。

 冷たくて美味いが、週末には来たくないな。平日でここまで混んでるとなるとな。

 しかし、俺の向かいに座る男──ミザイストムにそれを気にした様子はない。

 

「いい加減ハンターライセンスを取ったらどうだ? 便利だぞ?」

 

 ミザイがコーヒー(?)片手に言う。ブラックコーヒーを頼んでミルクをたっぷり入れるスタイルは理解に苦しむ。

 

「うーん、俺って身体能力は低いぜ? ハンター試験はちょいキツいんだよ」

 

 特質系だしな。ハンターハンター世界で探偵をやるための最低限の嗜み(・・)はあるが、それだけだ。原作の戦闘要員には大体負ける、発を使わなければ。

 

 ミザイが疑わしそうに俺を見る。なんだよ。男に見つめられても嬉しくないぞ。

 

「お前がそう言うなら俺は無理強いできないが……」

 

 尻すぼみになる。

 

「お前を派閥に引き込みたい人間が──」

 

「ちょちょちょーっと待て。マジなの? だって俺、アマチュアハンターですらないただの探偵だぜ?」

 

 おい「何言ってんだ、こいつ」って顔やめろ。

 

「その言い訳は無理があるぞ」

 

「……」

 

 現実逃避は許さない系プロハンターの牛である。

 

「一部の幹部がお前の能力に利用価値を見出だしている」

 

 当然のように能力バレ笑。泣きてぇ。

 

「どうせ目をつけられているなら、自分から歩み寄って、なるべく有利な立ち位置を勝ち取った方がいいのではないか」

 

「それはそうだが……」

 

 実に弁護士らしい思考だ。

 ただ、なんとなくハンターという地位に収まりたくないんだよなぁ。せめて肩書きだけは純粋な探偵でありたい。やってることが本格ミステリーの要素皆無な分、形式くらいはって感じ。

 くだらない拘りだけど、人生にはそういうのも必要だと思う。合理的なだけなんてつまらない。

 

「で、その引き込みたいとかいう変わり者は誰なんだ?」

 

「一番厄介なのはパリストン・ヒルだろう」

 

「うわぁ」

 

 ドン引きである。

 というか……。

 

「ミザイは親会長派だろ。俺が敵になってもいいのか?」

 

「良くはないが、俺の都合とお前の利益を切り離して考えた結果だ」

 

「……そりゃあどうも」

 

 人間できてんなぁ。俺とは違うわ。だが。

 

「すまん。それでもハンターはちょっとな」

 

「そうか」

 

 微妙にしょんぼりして追加でミルク入れやがった。もはやコーヒーではない。

 

「……ところで」話は終わったと油断していたら不意にミザイが切り出してきた。どことなく言いづらそうだ。

 

「どうした?」

 

「その、なんだ。あまりこういうことに口を出したくはないが……」どことなくっつーか、めちゃくちゃ言い淀んでる。「お前、色んな女に手を出してるだろ。気をつけないといつか痛い目を見るぞ」

 

「……え」

 

 身に覚えがないです。何を言ってるんだ。

 

「なぜ俺相手に惚ける。俺も男だから気持ちが……やっぱり分からないが」

 

 分からないんかい!

 

「プロハンターはまだしも、未成年まで連れ込んでいるという噂を聞いた。しかも最近では新しい女が事務所に出入りしているみたいじゃないか」

 

「誤解だ」とんでもない勘違いである。「俺はやってない」

 

 ミザイが優しい目になる。気持ち悪いな。やめろよ。

 

「安心しろ。俺はお前の味方だ。適正価格で弁護を引き受けてやる」ミザイが甘そうなコーヒー(?)を飲みながら甘くないことを言いやがった。

 

「……そこは割引価格じゃないのか?」

 

「当たり前だ。他の依頼人に対して不公平になるわけにはいかない。それにお前、結構稼いでるだろ?」

 

「誤解だ」もしかしてミザイって結構バカ?

 

「分かった分かった」ミザイが聞き分けのない子どもにするように言った。「そういうことにしておいてやる」

 

「すごく納得いかないんだけど」

 

 しかしミザイは「追加でミルク10個お願いします」と店員さんに話しかけていて、俺の不満は聞いちゃいない。

 

 友だちは選んだ方がいいって話、本当だったんだなぁ。

 アイスティがしょっぱいぜ。 

 

 

 

 

 

 

 事務所に戻った俺を10代にも20代にも見えるインテリ系美女が出迎えた。

 

「おかえりなさい」

 

「あ、ああ。ただいま」

 

「どうしていつもより離れているんですか?」

 

「……気のせいじゃないか?」

 

「いいえ。『ただいま』と発言した時の私との距離が、平均値より3.2センチ遠いです」

 

「……そ、そうか」ジリジリと後退する。

 

「はい」

 

 小さな妖精だったころは可愛げがあったのになぁ。世の中分からんわ。

 入り口をチラ見。

 

「それで、どうして逃げようとしているのですか?」

 

「新たな事件の気配がな」

 

「嘘ですね」

 

 ぐ、ぐぅ。プライドを粉砕するのはやめい。

 

「う、嘘じゃねぇし」

 

「──」

 

「──。──?」

 

「──」

 

 ……あの日とは違うメリッサを見ていると、こんな世界があってもいいよなって少しだけ自己弁護できる。

 すました顔のメリッサを見つめる。

 

「……」 

 

 メリッサは確かにここにいる。それは俺が「メリッサに生きてほしい、メリッサの願いを叶えてほしい」と願ったからだ。

 だから不満はない。世界に不満はないんだ。

 

「どうしたんですか?」

 

「今日も可愛いなって思っただけだよ」

 

「!??!?」

 

 ただ、少し気になることがある。

 

 あの時、聞いた無機質な声は一体……。

 

 そしてこのことを考え出すと、俺はいつも1つの妄想に行き着く。

 

 もしかしてこの世界は──なのか? ってね。

 

  

 

 

  

 

 

 (了)

 




これにて本作は完結とさせていただきます。
未熟な作品にもかかわらず、付き合ってくださり本当にありがとうございました!



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