俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

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文字の長点と言えばコレだな、と俺は思った。

 帰宅して、エアコンの効いた部屋で二人してぶっ倒れる。冷気が体に染みる。今までの精神的疲労が洗い流されるようで……もうこのまま寝たくなってきた。

 

「……流石に今から寝るのは無いな」

 

「汗も流さないと」

 

 そこまで綺麗好きじゃないし、汗を流したままベッドに倒れこむのにも抵抗を感じないが、一応の生活習慣として、やっておきたい。

 でも、今は休息の時。もうちょっと休みたい、あと五分寝る。……なんて言っていると、五分後もまた同じ事を言うのが俺なのだが。

 

 

「明」

 

「はい」 

 

「一日で二つも厄介事が舞い込んできたわけだが」

 

「割とごめんなさい」

 

「別に良いんだが。と言うか7回目」

 

「いや別件じゃん。朝とは違うじゃん」

 

 確かに俺達は他人に寛容かもしれないが、苦手であることには変わりない。まるで頑張ってピーマンを飲み込む子供の様に。出来れば食べたくないのに、皿に乗って目の前に現れたからにはフォークを握るのだ。

 

「とりあえず、どんな話を伝えるかは二人で話そう」

 

「うん」

 

 話をでっちあげるというのは中々難しいが、俺達の身に起こった事実が何よりもあり得ないからな。むしろ事実を話すより嘘を話した方が楽なまである。

 と言っても、作り話が簡単になる訳じゃないんだが……どうしよう。

 

「とりあえず箇条書きで並べてみるか」

 

「箇条書きか。じゃあまずは……『ゲーム内の付き合いはかなり長かった』はどう?」

 

「とりあえず書き留める。俺からは『仲直り前までは、極力干渉を避けていた』と書いておこう」

 

「噂通りだけど」

 

「情報整理の一環だ」

 

「なるほど」

 

 そうだ、『切っ掛けは夏休み最後に行ったオフ会』とも付け足そう。肝心な所が不透明だと信用性が低くなる。

 

「『事前に同年代と知っていた』ってのも付け足して」

 

「そうだ、『今は色んなゲームを一緒に遊んでいる』とも──」

 

「それとこれも──」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

『大した恋愛小説ですね。小説家を目指してるんですか?』

 

「目指してない!」 「小説じゃないッ!」

 

 二人して叫んだ先は、明の持つスマホの画面。映るのは立山という人物とのメッセージ画面である。

 いや、いや。俺達が叫んだって、この声がメッセージとして飛んでいくことは無い。しっかりと書き起こして、しっかり否定しなければ。

 立ち直った明か、その文章を作り上げる。

 

『教えてと頼まれた、私達の事の顛末なんですが』

 

『私も結構ラノベ読みますよ』

『仲の悪い双子が友情と愛情を取り戻すってストーリーは、中々クルものがあると思います』

 

『ラノベでもなんでも無いんですが』

 

『でも、私が頼んだのは貴方達双子に起きた仲直りの実情に関する話でして』

 

『これ実話です』

 

『あ、小説は小説でも、ノンフィクションジャンルでしたか?』

 

「違うッッッ!」

 

 明が、また叫ぶような否定の言葉を吐き出す……。

 俺も同じ気持ちだから、俺の分も思う存分吐き出してほしい。

 

「明一も何か言って!」

 

 えっ、俺? 

 いや、書き手が変わっても大して変わらんが。っておい、携帯押し付けるな。

 

「どうせ私に任せっきりにしようとしたんでしょ! ほら代わって!」

 

「……代わっても言う事は変わらないんだがな」

 

「受ける精神ダメージは分けた方が良いじゃん!」

 

 確かに。

 じゃあ仕方ない、対応を代わってやるか。

 

『明一に代わります』

 

『おお! お兄さんの方ですか! いや、弟さん? 双子ってお互いをどう呼んでるんです?』

 

『名前ですけど』

 

『やはり名前呼びですか!』

『まあ当然の落し所と言った感じですかね』

『ところで、先ほどの恋愛小説の原案、もうちょっと感想言った方が良いんでしょうか?』

 

『これは小説ではありません。これは事実です』

 

『私としては』

『無干渉の関係が生まれてから今まで続いていたと言う点で、何かしらの伏線かなと思うぐらいに不自然な気がするんですけど』

 

『これは小説ではありません。これは事実です』

 

『やっぱり伏線回収まで教えてくれない感じですかね?』

『小説書きは、読者に展開の予測をされるのを嫌うって聞きますしね』

 

『これは小説ではありません。これは事実です』

 

『明一さん?』

 

『これは小説ではありません。これは事実です』

 

『……』

 

 ……。

 

『ホンキです?』

 

 よし、通じた。

 

「うわー、こんなゴリ押し初めて見た」

 

「コピー&ペーストって言うのは便利だな」

 

「我ながらその思考破棄には感心するよ。よし、私も同じ状況になったら使お」

 

 あんまり頻繁に使うと効果が薄れそうだから、控えてほしい所なのだが。

 とりあえず、話をある程度聞く気になった様子だし、こちらも思考能力を復旧させておこう。

 

『あれは事実が三割、嘘が六割。あまりにも非現実的だと思うなら、考え直します』

 

『いや』

『大丈夫です。と言うか、後の一割は何処に行ったんです?』

 

『脚色された現実です』

 

『よく分かりませんが、分かりました。分かったことにします』

『でも、まさか本気だったとは思いませんでした』

 

 ……俺達、トークルームの第一発言で恋愛小説を解き放つ人って思われてるのか? 

 流石に無い……と言いたいのだが、人の考え方は予測できないから、思われていないとも言えない。

 

『こちらも、ウケが良い様に書いてみますけど……』

『読者達も、真面目な記事だと思って読んでくれないと、貴方達の問題も解決されない恐れがあります』

『いえ、ある意味では一番効果があるかもしれませんが』

 

『質問攻めが止めばいい。誤解が残ったままでも構わない』

 

『なるほど、分かりました。一応、明さんも同じ考え方ですかね?』

 

『同じだ』

 

『了解です。ではその方針で書いてみますね』

 

『頼みます』

 

『では数時間後には下書きをお見せするので、検閲の方お願いしますね」

 

『分かりました』

 

 ……下書きとはいえ、記事って数時間で出来る物なのか? 

 まあとにかく、これで会話終了。俺としては中々のパーフェクトコミュニケーションだったな。俺達の意見は相手に伝わり、相手のこれからの方針を俺達も把握する。これぞ事務会話の極致と言った所だ。

 

 ……無駄が多い気がするが、気のせいという事にする。

 

「と言うか途中から敬語取れてるね」

 

「え? 何処?」

 

「最後らへん。……まあ、立山さんは敬語とか拘らないらしいから」

 

「そうか。……確かに、後輩相手な筈なのに敬語だしな」

 

 変な先輩さんだが……まあ、彼に助けられるのだから、多少の恩は覚えておこうか。

 記事が学校中に広がるまでには時間がかかるだろうが、これからずっと今日の様に群がわれるという事にはならない筈だ。きっと。

 

「はあ、疲れた……。テキストだったから楽とは言え」

 

「後半眺めてただけだろ」

 

「まあね。……そろそろ、お風呂行ってくる」

 

「ああ」

 

「あ、一緒に来る?」

 

「……きゃー、明さんのえっち」

 

「おっとこれは変化球な断り文句。でも男の声でそれはシュールだわ」

 

 そんなん分かってる。そっちも風呂に誘うのはどうなんだ。ちょっと前のラノベでもあるまいし。

 いや……今のも割とそんな感じか? そういう話は聞いても、読むこと自体無いからな。

 

 あ、そうだ。一応忠告しておこう。

 

「間違ってもタオル姿で部屋中を歩き回らないでくれよー」

 

「あ、タオル持ってくるの忘れてた」

 

 戻ってきた……。いや、思い出してくれて助かったのだが、もし俺が忠告しなかったら、明は裸で歩き回る事に……? 

 

「……言っておくが、裸で歩き回るのももっての外だぞ」

 

「分かってるって」

 

 本当……っぽいな。流石にそれはしない、という顔だ。

 ふう。俺の事を段々と理解してくれている様で助かる。後は冗談からの悪ふざけを実行しない事を祈るだけだ。

 

 ……お守りか何かを握ってから祈った方が、効果増えたりしないだろうか……?




(之は私の口から零れる弱音、要反転)ここまで評価が伸びると、一話一話を投稿するたびに、「興ざめだ……」と言って失望されるのを恐れるようになるんですよね。

まあ、頑張って好きな双子像やそのやり取りを書くとします。
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