俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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今回から執筆次第順次投下です。


一応信じてくれる母も母だな、と俺は思った。

 

 玄関が開く音がして、明が帰ってきたのだろうと最初は思ったが、何やら足音が多い。

 もしや、と思って出迎えてみると、なんと我らが母が帰宅しているではないか。

 

「おかえり」

 

「ただいま明一くん。明も帰ってきたわよ」

 

「ただいま。今日もママはいつも通りだったよ」

 

「ちょっと!」

 

「……何か勘違いして、変な事しでかしたのか?」

 

「ううん。噛んだり舌を噛んだり、極め付けには違法薬物所持の疑いをかけられて……それだけ。まあ、それはそれとして」

 

「ちょっとぉ……」

 

 と、まだ靴を脱ぎきれていないのに混沌が極まっているし、母自体も極まってる気がしないでもないが、まあいつも通りの母で安心した。

 俺たち二人をどっちも我が子として認識しているし、()()()()()()()()俺たちは双子になっていると言う事で良さそうだ。

 

「これ履歴書。でもその前にご飯かな?」

 

「そ、そうね。ねえ二人とも、今日は皆んなで食べましょ?」

 

「そうしよう」

 

「へ?」

 

「あ、ジュースとお茶も買ってきたのか。冷蔵庫に入れるか?」

 

「お茶だけ出して、ジュースは冷蔵庫。食事中にはジュース飲まないでしょ?」

 

「勿論。それと他の野菜なんかも入れておこう」

 

「あ、あれ? 明ちゃん? 明一くん?」

 

「どうした」

 

 一体どうしたのだろうと振り返ると、珍しい表情をしている母の顔があった。目が点になっていると言えばいいか。

 

「き、気のせいかしら? 何時もよりちょっと、いやすっごく仲が良くなってない?」

 

「そう言われても」 「そんな事言われても」

 

「ほら息ピッタシ! 一体どうしたの?! 今までお互い不干渉を突き通してたのに……」

 

「……不干渉?」

 

 顔を見合わせる。

 恐らく、母が語っているのは、この”俺たちと言う双子のいる世界の過去”である。確かに、この世界においては俺たちは生まれた時から双子であり、それからの経歴が現在にまで続いている筈なのだ。

 だが俺たちに覚えは無い。なにせ、昨日まで一人という世界で生きて来たから。

 

(とりあえず合わせよう) (合わせる他に無いな)

 

「切っ掛けがあってね。ついさっきまで色々話してて」

 

「それでまあ、色々話し合うようになった」

 

 同じことを言っている気がするが、まあそういう事にする。事実、仲良くなる切っ掛けがあって、語り合う事が多くなったのだし。

 母が思っているのと違うのが、その時が初対面だった、と言う点だろう。

 

「でも……十五年。ずっと仲が悪かったのに……」

 

 そこまで筋金入りだったのか。この双子の不仲は。

 俺には分からない。仲の悪い兄弟姉妹はよく聞くが、その様子を実際に見たことは創作上でしか無いし、昨日まで俺は一人っ子だ。

 一人っ子が兄弟姉妹を望み、兄弟姉妹が一人っ子を望む、という形もよく聞く。母が言うのは、そういう類の物なのだろうか。

 

「今は今だ。前の話をしても何もならない」

 

「でも気になる」

 

「この話は終わりで良いよね? ね?」

 

「えー」

 

 二人揃ってでの押しに、母は仕方なさそうに諦める。

 よし……。正直、今日より以前の話が出たら対応出来ないからな。こう言う話題は今のうちに……。

 

「……その実は?」

 

 まだ来るか! 諦めたように見せかけるフェイントに、俺は少しの時間だけ頭を働かせる。

 

「ゲームだ。よく付き合うゲーム内のフレンドが、実は明だったって言う話だ」

 

「ふーん……?」

 

 目を細めての視線が、俺を見定める。うんざり、と言う態度をして見せるが、あの眼差しは変わらない。

 

「仲が悪いからってゲーム内の連携が鈍るといけないからね。話し込んでたよ、性能の良いパソコンの事とか」

 

「……まあ、分かったわ。経緯がどうあれ、二人が仲良くなって嬉しい」

 

 明の援護射撃で、ようやく母の追及が止んだ。……助かった。

 ああいう、子供達の変化に目敏いのは、やはり母らしい所と評価できる所である。時々迷惑な時もあるのだが。

 

「それで、今晩はスーパーの弁当か」

 

「近所のスーパーで出てきた新作よ。気になっちゃってね」

 

 なるほど、興味深い。新しい物好きの母が三人分も買ってくるわけだ。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 腹拵えを終えた所で、俺たちは直ぐに紙へと向き合った。直ぐそこに母も居るから、ついでにアドバイスも受けながら書いていく。

 

 

「……顔写真か、コンビニで撮っておけば良かったかな」

 

「制服の格好じゃないと、印象悪いわよ。放課後にでも撮っておきなさい」

 

「なるほど」

 

 流石にこういった所でボケる事はなく、しっかりとした調子であれこれと指摘される。

 そのおかげもあって、20分ちょっとで書き終えてしまった。確かに悩む時間というのは時間を食うが、それを無くしただけでこの具合だ。二人だけでやっていたら、多分三倍には膨らんでいただろう。気分転換を称したサボりを含めるなら、もっと。

 

「後は練習ね。二人とも人見知りだから……学校の先生か友達に手伝ってもらいなさい!」

 

 トモ……ダチ……?

 はて、学校にはトモダチさんとか言う名前の人物はいないのだが。

 一年生も半ばだというのに、名前を覚えている人数は片手の指で数えられる程度に少ない。

 

「暇人でも捕まえるか?」

 

「この年頃の暇人は大抵遊び呆けてると思う」

 

「だよな」

 

 それじゃあ、と次に選択肢に入るのは先生方の誰かとなるが……まあ、悪くはない。

 考慮しておこう。

 

「それから、受かった後の話になるのだけど、学校の方に支障が出ないようにしなさい。バイト先との相談は必須ね。学生バイトを雇い慣れてる所なら、多分心配はなさそうだけど」

 

 ふむ。高校が近所のコンビニとかは心配なさそうだが、今回目星をつけている所はそうではない。留意しておこう。

 

 

「さて、大方終わったし」 「遊ぶか」

 

「……やっぱり仲が良すぎない?」

 

 母には悪いが、新しい俺たちに慣れてくれ。今更仲の悪い双子を演じるのも変なのだし。

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