その日もひとりぼっちの日々を謳歌していたが、五河士道に話しかけられたことにより、全ては覆っていって──
前作https://syosetu.org/?mode=ss_detail&nid=84399のアンケートで1番票数が多かった完全リメイク(ほぼ別物)に挑戦しました。
前作のリメイクと銘打ってますが、読む必要はありませんし、内容を知らなくても問題なく読めます。むしろ知らないほうが読みやすそうですらあります。
ただ、勢いで投稿したので変なところあったらすみません。そのうち直します。
4月1日の午前を過ぎたら投稿できないと思いました。それだけです。続きは多分ないです。
人っ子一人いない、閑散とした場所。まるで世界から切り離されたような歪さを感じられる世界の中で、それは歩いていた。
異質なのは、幻想的に輝く赤い袴と狐の面だろう。身にまとう装束も
それはふらつきながら歩き、地を蹴る。
意思もないように、ただ機械的に、辺りに無差別な攻撃手段を繰り返す。まるでそれが義務だというかのように、誰かに見つけてもらいたいというかのように。
空に浮き、左手を天に掲げて、それを振り下ろす。
「──■■■■」
抑揚のない、機械じみた声で告げた瞬間、地上に光の雨が吹き荒れた。
♢
夢心地。
暖かく、安心する空間。まるで胎内のようだと、微睡みながら考える。目を開けたくはなかった。眠っていれば、何事もなく、平和に終わるからというのが主な理由だった。
しかし、引っ張られるような感覚がして──
少女は目を醒ます。
うつらうつらとしたまま、目覚まし時計へと目を向ける。特に焦るような時間でもなかったようで、少女は緩慢な動きでベッドから降りてリビングへと向かった。
『……昨夜……にて空間震が確認されました』
制服に着替え、髪を整えてから食パンをかじる。テレビでは速報で
空間震。
三十年前にユーラシア大陸を更地へと変えた自然災害。
発生原因は不明だが、何十、何万キロにも及ぶ範囲に地面にくり抜かれたような穴が出来た現象は、何億もの人の犠牲を伴い、人類史に大きな傷跡を残した。
少女の学校の授業でも幾度となく教えられてきたことだった。
三十年前以降、あれ程大規模な空間震が起きることはなかったが、不定期に空間震が起きるようになった。
それは日本も同様で、特に最近は
ただ、ニュースの場所は少女の家近くだったということに、一抹の不安を覚えていた。しかし、それこそシェルターに入れば大丈夫なのだと気を落ち着ける。
『行ってきます』
少女の声に呼応するように、行ってらっしゃいと告げる朗らかな女の声が聴こえた。そのことに少し頬を緩めて、家を出た。
そして少女は歩く。見慣れた町並み、見慣れた人。全てを知覚することもなく、少女の通う高校へと辿り着く。
少女にとって、家が近いからという理由で選んだ高校。貼りだされたクラス表の一つに自身の名前があることを確認し、少女はその教室へと向かう。
騒がしい生徒が扉の前でたむろっている。居心地の悪さを感じながら、その隙間を抜けて教室内へと入っていく。
ふと、頭に何か衝撃を感じた。何だろうと周囲を見渡すと、消しゴムが落ちていた。どうやら誰かが投げたものが飛んできたらしい。少し目を細め、教卓の上へと置いた。これで持ち主も取りにきてくれるだろう。
少女は周囲を見渡す。前回もクラスに馴染めず、仲が良いと呼べる人物なんて作れなかった。
なら今年はどうなるのだろうか……そう思い、今度は黒板に貼られている座席表を見る。少女の知っている名前はない、そのはずだった。
「……」
胸が跳ねるようだった。しかし、その理由までは分からない。少女はあたりをしきりに見渡す。そして、とある人物のところで目が留まる。
青みがかった髪、少し目つきの悪い──知らない少年。
他の生徒は談笑に夢中で気がつかない。そんな中、青髪の少年だけは、少女を捉えているようで、どうも気が重かった。
視線に気がついたのか、少年が少女の方へと顔を向ける。少女は慌てた様子で顔をそらしたが、少年は近づいてくる。
近づかないで欲しい。関わらないで欲しい。そう心で願うも、本人には届かない。
「君は……」
少年は怪訝そうに少女を見る。
「……俺は五河士道だ。なあ、君の名前を教えてくれないか?」
「……」
少女は唇を噛む。嫌に脈打つ鼓動がうるさかった。なぜ、この少年が自身へと話しかけているのか分からなかった。
少女の瞳は目の前の少年を捉えた。同様に、少年も真っ直ぐに……しかしそらすことなく少女を見る。逃げ場はなかった。
「……ァ」
返事をしようとしたとき、途端起こる脱力感に耐えきれずに少女はふらついた。
「……?」
見上げると、心配そうな表情を浮かべている少年の姿があった。倒れそうになったから、きっと不安に思ったのだろう。少女は先程よりもやや緊張が解けた様子で、しかし、しきりに視線を宙へと這わせながら、うつむく。
初めて会った人とは、挨拶をしなければならない。確か、そのはずだった。だから、少女は挨拶をしようと意気込み、口を開いた。そして自分はちゃんと自己紹介を出来たのだろうかと不安に思い、少年の顔を見た。何も問題なさそうだった。だから少女は、そのことにほっとした。
少女にとっては、初めて興味を抱いた人物。
そんな存在が現れたことに、安堵半分、警戒半分。
少女は緊張した面持ちで、机にうつ伏せる。
最近は何もなかった。誰とも接触を取らず、ただ日々を謳歌していただけ。そんな日常だって、望んでいたもののはずだった。でも、今日からは何かが変わるのかもしれない。変わってしまうのかもしれない。
担任の先生の淡々としたホームルームを横目に、少女は士道を見つめる。
帰りのホームルームが終わった。見知らぬ男子生徒と言葉を交わす士道を眺めていたら、不快な音が響いた。
空間震の前震を伝えるアラームが、窓ガラスを震わせるほどけたたましく鳴り響いたのだ。
空間震は最近は少なくなっていると思っていたが、それでもなくなったわけではない。少女の胸に不安が押し寄せる。しかし、シェルターに入れば問題ない。そう、シェルターにこもった後だって、問題はなにもなかった。
少女にとって、何も起こることなく、その日は終わった。
空間震があった次の日も、その次の日だって学校は予定通り実施される。空間震は異常な事態でありながらも、今に始まったことではなく、恒常的ともいえる存在といえるからだろう。
街だって、あっという間に元通り。まるで魔法でも使われたかのような技術には目を見張るものがある。まだ完全に修復されていない場所もあるが、凄惨さは薄れている。空間震は恐ろしいものではない──と、思いこむには、
係、委員会を決め、普通に授業が開始する。初回授業は大抵、担当の教師の自己紹介とこれからの授業日程を紹介することで時間が潰れるのでわりかし楽。
授業時間外では、クラスの生徒らが談笑をしている。
クラス内でグループが形成されるのは早かった。少女はというと……そんなグループからは離れた位置に存在していた。爪弾きにされている訳ではない。ただ、本当に──存在していないような対応を受けているだけだった。存在感がない、空気のような存在。それは大変好ましい。誰にも構われることなく、ただ平穏に日々が過ぎてほしい。
そう、願っていた。
「よ、よお。また会ったな」
驚いたような顔をしている士道に、少女もまた驚いた。
少女は普通に家へと帰るはずだった。そしてついでに神社によって神頼みでもするつもりだった。
だというのに、こうして士道と出会っている。
どうやらぼんやりとしていたらしいと、少女は慌てて頭を下げて、士道を見る。
「俺は五河士道だ……って前に名前は言ったよな。もしかしたら忘れてるかもしれないけど」
士道の告げた通り、前回にそれらしい挨拶はした記憶は少女にもあった。士道の名前だって、ちゃんと憶えている。
「もし時間あるなら、俺の話に付き合ってくれないか?」
これはつまり、どういうことなのだろう。
少女は困惑した。なぜ、士道は語り始めようとしているのか皆目検討もつかなかったのだ。これは巷で噂のナンパというやつなのではないか、と、少しそんなことだって考えてしまった。
「今暇だから、少し話し相手が欲しかったんだ」
そうなのだろうか。少し緊張しているように見える士道に、少女も緊張してしまった。
なぜ自分と話そうとするのか、少女には分からなかった。
「そうだな、まずは──」
目新しさもユーモアもない話。士道の話をただ聞いているだけの時間。それが……少女にとっては、心地が良かった。
やはりいつもと変わらぬ町並み、永遠に続く日常。そんな中現れたイレギュラー。
「おはよう」
始めは、自分ではない誰かに話しかけたのだろうと思っていた。しかし、顔を上げてみれば自分を見ている。その声は自分に向けられたものだったことに気がつき、少女は慌てて口を開く。
士道は、なんともないような反応をして、仲の良い男友達の方へと向かう。それを見て、やっと安心して机に突っ伏す。
そして授業が始まる。一時間、六科目の授業。退屈な授業も、興味がある科目も同様に時間が過ぎていく。そして教師が必要事項を告げて、帰りのホームルームが終わる。そうすると、男子生徒と駄弁っていた士道が少女のもとへと近づいた。
「また会おう」
あまり男子どころか女子ともあまり接する機会のなかった少女にとって、それは天変地異というにも等しい行為だった。
また、明日。ただ明日を保障してくれる存在がいるだけで、妙な違和感に囚われた。
だからなのだろうか。
少女は、士道を見るとどうにもいつもと違った感情を覚えた。
今まで通り平穏そのもので、少女を傷つけようとする気配は全く感じられなかった。それは士道も同様であるのに、どうしてか違いを感じる。無関心こそが喜ぶべきものではあるのに、士道のそれはなぜか心に響くものがあった。
でも、彼は自分に話しかけてくるのだろうと、そう考えずにはいられなかった。口には出せなかった。声を出してしまった瞬間、全てが無に帰してしまうのではないかと不安に思えてしまったから、というのが大半の理由だろう。だから少女はただ、士道をじっと見つめた。
士道、五河士道。青髪の少年で妹がいる。両親は海外出張をしていて、今は妹と二人で暮らしている。中学は少女と同じで年も少女と同じ。中学の半ばには、思春期にありがちな病気を患っていた。帰宅部で、特技は料理、趣味も料理。知り合いが多い。
接点を探ろうとしたが、何も掠ってすらいなかった。
「どうかしたか?」
こんなにも接点がないのに、何で話しかけてくるのだろう。それが少女にとって、不思議でしかなかった。
そもそも話してもいないのに、こうも喋り続けられる士道には畏敬の念しか湧かない。
ただ、少女は懸念した。
これ以上近付きたくはないし、仲良くなんてなりたくない。そのはずだ、そうだと言うのに、少女の胸には湧き上がるものがあった。
それはきっと、ある種の希望だったのだろう。
「──士道、呼び出した理由は分かってるわよね」
赤髪の少女──五河
「いや、全く分からん」
「そうでしょうね。」
琴里は感慨もなそうな表情で告げた。
「次の精霊の封印をあなたに頼みたいの」