俺は私で私は俺で。二人で一人の男女の、奇妙な生活。   作:馬汁

22 / 84
たった一つの欲の為にこの魔境に入ったのか、と私は思った。

「待ってよお姉ちゃん!」

 

「待たねえっつってんだろ!」

 

 伝えられた住所へ訪れるため、歩いて30分程。住宅街の中に紛れて建っている、鳴海宅へと辿り着く。

 なんの変哲もない一軒家。これを含めた他の家も敷地自体は小さく、同じ様な形状の3階建ての細長い建物を並べている様だった。

 ここで騒げば、ご近所迷惑は免れないだろう。

 

「今までずっと何も口出ししなかったじゃねえか!」

 

「今回は特別! どうしても残って欲しいの!」

 

 正にあの二人の様に。

 

「どうする?」

 

「どうにも」

 

「出来ないね」

 

「手も出せない」

 

 私達に出来る事と言えば、傍観することくらいだ。下手に口を挟めば悪化しかねないから、そうするしかない。

 見れば、どちらも頑固に粘る物だから、終わる気配は全くない。

 仲裁? そういうのに関しては失敗する方が得意だから。

 

 PZ7と、この騒ぎに関わる面倒を、天秤にかけてみる。……意外と均衡する。

 

「二つに一つと言うけど」

 

「帰るか」

 

「そうしよう」

 

「帰らないでくださぁい!」 「勝手に帰るんじゃねえ!」

 

 えー。

 というか気付いてたんなら喧嘩しないでよ。プライベートだっていうのなら兎も角、少なくとも人の面前では落ち着いた振る舞いをしてほしい。私達に混沌はもう腹一杯なんだから。

 

 何故彼女らがああして喧嘩しているのかは、両者から事情を多少聞いていた者としては大体察しが付く。姉の方が出て行こうとして、妹が引き留めている。まあコレだろう。コレ以外に何があるのやら。

 

「……で、何時まで喧嘩するの?」

 

「家の中に戻ってくれるまでです!」 「コイツが諦めるまでだ!」

 

 下手したら私らが帰っても喧嘩し続けそうだな、この姉妹。

 

「聞いてくださいよ玉川さん! ずっと前から土日は家に居てって言ってるのに、いきなり朝から出かけようとするんですよ!」

 

「うるっさい! ずっと朝から引き留めるお前も頭おかしいんだよ!」

 

「え、朝からずっと喧嘩してたの」

 

 うっそ。私だったら既に撤退してるか喉枯らしてるよ。それか寝てる。

 

「お前らも言ってやれよ! 私には大事な用事で出なきゃいけないってな!」

 

「今日のスーパーのセールは5時からです!」

 

「ぜんっぜん大事な用事じゃねえじゃんか! 関係ねぇし頼まれたとしても行かねえよ!」

 

「普通にお使い行ってくれるじゃないですか! この前のセールでのんびりくつろいでたお母さんが証拠です!」

 

「ぐう……!」

 

 ぐうの音が出ちゃったよ。……本当に、なんでファッション不良してるんだろう。この人。

 聞けば聞くほど理解に苦しむ。喧嘩の理由もそうだが、両者の内心も特に。私らには人の事は理解できないが、今はもっと出来ない。これだったら宇宙の真理の方がよっぽど簡単に解き明かせそうだ。

 

「二人とも」

 

「なんですか?!」 「なんだァ?!」

 

「とにかく、家に入れてくれ」

 

 なんで二人ともキレ気味なの。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 渋々、と言った風に姉も一緒に玄関の奥へ引っ込んで、続いて家の中を案内される。

 姉妹と言うだけあって、女性の割合が多い故に花の香りが強い。と思ったら玄関先にそういう芳香剤が置かれてた。

 

「はあ、ったく……」

 

「お昼は食べました?」

 

「うん」

 

「道中で」

 

 土曜も母は仕事で不在なので、普段から週末の昼は外食である。

 

「良かったです。朝からずっとキッチンに立ってる暇が無かったので、何にも用意してなかったんです」

 

「へえ」

 

「そうなのか」

 

 ……。

 

 ぐう。と妹さんから腹の音が鳴る。次いで姉さんからぐぅと鳴った。

 

「いや」「自分の分は食べてよ」

 

「いえ、流石にお客さんを放っておいて食事にするのは……」

 

「食え」

 

「あ、はい」

 

 明一が声を低くして言ったら、妹さんがキッチンの方にすっ飛んで行った。それで良し。

 ……って、戻ってきた。

 

「あ、でもお姉さんは逃がさないでくださいね!」

 

「動物扱いかよ」

 

「お姉さんは玉川さんたちとじっくりお話しててください!」

 

 ……また行った。

 

 

「はあ……。こんなに強引なのは初めてだよもぅ……」

 

「ファッション不良しなくて良いの?」

 

「ファッショ……、まあ認めるわよ。あんな醜態晒しておいて隠し通せるとか思ってないもの。今隠す相手といったら妹ぐらいよ」

 

 ふぅん。

 

「とりあえず、妹から頼まれた事を伝えておくか」

 

「言わなくても良いわ。どんな内容かなんて分かりきってるし」

 

「一応だ」

 

「そう」

 

 無関心な様子だが、まあ頼まれ事はとりあえず済ます事にしたい。やって失敗するのはともかく、やらないという選択肢は無いから。

 

「簡潔に、妹と仲直りしてください」

 

「無理」

 

「だろうな」

 

 ま、言うだけ言った。

 

「やっぱり、ファッション不良なんかをする理由が関係してたり?」

 

「りり、理由なんて無いわよ! 元々こんなんだし!」

 

 いきなり慌てるじゃん。あんまり音量上げると妹さんに聞こえるかもしれないのだが。

 

「二人揃って睨むなぁ!」

 

 まあ、理由の件に関しては別に良いか。

 姉妹揃って踏み込ませないなら、遠慮なくそうする。

 

 しかしこの姉妹、意見が対立しているんだよね。姉が帰れと言って、妹が戻って来いと言って来れば私たちはどうしようも無くなる。今はそこのところは大丈夫だけれど……。

 どっちの言葉も無視出来れば良いんだけど、そこは社会生物としてどうなんだという感じで抵抗がある。人間であるからには、人間らしく在る義務がある。

 

「まあ、言う事は言った。で、そっちの頼み事も済ませないと行けないが」

 

 妹と遊べ、との事だ。具体的な意図は分からないが、とりあえずゲーム何かで親睦を深めるつもりである。

 で、実行するからには妹を連れ出さなきゃならないのだが。

 

「……肝心の妹は料理中だね」

 

「……」

 

 料理中の所に割り入って、「遊ぼうよ」なんて言えない。せめて代わりにキッチンに立ってくれる人が居ればいいのだが……。

 

「というか、両親はどうしたの」

 

「妹が言いくるめて、今はカフェのクーポン券でデート中よ」

 

 確かに、私達と姉さんとで三人っきりにするつもりだったみたいだし。それなら……。

 

「な、なに見てんのよ」

 

「これから姉の方から受けた依頼を行うが、肝心の妹が料理中だ。代わってくれるだろうか?」

 

「か、代わるって?」

 

「ああ」

 

 そっちから言ったことだ。協力しないだなんて事は無い筈だ。

 

「……分かったわよ」

 

「よし、代わったらこっちに来るように言ってくれ」

 

「はいはい。もう」

 

 

 それにしても、人の家に立ち入るっていうのは中々慣れない。手短な所に愛用のパソコンが無いから、暇が出来ると忙しない気分になるのだ。

 そもそも訪れる家以前に、友人というのが居なかったから慣れないのは当然なのだけれど。

 

 寛げない気分で何とか寛ごうとしていると、向こうから聞こえていた姉妹の話し声が、途端に大音量になって聞こえてくる。勿論その一番手は姉さんの方だった。

 

「良いからさっさとあっち行けって!」

 

「分かりました! 分かりましたからちょっとだけ待ってください!」

 

「料理なら代わるから、ほら!」

 

「え!」

 

 ……家の中でも騒ぐなあ、あの姉妹。

 しばらく待てば、妹さんの方が戻ってきた。何故かその顔には喜びで満ちている様に見えた。

 

「玉川さん玉川さん!」

 

 はい玉川さん達です。

 

「凄いです! 数分もしてないのにお料理を手伝ってくれるどころか、代わってくれるって!」

 

「……あー」

 

「ついにお姉ちゃんにも家族愛があるって、思い出してくれたんですよ! 玉川さん達のお陰です!」

 

 そうなるのか、そう思ってしまうのか。なるほど、私達の特殊技能『誤解』がこんな所で出てくるか。しかも姉さんも巻き込んで。

 

「そうだね」 「良かったな」

 

 とりあえずそういう事にしておいた。

 結果オーライと言う物だ。不完全に終わると思われた妹側の依頼は、思わぬところで達成した。妹の主観でだが。

 

 とりあえず話を合わせて置く。真実を告げる口は私らには無いから、思いっきりの虚実を吐き出す。

 

「でも何割かは気紛れかもね」

 

「まあ安心しきるにも早いと思う」

 

「そうですか? うーん……」

 

 ここまですっとぼけた嘘を吐くのも初めてだ。

 

「そう、かもしれませんけど……でも、大きな第一歩ですよねっ!」

 

 しかし妹さんは相変わらず前向きなオーラを滲み出している。この子には負の概念が無いとさえ思えるくらい。

 

 むなしい一歩だ。私達は目をそらした。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 完成した二人分の料理が机に並んで、二人が食事している間、私達は眺めるにもいかず、世間話をするにも気が進まない……と思っていたのだが、妹さんが色々な話題を投げかけてくるものだから、暇つぶしに携帯を弄る事も出来なかった。

 

「その時のお姉ちゃんが────」

 

「うん」

 

 それで、私達の第一目標であるPZ7なのだが。妹さんの話では姉さんの所有物らしい。事前に話は通しているが、一応使用許可をと思っておきたい。

 

「本当にカッコ良くて────」

 

「そうだな」

 

「凄い」

 

「所で」

 

「あ、アルバム見ますか?!」

 

「うん」

 

「それじゃあこの後一緒に見ましょう!」

 

「うん……」

 

 話を切り出す隙間が無い。馴染みのパターンである。

 時々、人との会話が格ゲーに似ていると思う事がある。話題の連結、派生といったコンボが継ぎ目も見えない程に続けられると、自分の行動が封じられるのだ。最悪の場合は無限コンボ。フルHPがゼロになるまで続く地獄である。或いは時間切れか。

 

「そういえば」

 

「そういえば玉川さん達ってお互いの事を何て呼んでるんですか?」

 

「……名前呼びだよ」

 

「同じく」

 

「そうなんですか! 私も名前で呼んだ方が良いんですかね」

 

「さあ」

 

「うーん……。百々子ちゃん!」

 

 姉さんが眉を顰める。なのに頬は緩んでる。

 向きを変えた妹さんの言葉の矛先に、私達は胸をなでおろす。

 

「お姉ちゃんなのにちゃん付けは違うかな……。百々子さん、も違いますね。ここはもう呼び捨て……いや、あだ名で呼んじゃいましょう!」

 

「そ、そんなのどうでも良いっての!」

 

「そんなこと言わないでよー! あ、モッコーはどう?」

 

「なんだよそのモロッコみたいな響きは! イヤだって!」

 

 妹さんから溢れる正の感情で、妙にハイなテンションだ。

 姉さんの方はかなり居心地悪そうにしている。今にも食事を中断して家を飛び出しそうだ。某王国に似た響きのあだ名も気に入らない様子。

 

「じゃあじゃあ! モモン!」

 

「あだ名なんか要らねえだろ! もう良い!」

 

 あ。

 

「あ……、あはは、行っちゃいましたね」

 

 家を出て行きはしなかったが、階段を上がって行ってしまった。少しして聞こえてきた扉の音からして、自室に籠ったらしい。

 

「……何が行けなかったんでしょう?」

 

 そんなの知らないよ。

 二人揃って目を逸らして、答えを逃れる事にした。




現実世界もいよいよ暑くなってまいりました。そんな時期にエアコンのリモコンが無くなってしまいまして。
今は扇風機が頑張っております。

迷走している自覚が出始めたので、読者に意見を求める。『この二人がどのような双子になる事を望んでいますか?』

  • 一心二体。一人が二つの体を持った様な双子
  • 二心二体。二人は二人だと理解し、意識する
  • 相思相愛。互いを最も身近な異性と意識する
  • 選択放棄。作者が考えるべき。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。